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日常系ファンタジー  作者: 青井渦巻
試練の章
32/171

聖女の日・その2

少年×5

 聖女の日とは、女性が男性に贈り物をする日である。


 聖女の日と名付けられた由来は様々だが、事実は不明瞭である。


 そんな特別な日、アーサーは宿に籠って退屈していた。




「せっかくの休日だっていうのに、今日は武器屋に行けないのか…」




 アーサーは大の武器・防具オタクであり、剣や鎧の類を見るだけで幸せな少年だった。


 それゆえ、今日のような休日には必ず武器屋に行って、使う予定もない武器なんかを買って帰る。


 しかし、今日は厳しいリーダー・ライの命令で外出を制限されていた。




「まあ実際、必要ない物を買うのは控えた方が良いし…ライも怒ってるのかもなぁ。」




 彼は、自分がパーティのマネーサイクルに負担を掛けているとは分かっていた。


 しかし、そんな反省の気持ちを勝ってしまうのが欲望だ。


 武器屋を見るだけとフラフラ店に立ち寄っては、きめ細やかな職人の技巧の数々に打ちのめされ、必ず購買に至る。


 そんなことを繰り返し、彼の実家にある武器や防具の数は、今や100を軽く超えていた。




「よっ、アーサー!お前も兄貴に待機しろって言われたの?」




 鉄の匂いの枯渇に苦悩する彼の前に現れたのは、魔法剣士・ジッドだ。


 ジッドはアーサーの所属するパーティ『ネームフラワー』の仲間であり、ライの弟でもある。


 この少年もアーサーと同様、待機命令を受けて暇を持て余していた。




「ジッド、お前もか?」


「僕もだ!」


「よっしゃ、トランプやろうぜ!」


「賛成だ!」




 彼らは互いの退屈を凌ぐために、ベッド横の机の上に置いてあったトランプを広げた。


 ジッドはポーカーが好きなので、ゲームは自然とポーカーに決まった。


 勝負を開始するため、アーサーがいきいきとカードを配っていると、おもむろに扉の向こうからノックが聞こえてくる。




「誰だろ?」




 その音に気付いたジッドが、勝負の場を一度立ち上がって扉を開ける。


 ノックをした人物は、2人の少年だった。


 彼らはジッドの顔を見ると、ぽかんと小さく口を開けた。




「誰だよっ!!」




 失礼なことに、自分たちを迎えたジッドに対し、少年の1人が発したのはその言葉。


 彼の言葉にムッと眉を顰め、ジッドは言葉を返す。




「それはこっちのセリフだよ!」


「ジッド、なんかあったのか?」


「アーサー!知らない人が来た…!」


「えっ」




 仲間の言葉を聞き、アーサーは来客を確認する。


 それは確かに知らない人物であった。


 したがって、アーサーはほんの少し警戒心を抱きつつ、まずは彼らの名前とここに来た理由を聞く。




「とりあえず…2人の名前は?」


「俺はマックスで、こっちがウォッチ!」




 マックスと名乗った彼は、隣の少年を指差してウォッチだと紹介した。


 マックスはそのまま、この部屋を訪れた理由について話す。


 


「この部屋はレイアの部屋だったはず!俺らはレイアに会いに来たのに、なんで男が!?」




 彼の言葉に、アーサーはピンと来た。


 彼らはレイアの知り合いであり、自分たちを訪ねてきたのではないと。


 そして…




「ははは!レイアの部屋は隣だ!」


「え!?じゃあ、俺らが間違えたってこと…?」


「今度からは確認して扉を開けよ!」


「おう、すまん…次は気を付けるわ!」




 部屋を間違えたことを指摘すると、マックスとウォッチは素直に頭を下げる。


 その後、扉を閉め、急いで隣の部屋に向かおうとした。




「あ、待ってくれ!今レイアは居ないんだ!」




 しかし、レイアが部屋に不在であることを思い出したアーサーは、それを彼らに伝えた。


 彼らはその言葉に唖然した様子を見せると、がっくりと肩を落とした。




「「そんなぁ…」」




 声を揃えて落ち込む2人の喜劇的な反応に、ジッドはプッと笑みを漏らす。


 傍から見ると滑稽だが、落ち込む少年達のショックはかなり大きい。




 マックスとウォッチは今日、必ずレイアに会わなければいけなかった。


 なぜならば、今日は聖女の日であるから。


 レイアは女性なので、この日誰かへ贈り物をする可能性がある。


 2人はその誰かに該当する人物を自分だと信じて、彼女に会いに来た。




「レイアは一体、誰に贈り物をするつもりなんだ…?」


「悔しいっ…!俺は悔しいぜマックスっ…!」




 だが、彼女は宿に居ない。


 おそらく、既に誰かの元へ向かってしまった!


 …少なくとも、彼らにはそう思えたのである。




 そういう事情を知らないアーサーは、彼らの焦る理由がよく分からなかった。


 ただ、とりあえずレイアを探しているらしいので、情報を伝えておこうと口を開く。




「どこかに買い物に行くとは言ってたぞ。」


「!そうか、サンキュ!じゃあ行こうぜ!」


「えっ?」




 マックスは彼の言葉を聞くと、近くに居る少年を全員引っ張って宿の外へ向かった。


 急な事態に驚くジッドが、抵抗しつつマックスへ抗議する。




「な、なにするのさ!今日は兄貴が外に出るなって…!」


「協力してくれ、すげぇピンチなんだ!手分けして探そうぜ!」


「そ、そんな身勝手なぁ…!」




 焦るマックスの強引な誘導で、2人はライの命令を無視することになってしまった。


 アーサーとジッドは顔を見合わせると、震える声で言った。




「ライに裁かれるー!」「兄貴に殺されるよ~っ!」


「…二人とも、初対面なのに…なんかすまん!」




 ウォッチはマックスの友人として、彼の強引さによる被害にあった2人に謝った。




 ~~~~~~~~~~


 聖女の日、贈り物を用意してアーサーを待つ少女・リザ。


 そんな可憐な乙女心を応援するため、贈り物の準備に協力を惜しまぬ少女・レイア。




「いない…だと…」




 ライは彼女らに頼まれ、宿待機組を呼ぶために部屋に帰ってきた。


 しかし、自らが待てを命じたはずの2人の少年は、どこにも姿を現さなかった。




「ふーん、命令違反か…?」




 そう呟いたライの表情は、形容し難い奇妙な歪み方をした。


 憤怒の裁きは、今ここで開始の合図を迎えたのである。


 これにより、ネームフラワーにおける平和は徐々に崩れ始めるであろう。

ストックありませんが、毎日投稿を目指します。

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