大切について
心の中の、宝物。
冒険者パーティ『ライフリライフ』のリーダー・ゼブラは、鍛錬を欠かさない男であった。
そのため、パーティ内でダンジョン攻略を休止している日にもダンジョンに潜り、魔物と戦闘を行う。
彼は信頼しあう仲間を守るため、努力を重ね強さを得ていた。
「盾の捌き方が甘い…あのアバトライトと比べると、俺もまだまだか…」
パラディンとして、盾の扱いは人より長けていなければいけない。
肝心な時に大切なものを守れないようでは、パラディンである意味が無い…ゼブラはそう考えていた。
実際のところ、彼の盾捌きは見事なもので、生半可な修練で満足する者では遠く及ばないレベルである。
しかし、自らを納得させることが出来ない限り、ゼブラは満足しない性質であった。
「アバトライトと比べんのかよ…」
そんな彼が鍛錬を続けていると、誰かが隣から話かけてくる。
見ると、そこに居たのは…『ブルータルコンバット』の銃士・デミオだ。
彼もダンジョン内で新調した銃の性能を確かめていたところ、精を出すゼブラの姿を見つけたのだ。
デミオは初対面のゼブラへ向け、親和の笑みを軽く浮かべる。
「目標があるのは良いことだと言うが、高過ぎてもダメだろ?」
「すべては仲間を守るためだ。俺は彼を超えなければならん。」
「そ、そうか。まぁ外野の俺が口出しする問題じゃねーか…」
ゼブラの目標の無謀さを、彼はそれとなく指摘してみたが、逆に力強い眼の輝きを返される。
その屈託のなさに少し怯み、安易に口を出すのをやめた。
その代わり、彼は1つだけ質問をした。
「…仲間って、そんなに守る価値があるもんか?」
デミオの所属する『ブルータルコンバット』には、いつも殺伐とした空気が充満している。
パーティの誰も積極的に仲間と連携を取らず、反発的な自由行動を行う。
彼の知る「仲間」なる存在は、ゼブラの言う「信頼」などとは無縁だ。
ゼブラはデミオと目を合わさなかったが、迷う間もなく質問に答えた。
「価値なんて考えない。仲間は守るべき存在だ。」
「か、考えないって…でも、あんたが正しいのかもな。」
この男の言葉には芯が感じられ、懐疑的なだけの自らの言葉よりも真実味がある。
デミオはそう思い、少しだけ仲間の顔を思い浮かべた。
思い浮かぶのは、不愛想に、不愛想に、不愛想。
「またアイツらとダンジョンに潜るのか…」
案の定、憂鬱になった。
ゼブラの考え方は、やはり彼には相容れないものであるらしい。
デミオは仲間の鬱陶しい顔面を頭から振り払うと、脇目も振らず盾を構える聖騎士へ再び声をかけた。
「あんたにとっての仲間と、俺にとっての仲間ってのは違うらしいね。」
「そうか。俺は別に構わんぞ。」
「なぁ、聖騎士よ。好きな女はいるか?」
「悪いな、恋愛はよく分からん。おらァっ!!」
二度目の質問にも淡々と答えたゼブラは、急に大きな掛け声を発すると、鬼気迫る表情で盾を前方に大きく突き出した。
不意の大音量と気迫に驚くデミオを一瞥し、彼は質問を返す。
「お前にはいるのか?」
「え?お、おう…まぁな、いるぜ。」
「その彼女のことは大切に想っているか?」
「当然。俺は彼女がいりゃ、仲間なんて必要ないね。」
「なら俺と同じだろう。仲間とか恋人とか、言い方はいろいろだが…要は大事なだけだ。」
大切な恋人の他に必要なものなどないと語る銃士。
そんな彼に対して、聖騎士はこともなげに言葉をかけた。
「同じ、なのか?」
「ああ。大事にしろよ。」
「…おう!へっ、節介焼きだな、あんた。」
「気にするな、ただの独り言だ。」
「嘘つけ!無理あんだろ!」
世話好きの聖騎士との会話により、デミオは少し心に余裕を持った。
そして、胸のうちに密かに誓いを立てた。
一番大切なイーゼルを苦しめるのは、彼の望むことではない。
明日の投稿は大丈夫です。