理想と現実
内容が疲れてます。
「うおー!俺は絶対に世界一の冒険者になるっ!!」
「あっはっは!なにを基準に言ってんだ!」
アーチャーの青年・トーマスは、行きつけの酒場で啖呵を切った。
それを聞いていたのは、錬金術師の男・シュタインだけであった。
「毎日そんな事ばっか言ってるがな、今日の成果は?」
「…んだよ、そんなもん関係あるかぁ!いつかなるんだよぉ!」
「お前、間違えて前衛の仲間に矢をブッ刺したらしいじゃねぇか。」
「シュタイン、その話はするんじゃねぇ!!酒がマズくなんだろぉがぁ!!」
トーマスは夢想家であったが、冒険者としての実力は無かった。
毎日のようにパーティメンバーに迷惑をかけ、つまはじきにされ、やけになって酒場に入り浸る。
彼の生活は、およそ人々の賞賛を受け取るに値するものではなかった。
「いつか、見返してやるんだぁ…絶対に許さねぇおぉ~」
「あーあ、また酔い潰れてやがる。呂律が回ってねぇぞ?」
錬金術師のシュタインは、トーマスの幼い頃からの数少ない友人である。
同じパーティに属しているワケではないが、トーマスの愚痴や諸々を受け止めるのはシュタインだけであった。
「…ったく、どうせ今のパーティーもすぐにクビになっちまうんだろうな、お前は。」
シュタインは、眼の焦点が定まっていない友人を見ながら、呆れたようにそう呟いた。
トーマスは、そんなシュタインの様子になにかを言い返そうとしたらしかったが、言葉が発せず、ただ口をパクパクと動かす事しかできなかった。
トーマスは深い酩酊状態だったが、しばらくすると眠りに落ちた。
「名を挙げる、か。冒険者として、まだそんな気持ちで居るのはお前だけだよ。」
そう言って、シュタインは少し寂しそうな顔をする。
シュタインやトーマスと共に冒険者なった者たちは、もう生活が安定してしまった。
無論、彼自身も貴族に召し抱えられ、専属の錬金術師として魔法陣などの開発に尽力していた。
「トーマス、俺はお前が羨ましいぜ。生活はめちゃくちゃだけど、お前は昔のまんまだ。」
シュタインは、冒険者としてダンジョンに足を踏み入れる機会が、もうほとんど無くなっていた。
刺激的だが危険な冒険をするよりも、手に入れた安寧と幸せを守ることを選んだのだ。
「ぐおー、ぐおー…お、俺は絶対にぃ…世界一の冒険者になるぅ…!!」
「へへ、もともとは俺もそのつもりだったってのに…」
シュタインは自らの選択を後悔してはいなかった。
しかし、なんの未練もないかと問われれば、はいとは言い切れないと分かっていた。
そのせいかは分からないが、こうしてトーマスと酒場で会うのが日課になっていた。
「…頑張れよ、トーマス。期待してんだからよ。」
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