少女、旅に出る
幼女はひらがなです。
少女たちはそれぞれ想いを抱え、噴水広場を訪れる。
そうして邂逅を果たした。
3人の娘は、お互いの姿を知る。
寂しい家路を牛歩するベリーは、ベンチに座るテリを見た。
意地を張って家に帰らないテリは、なぜか嬉しそうに笑うファニーを見た。
父親の強制から逃げ出したファニーは、小さな石ころを足で蹴るベリーを見た。
「いたーーっ!」
2人を指差して、オレンジの空へ叫んだのはファニー。
噴水広場に冒険仲間を探しにきたところ、ちょうど彼女らが見つかったのである。
その表情から歓喜を放出して、少女ははしゃいだ。
「えっ」
「なにー?」
ベリーとテリは、同時に首を傾げる。
急に叫んだファニーについて、2人はなにも知らない。
が、そんなことには構わず、ファニーはすぐさま勧誘を開始した。
思い立ったらすぐ行動すべし。いざダンジョンへ赴くため、仲間を得なければ。
「よっ! おふたりさん、ちょうしはどうだい?」
「だれ」
積極的な少女の馴れ馴れしい挨拶に、訝しげな表情をするテリ。
誰かと待ち合わせしていたワケもなく、ただ座っていただけなのに、どうして絡まれているのか。
名前も知らない女の子に対し、彼女は警戒心を引き上げた。
「さいきん、ケーキがよくないよね~っ」
ファニーの語り口調は、まんま世間話をするシュタインの模倣である。
なんかお父さんがこんな感じで入ると、お父さんの友達も楽しそうに話し始めるのだ。
しかし、『ケーキが良くない』とはなんのことやら。実のところ、彼女は知らない。
「えー? ケーキはねー、おいしいんだよー」
ベリーはケーキを良くないものと思わないので、異議を申し立てる。
なんだか楽しそうな子が現れたので、彼女はちょっとだけ嬉しかった。
どこの子か分からないけど、友達が増えそうな予感がしたのだ。
「しらないの? ケーキはよくないのに!」
「よくなくないー」
「ほんとうはよくないよ! えっ、なんで!?」
ファニーとベリーは楽しそうに話し始めた。
会話の内容が意味不明……というか、中身がない。
「じぶんでいったくせに」
なので、テリは呆れる。
ついていけない感じの2人組が鬱陶しく、クールな彼女は場所を変えようとした。
辺りを見回して、おもむろにベンチを立つ。
「あれー、どこいくのー」
が、こっそり抜け出そうとしたら、ベリーに見咎められた。
なんの関係も無いのに、なぜ引き留められるのか。
そう考えて、テリは黙ったまま、さっさと歩いて行った。
「ちょっとまったぁ! ここからさきは、このファニーをたおしていきなさい!」
すると、元気な少女がテリの行く手を阻み、ファニーと名乗る。
テリはファニーと睨み合い、彼女の隙を伺う。
別に行くアテがあるわけではないものの、ここには居たくないテリだった。
「どっち!? こっち!? あっち!? そっち!?」
「あなた、なんなの」
「ファニーですけど?」
ファニーの妙なテンションの高さが、テリの肌に合わない。
名前だけは判明したものの、やっぱり気は合わなそうであった。
「わたしねー、ベリーだよー」
「よろしくベリー!」
「ファニーちゃんー、よろしくねー」
ファニーは不機嫌な子を通せんぼしつつ、ベリーと自己紹介を交わす。
それから不機嫌な子の方にも目配せして、自己紹介するように促した。
「あなたはなんてなまえなの?」
「……」
「おしえて!」
「……」
不機嫌な子は頑なに喋らない。かなり強情である。
慣れ合うつもりはないと、言外の意思表示をしていた。
それくらいで引き下がってちゃ、ファニーの名が廃るのだ。
「はい、あくしゅ。なかよくしよっ」
手を差し出して、ファニーはハンドシェイクを求める。
しかし、相手は友好的な対応を示さず、プイっとそっぽを向いた。
それでもめげず、彼女は色んなスキンシップを求めた。
両手を大きく開いて、ハグを試みる。
ジッと相手を見つめて、目が会うたびにニコっとしてみる。
繰返す言葉は「よろしく」。とにかく友好的に接した。
「……」
ファニーによる執拗な親しみの表現に、さすがのテリも揺れ動いた。
ここまで仲良くしたがっている相手に、いつまでも冷たい対応で返すのは忍びない。
しょうがないから、名前を名乗るくらいは妥協することにしよう……と。
「テリ」
「テリ?」
「わたしのなまえ。テリ」
「やっほい、テリ! すえながくよろしくねっ!」
かくして、少女たちはお互いの名を聞いた。
ファニー・テリ・ベリーの3人は、いつの間にか微笑ましい関係を築いたのである。
初々しい2人の掛け合いを見て、ベリーは頬を紅潮させた。
「ぶひー、とうといー」
誰がなんと言おうと、少女たちは微笑ましい関係を築いたのである。
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もちろんファニーは、仲良くなるだけで終わる気はない。
本当の目的は、彼女たちと一緒に冒険へ出かけることなのだ。
――ということで、その目的を伝えたところ……反応はまちまちである。
「いいよー」
「ダメ」
「どっち!?」
ベリーはダンジョンへ赴くことを快諾するが、テリは首を振った。
ファニーは考えた末、多数決を取ることにした。
「ダンジョンにいきたいひとー! はいはいはいっ!」
「はーいー」
賛成2、反対1。方針は無事に決まる(ファニーが『はいはいはい』と3回も投票しているが、同じ人物による多重投票は1票とする)。
「ちょっとまって。これおかしい」
異議を申し立てるテリだが、意見は黙殺された。
彼女は賛成の2人に両手を引かれて、ムリヤリ連れて行かれる。
「だって、3にんしかいないのに!」
「あははっ! もっとなかま、ほしいよね!」
「そうじゃない!」
「あのねー、3にんってねー、すごいんだよー!」
「たしかに!! すごいかもっ!! ねっ!?」
「だからねー、もっとからんでねー、ぶひひー」
多数決で解決した問題に、話し合いなど必要ない。
行動あるのみ。ダンジョンを目指し、少女たちは勇ましく行進した。
それはいいとして、辺りはもはや道が見えないほどの暗さである。
いったん足を止めるファニー。そして元気に提案した。
「あのさ! あさになるまでやすむ?」
「「……」」
沈黙ののち、2人は静かに手を上げて賛成を示した。
こっちの多数決に関しては、、満場一致であった。
野宿。