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日常系ファンタジー  作者: 青井渦巻
運命の章
123/171

救出大作戦

救出回です。

 魚の胃袋へ消えていったヘレナを探すため、『サマーライト』のメンバーは魚の捜索を開始した。


 もちろん、偶然遭遇した魔物と再会するには、手掛かりでもなければ難しい。


 そのため、スイミーが活躍することになった。




「私は巫女です。その気になれば、神と話すことだってできるのです」


「ふ、ふん、これっぽっちも羨ましくない……我は神々を怒らせたために、この世界へ追放されたのだ」




 スイミーの能力は、喉から手が出るくらいライリーが望むものだ。


 神様と話せるなんて、煉獄を纏いし叛逆者トレイターとしては見逃せない。


 しかし、素直に「神様と話せるなんて羨ましい」と言うと、自分が神と話せないのがバレる。ゆえに、『自分も話せるけど今は話せない』みたいなスタンスを取るのだ。


 その虚勢は、この世の誰に対しても無意味な見栄である。




「神ってつえーのか?」


「知らねーです」


「聞いてくれ!」


「嫌です。疲れるからあんまり長く話せないし、ムダな質問はしません」




 いくらスイミーとて、暇さえあれば神と駄弁っていられるとか、そういうのは不可能だ。


 巫女は超次元的な存在と会話することができるが、別次元の存在が対等なコミュニケーションを行うのは、本来なら不可能である。


 よって、巫女は会話中、神の声の翻訳を永遠に繰返すことになる。巫女の力は、決して便利なものではない。




 スイミーは手を頭の横に当てて、ウサギの耳のように構えた。




「じゃあ、今から話すので邪魔しないでください」


「おい、なんだその手は」


「気にしなくていいです」


(気になる……)




 神との交信が始まると、スイミーはウサギ耳をぴょこぴょこ動かして、何事かをブツブツ呟く。


 非常に怪しい光景を、ライリーは黙って見つめていた。


 本当に神と話せているのかと、かなり訝しんだ。が、邪魔するなと言われているので、大人しくした。




 しばらく経って、スイミーはゆっくりと手を降ろす。


 会話が終了した――それと同時に、彼女は砂の上へとドサリ。身体を倒した。


 ヒューヒューと息を切らしつつ、血走った眼を見開く。




「お、おい? 貴様、大丈夫なのか……?」


「ハァ、ゼェ、ハァ、ゼェ、平気、ウー、フゥー、ヒー、ゼェ、です、ヒュー」


「あんな儀式で、そんなに疲労するのか?」


「み……水……」




 まるで世紀末で行き倒れた旅人の如く、彼女は切実に水分を要求した。


 が、残念ながら水はない。あらかじめ持ってきた分は、ほとんど自分で飲んでしまった。


 水分補給の配分を間違えたことに、今さら気付く。




「クルシイ…………!」


「水は探すとして、神はなんと言った?」


「『まだここで死ぬ定めではない』……と」


「……うむ、他には?」


「『そんな装備で大丈夫か?』……と」


「どうでもいいではないか! 余計なお世話だ!」




 2人が漫才をしていた、その時。


 砂に支えられていた足元が、突如として不安定になった。そうして周囲の砂漠は、波のようにのたうつ。


 見覚えのある現象に、ライリーが嬉々として叫んだ。




「こ、これは!? まさか! 魔物か!?」




 生物じみた砂の蠢きは勢いを増して、いよいよ一点が盛り上がると、そこから魔物の姿が現れる。


 彼女らの前に現れたのは、やはりヘレナを飲み込んだ魚だった。




「うおおおおおおォ!! きたーーーー!!」


「フハハハ、神託など不要だったらしいな!」


「『下から来るぞ! 気をつけろ!』とも言ってました」


「貴様、それを先に言うべきだろう!?」




 念願の魚に再開できた喜びで、3人はにわかに活気付いた。


 中でも、特にニックの興奮は大きい。彼は炎を身に纏い、文字通り身を焦がす。




「魚ァ!! 俺が倒してやるぜッ!!」




 再び現れた、砂漠を覆い尽くさんばかりの巨体。その影を被って、ニックは走り出す。


 先ほどはダメージを与えられなかったため、リベンジに燃えていたのだ。




 相手の頭は柔らかいが、衝撃を吸収してしまうらしく、攻める部位として適切ではない。


 弱点は他にある。そう見極めて、少年は魚の周りを回る。


 柔らかいのがダメなら、今度は硬い部分を狙ってやる――と、考えていた。




「ニックめ……勝手に走り出すなど、愚かとしか言いようがない」


「で、どうします? このままだと、また逃げられます」


「ムム……早く救済しなければ、ヘレナは融解の檻でスライムと化すだろう。3度の逃亡など許さんぞ!」




 ライリーとヘレナも、それぞれ戦闘態勢に入る。


 ライリーは炎の剣を創成し、それをやけに恭しく構えた。


 スイミーは一目散に魔物の影から逃げ、安全地帯へと避難した。




「って、貴様!? 逃げるな!」


「いやいやいやいや、私が戦闘に参加するわけないです。邪魔になるだけです」




 巫女の彼女には戦闘能力がないため、最善の行動は避難である。


 ひらひらと手を振って、少女はライリーを応援するのだった。




 ともかく、魔物を攻略しなければ話が進まない。


 炎の魔導師たちは、お互いに別の場所を攻めて、敵の様子を見ることにする。


 ニックは硬そうな部位を探して、尻尾や背中など、背面側を攻撃した。




「このヤロー!! 俺の必殺技を喰らいやがれ!!」


「ウゥーーーーーーンンンッ!!」




 炎を纏って派手に炸裂する彼の拳も、魚を怒らせるだけで、ダメージにはならない。


 相手からのヘイトだけを溜めながら、少年はその背中を走り回る。




「ライリー! 弱点はあったか!?」




 同じく悪戦苦闘する仲間に、攻略のヒントを問う。


 彼の声を聞いた少女は、炎の剣を魔物の腹へ突き出していた。




「くっ……腹を裂こうにも、硬すぎて敵わぬっ!!」




 ヘレナが収容されているであろう場所を、手っ取り早く開こうと考えたのである。


 だが、他部位の皮膚と違い、なぜか腹だけダイヤモンドの如き硬度を誇っていた。


 剣の先を差し込もうと繰り返すが、歯が立たない。




 すると、彼女の言葉を聞いたニックが、いきなり背中から飛び降りてきた。


 上から突然降って来た彼に、少女はギョっとする。




「腹は硬ェのか!? 」


「はっ!? そ、そうだが……」


「よっしゃあ、俺に任せろ!!」




 ニックが背中から降りたことで、魔物は彼を発見した。


 体格に比べ小さすぎる眼を、ギョロリと泳がせる。


 そして、下にいる彼を自らの重量で押し潰そうと、ゆっくりと腹を倒した。




 砂漠へと着地するため、どんどん迫って来る巨体の壁。


 ニックはそれを睨みながら、嬉しそうに口角を上げる。




「おい、貴様っ! このままでは、我々は砂漠の贄となるぞ!?」


「ライリー、お前の火ィ貸してくれ……パワーアップするぜ」


「ほえっ?」




 少年は魔力を漲らせ、自らを中心にして燃え盛る炎を放つ。


 ライリーが慌てて炎の剣を投げると、それも見事にキャッチした。


 そうしてニックは、フル・フレイム・ジャケットとでも言うべき態勢を取り――




「うおおおおおおおおおっ!! 焼き魚だぁぁぁぁぁぁっ!!!」




 喊声を上げて、迫り来る腹へと走っていった。


 派手に地を蹴って飛びあがると、彼の拳と魔物の腹は衝突する。




 拳とライリーの剣は一体となり、今までにない鋭さを実現した。


 それにより、魔物の硬い腹は見る間に圧し負けていき、初めて出血する。


 滴った血を見逃さなかったニック。彼はとどめの正拳突きを、聖剣のように鋭く刺し込んだ。




 ――なにかが弾けるような破裂音が、砂漠中に響いた。


 すると、魔物は痛みに耐えかねて、悲痛な鳴き声を上げる。




「ウゥゥゥーーーーーーッ!! ゥゥウ……ウウゥーーーン!!」




 巨体がのたうち回ると、辺りの砂は爆発を受けたように飛散した。




「や、やめてーー!私は死にたくないですーっ!」




 かなりの距離を取って、安全な場所に避難していたはずのスイミーでさえ、飛び散る砂の被害を受けた。


 暴れるだけで広範囲へ影響を及ぼす魔物だが、やがて力を失っていく。


 巨体の周りから砂がほぼ消え去る頃には、もはや生命活動を停止していた。




 かくして、大量に流れ出し、水たまりを成す血。そこには、一人の少女が寝転がっている。


 ライリーは彼女を発見し、思わず満面の笑みを浮かべた。




「ニック!! でかしたぞ!!」


「へへっ、ライリーの炎が馴染みまくったんだ! お前と俺、どっちが強いか決めるぜっ!」


「意味が分からんっ」




 血の池に横たわる少女は、紛れもなくヘレナだ。


 魔物の胃液によって溶かされる前に、なんとか彼女を助け出した『サマーライト』であった。

作戦は特にないです。

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