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日常系ファンタジー  作者: 青井渦巻
試練の章
34/171

テキ・ダメ・モット

タイトル意味不明です。

 ベリーは街に住む女の子だ。


 そして、ジャックという吟遊詩人のファンである。


 ジャックが彼女の心に存在している限りは、彼女は明るい少女だった。




「ここはねー!ジャックの場所なんだよー!」




 今日の彼女は、誰かに対し頬を膨らませている。


 その誰かというのは、ジャックと同じ吟遊詩人のマディであった。


 彼はストリートへ、気まぐれ詩を語りにきたのだ。


 しかし、占有した場所がいつもジャックの歌う場所だったために、彼女からクレームを浴びたのだ。




「君の言うジャックなる人物を僕は知らない…が、この場所は1人のものではないのさ。」


「ジャックの場所だよー!」


「ああ、僕はこの少女にになんと声をかければいいんだろう?」




 どうしてもジャックの場所だと言って、ベリーは引き下がらない。


 仕方がないので、マディは彼女に詩を聴かせてみることにした。




「お嬢さん。一つの詩を聴いておくれ…」


「おうたー?マジカルソウルがいいー!」


「ははっ。これから語るのは、ある伝説の英雄にまつわる…」


「やだー!マジカルソウルー!」




 マディの知らない『マジカルソウル』なる詩を所望する少女。


 このように騒がれては、マディの方も語るのに支障がでる。


 まずは宥めようと、彼は少女の頭を優しく撫でようとした。




「ほら、しー…」


「!」




 しかし、少女は思いのほか機敏に、彼の手をひらりと躱した。




「えいーっ」


「いてっ」




 そしてカウンターと言わんばかりに、その手にパンチ攻撃した。




「い、痛いじゃないか!」


「てきめー!」


「敵じゃない!詩人さ!」




 マディは警戒心を強める少女の様子を見て、ちょっとダメージを追った自らの手を引っ込める。


 依然として抗議を続ける彼女に根負けし、彼は移動することを決めた。




「ふっ、ここなら君も頬を膨らませないで済むかな…」


「…だめー。」


「なぜ!?」


「もっとー、離れてー!」




 ベリーは完全にマディをお邪魔虫扱いしていた。


 ヒーローに相応しい席を死守するという、崇高なる使命を少女は背負っている。


 脅かす者は悪、悪は祓う。


 この時だけ、ベリーは秩序の番人となっていた。




「ここならいいだろう?」


「もっとー!」


「ああ…なら、このあたりは…?」


「だめー!だめー!いなくなってー!」


「そんな…!?」




 ジャック氏に害を及ぼすつもりはないのだが。


 そう思いつつも、少女の癇癪を収めようと、マディは素直に行動した。


 その結果…彼はもう、ジャックの場所が見えない位置にまで追いやられていた。




「君は一体、僕のなにを警戒して…」


「てきー!だめー!もっとー!てきー!だめー!もっとー!」


「はは…まるで呪文のようさ…」




 テキ・ダメ・モットの呪文。


 その効果は単純で、マディをジャックの場所から遠く引き離すというものだ。


 マディはそろそろ、詩を語ること自体を諦めようとしていた。 




「てきー!だめー!もっとー!てきー!だめー!もっとー!」


「ふふ…ジャック氏とは、一体どのような人物なのかな?」


「ジャックはねー、カッコいいんだよー!それでねー、おうたが上手でー、カッコいいー!」




 ジャックという名前が耳に入った瞬間、ベリーは呪文を中断し、嬉々として彼を褒め始めた。


 マディは困ったように笑ったが、少女には特に効き目もない。


 今度は、ジャック氏の自慢話を長時間聞かされるのであった。




「不思議だ…ジャック氏に少し興味が出てきた…」




 語りに夢中な少女の傍らで、彼はそう呟く。


 結局この日、彼が詩を語ることは叶わなかった。

明日は投稿します。

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