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日常系ファンタジー  作者: 青井渦巻
試練の章
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聖女の日・その3

リザレイアはお休み。ライも。

 聖女の日とは、女性が男性に贈り物をする日である。


 聖女の日と名付けられた由来は様々だが、事実は不明瞭である。


 そんな特別な日、少年たちは奔走していた。




「アーサー、レイアは見つかったか!?」


「い、いない…」


「ジッドは!」


「僕も一緒だよ…それより、早く宿に帰せ!」




 マックスは深い溜め息をついて項垂れる。


 彼を筆頭に、少年たちは今、レイアという少女を探すアドベンチャーに興じていた。


 興じているが、楽しんでいる者はいない。




「マックス。実は俺とジッドは、宿にいなきゃいけなくて…」


「レイアを見つけてくれ…後生だ…!」




 協力を切実に要請する彼に、二人は困っていた。


 リーダーのライに待機命令を破ったことが知れれば、どうなるか分からない。


 分からないが、恐ろしいことになるのは明白だ。




 熱っぽい彼の隣で、ウォッチは二人を説得するように言う。




「俺たちだけじゃ見つけるのが大変なんだ。強引かもだけど、頼む。」




 腰の低いウォッチを見て、ジッドの瞳はきらりと輝いた。


 彼はニヒルを気取ってニヤリと笑う。


 その笑いは、明らかに妙な提案をする準備動作であった。




「うーん!僕たちにメリットがないからなぁ~?ねっ、アーサー!」


「え?うーん、確かにそうだな。あんまりない気がする。」


「ほらぁ!お前らがなにか出せるっていうなら、べーつのーはーなーしーだぁけどぉ…??」




 今しかないチャンス、彼はめっちゃ理知的な取引を持ち掛ける。


 取引を受けて考え込むウォッチ。


 彼はマックスに何度か目配せをして、なにかを催促するが、なにも出てこない。


 ジッドは相手の困ったような顔を見て、ご満悦であった。




「どうすっかな…」




 ウォッチはそのまま、しばらく考え込んだまま動かなかった。


 時折は目線を遠くへ泳がせ、軽い気晴らしの動作も見せたが、相変わらず答えを出さない。 


 その後、さらに時間が経過し…彼はおもむろに、一点に注目した。




「…あれ、あそこにいるのって…」




 その呟きに反応し、ジッドは彼と同じ場所へ注目してみる。


 そこにいたのは一人の少女だった。


 しかし、それはレイアではない、ジッドには面識のない人物。




「誰?」


「フェリだ。俺の知り合い…よし、あいつにレイアのこと聞いてくる!」


「えっっ、取引中だぞ!?」




 颯爽とフェリの元へ向かい、ウォッチは去って行った。


 初めて成功しかけた賢そうなムーブを諦め、ジッドは落ち込んだ。


 傍らの二人は、彼の様子を不思議に思いつつ、ウォッチの帰りを待つ。




 ~~~~~~~~~~


 いつも宿でしか会わない彼女に、初めて街の中で会った。


 そのことでウォッチは少し高揚していた…のだが、それはもう冷めていた。




「お前はなんで刺々しいんだ!」


「うっさい、あんたには関係ない!」




 『ウザい』『キモい』などの口癖を連発するフェリに対し、堪忍しきれなかったのだ。


 口で怒りつつ、ウォッチには少し寂しい気分もあった。




「…俺たち、ちょっとくらいは仲良くなれたと思ってたよ。」




 彼女と思った通りに接することが出来ず、ウォッチはそう口にした。


 不意を突かれたフェリだったが、いまさら態度を変えることもできず、今まで通りに返す。




「はぁ?そんなわけないでしょ。」


「そうかい…なら、もういいよ。」




 友好の情を諦めて、身を翻すウォッチ。


 その背中を見た瞬間、彼の気持ちが二度とこちらに向かないことを、フェリは予期した。


 彼女はほんの少しだけ、寂しくなった。




「…ふん。好きにすれば。」




 しかし、口から出る言葉は突き放すものばかり。


 どうやっても、この言葉で彼を繋ぎとめることは出来そうになかった。


 なのに、彼が自分との距離を大きくするたび、寂しい気持ちは増していく。




 フェリはただ、ウォッチとこんな別れ方をするのが嫌だった。


 寂寞に口を閉ざす。


 その代わり、思い切って物をブン投げた。




「いっ!?」




 ウォッチは大きな声を上げ、後頭部に痛くないそれを受ける。


 そして、再びフェリの方へ振り向くと、頭の上に乗ったなにかを確認した。


 それは、妖精のような翼を生やした小さなフェリ…の、ぬいぐるみであった。




「これ、なんだよ…」




 ウォッチは怪訝な表情をしつつ、彼女へ問いかける。


 反抗的な目のまま口角を上げて、フェリは答えた。




「今日は聖女の日らしいから、プレゼントしたげる。どうせ誰からも貰えないだろうし?」


「…なんだよ、可愛くねぇ!こんな渡され方じゃ嬉しくねーよ!」


「じゃあ帰しなさいよ!それ大事なものなんだから!」


「大事なものなら投げて寄越すなっ!」




 なんだかんだ言いつつ、ウォッチはぬいぐるみを返すことはなかった。


 理由は分からなくても、これを投げられた時、彼はフェリの心に触れた気がしたのだ。




 ~~~~~~~~~~


 で、ウォッチは全然帰ってこなかった。




「また長話してるな、あいつ…なんであんなに女子と話せるんだ?」




 得も言われぬ悔しさを我慢しつつ、律儀に待っていたマックス。


 しかし、さすがに限界が来てしまった。




「そうかい…なら、もういいよ。」




 友好の情も尽き果てて、身を翻すマックス。


 その背中を見た瞬間、彼の足が二度とウォッチを迎えに来ないことを、アーサーは予期した。




「行くぞ、アーサー!ジッド!」


「「え~…」」


「え~…じゃない!今日から俺がこの部隊のリーダーだ!」




 勝手なことを言う少年にイラついたのか、ジッドはアーサーにだけ耳打ちして、密かに部隊を抜けた。


 なんだか気の毒だったので、アーサーはもう少しだけ、彼について行く事にした。

明日も聖女の日です。

リザレイア、語呂いい。

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