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日常系ファンタジー  作者: 青井渦巻
運命の章
132/171

やり直し・その2

三角関係。

 告白の成功率は、1パーセントでもあれば100パーセントにできる。


 それが時間を操れる精霊の強み――と、アンリーは得意げに語った。




「好きなんでしょ? 付き合いたいんでしょ? だったら、その未来へ向かってゼンリョクシッソーあるのみ!」


「で、でも……それってズルくないですか? なんだか気が引けます……」


「それはヘレナちゃんの気持ちが最初から引けてるからだね!」


「そっ、それはそうかもしれませんけど」




 少年の提示した方法論は、確かに理論的なものだ。


 不可能だという点に目をつぶれば……否、可能だというのである。憂いはない。


 だがしかし、にも関わらず、それでもヘレナは頷くことができなかった。




「……私だけがそんなやり方をするなんて、できません」




 もしアンリーのいう方法で振り向かせたとしても、そこに至るまでの不自然さは否めないだろう。


 それに、彼女はケイの存在を考えると、どうしても躊躇わずにはいられない。この力はもしかすると、運命さえ捻じ曲げてしまうかもしれない。


 彼女の抱える懊悩を要約すれば、それはやはり“ズルい”という一言に集約されるのであった。




「余計なことは気にしないのが吉だよ、ヘレナちゃん!」


「……アンリー。余計なんかじゃ、ないと思います」




 彼女がそう言うと、アンリーは愛らしく首を傾げる。




「え? どうして?」




 生まれたばかりの彼には、自らと関係を持つ術師のこと以外、まったく眼中にない。


 それゆえ、他人には無関心である。物心がついて間もない、幼児に近い状態だ。


 純粋な疑問を浮かべる彼に対して、ヘレナはどう教えればいいのかを考えた。




「私と同じように、センさんのことが好きな人も居て――センさんにも好きな人が居るんです。だから、皆さんの気持ちを無視してまで、自分の気持ちを優先したいとは思いません」




 自分のことばかり考えて、他人を蔑ろにするようなことはしたくない。


 優しいヘレナの考え方は、アンリーにも理解できた。




「……無視かぁ。そっか、無視は良くないよね。僕もヘレナちゃんに気付かれない時、すっごく寂しかったんだ!」


「そ、そうなの……? ごめんねアンリー、私が未熟なせいで……」


「いいんだよ! 今はヘレナちゃんと話せるから、なんにも寂しくない!」




 彼は元気にそう言い放って、ヘレナの周りをくるくる飛んだ。


 無邪気な精霊の笑みを、少女は微笑ましく思った。




 だからといって、アンリーは引き下がったわけではない。




「でも、ヘレナちゃん」


「うん?」


「センやケイを無視しなかったら、今度はヘレナちゃんが無視されるんだよね」




 少し哀しそうな顔をした彼の言葉は、ヘレナの胸に深く刺さった。


 彼の言う通り、自らを蔑ろにしなければ、少女の優しさは成立しないのである。


 しかし、それはもう仕方のないことであった。




「いいの、アンリー。私はもう……」




 この矛盾は、ちゃんと説明することができない。


 ヘレナにとっても、本当は受け入れたくない現実なのだ。


 彼女の振り切れない想いを、アンリーは解さない。




「どうせ諦められないでしょ! だったら思い切って……」


「ま、待って! 私の言ってること、分かってくれたんだよね?」


「うん! 無視は良くないんだよね! だから僕、ヘレナちゃんを無視するヤツは悪いヤツだと思うよ!」




 矛盾で割り切れない以上、必然的に敵を作らねばならない。


 三角関係とは、その状態では成立しない不完全な図式だ。誰かが一辺を崩さねば、永遠に成り立たない。


 ヘレナの望む解消は、自らが関係から降りることであった。一方で、アンリーはケイを追い出そうとしていた。




 消極的な打開と、積極的な破壊。


 どちらが正解であるかも、矛盾の上では分からない。




「私とセンさんが一緒になったら、ケイさんはどうなるの……?」


「悪いヤツはやられるんだよ!」


「ケイさんは悪い人じゃないよっ……! あ、会ったことはないけど――でも、センさんが好きになった人だから、きっと!」


「あれれ? それじゃあ、悪いヤツを好きになったセンも悪いヤツ?」


「――いい加減にしてよ、アンリーッ!!」




 意思の和合からどんどん離れていくせいで、耐えきれなくなったヘレナは声を大きくした。


 アンリーはいきなり怒られて、ぱたぱた翻す羽を止めた。


 さらに、驚いたのは彼だけではない。




「ヘレナ……どうしたんだ、いきなり大声を出して」


「アンリーって誰ですか? って、精霊です!?」


「ほう……? ククッ、貴様もついに精霊を宿したか」




 前を歩いていた『サマーライト』のメンバーも、みんな振り向いた。


 こちらへ向いた顔の中で、ヘレナは思わずセンに眼を向ける。


 なにも知らず心配するリーダーの顔を見て、彼女は罪悪感を募らせた。




 ヘレナに怒られたアンリーは、不機嫌そうな顔をしながら能力を発動した。




「そんなに悪者が心配なら、最初からセンとヘレナだけにしちゃえ!」




 精霊の魔法は、音もなくエネルギーを拡散する。


 そうして、ヘレナの見ていた景色は真っ黒に染まった。

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