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日常系ファンタジー  作者: 青井渦巻
運命の章
153/171

鳥博士

みんなも鳥、ゲットじゃぞ~

 牛、否。豚、否。虎、否。


 否否否。千辺否。魔物使いのマックス少年は、魔物の鳥を飼った。


 その共同育成者であるところのレイアは、然り、魔物の鳥について深く知った。




 少女はたくさんの知識をつけたので、もう一人前の育成者……気取りである。


 気取り気取り、そろそろ誰かにひけらかして、この知識を自慢したい。




 ということで、自分の属するパーティのメンバーに、自然な流れを持ち掛けた。




「第1回・カラドリウスクイズ大会~!」




 唐突に持ち掛けられたクイズ大会に、強制参加させられたメンバーはビックリ仰天。


 4人はそれぞれ、難色を示した。




「俺たち、なにも聞かされてないんだけど……」


「なに急に」


「イエーイ! なんか分からないけど盛り上がろうぜ!」


「カラドリウスといえば、白い鳥の魔物か。その眼は未来と過去を見通すという――」


「あっ、ライ! 問題潰さないでよぉ!」




 苦笑するアーサー、訝し気なリザ、とりあえずはしゃぐジッドに、問題を潰すライ。


 1問だけ無くなってしまったが、レイアは気を取り直して、みんなの座るテーブルを叩いた。


 宿に備え付けられたテーブルは、丁寧に扱わなければならない。




「さぁ、皆さん! カラドリウスについてどれくらい知っているか、試させてもらいまーす!」


「知るわけないでしょ、そんなの」


「まーまーリザちゃん! やってみたら案外、あれこれ知ってるかもしれないよ?」


「分かってるでしょうけど、私は魔物使いじゃないわよ」




 皆を盛り上げようと、彼女は張り切って司会・進行を務めた。


 が、リザを始めとして、仲間たちの反応は芳しくない(ジッドだけノリノリであるが)。




「もー、ちょっとみんなー! 盛り上がってこーよっ☆」


「イエーイ! イエーイ!」




 リザはなんとも言えない表情で、楽しそうな2人を見ていた。


 まさに我関せず、眼前の催しにまったく興味がない者の顔。


 この世で最も冷徹な表情である。




 仕方がないので、レイアは開催を強行することにした。




「……じゃ、はい。第1もーん」




 平たいテンションを駆使し、日常に割り込んだ彼女。


 あらかじめ用意しておいた問題用紙を取り出し、淡々と読み上げる。




「えっとねぇ、『カラドリウスは何日間、餌を食べなくても平気でしょうか』?」


「さっきまでのテンションはなんだったんだ」


「お、ライ。さては余裕だね」




 彼女はツッコミを入れてきたライを指差し、回答権を与えた。


 パーティのリーダーとして、みっともないところは見せられない。


 ライは少しだけ考えてから答える。




「たしか、だいたい9日から10日くらいだっけ」


「せいかーい!! えっ、知ってたんだ!?」


「まあね」




 クールなリーダーは、正解しても喜ばない。「これくらい知っていて当然」と言わんばかりのスマシ顔である。


 それでもメンバー一同は、博識な彼へ尊敬の眼差しを向けた。




「おおー……さすがライ」「さすがライね」「ま、兄貴なら知ってて当然だよね!」


(当たって良かった)




 内心ではホッとしているライであった。




「はいはーい! じゃあ次の問題ね!」




 華麗に正解してもらうことで、まんまと流れを掴んだレイア。彼女は問題用紙を次へ送る。


 テンションはいつの間にか戻っていた。




「よしっ、次は僕が正解するぞー!」


「俺もジッドには負けてられないな!」


「いい度胸だな、アーサー! なら早押し対決だぁ!」




 男子は単純なので、始まった勝負には無条件で乗る。


 これはいわば本能で、避けられない宿命なのだ。


 彼らは前かがみになって、ありもしないボタンを素早く押すべく構えた。




「……2人とも、単純ね」




 その血気盛んな様子に、呆れて溜め息を吐くリザ。


 だが、そんな彼女だって、人のことは言えない。




「応援してくれよな、リザ!」


「う、うん! 頑張ってね、アーサー……!」


「おうっ」




 ご覧の通り、同じくらい単純である。




「第2問! じゃじゃんっ」




 妙な効果音を付けつつ、レイアは意気揚々と問題を読み上げる。


 みんなが楽しそうにしてくれるので、彼女はニッコニコだった。




「『カラドリウスの身体の色は』」




 そこまで読み上げられた時、ジッドが勢いよくテーブルを叩いた。


 宿に備え付けられたテーブルは、丁寧に扱わなければならない。




「はいっ、ジッド!」


「白!!」


「ざんねーん! 問題はよく聞いてね!」


「えっっ」




 不正解に唖然とする少年。


 そんな彼を無視して、読み上げは再開される。




「いっくよー? 『カラドリウスの身体の色は白ですが、クチバシの色は何色でしょうか?』」




 問題を聞き終えた彼は、後悔の念に駆られた。


 これ黄以外の何物でもあり得ない。黄である。然り黄である黄である黄である。


 そういえば、カラドリウスの体色については、すでに問題潰しの憂き目に遭っているのだ。そのまま出るはずがない。




「あ、兄貴のせいだ!!」




 そう叫ばずにはいられない、無念のジッド。


 その隣で、丁寧に扱うべき机を叩くアーサー。


 彼は得意げに答えた。




「白だっ!」




 ――『白』じゃない。


 言葉が放たれた瞬間に、それが不正解であることは、誰の耳にも明らかである。


 ほんのちょっと、気まずい沈黙が舞い降りた。




「……ざ、ざんねーん! ……えっとね、アーサーくん」


「あー、違ったっけ!?」


「いや、『違ったっけ!?』じゃないよ!」




 いっちょ前に残念がっている彼は、甚だ滑稽であった。


 正解されると思い、ひたすら焦った自分がアホらしくて、ジッドはイラッとする。


 ともあれ、回答権は他の人に移った。




 フォローした方が良いのかと、気を利かせたリザが机を叩く。そっと優しく。




「あ、リザちゃん?」


「黄色」


「そう! せいかーい! さすがリザちゃん!」




 彼女はそつなく正解しつつ、すかさずアーサーへ声を掛けた。




「確かに身体は白いもんね。アーサーの気持ち、私は分かるなぁ」


「え? あ、うん……そうだよなー。むしろ知ってたリザが凄いよ!」


「ううん、たまたま知ってただけよ? レイア、次の問題」


「あっ、おけおけ」




 不正解は仕方ない感を出しつつ、そのまま違和感なくレイアへパス。


 見事にアーサーのミスを誤魔化して、次の問題へと進んだ。




「はーい、じゃあ第3問! 『カラドリウスには親鳥を見つめる習性がありますが、それはなぜでしょう?』」




 これはかなり難しい問題であり、生半可な知識では正解できない。


 なぜなら、そもそもカラドリウスの習性など、普通は知らないからだ。


 そんなのは今初めて聞いたレベルであり、その理由なんて考察する余地もなかった。




「レイア、本当に答え知ってるの? 私、初耳なんだけど」


「もっちろん! だって私、すごく勉強したからねっ」


「ずいぶん勉強したな……まるで鳥博士だ」


「私……鳥博士じゃないよ!」




 ことカラドリウスの生態に関して、彼女は博士号を取れるかもしれない。


 珍しくライに感心されて、なんだか照れてしまうパラディンの少女である。




 首を傾げて「うーん」と考え込むメンバーだったが、答えはなかなか出てこない。


 そのため、楽しそうにニヤけながら、レイアはヒントを出してあげた。




「えへへ、じゃあヒントね。さっきライが言ってたけど、カラドリウスは“未来と過去”を見ることができるんだ! でも、子どものうちは……」




 と、そこまで言って、続きは伏せる。


 ライは「ふぅん」と言って、眼を伏せて考え込む。


 なにか思考の足掛かりを掴んだような、理知的な仕草であった。




 そして、いよいよ彼はテーブルを叩いた。軽く小気味よく、タンッ! と。


 顎に手を当て、満を持して回答する――と、思いきや。




「はい、速かったのはジッドだねっ! どうぞ!」


「なにっ……!?」




 不覚にも、彼は弟に回答権を先取されてしまったのである。


 遅れを取ったこと、痛恨の極み。




 一方、早押しで兄に勝ったジッドは、眼を輝かせて興奮する。


 今までの雪辱を晴らすため、万感の思いで答えを口にした。




「兄貴、僕の勝ちだ!!」




 ………………と、勝利宣言。


 その後、続く言葉はなにも無い。




「……えっと、ざんねーん!」


「えっ、なんでだ!?」


「時間切れでーす。ライ!」




 回答が遅いため、レイアの独断で不正解にした。


 ジッドの抗議は受け入れられない。


 安心しつつ、少し拍子抜けもしつつ、ライが代わりに答える。




「不安を落ち着けるため、だな」


「わぁ、やっぱりライって頭いいんだねー……! そういうこと、すぐに分かっちゃうんだ!」


「ぐぐぐ、また兄貴に負けた……」




 まだまだ兄には勝てないジッドであった。


 実際、彼は早押しで勝利したことに満足し、肝心の答えを言いそびれたのである。


 ちなみに、用意した回答は間違っていたが。




 ――そんな感じで、クイズ大会は続いていく。


 かくして、5人の平和な休日は、終始賑やかな様子であった。




「よーし、じゃあ次の問題ね!」


「次は答えるぞ!」


「次は間違えないぞ!」


「問題いくつあるのよ」




 鳥博士を決める戦いは、まだ始まったばかりである。


 それはそれとして、カラドリウスにかなり愛着を持っているレイアであった。




(マックスが預かってくれて、ホントに良かった!)




 心の中で、マックス少年へ感謝する彼女。


 その感謝は因果に絡みつき、マックス少年のくしゃみを引き起こしたという。

これぞ日常だよ

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