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日常系ファンタジー  作者: 青井渦巻
生活の章
19/171

姉と弟

下の子は立場が弱いです。

「マゼンタ、見ろよ。パルルさんの記事だ!」


「まぁまぁ、どうしたのマックス?…あらぁ、パルルちゃん!」




 錬金術師の天才少女・パルルを、「さん」付けで呼ぶ少年。


 彼は魔物使いのマックスだ。


 「ちゃん」付けのマゼンタは、マックスのお姉さんであり、竜騎士である。




 二人はマゼンタの拠点である一軒家で、楽しそうにパルルの話をしていた。




「やっぱりパルルさんは凄いよな!俺と同じ歳なのに、こんなに注目されてるんだぜ!」


「うふふ、そうねぇ。とっても頑張ってるのねぇ、パルルちゃん。」


「俺もパルルさんみたいな、すげー冒険者になる!」




 そんな二人の耳に、扉の方からコンコンとノックの音が入ってくる。


 マゼンタは、そのノックに穏やかな声で「はぁい」と返事をすると、ゆっくりと扉を開けた。


 来客は、新聞に載っていた少女・パルルであった。




「マゼンタ、お邪魔するよ。」


「えぇ、どうぞ!いらっしゃい、パルルちゃん。」


「えええええーーー!?なんでパルルさんがぁーーー!?」




 憧れの人がいきなり目の前に現れ、愕然とするマックス。


 そんな彼にパルルは眉を垂らし、首を傾げた。




「パルルはマゼンタと同じパーティのメンバーだよ。そんなに驚くことじゃないよ、マックス。」


「え、え、え、でも…その!!」


「そうよ。いきなり大きな声を出したら、ご近所さんに迷惑でしょ?」


「いや、マゼンタ…パルルさんが来るなんて言ってなかったじゃん!!」


「今日は連絡せずに来たんだよ。その…エルちゃんのせいだよ。」




 パルルには、エルドラという幼馴染の少年が居る。


 二人は友達なのだが、エルドラには悪い癖があり、パルルがそれに付き合いきれなくなることがある。


 そういう場合、彼女は決まってマゼンタの家に逃げるのだ。




「エ、エルドラ…?あの野郎、またパルルさんに酷いことしたんだな…!!」


「エルドラくんと仲が良いのねぇ、パルルちゃん。ほらぁ、喧嘩するほど仲が良いって言うでしょ?」


「け、喧嘩というか…正しく言えば、意地汚さを見せつけられただけだよ。」


「ま、まさか!エルドラがパルルさんの前でう〇こ食ったとか!?」


「マックスはエルちゃんをなんだと思ってるの?」




 マックスはエルドラの事をヘドロだと思っていた。


 パルルに「エルちゃん」とか呼ばれ、幼馴染なんて生来の勲章を与えられている忌むべきヘドロであった。


 控えめに言って、マックスはエルドラがめっちゃ嫌いなのだ。




「エルドラのやつ、俺が掃除してやる!!」


「ちょっ、マックス!そんなことしなくていいよ!」


「パルルさんはあいつを甘やかしすぎですよ!ああいうのは、絶対に魔物の餌になるべきです!」


「あら?いっけなぁい、ドラゴン達に餌をあげないと!ごめんねパルルちゃん、ちょっと行ってくるわね~!」


「マゼンタ!先にマックスを止めてよ!」




 ――騒がしい姉弟に翻弄されつつも、パルルはなんとかマックスを宥めることに成功した。


    相変わらず納得のいかない様子ではあるが、ちゃんと椅子に座ったマックスに、パルルは一息つく。




「マックス、エルちゃんは悪いヤツではないんだよ。それは分かって欲しいよ。」


「でも!パルルさんの発明を横取りしようとするなんて、マトモな神経じゃない!」


「…うん、そうだよ。もちろん、アイツは聖人ではないよ。」




 聖人ではない…つまり、エルドラに優良性など期待していない。


 パルルは暗にそう言った。




「パルルさん!」


「いいんだよ。パルルが選んだ友達だよ。」


「パルルさん…!」




 虚ろな目で、とても本心からの言葉には思えないが、マックスは彼女の言う事に引き下がることにした。


 そして、いつまでもこんな暗い雰囲気を引き摺るのも嫌だと思い、話題を変えることにした。




「そ、そうだ!パルルさん、また新しい魔法陣を開発したんですよね!?流石っす!」


「ん?ううん、パルルはただ、好きなことをしてるだけだよ。」


「そういう姿勢がケンジョーの美ってやつですよ、パルルさん!」




 パルルに対して熱い視線を送り、眼をキラキラと輝かせるマックス。


 そんな彼にパルルは若干感動を覚えつつも、照れながら言った。




「マックスの活躍も聞いてるよ。マックスのパーティ、もう有名になってきてるよ。」


「そ、そーっすかね?でも、マゼンタのパーティと比べると…」


「比べなくても、マゼンタとマックスは全然違うよ。二人とも凄く明るいけど、マゼンタには包容力があるし、マックスは元気があって好きだよ。」




 パルルは「好き」という言葉の最後に、自然に微笑んだ。


 その何気ない表情でマックスは赤面し、思考回路がショートしてしまった。


 いつまでも呆けた顔で返事を返さないマックスに、パルルは不思議そうに問いかけた。




「マックス?どうしたの?」


「パ…パルルさんが…好きって…!」


「えっ…いや、違うよ!?異性としてじゃなくて、人として好意的に捉えてるというニュアンスで言ったんだよ!」


「ほげぇ~…」


「あ、あれ、マックス?…どうしよう、マックスが気絶しちゃったよ…」


「ただいまぁ、二人とも~…あら?どうしたのマックス、そんなに楽しそうな顔して?」




 パルルがショートしたマックスの前でどうしようかと悩んでいると、ドラゴンへ餌をやり終わったマゼンタが帰ってきた。


 彼女の姿を見たパルルは、すぐに彼女へ助けを求めた。




「ごめんマゼンタ…マックスが気絶しちゃったよ。」


「あらぁ、大変!早くお薬を用意しなくちゃ!」


「薬…よりは、頬をはたいて起こす方が現実的だよ。」


「あらぁ、それもそうねぇ。じゃあマックス、痛いけど我慢しなさいね?」


「え、本当にやるの…!?ちょっ、止めた方がいいよマゼンタ!」


「え~い!」




 マゼンタは自慢のパワーで、マックスの頬を平手で思い切り打つ。


 マックスは痛みに一瞬だけ目を覚ましたが、あまりに衝撃が大きかったので、二度目の昏睡状態に陥った。


 目の前の凄惨な出来事に、パルルは目を見開いたまま棒立ちになった。




「マゼンタ…マックスの状態、さっきよりも悪くなったよ。」


「え?あら、本当だわ…なにがいけなかったのかしらぁ…?」


「少なくとも、もう平手は止めた方が良いと思うよ。」




 ――その後、マックスは街の治療術師によって意識を取り戻した。


    マゼンタは大喜びしていたが、パルルとマックスはマゼンタの天然ぶりに少し恐怖するのであった。

30話までは毎日更新!

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