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日常系ファンタジー  作者: 青井渦巻
運命の章
149/171

タヒ。

 衝撃に紛れたファニーは、先ほどまでとは別の場所に立っっていた。


 そこには花が咲き乱れていた。


 花園の向こうには、大樹が一本あった。




「……ここ、どこ?」




 彼女は花園を歩いた。


 風が吹いていた。それは肌を通り抜けていった。


 空は青かった。雲は無かった。




「テリちゃん? ベリー?」




 彼女は立ち止まって、仲間の名前を呼んだ。


 返事はなかった。


 彼女はまた歩き出した。




 どこかで誰かの笑い声がした。


 天空から光の粒が舞い降りてきた。


 それらは地上に接すると消えた。




 風が吹いていた。


 彼女は後ろを振り返った。


 花園が広がっていた。


 彼女は前へ向き直った。


 花園が広がっていた。




「……ここ……てんごく?」




 彼女は空を見上げて、眉を顰めた。


 空は青かった。雲は無かった。




 彼女は大樹を目指した。


 仲間は見つからなかった。


 周りを見渡すと、花がたくさん咲いていた。




 大樹の根元に立つと、彼女は幹に触れた。


 幹は茶色く、堅かった。




「なにもなくないっ?」




 彼女は辺りを見回した。


 仲間の姿は無かった。


 彼女は大樹に生い茂る葉へ視線を移した。


 葉の隙間から木の実が降った。




「ほえ!? ――いてっ!」




 彼女は木の実を顔にぶつけ、鼻を手で押さえた。


 彼女は地に落ちた木の実を手に持って、それを咀嚼そしゃくした。


 彼女は大樹を離れた。




「おいし。けど、みんないないじゃん?」




 そのまま、しばらく歩いた。


 風が花を揺らした。


 少女の背後で大樹が揺れた。




 彼女は空を見た。


 雲は無かった。太陽が輝いていた。


 彼女は眼を細めて、逸らして、瞬きをした。




 やがて、花の上に寝転がる少女を、彼女は見つけた。


 少女は彼女と同じ姿をしていた。


 少女の他に、も1人の少女がいた。


 2人の少女は上下に頭を並べて、対称に寝転がっていた。


 2人は血溜まりの上で、眼を閉じて眠っていた。




「……テリ、ちゃん? と……ファニー……?」




 彼女は眼を見開いた。


 寝転ぶ少女たちは、眼を開けなかった。


 血溜まりは風に吹かれて、血を被った花も揺れた。




 彼女の視界に、もう1人の仲間――ベリーの姿は見当たらなかった。


 彼女は2人の少女から離れた。


 彼女は真っ直ぐ前を見て歩いた。




 そのまま、しばらく歩いた。




(なに、ここ……? ぜんぜん……ワケわかんないよ……! おかしいよ……!)




 前を見つめて歩いた。


 視線を逸らさないで歩いた。




(ファニーが、あんなんなって……! テリちゃんも、あんなんなって……!! じゃあ、ベリーは……!?)




 しばらくして、彼女は立ち止まった。


 彼女の前には、ベリーが立っていた。


 ベリーは小さく笑った。




「良かった……ベリー!」




 ファニーは微笑んだ。




「――」


「……え?」


「――」




 ベリーは口を動かしたが、声を発しなかった。


 ファニーは聞き返した。


 ベリーはまた口を動かしたが、声を発しなかった。




 ベリーはずっと、そうしていた。


 ファニーはダンスを踊った。


 ベリーの反応は無かった。




「どうよ、このダンスっ!」


「――」


「……なんで……? なんできこえないの?」




 すると、ベリーは小さなナイフを差し出した。 


 ファニーはそれを受け取った。




「な、なにこれ?」




 彼女の質問に答えずに、ベリーは霧散した。




「え!?」




 ファニーは驚愕した。


 その後、手に持ったナイフを眺めた。




「なにするの、これで」




 彼女はナイフを持ったまま、また歩き出した。




 太陽が輝いていた。ナイフが煌めいた。


 花が咲いていた。


 風が吹いた。花が揺れた。


 風は頬を通り抜けていった。




 太陽が輝いていた。ナイフが煌めいた。


 花が咲いていた。


 風が吹いた。花が揺れた。


 風は頬を通り抜けていった。




 太陽が輝いていた。ナイフが煌めいた。


 花が咲いていた。


 風が吹いた。花が揺れた。


 風は頬を通り抜けていった。




 太陽が煌めいた。


 花が輝いていた。


 風の光で太陽が揺れた。


 上空から光の粒が舞い落ちた。


 空は青かった。雲は無かった。


 花は萎れた。


 太陽がくすんでいった。


 雲が増えた。


 ナイフが煌めいた。


 花が消えた。


 太陽が変色した。


 光の粒が逆流した。


 光の粒は束になった。


 雲が落ちた。




 ファニーの背後で、大樹が折れた。




「おれたよっ、きがっ!」




 風が光を舞い上げた。


 雲と光は融合した。


 空は薄緑に変わった。


 太陽が欠けた。


 血の雨が降った。


 雨は光に照らされた。


 太陽は腐っていった。


 光る雲は空を喰った。




 太陽が腐乱して、残骸が錯落した。


 天空が混濁して、雲粒が明滅した。




「なにがおこってますか」




 ファニーは空に問いかけた。


 答えは無かった。




「……」




 彼女は立ち止まった。




(ファニー、さっきしんでたし。テリちゃんも、たぶん……そうだ。だから、えーと)




 彼女は自分の喉元に、ナイフの先を押し付けた。




(ずっとかえれなくなるよりは、いいよねっ!)




 彼女は震える手で、自らの喉元を突いた。


~~~~~~~~~~


 ファニーが眼を覚ますと、テリの寝顔が眼前にある。


 お互いの吐息が頬にかかるほど、2人の顔は接近していた。




「……テリちゃんだ」




 呆然と呟いたファニーは、まだ現実感を取り戻していない。


 ナイフで喉を突いたものの、痛みは感じなかったからだ。


 さっきまでのことは、まるっきり夢のように思えた。




 ふと気付けば、ダンジョンの外。


 周りには緑の木々が、彼女を閉じ込めるように並ぶ。




「……スー……」


「あ」




 テリの寝息を聞くと、彼女は確かな安心を得た。


 今、自分は生きているのだと、そう実感できた。




 テリの繊細な髪を、彼女はそっと指の間に通す。


 そうして、伝わってくるくすぐったさを感じてみた。




「いきててよかった……ごめんね、テリちゃん」




 彼女は安堵の表情を浮かべながら、眠る少女へこてりと頭を下げるのだった。

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