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日常系ファンタジー  作者: 青井渦巻
運命の章
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夜の闇

センとケイの出会い。

過去の話です。

 剣士のセンは、新米の冒険者だ。


 まだライセンスを取得したばかりで、ダンジョンに行った回数も少なく、場数の足りない少年であった。




 彼は今のところ、『サマーライト』というパーティに所属して、ダンジョン探索のノウハウを学んでいる。


 パーティのリーダーはベテラン冒険者で、勇ましい女性だ。彼女から様々なことを吸収しようと、日々ケンメイに勉強していた。




 そんなある日、ダンジョンを攻略し終えたサマーライトは、酒場で打ち上げを行っていた。


 皆、浮かれがちな席。場に似合わず、パーティリーダーは怖い顔で言った。




「お前……素質はあるが、臆病だな」




 センは彼女に注意されて、しおらしく頷く。




「……はい」


「出る時は出ろ。連携が遅れる」




 ウサギの肉を豪快に噛み千切りながら、彼女はセンを指差す。


 彼が注意されたのは、今日の探索において、仲間との連携が遅れた件についてだ。


 リーダーの前では言い訳をすることもできず、センは大人しい態度を取った。




「気を付けます」




 自信なさげに小さく頭を下げたが、それを見たリーダーは溜め息を吐き、ウサギの骨を放り投げる。


 彼女はサラダを手づかみすると、手に収まっただけセンに差し出しながら言った。





「いいか、ダンジョンは戦場だ。いつ死んでも文句は言えん。次はないと思え」


「はい……」


「おい、返事が小さい」


「は、はいっ!」




 先輩の厳しいアドバイスはありがたいが、上手くやれなかったセンは落ち込む。


 連携が遅れた本当の理由は、実は魔物に怯んだせいではない。


 ただ、仲間の足並みに気を遣い過ぎたせいで、逆にテンポがズレたのだった。




 新人ということもあって、仲間の邪魔にならないよう心掛けたつもりである。


 しかし、悔しいことに裏目だった。もしかすると、思い切って踏み込んだ方が良かったのかもしれない。




 いずれにしても、リーダーのアドバイスはもっともだ。


 今後も同じミスをすれば、いずれ本当に命を落とす可能性がある。


 性格をなんとかしないと、彼の冒険者生命は危ぶまれるのであった。




 彼はサラダを口に押し込まれつつ、途方に暮れてしまった。


~~~~~~~~~~


「……はぁ」




 夜。眠れなかったセンは、明かりの無い街をついつい散歩する。


 並ぶ家々に、光は灯っていない。人々はもう眠る時間であった。


 センは少し心細さを感じながら、よく見えない視界を頼って、肌寒い夜を放浪した。




『ダンジョンは戦場だ。いつ死んでも文句は言えん。次はないと思え』




 暗闇の中、リーダーの言葉が思い出される。


 探索を振り返れば、反省すべき点は多く見つかった。


 あの時こうしておけば、ここで剣を振れれば、あそこで前に出れたら――募っていく気持ちは、彼の心に重荷となる。




 性格を克服できるよう、頑張らないといけない。


 そう考えたが、すぐに克服できるならば苦労はないのだ。


 人並に育ててきた価値観が、彼の冒険の邪魔をした。




「どうすればいいんだろう」




 か細い呟きと共に、星を見上げてみる。


 夜空は輝いていたが、彼の瞳には美しく映らなかった。

 



 ――微かな眩しさから視線を逸らした時、彼はどこかの窓に煌めきを発見した。




「……?」




 不思議に思って、そこへ眼を向ける。


 すると、窓際に一人の女性が座っていた。


 姿ははっきり確認できないものの、明らかに人の影を確認できたのだ。




「彼女は……?」




 センは女性の存在に惹かれて、虫のようにふらふらと、窓際へ吸い込まれていく。


 だんだんと近付いて、窓の真下にたどり着く。すると、そんな彼を発見した女性は、小さく手を振った。




 月の光を僅かに反射して、彼女の指の根元が光る。


 なにかの装飾品を装備しているようだ。


 見つかってしまったことに気付き、センは慌てて謝った。




「す、すみません……!」




 頭を下げる剣士に対して、女性は鈴のような声で尋ねる。




「どうして謝るんですか?」




 聞かれると、センは返答に困った。


 冷静になると、別に悪いことをしたわけでもないのに、セキズイ反射で謝ってしまっている。


 ポカンと口を開け、女性を見上げて、彼は照れ笑いをした。




「あ……あはは、なんでだろう? すみませ――って、また!」


「ふふ、おかしい!」


「ははは……」




 繰返す失敗に、センは赤面する。


 そんな彼とは対照的に、女性の方は愛嬌のある笑みを洩らした。




 彼女の小さな笑い声を聞いて、センは直感的に思ってしまう。


 なんて綺麗な声音をしてるんだろう――と。


 一口に言えば、彼は一目惚れ……否、一聴き惚れしたのだった。




「剣士さん。お名前は?」




 耳を癒す美しい音に浸っていたセンは、ふと名前を問われて緊張した。


 質問に答えるだけでいいのに、変に意識して、しどろもどろになる。




「ぼぼ、僕はセン……冒険者のセン!」




 自らの名前を伝えるが、最初に上手く発音できず、次の声が大きくなり過ぎてしまう。


 さきほどから失敗続きで、自分が嫌になるセンだった。




 けれど、闇夜の窓際で笑う彼女は、嬉しそうに言う。




「センさんね。お顔は見えないけれど、ステキな声をしてるわ」




 その言葉だけで、センの失敗はすべて帳消しになった。




「私はケイ。同じ冒険者として、よろしくね」




 ケイに褒められたことで、センは自信を回復した。


 驚くほど早く、かつ爽快に立ち直ったのだ。




 この夜の散歩こそ、彼の人生で最もドラマチックなシーンだった。


 そうして、ここから先、彼とケイは深い関係を結んでいくのである。

地味なフランス映画。

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