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日常系ファンタジー  作者: 青井渦巻
試練の章
31/171

聖女の日

今までで一番長いです。

 聖女の日とは、女性が男性に贈り物をする日である。


 聖女の日と名付けられた由来は様々だが、事実は不明瞭である。


 リザはこの日にちなんで、アーサーに贈り物をしようと企てていた。




「二人とも、今日はよろしくね。」


「任せて!私たちで最高のプレゼントにしちゃおっ♪」


「…僕はなにをすればいいんだ?」




 彼女は、パーティメンバーのライとレイアに助っ人に来てもらい、プレゼント作りを手伝ってもらおうと考えた。


 レイアはやる気だが、女子のプレゼント選びに男子として同行するライは、なにをすればいいか分からないでいた。


 戸惑う彼に対し、リザは軽く頭を下げる。




「チョコ作るの手伝ってほしいの!」


「ああ、なるほど…」


「あと、チョコの材料選びも手伝って!」


「材料もか?」




 そう言いつつ、不安そうな顔を浮かべるリザを見て、ライは察した。


 彼女が、あまりチョコ作りに自身が無いという事を。


 きっと彼女は心細さから、リーダーの自分を頼ったのだろう…と、納得した。




 かくして、チョコの材料選びが開始した。




「えーと、最初はなにを買うのかなっ?」


「え?」




 レイアがリザを見ると、彼女はきょとんとしている。


 まさかのノープランな彼女にレイアは苦笑いしつつ、すぐにライを見た。




「ぼ、僕を見るか…?なら、とりあえず菓子屋に行くか。」


「お菓子屋さん?あ、もしかして作ってあるの買うつもりなんじゃ…」


「既製品を溶かして固めるのが一番簡単だ。」




 リーダーの一声で、リザ一行の行先は決まった。


 ちなみに、リザは一行のリーダーではなかった。


 ではなにか?と問われると、答えは恋する乙女係…一行の動力源である。




 菓子屋についた一行。


 目を輝かせながら、リザはショーウィンドウを見る。


 何度もレイアを呼び、これが可愛いとか、あれが可愛いとか、目についた先から指差していった。




「わぁ、あのウサギのチョコかわい~…!」


「う、うん!あ、あっちに溶かしやすそうな板状のがあったから、それ…」


「きゃっ!みてみてレイア!あっちのクマチョコ、目がキラキラしてて良くない!?」


「そ…そうだね…リザちゃん、また今度付き合うから…」




 まったく放してくれない彼女に、レイアは困惑していた。


 ライは二人のやり取りが終わるのを、菓子屋のガーリーな雰囲気と戦いつつ待つのだった。




 ともかく、「魔法使いのチョコ」という板チョコを手に入れたリザ一行。


 人通りの多い街を歩きながら、レイアはリザへ向かう先を尋ねる。




「で、次はどこに…」


「え!?えっと、えっと、えっと…」


「リザちゃん…なんでノープランなの?」




 同じ失敗を二度繰り返してしまったことをレイアは反省しつつ、またすぐにライを見る。


 ライはこうなることを予測していたのか、さっきより早く返事をした。




「デコレーションの類は欲しいんじゃないか?」


「あっ、いいね~!さっすがライ!」




 有能なリーダーの提案に、進行役のレイアが頷く。


 そんな中、レイアの横で乙女のリザが呟いた。




「確かに、デコレーションするつもりだったかも…?」


「忘れてたの!?」


「なんか、緊張してるのかな?」


「まだ早いよっ!準備段階だよ!」




 ことアーサーの話になると、些か焦り過ぎなリザ。


 レイアは、そんな彼女が少し心配になるのであった。


 レイアの隣で、自分がいて良かったと密かに思うライであった。




 そんなこんなで、デコレーションを買い揃えるため、デコレーション専門店に赴く一行(驚くべきことに、この街にはそんな店があるのだ)。


 ゴージャスな雰囲気の内装に、リザは少しテンションが上がったのか、また色んな装飾に目移りし始めた。




「なにこれ、すっごー…」


「はいはい、目的があるでしょ。」


「で、でもこれ凄い。ねぇ、もうちょっと居てもいい?」




 子犬のような目でライを見つめるリザ。


 ライは彼女の頭に手をポンと置くと、少し厳しめの顔で言った。




「リザ、お前は計画性というものを持て。」


「うっ…はい、ごめんなさい。」




 リーダーとして、時にはメンバーの態度を改めさせることも重要だ。


 彼の手腕を見たレイアは、改めて彼の凄さを認識した。




「凄いね…私だったら一時間はかかるのに!」


「気にしなくても、レイアはそれでいいよ。」




 優しさだけではリーダーは務まらない。


 レイアの優しさを殺すのを、ライは良いことだと思わないのであった。




 ともかく、若干安めのデコレーションを選んだリザは、次の場所に向かう。




「次はどこ?」




 三度目ともなると、流石にミスはしない。


 レイアは最初からライへ視線を向けた。




「次は型だな。」




 それを受けたライも、流れるように回答する。


 もはや二人で買い物を行っている様だったが、リザはレイアの横で荷物を持っていた。


 そう、彼女は荷物持ちという役割を引き受けたのだ。




「…リザ。荷物持とうか?」


「結構よ。これは私の仕事だから。」


「女の子に荷物を持たせるのは…」


「気を遣うのはやめて。私の仕事だから!」




 それほど重い荷物ではないとはいえ、力仕事をリザにやらせるのは、ライ的には嫌であった。


 しかしリザは、どうあっても他の人間に荷物を渡すつもりはない様子だ。


 強情な彼女に負け、先に役割を与えてあげれば良かったと反省しつつ、ライは歩くのだった。




 なにはともあれ、チョコの型を選ぶため店にやってきた三人。


 三人の目の前に見える、その場所は…




「武器屋…?」


「武器屋だな。」




 武器屋であった。


 珍しく道を知っているというリザの案内に付いてきたのだが、予想と違う景色に呆然とするライ&レイア。


 そんな二人を差し置いて、リザは武器屋に入っていった。




「あ、待ってよリザちゃん!?」


「レイア、すぐ終わるから店先で待っててもいいわよ?」


「いやっ…ここでなにする気!?」




 慌てるレイアを不思議そうな顔で見たリザは、自分の隣に立てかけてある剣を一本取り出す。


 そして、手に持ったそれをレイアの目の前へ出してみせた。




「これを買うわ。前にアーサーが、鞘が良いとか言ってたから。」


「そ、それ、剣だよね…まさかチョコに入れるの?」


「え?いや、型に決まってるでしょ。流石のアーサーも、鉄食べて喜んだりしないわ。」




 まさか剣を型にするつもりとは思っていなかったレイア。


 彼女は、驚きの発想に唖然とするばかりであった。


 そんなレイアを尻目に、リザはさっさと剣を買うと、たちまち店を出た。


 店先で待つライを見つけると、リザは神妙な面持ちで彼の方へ向かう。




「ライ、これからが本番なのよね…私、頑張るわ!」




 顔を合わせるなり、リザはライにそう言った。


 しかし、ライ的には先に消化しておきたい疑問があった。




「…一つ、聞かせてくれ。その剣はなんだ?」


「え?それさっきレイアに聞かれたんだけど。」


「普通、分からないと思うぞ。」




 ――かくして、チョコレート作りは開始されるのであった。




 宿に帰り、アーサーがジッドと遊んでいる隙に用意を進める三人。


 そんな中、まずレイアが疑問を放った。




「チョコってどうやって溶かすの?」




 炎魔法を使って溶かすつもりではあるが、直に火を当てれば完璧に焦がす可能性が高い。


 火加減をどうするか、という最初の問題が浮かび上がる。


 彼女の疑問に、聡明なライは苦も無く答えた。




「風魔法と併用して、熱気を与えればすぐに溶けるはずだ。」


「さっすがライだね!」


「じゃあ早速…」


「ちょいちょーいっ!」




 部屋の中でリザが炎魔法を使おうとしたので、レイアは慌てて彼女を止める。




「リザちゃん、後先考えてねっ!!」


「あ、そっか…」


「…室内で魔法を使うのは危ない。外に行こうか。」




 恋煩いでポンコツガールになってしまったリザをフォローしつつ、三人は街の外へ出た。


 燃え移りそうな草木の無い場所で、リザは魔法を展開し始める。




「こんな感じでいい?」


「よし、いいぞ。」




 熱風を受け、器の中で徐々に溶け始めるチョコ。


 無事ほとんど溶け切った頃、ライは次の工程を提案する。




「次は、型だな…」




 そう言いつつ、リザがどうやって型を取るつもりなのか、ライは知らなかった。


 そのため、彼はとりあえずリザと目を合わせてみる。


 ライの目線に気付いた彼女は、緊張の面持ちで口を開く。




「え、えっと…剣にチョコを塗って、氷魔法で凍らせるつもりよ…剣ごと。」


「「剣ごと!?」」


「だ、だって他に方法が思いつかないじゃない…!」




 案の定アレな型の取り方に、思わず肩を落とすライ。


 アーサーが食べる時、彼の口の中はどうなってしまうのだろう。


 しばしの逡巡の後、ライは少しマシな方法を考えた。




「片側ずつ作って、最後に結合させよう。」


「!そうだね、それなら中身が剣にならなくて済むかも!」


「ラ、ライはさすがね。私はダメね…」


「なに言ってるの!リザちゃんのそういうところも可愛いよ!」




 優しいレイアのフォローに、リザは少し照れる。


 アーサーが可愛いと思ってくれるなら良いかな?と思った。


 いまさら述べる必要もないが、レイアは誉め言葉の天才だ。




 かくかくしかじか、三人は時間をかけて剣の型を取った。


 ライの手法で上手くいったので、三人はいよいよトッピングの工程に移る。




「リザちゃん!なにから飾る?」


「じゃあ、この真珠っぽいのからいくわ…!」


「よーし、やっちゃおー!ライも!」


「僕はいい。二人で楽しんでくれ。」




 ドライなライの発言に、レイアは不服そうな表情になる。


 彼女はライの手を取り、真珠の粒を持たせると、目を見つめた。




「みんなでやるほうがいーよね?」


「僕はあまり…そういう美的センスが問われそうなことはしたくない。」


「数学に頼ってもいいから!数学でバランス取って!」


「すまない、僕は数学を使いこなすにはまだ未熟だ。」




 勢いの凄い彼女に押されつつも、どうにか不参加を貫こうとライは格闘する。


 その横で、リザは二人の様子も目に入らぬくらい真剣に飾りつけをしていた。


 ふとリザを視界に映したレイアは、彼女の真剣な眼差しに驚く。




「わ、リザちゃん…情熱的…」


「アーサーへの気持ち、本物なんだろうな。」


「ステキだね…なんだか羨ましいなぁ。私にもいつか好きな人が出来ると思う?」


「どうだろうな。数学じゃどうしようもない、はは。」


「ふふ、返答に困らないでよ。」




 リザに協力するため、レイアも飾りつけを開始する。


 ライは座り込み、二人の様子を見ながら待機することにした。


 ダンジョン以外で見る二人の真剣な表情を、新鮮に感じながら。




 というわけで、いよいよ飾りつけを終えた少女たち。


 二人が全体像に満足したのを見て、ライも立ち上がる。




「出来たか?」


「うんっ!ね、リザちゃん?」


「そうね、出来た…!」




 あとはこれを見せるため、宿からアーサーを呼んでくるだけである。


 レイアとリザは顔を見合わせると、一緒にライの方を向いた。




「な、なんだ?」


「呼んできてくれない?」「呼んできてくれないかな?」


「…分かったよ、じゃあ行ってくる。」




 リザはドキドキしつつ、アーサーの到着を待つのであった。

これからも毎日投稿を目指します。

チャレンジ。

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