監禁
R18ではないです。
レインは王の一人娘である。
彼女に指一本でも触れる輩がいれば、必ず王の制裁が下るだろう。
ちなみに、ヤードマンという男はレインの父親である。
「ニコルソン、お前に使命を与える。」
「はっ!ありがたき幸せ!」
「メイドの一人から聞いたのだが、レインは近頃…城からの脱走を図っているらしい。お前が止めよ。」
「かしこまりました。必ずや、姫を説得してご覧にいれます!」
ヤードマンの前で跪く男は、騎士のニコルソンだ。
レインを一番近くで守る、ただ一人の近衛騎士である。
多感なレイン姫を身体を張って止めるという、とても大変な仕事を、彼は喜んで引き受ける。
「…しかしだな、ニコルソン。レインがそう簡単にお前の言う事を聞き入れると思うか?」
「勿論、すぐには聞く耳を持って頂けないでしょう。しかし、私には長年姫に仕えてきたという誇りがあります!」
「誇りだけでどうにかなる問題ではない。が、意気込みは買うぞ。」
ニコルソンは、本音を言えば、頑固な姫の気持ちを変えるなど、神にも不可能だと考えていた。
しかし、王の期待を受けている以上、自分から引き下がることなど出来ない。
姫のワガママをただ聞いているだけでも、過去に受けた訓練などとは比べ物にならないほど体力を使うのに、そんなの身体がいくつあっても足りないです!
と、王に叫びたかったが、当然そんなことはしなかった。
「わしも考えてみたのだ、レインにも納得してもらえるような説得方法を。」
「それは…ぜひ、私にもお聞かせ下さい。」
「うむ。レインは昔から亡霊の類が苦手でな。それを利用して、脱走に成功した!と思った瞬間に、亡霊に扮したお前が…」
「ヤードマン様。如何に変装したところで、レイン様は私の正体を見抜いてしまいます。あの方の洞察力は、並大抵のものではありません。」
なんだか参考にする価値の無さそうな案だったので、洞察力とかなんとか言って流す。
王の言葉を遮るのは無礼だが、ニコルソンはそういうことを天然でする男であった。
ヤードマンは別に気にした様子もなく、彼の言葉にただ「そうか。」と頷いた。
「では、ニコルソン。お前の方からなにか案はあるか?」
「私、ですか…はい、少し時間を頂ければ、瞬く間に妙案を閃いてみせます!」
「お前を疑っているわけではないが、一度だけ問う。それは、嘘ではないな?」
「…はいっ!!我が主に誓ってっ!!」
「では、わしは今から瞬きをする。この眼が閉じ、そして開いた瞬間に案を出すのだ。良いな?」
ニコルソンが適当なことを言っているのを、王は知っていた。
彼はニコルソンの性格を知っているので、それを責めるつもりはなかった。
だが、最近はいい加減さがエスカレートしてきているので、自戒させるためにこのようなプレッシャーをかけてやった。
「王、我が主よっ!!思い切りましたっ!!」
「…思い切り?」
「はい、思いつきました!!」
「まだわしは眼を閉じてすらいないが?」
「あっ、申し訳ございません!!私のことなど気にせず、お閉じになってください!!」
ニコルソンは、これでも腕の立つ男であった。
ヤードマンは彼の性格は知りつつも、その腕を信用して護衛にしたのだ。
それに、やる時はやることも知っている…事実、この男がレインに仕えている間、レインは一度も危険な目に合っていない。
そんな実績を含めて信用しているのだが、しかし、目の前の彼を見ていると、段々と不安になるのであった。
「…まあ、よい。それで妙案とはどんなものだ?」
「それは…ふ、複雑な計画ですので、よくお聞きになってください。」
「分かった。話せ。」
「まず、レイン姫を…監禁致します。」
ニコルソンの言葉に、ヤードマンの顔が険しくなる。
その瞬間、ニコルソンの空気察知センサーが反応する。
「監禁という表現は無礼でした。正しくは、軟禁でございます。」
「ニコルソンよ…」
「軟禁と言ってもっ!姫を汚い牢屋などに閉じ込める気は毛頭ございません!ただ、しばらくの間は自室に…篭っていて、頂こうかと。」
「自室…か。」
なんとか王の立派な顔を安らがせることに成功した、誇り高きニコルソン。
しかし、その心の内では計画の続きを考え直すことを密かに決め、悩んでいた。
本来は魔法などで姫を洗脳するつもりだったのだが、そんな非人道的な発言が許されるはずがないと、今しがた理解したのだ。
「で、その後はどうするつもりだ?」
「その…ですね。私の計算によりますとですね、引きこもり中の姫は寂しくなると思うのです。」
「ほう?寂しい、か…なるほどな。」
「ですので、誰かを一緒に篭らせて、姫と生活させるというのは…いかがでしょう。もちろん、監視の役割も与えて。」
「その誰かとは?」
ニコルソンは口から出まかせを言っているだけで、誰をその任に就けるかなど考えていなかった。
ここで適当な人間を選ぶと、首が飛ぶような気がした彼は、レインに選択を委ねることにした。
「レイン姫が直々に選択されるのがよろしいかと!」
「…ふむ、お前ではないのだな。」
「私が、姫と!?そんなことになったら、私は姫に殺されてしまいます!どうかご容赦を!」
「ニコルソンよ…お前は日頃、娘からどの様な扱いを受けているのだ?」
かくして、レインのドキドキ監禁生活が始まるのであった。
監禁生活のパートナーに、彼女は誰を選ぶのであろうか?
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