朝の光
特にほのぼのでもない話です。
剣士の青年・センは、宿の質素な椅子に座って、朝の光を眺めていた。
隣には、密人と呼ばれるケイという名の女性が、センと同じように座っている。
「セン、もう朝よ。」
「…そうだね。」
密人は冒険者であるが、冒険者らしく往来を歩くことは出来ない。
事情はあれど、日の当たらぬ界隈から秘密裏にクエストを受け、殺人を犯している。
この者たちは冒険者である前に、罪人である。
「ほら、もう行かないと。仲間が待ってるわよ。」
「でも、君は…?」
「知ってるはずでしょう。私は朝には消える。会いたいなら、またここにいらっしゃい。」
センには理解できなかった。ケイが罪人だという事実が。
センの知るケイは、ただ外の光に憧れる哀れな女であった。
「…じゃあ、またここに来る。僕の冒険の事を聞かせてあげるよ。」
「ええ、楽しみにしてるわ。」
センは宿の一室を後にする。
ケイは、彼の姿が扉に阻まれて見えなくなるまで、そっと手を振った。
しかし、センはどうしてもケイが哀れに思えて、また扉を少し開け、部屋の中を密かに覗いた。
見ると、彼女は窓の向こうの光に手を伸ばしていた。
そんな無邪気な仕草から、センは世間知らずの子供らしさを感じ、そっと視線を逸らす。
「本当に、話すべきなのかな…」
センはそう呟いた。
彼には、ケイが自分の話を本当に喜んでくれているのか、確証が無いのだった。
彼がもう一度顔を上げ、隙間を覗いた時には、ケイはどこにも居なかった。
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