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日常系ファンタジー  作者: 青井渦巻
運命の章
128/171

白馬の王子様

ニック出ません。

 ニックが吹き飛ばされたことにより、魔物との戦闘が始まる。


 センは素早く剣を抜くと、真っ先に前衛を張った。




「ライリー、下がるんだ! 僕の後ろへ!」


「ニックはいずこへ!?」


「今は後回しにするしかない!」




 行方不明のニックに関しては後にして、彼は魔物と真っ向から対峙する。


 慌てて後衛へ回ったライリーも、援護射撃に徹する構えを取った。




「よしヘレナ、行くぞ!双撃ツインブラスト!」


「…………」


「……おい?」




 彼女はヘレナへ呼びかけ、一斉に魔法を仕掛けようとした。


 しかし、目論見は成功しない。呼びかけた少女は反応してくれなかった。




「ヘレナ! 貴様、なにをボーっとしておるのだ、構えろっ!」


「……え?」


「だーっ、なんなのだ貴様らは!?」




 センもヘレナもぼんやりしていて、戦闘に入るタイミングが遅れている。


 スイミーは非戦闘員だから別としても、ライリーの危惧は実際のものになっていた。




 チームワークの鈍化は、死を招くかもしれない。


 詳しい事情はしらないが、とりあえず彼女は、仲間に喝を入れた。




「いいか、セン! ヘレナ! ……ついでにスイミー! 我と貴様らは一心同体コーディネーション…………噛み合わぬ歯車ではないっ!」


「! ライリー……」


「泣き叫ぶ鳴動スクィークを鎮め……思念体ファントム融合ユニゾンさせるのだ!!」




 ちゃんと伝わっているかは甚だ疑問だが、その言葉は仲間たちの耳に届く。


 すると、まずセンがこくりと頷いた。




「そうだ! 僕らは『サマーライト』だ! ヘレナ、スイミー……君たちの力無くしては成り立たない!」




 ニックの力は無くても成り立つ……というわけではないが、彼の言葉は真実だ。


 仲間の連携無くして、ダンジョンを進んで行くことはできないのである。




 2人の言葉を聞いて、ヘレナとスイミーはお互いに顔を見合わせた。


 どちらも喋り出すことはなかったが、その状態でにらめっこをする。




「………………」


「………………」




 片方が片方を試すような、訝しげな視線が交差する。


 そうして、かなり長い間、視線を交わした後で――両者は少しだけ微笑み合った。




「ミーちゃんってガンコだよね」


「こっちのセリフですよ、ヘレナ」




 一言だけ掛け合って、2人はようやく戦闘態勢に入った。


 ヘレナは精霊術を使用する構えを取り、スイミーは後衛のさらに後ろへ逃げる。




 そう。スイミーは後衛のさらに後ろへ逃げたのだ。 




「貴様! 逃亡エスケープしただけではないかっ!」


「戦いは好かんのです~、うぷぷ」


「戦う雰囲気を出すな!」




 ライリーの鋭いツッコミにも、スイミーは飄々とした態度で返す。


 元から戦う気は無かったが、なんとなく雰囲気で、カッコいい和解をしてしまったのである。


 主人公みたいなことをして、ニマニマとご満悦の彼女であった。




 ――パーティが茶番をしているうちに、魔物が動き出す。


 魔物は裂くように口を開けると、口内から大量の砂を噴出させた。


 現れたそれはうねりを伴って、前衛のセンに容赦なく襲い掛かる。




「こんなもの……な、なにっ!?」




 センは剣で障害を弾こうとしたが、どうやら失策らしい。


 剣身ブレイドが砂に触れた瞬間、なんと砂は銀色の光沢を伝って、一気に握り(グリップ)まで這いあがって来たのだ。


 剣士ゆえの固執か、センは咄嗟に得物を離すことができず、間合いを詰めたそれに捕まってしまった。




 砂はそのまま、センの身体をグルリと包囲して、まるでヘビのように締め上げる。


 砂同士の隙間はみるみるうちに塞がっていき、センの身体はいつの間にか、サナギのマユのようにガンジガラメにされてしまった。




「セン!」


「ぐぅっ……」




 苦しむリーダーは武器を使う事もできず、為すがままに砂からの圧迫を受ける。


 彼を救出するために、ライリーは炎で創成したヘビを這わせた。




「ゆけっ、炎影フレイムシャドー()盲蛇サーペント!! 膨れぬ腹を満たすがいい!!」




 炎影の盲蛇と名付けられたヘビは、すぐさま砂のマユへ牙を剥いた。


 そして陽炎の如く揺らめくと、一瞬にして燃え盛る火炎と化す。


 火炎は砂だけを燃やし尽くし、魔法の原理によって影も形も無くなった。




「助かったよ、ライリー」


「ふはは」




 ドヤ顔のライリーへ礼を言い、センは再び魔物へ向き合う。


 しかし、すぐには動かない。相手の様子を見て、次はどう出るかを吟味しようとした。




「ならば、もう少し助けてやるとしようっ」




 が、調子に乗ったライリーが勝手に行動してしまった。


 彼女は再び炎を収束させ、今度は火の鳥を創成した。




「ゆけ、不死鳥フェニックス……朽ちぬ翼を翻せ」




 その号令と共に、不死鳥はとんでもない速さで飛び立つと、真っ向から目標に突撃する。


 自らが火弾となる神速の一撃に、不意を突かれた魔物は反応も……できた。




 魔物はまたも大きく口を開けると、一瞬にして鳥を飲み込んでしまったのだ。


 俊敏に風を切り、颯爽と口の中へ入った不死鳥は、その姿をくらましてしまう。




「あ」




 ライリーのマヌケな反応も束の間、魔物のコブが急に膨張する。


 背中のそれがハチ切れんばかりに大きくなると、センはすぐに危険を感じた。




「マズい!! 全員、伏せろッ!!」




 彼の号令を聞いて、仲間は疑問よりも先に行動する。


 しかし、ただ一人だけ、反応の遅れた少女がいた。




「危ないですよ、ヘレナっ!」


「あっ……!?」




 補助のタイミングを伺っていたことで、ヘレナは回避の機を逃す。


 センの予想通り、コブの膨張は攻撃の予備動作だ。魔物はみたび口を開き、灼熱の息吹を放射した。




「きゃああっ!」




 迫りくる絶望に、少女は自らの腕で身を固くするが、意味はない。


 彼女を燃やし尽くすべく、炎は残酷な速度で押し寄せた。




 ――その時、素早く動いたのはセン。


 彼はヘレナの前へ立つと、自らの剣を強く握って、精神を集中させる。




(……今だッ!!)




 そして、身代わりとして灼熱に包まれかける瞬間――渾身の袈裟斬りを放って、炎を丸ごと切断した。




 魔力の流れは、魔素同士の結びつきを引き離すことで断てる。


 とはいえ、この一瞬の状況で、魔法を真っ二つにすることは容易ではない。魔法の中核を成す魔素をピンポイントで突かなければ、成功しない芸当だ。


 その上で彼は、見事に妙技を披露してのけた。




「ライリー、もう一度! 魔物に炎を喰わせてくれ!」


「……はっ?! わ、分かった!」




 センは油断せず、すぐにライリーへ指示を飛ばす。


 指示を貰った彼女は、リーダーの神技に仰天していたが、すぐに正気を取り戻した。




「ゆけ、不死鳥……朽ちぬ翼を翻せ」




 もう一度、不死鳥を創成すると、同じように突撃させた。


 魔物はまたも大きく口を開けると、一瞬にして鳥を飲み込む。


 すると、やはりコブは急激に膨張した。




 ここまでは先程までと変わらず、このままでは窮地だ。


 だがセンは、コブの膨張にこそ活路を見出していたのである。


 彼は素早く敵の前へ走ると、その背中を目掛けて剣を振った。




「ふッ」




 剣士の一息と同時に、剣閃は膨張したコブを斬った。


 すると、そこに溜められた魔力は行き場を失い、魔物の身体へ逆流する。


 それによって、魔物は身体さえも膨張させ――派手な破裂音と共に、四散した。




「勝利だ。みんな、お疲れ様」


「フン……さすが統率者とでも言っておこうか」


「久しぶりにセンの活躍を見たです」




 華麗に勝利を納め、探索に戻るメンバー。


 しかし、ただ一人だけ、ぽけーっとしている少女がいた。




(――センさん、ステキです……)




 完全に眼がハートマークになっているヘレナ。


 彼女の瞳に映るのは、もはやセンだけである。


 めちゃくちゃカッコよく助けて貰ったせいで、恋心が爆発してしまったのだ。




 そういう感情を見逃すスイミーではない。


 ケンカしていたことさえ忘れて、彼女はヘレナをからかった。




「ほらほら、やっぱり好きなんじゃないですか。ねー? ヘ~レ~ナ~ぁ?」


「……み、みみみみミーちゃん、なんですぐ分かるんですかー!」


「うぷぷレーダーが稼働しているからです」


「ナニソレ!?」




 親友同士が仲直りできたのだから、めでたしめでたし。

惚れてまうやろー!

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