表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日常系ファンタジー  作者: 青井渦巻
生活の章
16/171

束の間の交流

瞬間、心繋げて

「お前、今日も機嫌が良くないな。」


「…別に。」




 新米戦士のウォッチ少年は、フェリという冒険者ではない少女を気に掛ける。


 フェリはいつもムスッとしていて、いつ話しかけても態度はそっけない。




「なにか良くないことでもあったのか?」


「うるさいな…」


「う、うるさいって…そんな言い方するなよ。」


「ウザい。」


「なっ!お前…!」




 ウォッチはフェリの事をあまり知らない。


 ただ、常連の宿でよく会うことから、彼女には決まった拠点がないということだけを推察してはいた。


 それくらいしか情報は無いが、彼は素性よりも機嫌の悪い理由を知りたがった。




「でも、お前も物好きだよな。一般人のくせに、なんだってこんな野蛮な所に泊まるんだ?」




 新米冒険者にも良心的な価格のこの宿には、必然的に新米冒険者が集まる。


 一般人は、軒並み素行の悪い冒険者には無暗に関わりたがらないのが普通であった。 


 しかし不思議なことに、フェリは当たり前にこの宿を選んでいる。


 それがウォッチには興味深い事に思えた。




「ちっ…」


「あ!お前なぁ、舌打ちして…ちょ、待てよ!」




 フェリにとっては、ウォッチの関心など知ったことではない。


 彼女は宿の広間から離れ、2階の自室に向かった。


 そこをウォッチが咄嗟に引き留める。




「待てよ!ウザいのは悪かったけど…すげー気になるんだって!」


「ウザい。」


「ああもう…分かってるよ!」




 彼は、フェリの態度がどうしても気になるのであった。


 しかしフェリの方は、身体的疲労もあるので早くリラックスしたいと感じていた。


 そんなところに、毎回のように現れるウォッチは不愉快でしかなかった。




「邪魔!」


「でもよ、明日も不機嫌なまま帰ってくるんだろ!?そりゃ気になるだろ!」


「は、はぁ…?キモいんだけど!」


「キモ!?俺はキモくない!」




 傍目に見れば、変質者と見間違えてもおかしくはない行動を取るウォッチ。


 自覚は無いが、彼は冒険者らしい旺盛な好奇心で暴走していた。


 一方のフェリも、ウォッチの言葉には意表を突かれ、つい暴言が出てしまったのだ。




「…放してよ。痛いんだけど。」




 腕の鈍い痛みで少し冷静さを取り戻した彼女は、掴まれている腕を引いた。




「え?あ、ああ…その、すまん。」




 フェリの落ち着いたトーンと怪訝な表情で我に返ったウォッチも、そっと手を離す。


 その後、2人は掴まれていた腕を見ながら沈黙した。




「…大丈夫か?」




 その言葉で、ウォッチは再び会話を開始する。


 フェリは黙って頷くと、不機嫌な顔を崩さないままでウォッチを睨む。




「…じゃあ、どんな顔すれば良いの?」


「え?」


「笑うつもりもないし、泣くつもりもない。で、他にどんな顔があるの?」


「…?いや、とりあえず笑えばいいだろ。」


「…はぁ、ウザ。」


「なんでだよ!」




 ぎこちない距離によって、彼らはスムーズに会話を進められなかった。


 これ以上は無駄な時間だと判断し、フェリは再び自室を目指す。


 そんな彼女の肩を、ウォッチは人差し指で2度叩いた。




「なに?ホントにキモいんだけ…」




 「ど」、と発音する前に、彼女は目の前の少年の顔に唖然とする。




「ゴーストナイトっ!!」




 ウォッチは渾身の変顔と共に、後頭部に自らの愛剣を添えてみた。


 その姿を「ゴーストナイト」という落ち武者のような魔物になぞらえて、フェリに披露して見せたのだ。


 簡単に言えば一発ギャグである。




「…バカみたい…」




 フェリは呆然として、そう呟いた。


 しかしその後、ふと笑みを漏らす。




「ほら、そうやって笑えばいい!」


「ウザッ」


「なっ…またか、お前…!」




 フェリは少しだけ、いつもより気持ちが軽くなった。


 ウォッチも、いつもより楽しい気持ちになっていた。

30話までは毎日更新

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ