謎にも種類がある
なんだコイツ…回です。
フェリは謎の多い少女であった。
彼女は今日、冒険者ギルドへ立ち寄り、冒険者の名簿を閲覧させてもらっていた。
聖騎士のアバトライトに応対されつつ、彼女は名簿に隈なく目を通す。
「…いない。」
「ふむ、そうか…では君の探している人物は、既に冒険者を引退しているのかもしれない。」
「そんな…!ありえないって!」
フェリは何者かを探していた。
同じ宿を拠点代わりに暮らす彼女には、そうする理由があった。
しかし、それは彼女の口からは語れない。
「しかし、なぜ探しているんだい?ギルドとしても出来る限り協力したい…良ければ教えてくれ。」
「そ、それは…分からない。」
「分からない?」
フェリはなぜその人物を探しているのか、自らで理解していないのだ。
ただ、ぼんやりと頭の中に浮かぶ情報をもとに、その意味を手繰り寄せようと藻掻いているに過ぎない。
いうなれば、彼女は記憶の旅人であった。
「…そうか。出来る限りはこちらでも人物の捜索を続けよう。しかし正直に言って、あまり期待はしないでほしい。」
「…うん。」
「困ったらまた冒険者ギルドへ立ち寄ると良い。」
アバトライトは彼女と会話を終えると、なにか用事があるのか、ギルドを出て行った。
それを黙って見送りながら、いつまでもここに居ても仕方ないと思ったフェリも、立ち上がってギルドを後にした。
「一体どこに居るの…?」
考え事をしつつ、フェリは街を歩く。
すると、前方に意識を向けていなかったことで、誰かにぶつかった。
「っ…!」
「いてーなぁ、気を付けろよ。」
フェリが前を見ると、そこに立っていたのは見知らぬ少年。
彼はエルドラという錬金術師の冒険者だ。
不愛想な顔で、黙って彼の横を通り過ぎようとするフェリに、エルドラは再び声をかける。
「おい、なんか落としたぜ?…なんだこれ、魔道具か?」
「!返せっ!」
「う、うおっ!え、そんな高価なもんなの!?」
「うっさい、関係ないでしょ!」
フェリは落とした魔道具を、エルドラの手からひったくった。
鈍い藍色をした、水晶玉のような物質。
彼女はこの魔道具がなにかは理解していないが、記憶を取り戻すために必要なものだと直感的に信じており、肌身離さず持ち歩いている。
エルドラは少女の大袈裟な反応に関心を寄せた。
「なぁ、それなんだ?俺が拾ってあげたんだし、使ってみてくれない?」
「は?」
「いや、は?じゃなくて、使ってみてって。気になるし。」
「嫌だ。」
「そこをなんとか!な、これもなんかの縁だって!」
関心事に対し、引く様子の無いエルドラ。
彼はヘラヘラと笑いながら、フェリにペコペコ頭を下げる。
なんとなく軽率さを感じる動作に嫌悪感を感じたフェリは、早歩きで逃げるように彼の近くを去った。
「…なんだよ、ケチな女の子だなぁ。パルルなら一回は見せてくれるのに。」
彼女の焦燥を帯びた背中を眺めつつ、エルドラはそうぼやくのであった。
そう言いつつも、まだ興味の熱は彼の心に根付いていた。
「そうだ、ストーカーしよう!なんか分かるかも!」
犯罪チックな行為を厭わない彼は、稀代の犯罪者予備軍であった。
――かくかくしかじか、エルドラによるフェリの尾行は続いた。
やがて、フェリは人気のない路地裏に来ると、魔道具を取り出す。
エルドラはそれを見て、ニヤリと笑った。
怪しい魔道具の正体を見極めようと、彼はフェリの手元へ目を凝らす。
「ぐへへ、一体なんだってんだぁ…?その魔道具はぁ…!」
まるで少女の身体を狙う変態のように、下卑た笑い声を放つ。
そんな男が後ろに居るとも気付かず、フェリは魔道具を発動した。
「たしか、こうやって…」
少女は慣れぬ手つきでそれを起動する。
すると、魔道具は淡い光を放ち始めた。
一方のエルドラは、それを目にすると、なにが起こるのかと期待を膨らませる。
しかしそれ以降、光を放つ以上のことは起こらなかった。
「…なんじゃそりゃ。訳分からん。」
エルドラが期待外れの結果に落胆していると、フェリが不意にこちらを見た。
少女はストーカーの姿を発見してしまい、思わず「ひっ…」と声を漏らす。
しかし、相手のそんな様子を見たにも関わらず、ストーカーは笑顔で彼女に話しかけた。
「なあ、それって結局なんだったんだよ?夜用ライトかなにか?」
「なんなの、あんた…き、き、気持ち悪い…」
「あ、それよく言われるぜ!まー真に受けると凹むから、誉め言葉だと思ってる!」
「…!?」
フェリは目の前に立つ少年の理解不能さに、鳥肌が立った。
軽く処理できない、ヘドロのような気持ちを抱えたまま、彼女はその場から立ち去る。
エルドラはまたもフェリに逃げられてしまった。
「あ…ま、いいや!大したもんじゃ無さそうだし!」
そう笑いながら、エルドラは幼馴染の所に遊びに行くことを決めた。
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