カウンセリング
カウンセリングは、心の整理です。
治療術師の少女・キョウガは、灰色の石碑の前に立っていた。
そして、石の隣に花を手向けると、そっと笑った。
「私はね、今日も夢を見てしまったのだ。どうしようもなく、長い夢だった。」
彼女はただ、誰にともなくぽつぽつと、自らが見たという夢を語った。
「まるで太陽のように輝いていたのに、最後の瞬間だけが強烈に記憶に残っている。それまで美しいものをたくさん見たはずだったのに、目が覚めた今…それが一切思い出せない。どうしてだろうねぇ。」
キョウガは、うっすらと涙を浮かべていた。
石碑を見つめるその目は、石の奥を透視でもするかのように、虚ろに定まっていた。
「私はリワインドというパーティを作って、そこでリーダーをやっているよ。それでようやく、終幕に至るまでの道筋を思い出せるようになった。いや、実にややこしい手順を踏まされたものだ…記憶というのはどうにも、身一つで抱えきれないらしい。」
なにについて語っているかは明確ではないが、場と口調を考えれば、おそらくは石碑に眠る人物に語っているのであろう。
悲しみと喜びの入り混じった笑みを浮かべて、少女は淡々と語り続けた。
「所詮は過ぎ去ったものだ…しかし、ばらまいた宝物が何であったか覚えていないというのは、とても好奇心がくすぐられないか?もう一度拾い集めたくなるのも無理はない…なんてね。」
少女は、その背丈には不似合いな、大人びた言葉遣いをする。
理解しやすいとは言えない、少し散文調な言葉を並べた。
「ゴーストである君達は知っているかもしれないが、一応言おう…少し前まで私は堕落していた。」
気持ちを整理するように、ゆっくりと声を紡ぐ。
溢れ出す水を小さな手のひらで掬うように、盆に返らぬ水滴を足元に溢しながらも、穏やかに、一生懸命に作業を続けた。
「終幕を再生するたび、そちらで消費した時間こそが信頼に足るものだと錯覚してしまうんだ。あんなに待ち遠しかった朝が嫌いになって、明けぬことを祈ったこともあった。だが、もう平気だ。私の役に立たない感覚は、別の存在に共感することを覚えた。」
そうして、彼女の回想は間もなく終わりを迎えた。
彼女自身が、これ以上続ける必要はないと考えたのだ。
この言葉は全て、彼女にとってはセルフ・カウンセリングの為のものであった。
「聞いてくれてありがとう。また来るよ、諸君。」
最後にそう言って、キョウガは風に合わせてニコッと笑った。
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