君を待ってる
リザとアーサーの武器屋デートです。
ファンタジー世界であろうと、女性は買い物が好きだ。
それも、自らの意中の男性とショッピングに興じることが出来るなら、幸福の絶頂と呼んで差し支えない。
「…はぁ。」
肝心の店が武器屋でなければ。
魔導士の少女・リザは、各地のダンジョンを攻略し、お宝を手に入れて生活する「冒険者」だ。
しかし今日は、所属パーティ『ネームフラワー』の男戦士・アーサーの武器の選定に付き合っていた。
「アーサー、まだ決まらないのー?」
「すまん、待って!ああ…やっぱこの刀身の形サイコーだよなぁ…でも、こっちの柄も捨てがたいし…」
アーサーは大の武器・防具オタクであった。
それゆえ、彼を並ぶ剣の幕から引き離すことは、どんな者であっても不可能である。
「…さっきから、ずーっと待ってるんだけど。」
リザの独り言も、夢中のアーサーには届かない。
彼はもはや、店頭にポツンと立つ少女など忘れているようであった。
「リザ、お前んとこの戦士は良いヤツだ!金払いの良い冒険者は大歓迎だぜ、がっはっは!」
「……………あ、そ。」
不機嫌をブラ下げるリザの前に、ご機嫌な様子の武器屋の主人が現れた。
仲間を褒められはしたが、リザは嬉しくなかった。
武器や防具の支度に金貨が飛び、新しい服など選べない彼女からすれば、溜め息の理由にしかならない。
「しっかし、お前もこうなるのは随分前から知ってるだろ?なんでアーサーに付き合うんだ?」
主人は哀れなリザを案じるように、もしくはからかうような調子で、そう尋ねる。
彼の言う通り、パーティメンバーは誰もアーサーに付き合おうとはしなかった。
結成当初は全員で店に訪れ、和気藹々と装備を選んでいたが、やがてアーサーの情熱がエスカレートしていったことで、彼と同伴する者は1人ずつ減っていった。
今ではリザが残るのみとなってしまったが、アーサーにそれを気にしている様子はまったくない。
「そんなの別にどうでも良いでしょ?それより、早くアーサーに選ばせてよ。」
「おいおい、無茶言うなよ。アイツ、返事はするが話なんて聞いちゃいねえんだぜ。」
放っておけば勝手に装備を揃え、勝手に会計を済ませ、平気な顔で「帰ろうか!」と言う。
アーサーはそんな男であり、リザはそれを重々理解していた。
「な、な、リザ!これなんか凄いと思わないか?ほら、この鎧の肩の部分!めちゃくちゃ出っ張っててさ――」
「ん、なに?」
「…リザ、なんか元気ないよな。大丈夫?」
「え?あ、ううん、気にしないで。」
放置される時間にウンザリすると分かっていても、彼の隣を歩くのが幸せだった。
蚊帳の外な扱いにげんなりしつつも、彼の無邪気な少年のような顔だけは好きだった。
「いくらでも待つけど、ちゃんと守ってよね。」
リザはアーサーが好きなのだった。
とりあえず30話くらいまでは毎日投稿します。