デート
ドキドキ。
冒険者パーティ『ネームフラワー』所属、魔導師の少女・リザ。
彼女には、好きな相手がいる。
同じく『ネームフラワー』所属、戦士の少年・アーサーだ。
長いこと進展もなく、リザの想いだけが一方通行だった両者の関係。
しかし最近、リザの友人で同パーティのパラディン・レイアのサポートにより、めでたく告白に成功した。
さらに、聖女の日という一大イベントも無事にこなし、2人のラブストーリーは始まり出していた。
持ち前のアクティブさとガムシャラ☆アタックにより、リザはまさにネクストステージへ立とうとしている。
その過渡期にあたるのが、今回の一幕なのだ。
「ア、アーサー……いい?」
「えっ? リザ!」
ダンジョン攻略が済んだ後の、静かな宿での一時。
アーサーの部屋の扉を静かに叩いたのは、控えめな声を発するリザだった。
入室してもいいか、慎ましい様子で確認する彼女。それと対照的に、少し慌てながら返事をするアーサー。
「お、驚いてごめん……エンリョしなくていいよ」
「うん。ありがと」
「お、おうっ」
「ふふっ……」
戦士の少年が照れ笑いすると、魔導師の少女も照れ笑いする。
窓のそばに備えられた椅子へ、少女はゆっくり座った。
そして、なにも言わないままアーサーを見つめる。
そのまま時間が経っていく。
「……お、俺の顔、変かな……?」
一途な眼差しを堪えきれずに、アーサーが言った。
声をかけられたリザも、自分が彼を見つめ過ぎたことに気付く。
「ご、ごめんなさい! そんなつもりじゃなくてっ」
顔を赤らめて、咄嗟に別の方向へ顔を向けることで、彼から視線を外す。
すると今度は、どうやって顔を戻せばいいのか分からなくなった。
いつまでも何もない場所へ目線を向けていたら、それはそれで変である。
かといって、目線を戻したら、また彼の顔を見てしまうだろう。かなり恥ずかしい。
心の中での葛藤により、リザは動けずにいた。
すると、それを見たアーサーが小さく微笑む。
頬を紅潮させる彼女が、とても可愛らしく思えて――
以下、割愛である。
こんなやり取りの詳細を細かく伝えていては、いつまでも話が終わらない。
長くなる前に打ち切らせてもらう。
要するに、明日が休日であることを前提にして、
『あっ! 遊びに、いかない!?』
と、リザがアーサーを誘ったのだ。
この一言が出るまでに、『あのね……そのね……』みたいなモタモタがあったことは、想像するまでもないだろう。
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返事は当然、『もっ! もちろん!!』である。
かくして2人は、晴れやかに賑わう街へ出かけた。
『遊びに行こう』なんて言っても、その実態はデートであった。
「……その、晴れて良かったね」
「そ、そうだなぁ」
「あの、雨だったら遊べないもんね」
「そうだな。今日は……いい天気だ」
「うん」
クソみたいな会話を続ける2人は、緊張するばかりであった。
なにを話せばいいか、分かっているような気もするが、やっぱり分からないような気もする。
相手が興味ない話題は、そう簡単には口にできない。できれば盛り上がりたい。
でも、ドキドキしてるせいで、そんなこと考えてられないのだ。
とりあえず、誘った側であるリザにはミッションがあった。
これを達成するとレイアに約束してきたのだ。
『手を繋いで歩くわ。約束する』
『ひゅうー、いいぞー! やっちゃえー、リザちゃん! ゼッタイできるよー!』
友人におだてられつつ、勇気を振り絞って臨む当日。
――デートはまだ始まったばかり。全然平気、まだまだチャンスはある。
とりあえず、いきなり手を握ったら変に思われるから、もうちょっと待つ。
「なぁ、リザ」
「ひゃいっ」
とか考えてたら、急にアーサーに話しかけられた。
上ずった声で返事をしてしまうリザ。
とはいえ、彼女の緊張を和やかにイジる余裕など、アーサー少年にもない。
彼は彼で、リザにつまらないと思われないよう、色々と考えていた。
「サーカスとか……見ないか?」
「えぇっ、サーカス!? ちょ、ちょっと待って!」
「え?」
サーカス小屋に一抹の希望を見出した彼だが、リザは快諾を示さない。
もしかして、サーカスはミスか!? と、不安になる。
ところがどっこい、ミスしていたのはリザの方だ。
彼女、このデートを成功させるために、入念なプランを組んできたのである。
それによると、サーカス小屋に入るのは――最後から2番目のプログラム。
道を間違えていた。
(うそうそうそうそうそうそうそうそ)
嘘ではない。現実である。
いくら念じてみたところで、このミスは帳消しにできない。
別のプランを講じる必要性がありまくりだが、彼女の思考はムダな言葉で埋まる。
(終わった……もうダメ……アーサーに嫌われる……)
いつもは賢く、ダンジョン内での戦闘では臨機応変な対応も得意な彼女。
それなのに、こと恋愛になると、そういう長所が欠片も見当たらなくなる。
はっきり言うと、この少女に恋愛は向いてないのだった。
『ちょっと待って』と言われたきり、ずっと待たされているアーサー。
内心では絶望しているリザの背中を見ながら、彼は少し考えた。
そして、勇ましく眉を引き締めると、少女の肩に優しく触れた。
「リザ!」
「ひゃっ!?」
「や、やっぱり俺さ……! マギカ・ショップとか行きたいな!」
そう言うと、彼は爽やかに笑う。
マギカ・ショップとは、魔道具やスクロールなどを専門に扱う、魔法に特化した店である。
魔導師であるリザが、興味がないワケがない。
そう考えて、サーカスに行きたくなさそうなリザに、思い切って伝えてみた。
すると、どうだろう――少女の顔色はたちまち良くなって、潤んだ瞳は輝いているではないか。
「――うんっっっ!! マギカに行きましょうっっっ!!」
「おっ!? お、おう……?!」
頗る嬉しそうに笑う彼女を見て、アーサーは思った。
(良かった……リザの好きなもの、ちゃんと理解できてた!)
自らのファインプレーに、思わずガッツポーズである。
同じパーティの仲間として、少年にもプライドがあったのだ。
だが、リザは別にマギカに行きたかったのではない。
内心では――
(良かったぁぁぁぁぁ、アーサーの行きたい場所が一番最初のプログラムでぇぇぇぇぇ)
奇跡の救済に、めちゃくちゃ安心していた。
初っ端から破綻したかに思われたデートプランが、思わぬ復活を遂げたのだ。
ただただ、彼女は感謝した。
サーカスよりマギカを選んだアーサーに。
そして、マギカ・ショップという場所を作ってくれた神に。
こうして2人は、無事にデートを続行するのであった。
果たしてリザは、アーサーと手を繋ぐことが出来るのであろうか。
生暖かい眼差しで、どうか見守ってあげてほしい。
――で、そういう初々しいカップルの会話を、3人の少女が聞いていた。
「マギカにいったら、まっしろスクロールあるよねっ!」
「ベリーもねー、そうおもうー」
「いってみる」
ファニーとベリーとテリ。まっしろスクロール探し中の3人娘。
彼女らもマギカ・ショップに向かうのであった。
3回目あたりからダレがち。