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日常系ファンタジー  作者: 青井渦巻
運命の章
147/171

モーンガータ

モーンガータを歩こうとして溺れた人もいるそうですよ。

「……あれ?」




 魔法陣を完成させ、いざ魔力を通してみても、なにも起こらない。


 なにか間違っているのかと、訝し気に陣を見直すファニー。




「あれー?」




 しかし、繰り返し見直してみても、特におかしな点はない。


 スクロールを振ってみても、投げ捨ててみても、それは変わらなかった。


 なおも陣との睨めっこを続けつつ、少女は唸る。




「うーっ、なんでハツドーしないって?」


「しないって? しないの?」


「そ、しないって! テリちゃんもためしてみて!」




 ファニーからスクロールを受け取って、テリも言われた通りに魔力を流す。


 同じように、陣は「うん」とも「すん」とも言わない。




「しない」


「わたしもやるー」


「はい」




 今度はテリがベリーに受け渡す。


 受け取った少女は、力みつつ魔力を流してみた。




「うーー」


「ファイッ! ベリー、ファイッ!」


「たたかうみたい」




 応援を受けて、なおのこと必死に魔力を流した。


 だというのに、報われない。結果的には徒労に終わる。


 魔法陣は発動せず、時間をかけて注ぎ込んだファニーの情熱は、不発に終わった。




「こんなのゆるされないよね!? えっ!?」


「なにが『えっ』なの」


「ビックリしちゃうよー」


「ズケーたりない!? サイズがちがう!? それともシキ!? ちがうっ、ぜんぶダイジョーブじゃん!! じゃあなんなんなん!!」




 憤慨する少女は、魔法陣を振り回した。


 さながらワルツのように、彼女はスクロールと踊る。


 月に照らされる彼女は、自然のスポットライトを一身に受けて――周りが白いため、淡い月の光はあまり目立たない。




「サンプル!!」


「サンプル?」


「そ、そ、サンプル!! サンプル!!」


「サンプルー! えっとねー、なにか分かんないけどー、サンプルー!」


「サンプル……」




 誤謬ごびゅうの診断を行うため、天才少女は魔法陣のサンプルを求めた。


 が、この場にサンプルは無いのである。


 ゆえに、自分でサンプルを作成する他に、手軽な方法は見当つかなかった。




 ファニーは新たなまっしろスクロールを携え、描き慣れている陣を作成し始めた。


 父親の厳しい英才教育によって、毎日3回以上は描かされている陣である。速描クイック・ドローンの練習のために。


 ものの数分で作成を終えると、バッと前方に広げて、すぐに発動させた。




 陣は発光し、その効果を発揮した。


 すると、大量の水があふれ出して、棺の並ぶ白い廊下を濡らす。


 小さな洪水は、かなり遠い場所まで到達して、月の光を反射した。




「ハツドーするじゃん! なにがダメなの?」




 試してみると、やはり普通の魔法なら発動するらしい。


 ちなみに、この魔法は“水の絨毯”という名前の初級魔法である。


 簡単であるが、少しばかり威力を増幅をして使用すると、それなりに強い技だ。


 まさに、速描という技術に特化した魔法である。




「マナ・シグナルがよわいのかな……それとも、そーさがふあんていなの?」


「アハハ! なに言ってるか分かんないよー」


「マナ・シグナル。シグナルってなに……?」




 隣から茶々を入れてくる2人をムシして、ファニーは熟考を続けた。


 様々な図形の構造を見直してみるものの、不備があるようにも見えない。原因は謎のままであった。


 途方に暮れた彼女は、眉根を寄せながら月を見上げる。




「どういうことなの、おつきさま」




 いきなり月に話しかけて、気を紛らわす。


 そうして、疲れた頭をリラックスさせるべく、周りを見渡してみた。




「……」




 眼に映るのは、月の光を反射して輝く水の絨毯。


 そして、その脇に行儀よく並んだ棺たち。


 気付けば、廊下には光の道が現れていて、高貴な人々が歩く華美な絨毯のようだった。




「……ん? あれ?」




 ふと、少女は気付いた。


 これってもしかして、魔法陣の図形に嵌め込むことができるのでは……と。




 急いで魔法陣に眼を向けると、頭の中で再構築した構造は、しっかり落とし込めそうである。


 つまり、月から続く一本線に則って、陣の内部を2つに分ければ――それによって、マナ・シグナルの問題と操作の問題を、同時にクリアできるのではないか。


 ……可能性は十分にある。




「――よしっ!」




 考えがまとまった瞬間、彼女は急いで新しい陣の製作に取り掛かった。


 その瞳には、今までよりも大きな熱意が、燦然と輝いている。


 もはや彼女にとって、陣の再構築に向き合うこと以外には、何事も興味が湧かない。




「なにが『よし』なの」


「んー、なんだろうー」




 置いてけぼりの2人は、彼女の燃え滾る情熱に圧倒されながら、ただ完成を見守った。


 その間、なにもすることがないため、しりとりを開始した。




「しりとりの『り』からね」


「ちがうよー、しりとりはじめの『め』からだよー」


「なにそれ。おかしい」


「えー、そうかなー?」




 否、最初から意見が相違したため、始めることができないでいた。


~~~~~~~~~~


 かくして、魔法陣は描きあがる。




「できたー!」




 元気な声と共に、少女はペンを放り出す。


 ベリーはそれをキャッチして、先を口に当てながら言った。




「見せてー」


「ほらよっ! てやんでー!」


「わー!」




 ファニーが颯爽と見せてくれた魔法陣は、少女の予想を僅かに超えて緻密だ。


 が、前とそこまで大差はないように思えたので、あまり感動しなかった。




「すごいねー」




 結果、反応はふやけた賛辞に止まる。




 ファニーは早速、魔法陣を使用するために魔力を流し込んだ。


 すると、今度はちゃんと発光したのだ。




「やった!」


「「おおー」」




 嬉しい結果を見て、少女たちは喜ぶ。


 それに応えるように、魔法陣はさらに光を強くして、真ん中から捻れる。


 そして最後には、スクロールごと破けた。




「……」




 破けたそれを、両手からブラ下げるファニー。


 魔法陣が自壊する様がコッケイ過ぎたので、言葉を失った。


 効果を発揮した結果、こうなったことは理解している。




「あっけな!」




 呆気なさ過ぎる完成品の最期に、彼女は思わずそう言った。


 そして、こんな効果を発揮する場面がどこにあるのか考えてみる。


 魔法陣が自分から破ける効果なんて、なにも生み出さないような……




 と、しばしの逡巡を挟んでから、また閃いた。


 そして、くるりと身体を反転させて、後ろで見ていた仲間たちに呼びかける。




「このダンジョン、われるよ!!」


「え?」


「どゆことー?」


「てつだって!」




 ――つまり、彼女はこう言いたいのだ。


 今作った魔法陣と同じ効果が、このダンジョンを魔法陣化することで得られるのだと。


 だから、まず円を描く必要があるので、手伝ってくれ! と。




 広大なダンジョンを円で囲もうと、少女らは苦心することとなった。


 すべてはダンジョンを割るために。


 3人の新米冒険者は錯綜する。

前書きのエピソードはデタラメです。

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