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日常系ファンタジー  作者: 青井渦巻
運命の章
138/171

少女、旅に出る

幼女はひらがなです。

 少女たちはそれぞれ想いを抱え、噴水広場を訪れる。


 そうして邂逅を果たした。




 3人の娘は、お互いの姿を知る。


 寂しい家路を牛歩するベリーは、ベンチに座るテリを見た。


 意地を張って家に帰らないテリは、なぜか嬉しそうに笑うファニーを見た。


 父親の強制から逃げ出したファニーは、小さな石ころを足で蹴るベリーを見た。




「いたーーっ!」




 2人を指差して、オレンジの空へ叫んだのはファニー。


 噴水広場に冒険仲間を探しにきたところ、ちょうど彼女らが見つかったのである。


 その表情から歓喜を放出して、少女ははしゃいだ。




「えっ」


「なにー?」




 ベリーとテリは、同時に首を傾げる。


 急に叫んだファニーについて、2人はなにも知らない。




 が、そんなことには構わず、ファニーはすぐさま勧誘を開始した。


 思い立ったらすぐ行動すべし。いざダンジョンへ赴くため、仲間を得なければ。




「よっ! おふたりさん、ちょうしはどうだい?」


「だれ」




 積極的な少女の馴れ馴れしい挨拶に、訝しげな表情をするテリ。


 誰かと待ち合わせしていたワケもなく、ただ座っていただけなのに、どうして絡まれているのか。


 名前も知らない女の子に対し、彼女は警戒心を引き上げた。




「さいきん、ケーキがよくないよね~っ」




 ファニーの語り口調は、まんま世間話をするシュタインの模倣である。


 なんかお父さんがこんな感じで入ると、お父さんの友達も楽しそうに話し始めるのだ。


 しかし、『ケーキが良くない』とはなんのことやら。実のところ、彼女は知らない。




「えー? ケーキはねー、おいしいんだよー」




 ベリーはケーキを良くないものと思わないので、異議を申し立てる。


 なんだか楽しそうな子が現れたので、彼女はちょっとだけ嬉しかった。


 どこの子か分からないけど、友達が増えそうな予感がしたのだ。




「しらないの? ケーキはよくないのに!」


「よくなくないー」


「ほんとうはよくないよ! えっ、なんで!?」




 ファニーとベリーは楽しそうに話し始めた。


 会話の内容が意味不明……というか、中身がない。




「じぶんでいったくせに」




 なので、テリは呆れる。


 ついていけない感じの2人組が鬱陶しく、クールな彼女は場所を変えようとした。


 辺りを見回して、おもむろにベンチを立つ。




「あれー、どこいくのー」




 が、こっそり抜け出そうとしたら、ベリーに見咎められた。


 なんの関係も無いのに、なぜ引き留められるのか。


 そう考えて、テリは黙ったまま、さっさと歩いて行った。




「ちょっとまったぁ! ここからさきは、このファニーをたおしていきなさい!」




 すると、元気な少女がテリの行く手を阻み、ファニーと名乗る。


 テリはファニーと睨み合い、彼女の隙を伺う。


 別に行くアテがあるわけではないものの、ここには居たくないテリだった。




「どっち!? こっち!? あっち!? そっち!?」


「あなた、なんなの」


「ファニーですけど?」




 ファニーの妙なテンションの高さが、テリの肌に合わない。


 名前だけは判明したものの、やっぱり気は合わなそうであった。




「わたしねー、ベリーだよー」


「よろしくベリー!」


「ファニーちゃんー、よろしくねー」




 ファニーは不機嫌な子を通せんぼしつつ、ベリーと自己紹介を交わす。


 それから不機嫌な子の方にも目配せして、自己紹介するように促した。




「あなたはなんてなまえなの?」


「……」


「おしえて!」


「……」




 不機嫌な子は頑なに喋らない。かなり強情である。


 慣れ合うつもりはないと、言外の意思表示をしていた。


 それくらいで引き下がってちゃ、ファニーの名が廃るのだ。




「はい、あくしゅ。なかよくしよっ」




 手を差し出して、ファニーはハンドシェイクを求める。


 しかし、相手は友好的な対応を示さず、プイっとそっぽを向いた。


 それでもめげず、彼女は色んなスキンシップを求めた。




 両手を大きく開いて、ハグを試みる。


 ジッと相手を見つめて、目が会うたびにニコっとしてみる。


 繰返す言葉は「よろしく」。とにかく友好的に接した。




「……」




 ファニーによる執拗な親しみの表現に、さすがのテリも揺れ動いた。


 ここまで仲良くしたがっている相手に、いつまでも冷たい対応で返すのは忍びない。


 しょうがないから、名前を名乗るくらいは妥協することにしよう……と。




「テリ」


「テリ?」


「わたしのなまえ。テリ」


「やっほい、テリ! すえながくよろしくねっ!」




 かくして、少女たちはお互いの名を聞いた。


 ファニー・テリ・ベリーの3人は、いつの間にか微笑ましい関係を築いたのである。




 初々しい2人の掛け合いを見て、ベリーは頬を紅潮させた。




「ぶひー、とうといー」




 誰がなんと言おうと、少女たちは微笑ましい関係を築いたのである。




~~~~~~~~~~


 もちろんファニーは、仲良くなるだけで終わる気はない。


 本当の目的は、彼女たちと一緒に冒険へ出かけることなのだ。




 ――ということで、その目的を伝えたところ……反応はまちまちである。




「いいよー」


「ダメ」


「どっち!?」




 ベリーはダンジョンへ赴くことを快諾するが、テリは首を振った。


 ファニーは考えた末、多数決を取ることにした。




「ダンジョンにいきたいひとー! はいはいはいっ!」


「はーいー」




 賛成2、反対1。方針は無事に決まる(ファニーが『はいはいはい』と3回も投票しているが、同じ人物による多重投票は1票とする)。




「ちょっとまって。これおかしい」




 異議を申し立てるテリだが、意見は黙殺された。


 彼女は賛成の2人に両手を引かれて、ムリヤリ連れて行かれる。




「だって、3にんしかいないのに!」


「あははっ! もっとなかま、ほしいよね!」


「そうじゃない!」


「あのねー、3にんってねー、すごいんだよー!」


「たしかに!! すごいかもっ!! ねっ!?」


「だからねー、もっとからんでねー、ぶひひー」




 多数決で解決した問題に、話し合いなど必要ない。


 行動あるのみ。ダンジョンを目指し、少女たちは勇ましく行進した。




 それはいいとして、辺りはもはや道が見えないほどの暗さである。


 いったん足を止めるファニー。そして元気に提案した。




「あのさ! あさになるまでやすむ?」


「「……」」




 沈黙ののち、2人は静かに手を上げて賛成を示した。


 こっちの多数決に関しては、、満場一致であった。

野宿。

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