負い目
若干、話が暗いです。
魔物が跋扈するダンジョンを、剣を手に歩いていく男。
彼は片方の手で剣を持ち、もう片方で背中の怪我人を支えていた。
「ありがとう、ゼブラ…君が来てくれなかったら今頃、僕は魔物の餌になっていたよ。」
怪我人の名はガジル。治療術師の男だ。
彼は頼もしい男の背中で、安心したように息を吐くのであった。
「ガジル、礼なんていい。仲間を助けるのは当然だ。」
そう言った彼の名はゼブラ。
パーティ『ライフリライフ』のリーダーであり、一人のパラディンでもある。
パラディンのゼブラと治療術師のガジルは、言葉を交わしながらダンジョンを進む。
「本当に凄いよ、君は…勇敢で強いし、僕みたいな役立たずにも優しくて…」
「役立たずじゃない。そんな風に自分を卑下するのはやめてくれ。」
「ごめんよ。でも、もう癖みたいなものなんだ。」
ダンジョンで迷子になり、パーティに迷惑をかけてしまったガジル。
その負い目からか、彼は自嘲気味に笑う。
しかし、ゼブラにとっては決して役立たずではなかった。
治療術師としての役割を、彼は十分に果たしていたから。
「あの魔物は強くはない。鍛錬を欠かさなければ負けることはないさ。」
「うん。僕じゃ敵わないよ。」
「俺はパラディンだ。治療術師のお前と比べる対象にはならない。」
ゼブラが励ますために言うのでは無いと、ガジル自身も分かっていた。
もしパーティを危険に晒すような行動を取る人物なら、リーダーはすぐに自分を離脱させる。
にも拘わらず、自分を仲間と呼ぶのは、つまり認められているということ。
それは分かっているが、自分の無能さを許すことも、ガジルには出来なかった。
「ゼブラ…この冒険が終わったら…」
「ああ。また次の冒険だ。」
「…はは、まだなにも言ってないよ。」
「そうか?俺はそう続けると思ったんだが。」
本当にそう言うと信じていたのか、もしくは聞くつもりの無い言葉を無理に遮ったのか。
ゼブラの本心は分からなかったが、どちらであっても再び口を開く気にはなれなかった。
ガジル自身も、自らの身勝手さには気付いていたのだ。
「やっぱり、君には勝てないな…そうだ、アリエルとエリンはどうしてるんだい?」
湿っぽい雰囲気を途切れさせようと、ガジルは話題を変える。
エリンとアリエルは、『ライフリライフ』に属するアーチャーと呪術師だ。
視界にその二人の姿が無いことには前々から気付いており、ガジルは改めてそう尋ねた。
「ああ…二人には休息地点を確保してもらっている。俺達もそこで昼飯だ。」
「そうか。それは楽しみだね。」
「エリンがトラブルを起こしていなければいいんだが。」
「平気だよ。アリエルが居るんだろう?」
トラブルメーカーの少女を気にしながら、ゼブラは二人の居る地点へと歩を進める。
その背中に頼りながら、ガジルは仲間の顔を思い浮かべるのであった。
「次の冒険…か。」
ガジルが呟いたそんな言葉は、ゼブラには聞こえなかった。
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