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日常系ファンタジー  作者: 青井渦巻
生活の章
22/171

日常的に戦いたい!

戦闘狂ですね。

 街の公園で、少年と少女はベンチに座り歓談している。


 しかし、少年はいきなり立ち上がると、大きな声で宣言した。




「ライリー!俺はセンに挑むことにした!」


「またか貴様…少しは身の程を弁えろ。」


「今度は絶対に勝つぜ!!」




 「また」とか「今度は」とか言っている通り、一度目ではない。


 魔導士の少年・ニックは、パーティリーダーのセンに何度も挑み、敗北している。


 しかし、彼は挫けなかった。


 むしろ負けるたびに、より闘志を燃やす戦闘マンであった。




「見とけよライリー!絶対に勝って、俺がリーダーになる!」


「貴様が統率者になったら、我は組織から抜けるぞ。」




 ライリーは冷めた視線をニックに送りつつ、そう言った。


 ニックはそれを気にしていない様子で、変わらず闘志を燃やすのであった。




 ――そんなわけで、彼はセンに挑み、あっさり負けた。




「僕の剣捌きを対策してはいたが…君の攻撃がちゃんと当たっていないよ、ニック。」


「あ、ああ…そうみてぇだなっ!身体がいてーぜ!!」


「無理な動きをしたんだろう。今日は安静にするんだな。」




 噴水広場での二人の戦闘は、もはや恒例行事となっていた。


 街の人々は観客となり、二人の勝負を娯楽としていた。


 勝手にチケットを配り、どちらが勝つかを予想させるものも居た…が、ニックが勝たないので、今はそれも廃れた。




「だから予言してやったのだ、貴様は勝てないと。」


「ライリー…へへ、次は絶対に勝つ。」


「懲りない男だな、貴様も。」




 ライリーはニックの手を引き、彼の身体を起こしてやった。


 ニックは「サンキュ!」と軽く礼をすると、怪我をしているにも関わらず、魔法の修練を始めた。


 得意な炎魔法を体に纏わせると、彼は遠い坂を目指して走り始めるのであった。




「…ニック、オーバーワークで倒れなければいいが。」




 全然安静にしてくれなかったニックに、センは心配そうに呟いた。




「セン、心配するな。あいつは容易く死神に誘われるような、脆い人間ではない。」


「ライリー…はは、それもそうだ。」




 ライリーの冗談交じりの発言に、センは軽く笑った。




 ――ニックはどんどん坂を登った。


    国で一番長いとされる坂を、全速力で。


    そして…ぶっ倒れた。




「はっ…はっ…!ぜぇ…!」




 まったくペースを考えなかったのだ。


 それが災いして、ニックは過呼吸に陥った。


 しばらくすると息は落ち着いたが、今度は体の痛みが増し始めた。




「うおぉ、いってぇぇぇ!」




 彼は坂の途中でミミズの様にのたうち回り、しきりに呻いていた。


 そんな彼を道行く人々は不気味がり、避けて歩くのであった。


 しかし、世間には優しい人もいるもので、一人の少女が立ち止まった。




「………」




 彼女は口を開かず、何の合図もなしにニックへ回復魔法をかける。


 ニックは痛みがすぅと引いていく感覚に、安心感を覚えた。


 やがて、ニックが呻き声をあげなくなった頃、少女は魔法を中断した。




「………」


「ん、終わったのか?おお!全然痛くねーぜ!あんがとな!」


「………」




 彼女は喋らないまま、ニックのお礼に微笑みを返した。


 ニックはなにかお礼をするべきだと考え、自らの服のポケットから適当なものを探す。


 しかし、お返しとして妥当なものは見つからなかった。




「…あれ?っかしーなぁ、なんか良いアイテムがあったような…」


「………」




 なにかを探すニックの姿を不思議そうに少女が観察していると、少女の後方から男の声がした。




「おーい、シェヴィ!勝手に離れたらダメだろ!」




 少しして、少女の隣には武闘家の男が現れた。


 彼はウェドという名で、少女の相棒だ。


 少女の名は先程ウェドに呼ばれた通り、シェヴィである。




「ん?なんだ、お前。シェヴィの知り合いか?」


「………」


「え、今なんて?」




 ニックを見るなり、ウェドは訝し気な目線を彼に送った。


 しかし、その注意力はすぐにシェヴィの小さな声に吸収されるのであった。




「俺か?俺はニックだ!世界最強の魔導士だ!」


「あ?あぁ、そうか。で、シェヴィはなんて言った?」


「………」


「だからなぁ、むくれても分かんねーもんは…」




 ウェドは完全にシェヴィに集中しており、既にニックへの関心は無かった。


 それでもニックは、そんなぞんざいな扱いに怒る狭量な少年ではない。


 彼は笑いながらシェヴィに向けて言った。




「シェヴィ!怪我を治してくれた礼に、俺が勝負してやるぜ!」




 ニックにとって、労力に報いる最大の報酬とは、即ち強き者との戦闘であった。


 彼は生粋のバトルマニアなのだ。


 いきなりのニックの発言に、シェヴィは思わず飛び退く。




「………」


「ニック、とか言ったな?てめぇ…うちの相棒に手ぇ出すつもりか?」


「手を使わずに戦えってんなら、俺はそれでもいいぜ!」


「上等だぜ、コラ…表出ろや!」


「………」




 突然の危険な展開に、慌てて仲裁に入ったシェヴィ。


 しかし、ヒートアップしている二人に小さな声は届かない。


 なぜかシェヴィではなくウェドと戦う気のニックは、勇ましい顔で炎を展開した。




「………」




 必死に声を張り上げるが、彼女の声は誰にも届かない。


 相棒のウェドも、こうなっては言う事を聞いてくれない。


 少女が困り果てていると、一人の男が声をかけてきた。




「これは見過ごせないな。君、下がっていなさい。」


「………」




 彼の顔を見て、シェヴィは驚いた。


 なぜなら彼は、他でもないあの有名な冒険者、アバトライトだ。


 聖騎士として街を見回っているのは彼女も知っていたが、こんな場所で会うとは思っていなかった。




「容赦しねぇぞ、火事人間!!」


「行くぜ、ウェド!!」




 アバトライトの登場と同時に、勝負の火蓋は切って落とされた。


 ウェドはニックの顔面を狙い、神速のナックルを繰り出した。


 その一撃が、まさにニックに直撃しようとした瞬間…!




「そこまでだ。」


「「!?」」




 ウェドの腕を大きな盾で横から弾き、二人の間に割って入ったアバトライト。


 急な乱入者に驚愕する二人を、彼は険しい目で順に睨んだ。




「街の中での戦闘行為は禁じられている。それは分かっているだろう?」


「うっ…!」




 その言葉に、ウェドは狼狽した。


 しかし、ニックはなにも分かっていないような顔であった。


 そもそもこの少年は、センとの戦闘を勝手に行っているのだ。


 毎回、センが許可を取っていることも知らずに。




「まぁ、知っているかどうかは問題ではない。一度、冒険者ギルドへ来てもらうよ。」


「うえぇ、マジかよ…!くそっ!」


「おい、邪魔するなよ!俺とウェドの戦いなんだぜ!?」




 ――そんな感じで、ニックとウェドはギルドでこってり絞られた。


    一応両者の思い違いだったということで、冒険者資格を取り上げられないで済みはしたが、長時間の束縛は彼らには重い罰であった。




「………」


「すまん…!シェヴィ、なんて言った!?」




 ウェドは、いきなり勘違いしたのをシェヴィにも怒られた。


 が、説教は大半聞き取れず、余計にシェヴィを不機嫌にさせたのであった。




 一方のニックといえば…




「ライリー…俺、センと街中で戦うのはやめるぜ。」


「!?貴様、なにがあったのだ…?」




 急な心変わりで、ライリーを仰天させていた。


 ニックは冒険者ギルドが苦手になった。

30話までは毎日更新!

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