表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日常系ファンタジー  作者: 青井渦巻
試練の章
39/171

クエスト

 錬金術師のシュタインは冒険者だ。


 しかし、あまり冒険者らしい活動はしない。


 彼は貴族に雇われており、不自由のない研究室を用意され、日々魔法陣の研究に精を出しているのだ。




 そんな彼だが、今日は冒険者ギルドに来ていた。


 ここに来る用事は冒険者ライセンスの更新か、もしくは…




「クエストを依頼しに来ました。」


「では申請書に記入をお願いします。」




 クエストの依頼。


 冒険者ギルドでは、人々の困りごとを冒険者が解決し、代わりに報酬を得るシステムがある。


 それがクエストである。




 正式にギルド側から依頼を出してもらうため、申請書を書くシュタイン。


 申請者の名前、個人またはパーティの指名、クエスト内容など欄を埋めつつ、彼は受付の女に話しかける。




「テレサさん。ここの受付、まだ人が増えないんですか?」




 彼女はやれやれといった顔で、憂鬱そうに返事をした。




「ええ。やりたがる人がいないので。」




 受付嬢…否、女剣士のテレサは、この施設に来る者の対応をほとんど一人でこなしていた。


 一日に来る人数からして、一人で対応しきれるような数ではないが、彼女はよく働いていた。


 それというのも、他に受付に立つ人物がいないのが原因であった。


 もちろんこの状況は、彼女が望んでいる結果ではない。




「流石にしんどいでしょう?」


「並ぶ人数も制限しつつ、勝手の分かる人には勝手にやってもらいつつ…無理やり。」


「へぇ、よくそれで回るもんだ…凄いですよ。」


「ケビンさんにはお世話になってますからね。」




 テレサはこの冒険者ギルドが発足した日から、ずっとこの役割を続けてきた。


 そのおかげで今も万事が成り立っているのだが、業務遂行の限界は誰の目にも明らかであった。


 かといって、この仕事には配給があるわけでもないので、新しい者が従事するには割に合わない。


 限界だと分かっていながら、結局のところ彼女は無理を続けていた。




「そのケビンさんだって動いてくれりゃいいのに…」


「見つからないんです。」


「そりゃ本当に?」


「…じゃあ、シュタインさんならやるのね。」




 テレサは目の前の錬金術師をギロリと睨む。


 錬金術師はその視線を避けるために、白々しく申請書を注視した。


 と、このように、利益のない激務をやる人間はいなかった。




 そもそも、ギルドの創設者であるケビンの考え方は意固地であった。


 内部の不正を最大限まで防ぐため、彼は信頼できる者にのみ仕事を任せる。


 そのために、現状彼の率いるパーティのメンバー以外は、その資格を持っていない有様だった。




 頑固で非効率なそのスタンスに、シュタインは内心呆れていたが、それはテレサの前には出さない。


 代わりに書き上げた申請書を提出した。


 テレサは紙を受け取ると、軽く内容に目を通す。




「シュタインさん、今回はお任せですか?」




 彼女は冒険者指名の欄が空白になっていることを確認すると、そう尋ねた。


 空白の場合、冒険者ギルド側が適当な人物へ依頼することになっている。




「カオスドラゴンを相手できるパーティなんて限られてますし、そんな知り合いも思い当たりませんからね。そちらにお任せします。」




 シュタインの依頼した内容は、研究に際して必要になったカオスドラゴンの角を取ってきて欲しいというものだ。


 名前を見れば分かる通り、カオスドラゴンはかなり強い魔物だ。


 難易度の高い依頼なので、知り合いに軽い気持ちで依頼はできない。




「カオスドラゴンですか…私たちなら勝てますが、報酬はできるだけ別のパーティへ分配する方針ですからね。」


「まぁ急ぎじゃないので、また紹介してください。」 


「いいえ、丁度いい冒険者がそこにいますよ。」




 テレサはそう言って、シュタインの後ろを指差した。


 シュタインが示された場所を見ると、そこにはテーブルがあり、席には冒険者らしき2人が向かい合って座っていた。


 彼はその片方の女性の顔を認識すると、驚きの表情を浮かべた。




「『モンスターハーベスト』の、竜騎士マゼンタ…」


「彼女なら問題ないでしょう。隣にいるウードも優秀な魔物使いですし、あの2人に頼みましょうか。」




 超高火力なことで高名なパーティ「モンスターハーベスト」に所属する、女竜騎士のマゼンタ。


 ドラグーンであり、ドラゴンについても詳しい彼女なら、安心して任せられるとシュタインは思った。


 彼はテレサの言葉に頷き、2人に声を掛けようと席を立つ。


 その様子を見て、テレサも彼の行動に着いて行った。




「お二人さん、ちょっといいかい?」


「あらぁ、私たちになにかご用ですか?」




 シュタインが声を掛けると、マゼンタは彼の方へゆったりと振り向く。


 彼女に対し、テレサは簡単に依頼の件を説明した。




「――それで私たちに頼みに来たんですね。うふふ、分かりました。頑張ります!」




 マゼンタは話を聞くと、考える様子もなく、すぐに依頼を引き受けた。


 向かいに座る魔物使いのウードも、異存はないといった様子で快く頷いた。


 シュタインは2人に頭を下げる。




「ありがたい。それで、角は1個で構わないんだが、取れるなら3つ…」


「大丈夫ですよぉ、任せてください!」


「頼もしいね。それじゃ、よろしく頼む。」




 マゼンタは右腕を曲げて上げると、左手で二の腕をおさえて気合いを表した。


 シュタインはその様子に小さく笑みを溢し、改めて礼を述べる。


 2人に少し手を振ると、満足そうにギルドを出た。


 テレサも話が円滑に済んだことを確認し、受付へ戻った。




 依頼を請け負った2人は、そのままテーブルに残って会話を続けた。




「マゼンタ、あんたって人は…本当にいい人だな。」


「うふふ、困ってる人は放っておけませんよぉ。それに…ウードさんだって!」


「ふっ、本当に気が合うな。あんたの言う通りだ。」




 実は、2人が一緒にいたのには理由がある。


 ウードは八方塞がりで困っている者を見ると、無報酬で依頼を受けてしまう性質であった。


 そんな彼の受けた依頼の膨大さに気付いたマゼンタは、彼を心配し、いくつか肩代わりしたいと申し出たのだ。


 そのために話あっていたところ、シュタインの依頼が舞い込んできた。




「こうなったら、臨時パーティ結成だな。」


「まぁ!そうですねぇ…なんだか面白そう!」




 背負い込んだ期待を投げ出す考えなど、2人には欠片もよぎらない。


 新しいパーティを結成し、その喜びをただ分かち合うのであった。


 パーティ解散まで、あとクエスト100件である。

急に不定期更新になるかもしれませんが、その時はお察しください。

明日は大丈夫です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ