鳥博士
みんなも鳥、ゲットじゃぞ~
牛、否。豚、否。虎、否。
否否否。千辺否。魔物使いのマックス少年は、魔物の鳥を飼った。
その共同育成者であるところのレイアは、然り、魔物の鳥について深く知った。
少女はたくさんの知識をつけたので、もう一人前の育成者……気取りである。
気取り気取り、そろそろ誰かにひけらかして、この知識を自慢したい。
ということで、自分の属するパーティのメンバーに、自然な流れを持ち掛けた。
「第1回・カラドリウスクイズ大会~!」
唐突に持ち掛けられたクイズ大会に、強制参加させられたメンバーはビックリ仰天。
4人はそれぞれ、難色を示した。
「俺たち、なにも聞かされてないんだけど……」
「なに急に」
「イエーイ! なんか分からないけど盛り上がろうぜ!」
「カラドリウスといえば、白い鳥の魔物か。その眼は未来と過去を見通すという――」
「あっ、ライ! 問題潰さないでよぉ!」
苦笑するアーサー、訝し気なリザ、とりあえずはしゃぐジッドに、問題を潰すライ。
1問だけ無くなってしまったが、レイアは気を取り直して、みんなの座るテーブルを叩いた。
宿に備え付けられたテーブルは、丁寧に扱わなければならない。
「さぁ、皆さん! カラドリウスについてどれくらい知っているか、試させてもらいまーす!」
「知るわけないでしょ、そんなの」
「まーまーリザちゃん! やってみたら案外、あれこれ知ってるかもしれないよ?」
「分かってるでしょうけど、私は魔物使いじゃないわよ」
皆を盛り上げようと、彼女は張り切って司会・進行を務めた。
が、リザを始めとして、仲間たちの反応は芳しくない(ジッドだけノリノリであるが)。
「もー、ちょっとみんなー! 盛り上がってこーよっ☆」
「イエーイ! イエーイ!」
リザはなんとも言えない表情で、楽しそうな2人を見ていた。
まさに我関せず、眼前の催しにまったく興味がない者の顔。
この世で最も冷徹な表情である。
仕方がないので、レイアは開催を強行することにした。
「……じゃ、はい。第1もーん」
平たいテンションを駆使し、日常に割り込んだ彼女。
あらかじめ用意しておいた問題用紙を取り出し、淡々と読み上げる。
「えっとねぇ、『カラドリウスは何日間、餌を食べなくても平気でしょうか』?」
「さっきまでのテンションはなんだったんだ」
「お、ライ。さては余裕だね」
彼女はツッコミを入れてきたライを指差し、回答権を与えた。
パーティのリーダーとして、みっともないところは見せられない。
ライは少しだけ考えてから答える。
「たしか、だいたい9日から10日くらいだっけ」
「せいかーい!! えっ、知ってたんだ!?」
「まあね」
クールなリーダーは、正解しても喜ばない。「これくらい知っていて当然」と言わんばかりのスマシ顔である。
それでもメンバー一同は、博識な彼へ尊敬の眼差しを向けた。
「おおー……さすがライ」「さすがライね」「ま、兄貴なら知ってて当然だよね!」
(当たって良かった)
内心ではホッとしているライであった。
「はいはーい! じゃあ次の問題ね!」
華麗に正解してもらうことで、まんまと流れを掴んだレイア。彼女は問題用紙を次へ送る。
テンションはいつの間にか戻っていた。
「よしっ、次は僕が正解するぞー!」
「俺もジッドには負けてられないな!」
「いい度胸だな、アーサー! なら早押し対決だぁ!」
男子は単純なので、始まった勝負には無条件で乗る。
これはいわば本能で、避けられない宿命なのだ。
彼らは前かがみになって、ありもしないボタンを素早く押すべく構えた。
「……2人とも、単純ね」
その血気盛んな様子に、呆れて溜め息を吐くリザ。
だが、そんな彼女だって、人のことは言えない。
「応援してくれよな、リザ!」
「う、うん! 頑張ってね、アーサー……!」
「おうっ」
ご覧の通り、同じくらい単純である。
「第2問! じゃじゃんっ」
妙な効果音を付けつつ、レイアは意気揚々と問題を読み上げる。
みんなが楽しそうにしてくれるので、彼女はニッコニコだった。
「『カラドリウスの身体の色は』」
そこまで読み上げられた時、ジッドが勢いよくテーブルを叩いた。
宿に備え付けられたテーブルは、丁寧に扱わなければならない。
「はいっ、ジッド!」
「白!!」
「ざんねーん! 問題はよく聞いてね!」
「えっっ」
不正解に唖然とする少年。
そんな彼を無視して、読み上げは再開される。
「いっくよー? 『カラドリウスの身体の色は白ですが、クチバシの色は何色でしょうか?』」
問題を聞き終えた彼は、後悔の念に駆られた。
これ黄以外の何物でもあり得ない。黄である。然り黄である黄である黄である。
そういえば、カラドリウスの体色については、すでに問題潰しの憂き目に遭っているのだ。そのまま出るはずがない。
「あ、兄貴のせいだ!!」
そう叫ばずにはいられない、無念のジッド。
その隣で、丁寧に扱うべき机を叩くアーサー。
彼は得意げに答えた。
「白だっ!」
――『白』じゃない。
言葉が放たれた瞬間に、それが不正解であることは、誰の耳にも明らかである。
ほんのちょっと、気まずい沈黙が舞い降りた。
「……ざ、ざんねーん! ……えっとね、アーサーくん」
「あー、違ったっけ!?」
「いや、『違ったっけ!?』じゃないよ!」
いっちょ前に残念がっている彼は、甚だ滑稽であった。
正解されると思い、ひたすら焦った自分がアホらしくて、ジッドはイラッとする。
ともあれ、回答権は他の人に移った。
フォローした方が良いのかと、気を利かせたリザが机を叩く。そっと優しく。
「あ、リザちゃん?」
「黄色」
「そう! せいかーい! さすがリザちゃん!」
彼女はそつなく正解しつつ、すかさずアーサーへ声を掛けた。
「確かに身体は白いもんね。アーサーの気持ち、私は分かるなぁ」
「え? あ、うん……そうだよなー。むしろ知ってたリザが凄いよ!」
「ううん、たまたま知ってただけよ? レイア、次の問題」
「あっ、おけおけ」
不正解は仕方ない感を出しつつ、そのまま違和感なくレイアへパス。
見事にアーサーのミスを誤魔化して、次の問題へと進んだ。
「はーい、じゃあ第3問! 『カラドリウスには親鳥を見つめる習性がありますが、それはなぜでしょう?』」
これはかなり難しい問題であり、生半可な知識では正解できない。
なぜなら、そもそもカラドリウスの習性など、普通は知らないからだ。
そんなのは今初めて聞いたレベルであり、その理由なんて考察する余地もなかった。
「レイア、本当に答え知ってるの? 私、初耳なんだけど」
「もっちろん! だって私、すごく勉強したからねっ」
「ずいぶん勉強したな……まるで鳥博士だ」
「私……鳥博士じゃないよ!」
ことカラドリウスの生態に関して、彼女は博士号を取れるかもしれない。
珍しくライに感心されて、なんだか照れてしまうパラディンの少女である。
首を傾げて「うーん」と考え込むメンバーだったが、答えはなかなか出てこない。
そのため、楽しそうにニヤけながら、レイアはヒントを出してあげた。
「えへへ、じゃあヒントね。さっきライが言ってたけど、カラドリウスは“未来と過去”を見ることができるんだ! でも、子どものうちは……」
と、そこまで言って、続きは伏せる。
ライは「ふぅん」と言って、眼を伏せて考え込む。
なにか思考の足掛かりを掴んだような、理知的な仕草であった。
そして、いよいよ彼はテーブルを叩いた。軽く小気味よく、タンッ! と。
顎に手を当て、満を持して回答する――と、思いきや。
「はい、速かったのはジッドだねっ! どうぞ!」
「なにっ……!?」
不覚にも、彼は弟に回答権を先取されてしまったのである。
遅れを取ったこと、痛恨の極み。
一方、早押しで兄に勝ったジッドは、眼を輝かせて興奮する。
今までの雪辱を晴らすため、万感の思いで答えを口にした。
「兄貴、僕の勝ちだ!!」
………………と、勝利宣言。
その後、続く言葉はなにも無い。
「……えっと、ざんねーん!」
「えっ、なんでだ!?」
「時間切れでーす。ライ!」
回答が遅いため、レイアの独断で不正解にした。
ジッドの抗議は受け入れられない。
安心しつつ、少し拍子抜けもしつつ、ライが代わりに答える。
「不安を落ち着けるため、だな」
「わぁ、やっぱりライって頭いいんだねー……! そういうこと、すぐに分かっちゃうんだ!」
「ぐぐぐ、また兄貴に負けた……」
まだまだ兄には勝てないジッドであった。
実際、彼は早押しで勝利したことに満足し、肝心の答えを言いそびれたのである。
ちなみに、用意した回答は間違っていたが。
――そんな感じで、クイズ大会は続いていく。
かくして、5人の平和な休日は、終始賑やかな様子であった。
「よーし、じゃあ次の問題ね!」
「次は答えるぞ!」
「次は間違えないぞ!」
「問題いくつあるのよ」
鳥博士を決める戦いは、まだ始まったばかりである。
それはそれとして、カラドリウスにかなり愛着を持っているレイアであった。
(マックスが預かってくれて、ホントに良かった!)
心の中で、マックス少年へ感謝する彼女。
その感謝は因果に絡みつき、マックス少年のくしゃみを引き起こしたという。
これぞ日常だよ