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日常系ファンタジー  作者: 青井渦巻
運命の章
152/171

その2があるタイプの話。

 人と魔物の関係は、ほとんどは対立している。


 しかし稀に、人の中にも魔物を愛する者がいる。


 魔物使いのマックス少年は、そんな人間の1人――




「いや、魔物は敵だろ」




 というわけでもなかった。


 魔物使いだからといって、魔物に対する価値観が一般人と違うとは限らない。


 それどころか、彼は普通に魔物を殺せる。冒険者であるため。




 けれど、腐っても魔物使いだ。いや、勝手に腐らせるのはお門違いだ。


 他のクラスを取った冒険者に比べて、彼の有する魔物の知識は豊富である。


 魔物の生態はもちろんのこと、棲息するダンジョンや身体的特徴など、様々なことを知っていた。




 そういう彼を見込んで、ひょっこり頼みごとをしてきたのが、あるパラディンの少女。


 名をレイアという。元気で優しい、街の人に愛される娘だ。


 マックスとその姉が住む一軒家を訪問した少女は、声を張ってこう言う。




「そんなこと言わずに、お願いっ! 私、マックスしか頼める友達がいないの!」




 頻りに頭を下げて懇願する彼女は、マックスに両手を差し出し、手のひらに乗るものを見せつけた。


 彼女が持っているのは、白い身体をした小鳥――“カラドリウス”という魔物の赤ちゃんだ。


 話によると、親とはぐれていたそうだ。ついつい哀れに思い、ダンジョンから拾ってきてしまったらしい。




 そんな事情で急に連れてこられても、マックスとしては迷惑でしかなかった。


 魔物を育てるのには、育成方法くらい下調べしておくのが常識だ。


 そうしないで向き合うのは、いくら相手が魔物と言えども、1つの命に対してあまりにも不誠実。


 育てるからには責任を持つべきで、そう易々と受け入れることはできなかった。




「ごめん、悪いけど……その子は野生に帰してやるのが一番――」


「で、でもね、この子はホントにかわいそうなんだよ。だって、お父さんもお母さんもがいないまま、ダンジョンの中で鳴いてたんだよ? どのくらい寂しかったか……私には想像もつかないけど、見て見ぬフリなんてできなかった! ねぇ、お願いだよ~……魔物に詳しいマックスなら、この子のお世話だってできるでしょお? わ、私も手伝うから、もちろん! どれくらい役に立つか分かんないけど、マックスの助けになれるように頑張る! えへへ、なんだってするよ! うん!」


「レイア……」




 野生に帰してやるのが、一番良い選択であること。


 それを承諾するには、レイアは些か優しすぎた。そして、同じくらい無知で暢気だった。だが、その倍は健気だった。


 少女が必死で伝えてくる、眩しいほどの善意と熱意。それを受けて、マックスは非常に困った。




 難しい顔で、しばし考え込む。


 すると、そこで1つ、打算を閃いた。




(レイアが手伝うってことは、コイツの世話をしてるだけで、2人で会う口実とか作り放題なんじゃね……?)




 そう気付いた瞬間に、彼はニヤける。


 そして、きょとんとするパラディンの少女に、魔物の価値と自分の勝ちを確信した。


 彼はすぐに手のひらを返して、魔物を預かることに決めた。




「まっかせなさい。俺が責任を持って世話してやる」


「ほ、ホント!? ありがとぉ~、マックス~……!」


「その代わり! これからは毎朝、俺の家へ来るようになっ」




 快く首肯を示し、「うんっ!」と嬉しそうに笑うレイア。


 そんな少女を見て、少年はさらにだらしなく、口の端を持ち上げた。


 かくして、不誠実な魔物使いの少年は、幸運にも好きな人との時間を確保した。


 ~~~~~~~~~~


 そして、魔物を預かった翌日。




「マックス~! おっはよ~!」




 マックスの家へ、またも元気にやって来たレイア。


 起き抜けに彼女の声を聞いて、性懲りもなくニヤニヤするマックス少年である。




 さて、魔物の様子は特に変わりない。


 昨日と同じように、時折『ピー、ピー』と鳴いては、小首を傾げるだけだ。


 それは小鳥の仕草とまったく同一であった。




 赤子の入ったカゴの中を、少女が覗き込む。


 中から響く愛らしい鳴き声を聞いて、我慢できずに微笑んだ。




「か、かわいいぃ~……! リザちゃんにも見せてあげたいよぉ~」


「かわいい……」




 言葉の上では追従したマックスだが、真の追従ではない。


 彼の視線はレイアの方へ向いていて、それで発言したのだから。


 小動物にメロメロな横顔にも愛嬌が備わっていて、彼の心を離してくれないのである。




 彼は初めて、魔物になりたいと思った。あざとい魔物へ嫉妬した。


 その後で、ちょっと虚しくなった。




(俺の恋敵、コイツかよ……)




 肩を落とし、落胆。


 そんな少年の気持ちも知らずに、レイアは無邪気に笑う。




「えへへ、やっぱりマックスに頼んで良かった! ワガママ聞いてくれてありがとねっ!」


「え!? お、おうよ……!! ったく、しょうがないヤツだぜ、レイアは。でも、困ったら俺のとこに来な……!」


「あはは! そんなこと言ったら、エンリョなく頼りにしちゃうよ~」




 マックスを友達としか見ていない彼女は、冗談っぽく掛け合うのみである。


 それでも、こうしてふざけるだけの時間は、少年の気持ちを弾ませた。




「ピー」


「あ」




 そういう束の間を邪魔して、魔物が鳴く。


 もちろん、レイアの眼はスッと魔物の方へ移った。


 それは当然だが、また落胆してしまうマックス。




 再びカゴを覗き込んで、レイアは首を傾げる。




「お腹が空いてるみたいだね」




 物欲しそうに鳴く鳥を見て、彼女はそう考えたらしい。


 マックスは首を振った。




「あー、違うよ。カラドリウス”ってのは、10日くらい餌をやらなくても全然平気なんだ」


「そ、そうなの? じゃあなんで……」


「多分だけど……」




 そこまで言って、彼はじっと小鳥を見つめる。


 小鳥の方も、彼を見つめ返す。


 しばらくすると、再び「ピー」と鳴くのであった。




 殊更に首を傾げて、レイアは問う。




「なにをしてるの?」


「カラドリウスはさ。親鳥に見つめてもらえないと、すごく不安になるんだって」




 ――カラドリウスという魔物は、万物の過去と未来を見通すことができる。


 だが、幼児期はその能力が不安定であるため、たびたび視界がぼやけてしまうのだ。


 なので、親鳥に見つめてもらうことで安心しようとする。




「コイツが鳴くのは、親鳥に見つめてもらうための合図なんだよ」


「そうなんだぁ……さすがマックスだねっ」


「いやぁ、当然だって。当然。俺は魔物使いだから」


「そういう姿勢もさすがだよー!」




 カラドリウスの習性については、昨日の間に必死で頭に入れた。


 すべては、こうしてレイアにイイところを見せるために。


 魔物図鑑と対峙し続けた努力が、しっかり報われたのだ。




 彼はレイアに背中を見せ、バレないようにガッツポーズをした。




「マックス?」




 すると、急に後ろを向いたのを気にして、レイアが顔を覗き込んでくる。


 彼女の顔は、おもむろに少年へ急接近した。




「うぇッ!?」




 少年は顔を真っ赤にして、すかさず後方へ飛び退く。




「ど、どしたの? 大丈夫?」


「わわっ、な、なんでもねーって……!」


「えー? なにか隠してるのかなぁ」




 鈍いレイアは全然気付かず、イジワルな笑みを浮かべて、また近寄って来た。


 隠し事を暴いてしまおうと、かなり乗り気である。




 照れているのを咄嗟に隠そうとして、マックスはカラドリウスのカゴを隔てた。


 カゴの向こうに隠れた彼へ、レイアは楽しそうに笑った。




「隠しごとは良くないよぉ、マックス?」


「なんも隠してないっつの!」


「まーてぇ~!」




 そうして、2人はカゴをグルグル回って、追いかけっこする。


 その様子は平和で、友人同士の楽しいじゃれ合いであった。




 交互に眼に映る親代わりの2人を、カラドリウスはじっと見ていた。


 何度もパチパチ瞬きして、ふやけた未来で曖昧な視界を、ただ眺めていた。

その2で終わるタイプの話。

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