初恋
キャラと恋が多くなってきました。
精霊術師のヘレナは、最近になって冒険者になった娘である。
冒険者になったのは、ベックという精霊術師の男に憧れたからだ。
幼い頃に好奇心でダンジョンに入り、迷子になったところを、彼に助けてもらったのだ。
「ベックさんみたいになりたいです!よろしくお願いします!」
緊張した面持ちで、彼女は初めて冒険を共にする仲間に挨拶する。
セオリー通りに5人組のパーティを組み、彼女は今、ダンジョンへ足を踏み入れようとしているのだ。
「僕がリーダーの剣士・センだ。よろしく。」
「我の名は魔導士ライリー…闇の蛇龍に反逆せし者…よろしく頼む。」
「俺も魔導士のニックだ!魔物は全部、俺が相手してやっからな!」
「巫女です。」
個性的なパーティに囲まれ、そこそこに挨拶を済ませたヘレナ。
これから始まる冒険にドキドキしつつも、ベックのように戦えるか不安でもあった。
「あの、ミコデスさん…!」
「…ヘレナ、彼女はミコデスじゃない。スイミーだ。星々の聖典を読んでおけ。」
「えっ!?ごめんなさいスイミーさん!ラ、ライリーさん、教えて頂いてありがとうございます…!」
彼女は口数の少ない巫女・スイミーに戸惑いつつも、優しい中二病の少女・ライリーの助けを借り、コミュニケーションに挑戦する。
(でも、星々の聖典ってなんだろう…?)
ライリーにも戸惑っていたが、それは必然であろう。
中二病の喋り方は特殊なのだ。
「なぁ、早くダンジョンに行こうぜ!セン!」
「ニック。メンバーの準備が終わっていないんだ、もう少し待て。」
「ニック、貴様も安寧の拵えが完成していないではないか。ちゃんとやれ。」
「安寧のコシュニエってなんだ?」
血気盛んな少年・ニックにも、ライリーの使う単語の意味は拾えない。
「コシュニエ?ちょ、ちょっとカッコいいような…」
しかし、ライリーもなんとなくで使っている都合上、意味合いはそれほど重要じゃなかったりする。
と、個性的な仲間を紹介する前に、今回はヘレナにフォーカスを当てたいと思う。
(みんな良い人そうだな…センさんも落ち着いた人で…ちょっと、ベックさんに似てるかも?)
彼女は準備を予め終わらせており、パーティの仲間を見ていた。
その中でも、リーダーの青年であるセンがベックに似ていると感じた。
そしてそのまま、彼に見惚れてしまっていた。
「…?ヘレナ、どうかしたか?」
「へっ!?い、いいえ!なんでもないんです、気にしないで下さい!あはは…」
「いいんだ。君は初めての冒険だし、不安だろうな。困ったら僕になんでも言ってくれ。」
センはリーダーらしく、大人びた優しさをヘレナに見せると、そっと微笑んだ。
その表情に、ヘレナは初めての冒険に対する気持ちを上回ってドキドキした。
(センさん、とっても素敵な人だなぁ…)
彼女は顔を赤らめている自覚は無かったが、スイミーはしっかり観測していた。
しめたと言わんばかりにニヤリと笑い、スイミーはヘレナへ耳打ちした。
「ヘレナ、センに惚れてます?」
「ほぇっ!?」
新たに芽生えた気持ちをいきなり見透かされ、ヘレナは思わず素っ頓狂な声を発した。
その声に驚いたニックとライリーは、目を丸くしてヘレナの方へ振り向く。
センも、目は丸くなっていないにしても、少しだけ驚きの表情を浮かべてヘレナに注目した。
「ほら、ヘレナ。言っちゃいましょうよ。」
小さな声でヘレナの背中を押すスイミー。
彼女は下世話でノーセンキューな少女であった。
「え、えっと、あのぅ!なんでもないので、どうぞ安寧の拵えを!」
「ヘレナ!それを言うなら安寧のコシュニエだぜ!」
「う、うむ。コシュニエだ、ヘレナ。」
なんとかコシュニエで誤魔化し、事なきを得たヘレナ。
しかし、スイミーは不満そうに口を尖らせている。
「なんで言わないんですか。さっきのはチャンスでしたよ?」
「スイミーさん!私はセンさんのこと、素敵だなって…そう思っただけ…ですよ!」
「ぷぷぷ、ちょっと間がありますよ。隠さなくていいです。」
「うぅ~…!スイミーさん、酷いです!」
スイミーに涙目にされてしまったヘレナは、そう言ってそっぽを向いた。
そんな彼女の仕草に、スイミーは「ぷぷぷ」と笑う。
「ヘレナ。ファイト!です。それと、私のことはミーちゃんと呼んでください。」
「…ミーちゃん、よろしくお願いしますっ。」
そっぽを向きつつも、なんだかんだ視線はスイミーに向けながら、ヘレナはそう言った。
スイミーは新しいメンバーに大満足であった。
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