聖女の日
今までで一番長いです。
聖女の日とは、女性が男性に贈り物をする日である。
聖女の日と名付けられた由来は様々だが、事実は不明瞭である。
リザはこの日にちなんで、アーサーに贈り物をしようと企てていた。
「二人とも、今日はよろしくね。」
「任せて!私たちで最高のプレゼントにしちゃおっ♪」
「…僕はなにをすればいいんだ?」
彼女は、パーティメンバーのライとレイアに助っ人に来てもらい、プレゼント作りを手伝ってもらおうと考えた。
レイアはやる気だが、女子のプレゼント選びに男子として同行するライは、なにをすればいいか分からないでいた。
戸惑う彼に対し、リザは軽く頭を下げる。
「チョコ作るの手伝ってほしいの!」
「ああ、なるほど…」
「あと、チョコの材料選びも手伝って!」
「材料もか?」
そう言いつつ、不安そうな顔を浮かべるリザを見て、ライは察した。
彼女が、あまりチョコ作りに自身が無いという事を。
きっと彼女は心細さから、リーダーの自分を頼ったのだろう…と、納得した。
かくして、チョコの材料選びが開始した。
「えーと、最初はなにを買うのかなっ?」
「え?」
レイアがリザを見ると、彼女はきょとんとしている。
まさかのノープランな彼女にレイアは苦笑いしつつ、すぐにライを見た。
「ぼ、僕を見るか…?なら、とりあえず菓子屋に行くか。」
「お菓子屋さん?あ、もしかして作ってあるの買うつもりなんじゃ…」
「既製品を溶かして固めるのが一番簡単だ。」
リーダーの一声で、リザ一行の行先は決まった。
ちなみに、リザは一行のリーダーではなかった。
ではなにか?と問われると、答えは恋する乙女係…一行の動力源である。
菓子屋についた一行。
目を輝かせながら、リザはショーウィンドウを見る。
何度もレイアを呼び、これが可愛いとか、あれが可愛いとか、目についた先から指差していった。
「わぁ、あのウサギのチョコかわい~…!」
「う、うん!あ、あっちに溶かしやすそうな板状のがあったから、それ…」
「きゃっ!みてみてレイア!あっちのクマチョコ、目がキラキラしてて良くない!?」
「そ…そうだね…リザちゃん、また今度付き合うから…」
まったく放してくれない彼女に、レイアは困惑していた。
ライは二人のやり取りが終わるのを、菓子屋のガーリーな雰囲気と戦いつつ待つのだった。
ともかく、「魔法使いのチョコ」という板チョコを手に入れたリザ一行。
人通りの多い街を歩きながら、レイアはリザへ向かう先を尋ねる。
「で、次はどこに…」
「え!?えっと、えっと、えっと…」
「リザちゃん…なんでノープランなの?」
同じ失敗を二度繰り返してしまったことをレイアは反省しつつ、またすぐにライを見る。
ライはこうなることを予測していたのか、さっきより早く返事をした。
「デコレーションの類は欲しいんじゃないか?」
「あっ、いいね~!さっすがライ!」
有能なリーダーの提案に、進行役のレイアが頷く。
そんな中、レイアの横で乙女のリザが呟いた。
「確かに、デコレーションするつもりだったかも…?」
「忘れてたの!?」
「なんか、緊張してるのかな?」
「まだ早いよっ!準備段階だよ!」
ことアーサーの話になると、些か焦り過ぎなリザ。
レイアは、そんな彼女が少し心配になるのであった。
レイアの隣で、自分がいて良かったと密かに思うライであった。
そんなこんなで、デコレーションを買い揃えるため、デコレーション専門店に赴く一行(驚くべきことに、この街にはそんな店があるのだ)。
ゴージャスな雰囲気の内装に、リザは少しテンションが上がったのか、また色んな装飾に目移りし始めた。
「なにこれ、すっごー…」
「はいはい、目的があるでしょ。」
「で、でもこれ凄い。ねぇ、もうちょっと居てもいい?」
子犬のような目でライを見つめるリザ。
ライは彼女の頭に手をポンと置くと、少し厳しめの顔で言った。
「リザ、お前は計画性というものを持て。」
「うっ…はい、ごめんなさい。」
リーダーとして、時にはメンバーの態度を改めさせることも重要だ。
彼の手腕を見たレイアは、改めて彼の凄さを認識した。
「凄いね…私だったら一時間はかかるのに!」
「気にしなくても、レイアはそれでいいよ。」
優しさだけではリーダーは務まらない。
レイアの優しさを殺すのを、ライは良いことだと思わないのであった。
ともかく、若干安めのデコレーションを選んだリザは、次の場所に向かう。
「次はどこ?」
三度目ともなると、流石にミスはしない。
レイアは最初からライへ視線を向けた。
「次は型だな。」
それを受けたライも、流れるように回答する。
もはや二人で買い物を行っている様だったが、リザはレイアの横で荷物を持っていた。
そう、彼女は荷物持ちという役割を引き受けたのだ。
「…リザ。荷物持とうか?」
「結構よ。これは私の仕事だから。」
「女の子に荷物を持たせるのは…」
「気を遣うのはやめて。私の仕事だから!」
それほど重い荷物ではないとはいえ、力仕事をリザにやらせるのは、ライ的には嫌であった。
しかしリザは、どうあっても他の人間に荷物を渡すつもりはない様子だ。
強情な彼女に負け、先に役割を与えてあげれば良かったと反省しつつ、ライは歩くのだった。
なにはともあれ、チョコの型を選ぶため店にやってきた三人。
三人の目の前に見える、その場所は…
「武器屋…?」
「武器屋だな。」
武器屋であった。
珍しく道を知っているというリザの案内に付いてきたのだが、予想と違う景色に呆然とするライ&レイア。
そんな二人を差し置いて、リザは武器屋に入っていった。
「あ、待ってよリザちゃん!?」
「レイア、すぐ終わるから店先で待っててもいいわよ?」
「いやっ…ここでなにする気!?」
慌てるレイアを不思議そうな顔で見たリザは、自分の隣に立てかけてある剣を一本取り出す。
そして、手に持ったそれをレイアの目の前へ出してみせた。
「これを買うわ。前にアーサーが、鞘が良いとか言ってたから。」
「そ、それ、剣だよね…まさかチョコに入れるの?」
「え?いや、型に決まってるでしょ。流石のアーサーも、鉄食べて喜んだりしないわ。」
まさか剣を型にするつもりとは思っていなかったレイア。
彼女は、驚きの発想に唖然とするばかりであった。
そんなレイアを尻目に、リザはさっさと剣を買うと、たちまち店を出た。
店先で待つライを見つけると、リザは神妙な面持ちで彼の方へ向かう。
「ライ、これからが本番なのよね…私、頑張るわ!」
顔を合わせるなり、リザはライにそう言った。
しかし、ライ的には先に消化しておきたい疑問があった。
「…一つ、聞かせてくれ。その剣はなんだ?」
「え?それさっきレイアに聞かれたんだけど。」
「普通、分からないと思うぞ。」
――かくして、チョコレート作りは開始されるのであった。
宿に帰り、アーサーがジッドと遊んでいる隙に用意を進める三人。
そんな中、まずレイアが疑問を放った。
「チョコってどうやって溶かすの?」
炎魔法を使って溶かすつもりではあるが、直に火を当てれば完璧に焦がす可能性が高い。
火加減をどうするか、という最初の問題が浮かび上がる。
彼女の疑問に、聡明なライは苦も無く答えた。
「風魔法と併用して、熱気を与えればすぐに溶けるはずだ。」
「さっすがライだね!」
「じゃあ早速…」
「ちょいちょーいっ!」
部屋の中でリザが炎魔法を使おうとしたので、レイアは慌てて彼女を止める。
「リザちゃん、後先考えてねっ!!」
「あ、そっか…」
「…室内で魔法を使うのは危ない。外に行こうか。」
恋煩いでポンコツガールになってしまったリザをフォローしつつ、三人は街の外へ出た。
燃え移りそうな草木の無い場所で、リザは魔法を展開し始める。
「こんな感じでいい?」
「よし、いいぞ。」
熱風を受け、器の中で徐々に溶け始めるチョコ。
無事ほとんど溶け切った頃、ライは次の工程を提案する。
「次は、型だな…」
そう言いつつ、リザがどうやって型を取るつもりなのか、ライは知らなかった。
そのため、彼はとりあえずリザと目を合わせてみる。
ライの目線に気付いた彼女は、緊張の面持ちで口を開く。
「え、えっと…剣にチョコを塗って、氷魔法で凍らせるつもりよ…剣ごと。」
「「剣ごと!?」」
「だ、だって他に方法が思いつかないじゃない…!」
案の定アレな型の取り方に、思わず肩を落とすライ。
アーサーが食べる時、彼の口の中はどうなってしまうのだろう。
しばしの逡巡の後、ライは少しマシな方法を考えた。
「片側ずつ作って、最後に結合させよう。」
「!そうだね、それなら中身が剣にならなくて済むかも!」
「ラ、ライはさすがね。私はダメね…」
「なに言ってるの!リザちゃんのそういうところも可愛いよ!」
優しいレイアのフォローに、リザは少し照れる。
アーサーが可愛いと思ってくれるなら良いかな?と思った。
いまさら述べる必要もないが、レイアは誉め言葉の天才だ。
かくかくしかじか、三人は時間をかけて剣の型を取った。
ライの手法で上手くいったので、三人はいよいよトッピングの工程に移る。
「リザちゃん!なにから飾る?」
「じゃあ、この真珠っぽいのからいくわ…!」
「よーし、やっちゃおー!ライも!」
「僕はいい。二人で楽しんでくれ。」
ドライなライの発言に、レイアは不服そうな表情になる。
彼女はライの手を取り、真珠の粒を持たせると、目を見つめた。
「みんなでやるほうがいーよね?」
「僕はあまり…そういう美的センスが問われそうなことはしたくない。」
「数学に頼ってもいいから!数学でバランス取って!」
「すまない、僕は数学を使いこなすにはまだ未熟だ。」
勢いの凄い彼女に押されつつも、どうにか不参加を貫こうとライは格闘する。
その横で、リザは二人の様子も目に入らぬくらい真剣に飾りつけをしていた。
ふとリザを視界に映したレイアは、彼女の真剣な眼差しに驚く。
「わ、リザちゃん…情熱的…」
「アーサーへの気持ち、本物なんだろうな。」
「ステキだね…なんだか羨ましいなぁ。私にもいつか好きな人が出来ると思う?」
「どうだろうな。数学じゃどうしようもない、はは。」
「ふふ、返答に困らないでよ。」
リザに協力するため、レイアも飾りつけを開始する。
ライは座り込み、二人の様子を見ながら待機することにした。
ダンジョン以外で見る二人の真剣な表情を、新鮮に感じながら。
というわけで、いよいよ飾りつけを終えた少女たち。
二人が全体像に満足したのを見て、ライも立ち上がる。
「出来たか?」
「うんっ!ね、リザちゃん?」
「そうね、出来た…!」
あとはこれを見せるため、宿からアーサーを呼んでくるだけである。
レイアとリザは顔を見合わせると、一緒にライの方を向いた。
「な、なんだ?」
「呼んできてくれない?」「呼んできてくれないかな?」
「…分かったよ、じゃあ行ってくる。」
リザはドキドキしつつ、アーサーの到着を待つのであった。
これからも毎日投稿を目指します。
チャレンジ。