監禁・その2
レイン姫の にらみつける!
「私に脱走の用意なんて無いわ。なにを勘違いしているの?」
「ええ、私もまったくその通りだと思います。しかし、これは偉大なる王の心配なのです。」
「私はお前の臆病な態度が大嫌いよ。」
レインは高貴な身分であった。
王女という地位に甘んじることなく、自らをより高める者だった。
そんな彼女の目には、騎士ニコルソンの迎合的な態度は醜く映った。
「私のことは嫌いになっても、王のことは嫌いにならないでください!」
「今、お父様の話はしていないの。お前は愚かね。」
「愚かですとも!とにかく、しばらくは外出を自粛して頂きたい!」
彼女が城からの脱走を図っているという、王の懸念。
そのために、ニコルソンは彼女を閉じ込めろと命令されていた。
波風を立たせず、とにかく姫に言う事を聞かせようと、彼は必死であった。
「もし私が脱走なんて考えているとしたら、閉じ込めることで気持ちを助長させないとも限らないのよ?」
「…確かにそうですね。」
レインの言葉で、危険な施策である可能性に気付いた騎士であったが、今更予定を変更するのも面倒だと思った。
彼は、普段ならそれなりに頼りなる騎士だ。
しかし、事が姫の話になると、はっきり言って怠け者であった。
「確かにそうですが、しかし…計画が姫のお心に存在していれば、外に出た瞬間に逃げられる可能性も十分あるでしょう。生半可な処置では姫を止めることは出来ないと考えます!」
「愚かなお前にしては、なかなか鋭い見解ね。ええ、正解よ。」
「正解ですか?やったぁ!」
レインは意志の実行に躊躇いがない。
彼女には迷いがなく、それゆえに懐柔などされない。
彼女自身、自らの目的を止めるには、強行手段に出るのが最も良い手段であると考えていた。
ニコルソンが正解したのは職務怠慢からであるが。
「…いいわ、珍しく正解したお前に免じて、言う事を聞いてあげる。とても退屈そうだけれど。」
「本当ですか!ありがとうございます!」
「でも、パートナーについては拒否させないわ。私の望む人を確実に連れてきなさい。」
「はい、分かっております!このニコルソンに出来る範囲で、全力を尽くします!」
地味に「確実に」という言葉から逃げながら、ニコルソンは嬉しそうに笑った。
レインはその様子を見て、話を聞いた時から思い浮かべていた人物の名を言った。
「パルルという錬金術師。彼女を連れてきなさい。」
「パルル殿ですね!了解しました!」
「それから…」
「!?ちょ、2人目っすか!?」
当然の如く名を連ねようとするレインに、驚愕を示すニコルソン。
レインは悪びれる様子もなく、少しだけ冷たい笑みを浮かべた。
「2人だけよ。これでダメなら、もちろん私は抵抗するわ。」
「ええ~…めんどい…」
「必要な手間を惜しむの?本当に愚かね。」
「分かりました、はいはい。分かりました!」
レインの射殺すような嫌悪の視線に睨まれ、彼は怠そうに相槌を打つ。
およそ姫の前で取るに似つかわしくない態度だが、ニコルソンはそういうことを気にしない男であった。
「よく聞きなさい。もう一人は…聖騎士のアバトライト。」
「アバトライトさんですか!?」
意外な名前に、再び驚愕するニコルソン。
そんな彼を煩わしいとでも言うように、レインは不愉快そうな顔をした。
「なにか不満があるのかしら?」
「いえ。そのようにアレしますので、お待ちくださいね。」
仕えている姫に睨まれると、この騎士は滅法弱い。
すぐに引き下がると、そそくさと王の間へ報告しに行くのであった。
高名な錬金術師と、高名な聖騎士。
当然、彼女は適当な人選はしていない。
「あの2人なら、きっと外の世界にも詳しいはず…」
国の人々から憧れの視線を浴びる2人ならば、自身の知らない世界を知っていると考えたのだ。
レインは監禁を心待ちにした。
明日も投稿します。