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日常系ファンタジー  作者: 青井渦巻
運命の章
145/171

デート

ドキドキ。

 冒険者パーティ『ネームフラワー』所属、魔導師の少女・リザ。


 彼女には、好きな相手がいる。


 同じく『ネームフラワー』所属、戦士の少年・アーサーだ。




 長いこと進展もなく、リザの想いだけが一方通行だった両者の関係。


 しかし最近、リザの友人で同パーティのパラディン・レイアのサポートにより、めでたく告白に成功した。


 さらに、聖女の日という一大イベントも無事にこなし、2人のラブストーリーは始まり出していた。




 持ち前のアクティブさとガムシャラ☆アタックにより、リザはまさにネクストステージへ立とうとしている。


 その過渡期にあたるのが、今回の一幕なのだ。




「ア、アーサー……いい?」


「えっ? リザ!」




 ダンジョン攻略が済んだ後の、静かな宿での一時。


 アーサーの部屋の扉を静かに叩いたのは、控えめな声を発するリザだった。


 入室してもいいか、慎ましい様子で確認する彼女。それと対照的に、少し慌てながら返事をするアーサー。




「お、驚いてごめん……エンリョしなくていいよ」


「うん。ありがと」


「お、おうっ」


「ふふっ……」




 戦士の少年が照れ笑いすると、魔導師の少女も照れ笑いする。


 窓のそばに備えられた椅子へ、少女はゆっくり座った。


 そして、なにも言わないままアーサーを見つめる。




 そのまま時間が経っていく。




「……お、俺の顔、変かな……?」




 一途な眼差しを堪えきれずに、アーサーが言った。


 声をかけられたリザも、自分が彼を見つめ過ぎたことに気付く。




「ご、ごめんなさい! そんなつもりじゃなくてっ」




 顔を赤らめて、咄嗟に別の方向へ顔を向けることで、彼から視線を外す。




 すると今度は、どうやって顔を戻せばいいのか分からなくなった。


 いつまでも何もない場所へ目線を向けていたら、それはそれで変である。


 かといって、目線を戻したら、また彼の顔を見てしまうだろう。かなり恥ずかしい。




 心の中での葛藤により、リザは動けずにいた。


 すると、それを見たアーサーが小さく微笑む。


 頬を紅潮させる彼女が、とても可愛らしく思えて――




 以下、割愛である。


 こんなやり取りの詳細を細かく伝えていては、いつまでも話が終わらない。


 長くなる前に打ち切らせてもらう。




 要するに、明日が休日であることを前提にして、




『あっ! 遊びに、いかない!?』




 と、リザがアーサーを誘ったのだ。


 この一言が出るまでに、『あのね……そのね……』みたいなモタモタがあったことは、想像するまでもないだろう。


~~~~~~~~~~


 返事は当然、『もっ! もちろん!!』である。


 かくして2人は、晴れやかに賑わう街へ出かけた。


 『遊びに行こう』なんて言っても、その実態はデートであった。




「……その、晴れて良かったね」


「そ、そうだなぁ」


「あの、雨だったら遊べないもんね」


「そうだな。今日は……いい天気だ」


「うん」




 クソみたいな会話を続ける2人は、緊張するばかりであった。


 なにを話せばいいか、分かっているような気もするが、やっぱり分からないような気もする。


 相手が興味ない話題は、そう簡単には口にできない。できれば盛り上がりたい。


 でも、ドキドキしてるせいで、そんなこと考えてられないのだ。




 とりあえず、誘った側であるリザにはミッションがあった。


 これを達成するとレイアに約束してきたのだ。




『手を繋いで歩くわ。約束する』


『ひゅうー、いいぞー! やっちゃえー、リザちゃん! ゼッタイできるよー!』




 友人におだてられつつ、勇気を振り絞って臨む当日。


 ――デートはまだ始まったばかり。全然平気、まだまだチャンスはある。


 とりあえず、いきなり手を握ったら変に思われるから、もうちょっと待つ。




「なぁ、リザ」


「ひゃいっ」




 とか考えてたら、急にアーサーに話しかけられた。


 上ずった声で返事をしてしまうリザ。


 とはいえ、彼女の緊張を和やかにイジる余裕など、アーサー少年にもない。


 彼は彼で、リザにつまらないと思われないよう、色々と考えていた。




「サーカスとか……見ないか?」


「えぇっ、サーカス!? ちょ、ちょっと待って!」


「え?」




 サーカス小屋に一抹の希望を見出した彼だが、リザは快諾を示さない。


 もしかして、サーカスはミスか!? と、不安になる。




 ところがどっこい、ミスしていたのはリザの方だ。


 彼女、このデートを成功させるために、入念なプランを組んできたのである。


 それによると、サーカス小屋に入るのは――最後から2番目のプログラム。




 道を間違えていた。




(うそうそうそうそうそうそうそうそ)




 嘘ではない。現実である。


 いくら念じてみたところで、このミスは帳消しにできない。


 別のプランを講じる必要性がありまくりだが、彼女の思考はムダな言葉で埋まる。




(終わった……もうダメ……アーサーに嫌われる……)




 いつもは賢く、ダンジョン内での戦闘では臨機応変な対応も得意な彼女。


 それなのに、こと恋愛になると、そういう長所が欠片も見当たらなくなる。


 はっきり言うと、この少女に恋愛は向いてないのだった。




 『ちょっと待って』と言われたきり、ずっと待たされているアーサー。


 内心では絶望しているリザの背中を見ながら、彼は少し考えた。


 そして、勇ましく眉を引き締めると、少女の肩に優しく触れた。




「リザ!」


「ひゃっ!?」


「や、やっぱり俺さ……! マギカ・ショップとか行きたいな!」




 そう言うと、彼は爽やかに笑う。


 マギカ・ショップとは、魔道具やスクロールなどを専門に扱う、魔法に特化した店である。


 魔導師であるリザが、興味がないワケがない。




 そう考えて、サーカスに行きたくなさそうなリザに、思い切って伝えてみた。


 すると、どうだろう――少女の顔色はたちまち良くなって、潤んだ瞳は輝いているではないか。




「――うんっっっ!! マギカに行きましょうっっっ!!」


「おっ!? お、おう……?!」




 頗る嬉しそうに笑う彼女を見て、アーサーは思った。




(良かった……リザの好きなもの、ちゃんと理解できてた!)




 自らのファインプレーに、思わずガッツポーズである。


 同じパーティの仲間として、少年にもプライドがあったのだ。




 だが、リザは別にマギカに行きたかったのではない。


 内心では――




(良かったぁぁぁぁぁ、アーサーの行きたい場所が一番最初のプログラムでぇぇぇぇぇ)




 奇跡の救済に、めちゃくちゃ安心していた。


 初っ端から破綻したかに思われたデートプランが、思わぬ復活を遂げたのだ。




 ただただ、彼女は感謝した。


 サーカスよりマギカを選んだアーサーに。


 そして、マギカ・ショップという場所を作ってくれた神に。




 こうして2人は、無事にデートを続行するのであった。


 果たしてリザは、アーサーと手を繋ぐことが出来るのであろうか。


 生暖かい眼差しで、どうか見守ってあげてほしい。




 ――で、そういう初々しいカップルの会話を、3人の少女が聞いていた。




「マギカにいったら、まっしろスクロールあるよねっ!」


「ベリーもねー、そうおもうー」


「いってみる」




 ファニーとベリーとテリ。まっしろスクロール探し中の3人娘。


 彼女らもマギカ・ショップに向かうのであった。

3回目あたりからダレがち。

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