泥沼劇場
胃に悪い話はいかが?
狙撃手の男・デミオが所属するパーティ「ブルータルコンバット」は、不和であった。
したがって、彼はこのパーティに不満を感じていた。
今日のダンジョン攻略も、仲間の精神冷戦が胃に痛いだけであった。
「……」
「……」
「……」
沈黙に次ぐ沈黙で、およそ連携など取れるようには見えない状態のメンバー。
しかし、一応は仲間であり、緊急時は仕方なく協力しあうこともあった。
むしろ、緊急時しか連携しないのであった。
「はぁ…」
「っち」
「…おい。今、溜め息と舌打ちしたの誰だ?」
「てめぇ、俺を疑ってんのか!?」
「誰もテメーがやったなんて言ってねぇだろ、ボケナス!!」
彼らのコミュニケーションは、もはや地獄の具現化であった。
このパーティは男5人の編成だが、どのセリフがデミオのものか、知る必要はない。
どれがデミオでも、デミオに対する印象は同じだと思われる。
「魔物だ!」
不意に、メンバーの1人が声を上げる。
全員が確認すると、なにやら人型の生物がこちらに歩いてくるのが見えた。
「…馬鹿、ありゃ他のパーティじゃねーか。」
「あぁ?ああ…そうかよ、悪かったな!」
いちいち殺伐とした会話を挟みながら、彼らは向こうのパーティを確認する。
それは、女5人組のパーティであった。
彼女達は、女性のみで構成されていることで有名な「スカーレット」だ。
「おう、お前ら。」
ブルータルコンバットのリーダーである男が、スカーレットのリーダーへ声をかける。
スカーレットのリーダーも、彼の顔を見て嬉しそうに笑った。
「ああ、ブルコン!お前達も来てたのか、奇遇だな!」
「こんなところでスカーレットに会えるなんて、こりゃ運命かもしれねぇな。」
「ふっ、お前は気取ったことを言う。悪いが偶然だよ。」
ブルコンなどという略称は置いておくとしても、この2パーティは親交が深い。
同じ時期に結成したこともあり、成長を共にしてきた戦友とも呼べる仲だ。
いつの間にやら、各自が自分と似た役割を持つ者と会話を始めていた。
リーダーはリーダー同士、後衛は後衛同士…互いの役割が近いので、最も話が合うのだ。
「デミオ!元気?」
「おう、イーゼル!もちろん元気だぜ!」
それはデミオも例外ではない。
彼を笑顔で迎えたのは、イーゼルという狙撃手の女であった。
二人は冒険者になる前から友達だったのだが、冒険者として成長すると共に、さらに仲深まっている。
「ね、メンバーの関係は改善した?」
「あ?いやー、もう無理だろうな。解散まっしぐらだ!」
「えぇ~!ダメだよ、せっかく凄いパーティなのに!」
「そういうお前んとこのメンバーはどうなんだ?」
「え?いや~、もうムリかも。引退一直線だね!」
「…一緒じゃねーか。」
実は、イーゼルの所属するスカーレットも、メンバーの関係は最悪であった。
ブルコンとスカーレットを比較しても、相違点はメンバーの性別くらいしかない。
「リーダーが解散を持ち出してからもう10年だぜ?いつまでやってんだよ!ってな。」
「ホントにねぇ。そもそも、リーダー同士で結婚するために解散って…勝手すぎるんだよね!」
「そうだよ。相談もしねぇでよ、当人同士で勝手に決めてんじゃねー!ってことだ。」
「あー、言えてる!私らはまだ冒険したいんだっての!そもそも、ブルコンに会えなくなったら…ね!」
「…!イーゼル、やっぱり俺達ももう脱退しないか!新しいギルドを創設して、2人で暮らそう!」
「そうなったらいいけどねぇ。ムリだろうな~、ほら…全員、そうだから。」
パーティから抜けたがっているのは、別にデミオとイーゼルに限った話ではない。
本音を言えば全員、既にうんざりしているのだ。
冒険など辞めて、さっさと結ばれたいのだ。
しかし、他の連中がお互いに抜け駆けを許さない。
「…泥沼じゃねーか、このパーティ!!」
「大丈夫!ウチも一緒だから!」
仲間同士で足を引っ張り合うことの不毛さに、気付いていないわけではない。
だが、イーゼルは既に感覚が麻痺していた。
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