表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日常系ファンタジー  作者: 青井渦巻
運命の章
117/171

EGoKeBiN Vs

 喫茶店に入り込んできた3人は、そこにいる人々の誰もがよく知る人物ばかりだった。


 占星師のケビン。剣士のテレサ。パラディンのアバトライト。紛れもなく、『ウォールスター』のメンバーである。


 同パーティにはもう一人メンバーがいるが、今は触れないでおく。




「ケビンさん。フェリが休憩室に飛び込んで行ったみたいです」


「ああ」




 どよめく店内で、秘密裏に行われたフェリの移動は、テレサにバレていた。


 アバトライトからの報告で、フェリの事情を把握しているケビン。過去にケイと繋がりのある少女の動きは、この店で最も怪しい。




「オーナー、失礼する」


「あっ、待ってくださいケビンさん!」




 オーナーの制止も聞かず、ケビンは店の奥へ進んで行くと、休憩室の扉を開いた。


 そこに居たのは――彼が探している密人みそかびと、呪術師のケイだ。




 彼女は泣いていたのか、眼の下に涙の跡をうっすら残している。


 そして、そんな彼女を外敵から守るように、剣士のセンが立っていた。




「お前が密人のケイだな。法を犯した者は許さない。逮捕する」


「待ってください、ケビン先輩。彼女は十分に反省しています。捕まえる必要は……」


「バカを言うな、セン。どんな事情があろうと、法を犯すことは悪だ」


「そんな!」




 ケビンの正義を前にして、センは表情を険しくする。


 どうやら彼は、ケイを守ろうとしているらしかった。




 しかし、正義に忠実な占星師は、彼の態度をまったく気にしない。




「どけ、邪魔だ」


「ッ!」




 立ちはだかる剣士の肩を無遠慮に掴み、通り道の脇へ寄せた。


 問答無用といわんばかりの無関心さに、センは異議を唱える。




「事情も聞かずに捕まえるんですか!? それが正義ですか!?」


「………………」




 キリっと吊り上がった彼の眼は、ケビンの正義を糾弾した。


 しかし、糾弾を受けた当の本人は冷酷な視線を返し、無感情に言う。




「そうだ」




 言葉が耳に届いた瞬間に、怒る剣士は剣を抜き――その刀身をケビンの前へ差し出した。




「なんのマネだ? ふざけるな」


「ふざけているのは……ケビン先輩の方ですッ!!」




 2人のやり取りをきっかけに、休憩室には一瞬にして剣呑な空気が立ち込める。


 一触即発の張り詰めた間合いにおいて、衝突した両者は睨み合った。




 ――しかし、怒るセンを鎮圧したのはケビンではなかった。


 占星師の隣から颯爽と現れたアバトライトが、あっという間に剣士を捻じ伏せる。




「すまないが、大人しくしていてくれ」


「ぐうッ!?」




 不意打ちだったこともあるが、センは反応もできずに腕を拘束され、地面に突っ伏してしまう。


 無力化はアバトライトの得意分野であり、彼の体術はそれに特化したものだ。


 抵抗しようにも、不思議なほど身体に力が入らない。センは身動きが取れず、唸るしかなかった。




「うぅっ……!! やめろぉ……!!」




 何もできない彼の声など、聞こえていないのと同じである。


 不法者を捕えるため、ケビンはケイを真っ直ぐに睨む。




「先に言っておくが、呪術を使おうなんて考えるなよ。俺には未来が見えている」


「……!」


「転移の呪術、眼眩まし、バインド……すべて無意味だ」




 窮地を脱するための対応策は、行動に移す前にすべて見抜かれてしまった。


 それゆえ、ケイは呪術を使う事もできずに立ち尽くす。


 呪術以外の手段も、眼の前の占星師が自分を見つめている限り、すべて無意味なように感じられた。




 為す術なく、彼女はあっけなく捕らえられてしまった。


 誰もがそれを疑わないような、予定調和の状況で、




「――伏せろ、アイクッ!!」




 男の声がした。それと同時に、休憩室の扉は火炎に焼き尽くされた。


 さらにその火炎は、ケビンの身体を目掛けて襲ってくるではないか。




「ハァッ!!」




 棒立ちのケビンが炭と化す寸前、彼の横に居たテレサが剣を振るう。


 すると、切られた火炎は向かう方向を変え、天井を突き破った。




 目前の脅威が去っても、彼女は未だ剣を構えたまま、気を緩ませない。


 その視線の先にいたのは、2人の冒険者の姿だ。




「うふふ、ドラちゃんの炎を弾くなんて! やっぱり凄いわぁ、テレサちゃん」


「アイク。ここは俺たちに任せて、さっさと逃げな」




 焼け焦げた扉の前には、狭い通路に大きなドラゴンが縮こまっていた。


 そしてドラゴンの後ろには、おっとり竜騎士・マゼンタに、お人好しの魔物使い・ウードが立っていた。


 彼女たちの登場に、そこに居た者たちはみな驚く。そして、特に驚いたのはケイであった。




「ウ……ウード、さん? それに……マゼンタさんも……!」


「なんにも悪いことしてねぇのに、黙って捕まるわけにゃあいかねぇよな」


「アイクちゃん、私たちのことを助けてくれたもの。ちゃあんとお返し、しないとねぇ」




 ウードとマゼンタは、ケイが共にクエストを行った仲間である。


 その時はアイクという偽名を使っていたが、2人と仕事に精を出したことは、彼女の記憶にも新しい。


 まさかここで2人が助けに来てくれるなんて、彼女は思ってもみなかったのだ。




「ッチ……」




 想定外の乱入者に、ケビンは舌打ちした。


 彼の予知能力は対象を限定して発動するものであり、周りのすべてを予知できるわけではない。


 先ほどはケイの行動を予知していたため、対象外である後方からの乱入者には気付けなかったのだ。


 センを無力化すれば、この部屋には戦闘能力のないフェリしかいない。そう考えて、少し油断していた。




 彼は構えを解かないテレサへ目配せし、2人を相手するよう指示を出す。


 リーダーの指示に、女剣士は笑顔でこくりと頷いた。




「ふふ、こうして思いっきり剣を振るのは久しぶりだわ。楽しませてもらいますよ……ウードさん、マゼンタさん」




 いつもギルドで受付の仕事ばかりしている彼女だが、本来は腕の立つ女剣士なのだ。


 こんな機会は滅多にないと、心底嬉しそうに張り切っていた。




「まあ、どうしましょう……ごめんねぇ、テレサちゃん。あなたが楽しめるような遊びは、なにも用意してないのぉ」


「はっはっは!テレサよ、お前はあいっかわらず血の気の多い女だな!」




 それに対して、申し訳なさそうに謝るマゼンタは、場違いなほどゆったり構える。


 ウードも野太い声で豪快に笑い、彼女のワイルドさを笑い飛ばした。




 こうして、乱入者たちをテレサに任せたケビンは、再びケイと立ち向かう。


 彼は冷酷な眼差しで、愚かな不法者を射抜いた。




「さて……お前、俺の言葉を聞いていたか?」




 一瞬の隙を見逃さず、呪術を発動しかけたケイ。


 しかしそれは、眼を逸らしていたはずのケビンに、たちまち妨害されてしまった。




「ど、どうして……!?」


「占星師は今を見ているのではない。どこに眼をつけていようと、瞳に映るのは観測すべき未来だけだ」




 確かに彼はケイを見ていなかったが、占星能力を発動している以上は、対象の行動を捉えているのだ。


 たとえ対象が何光年離れていたとしても、星の瞬きを観測している彼に、見えない未来はない。




 今度こそ万事休す、ケイに打てる手は無くなった。


 ケビンは彼女を捕縛するため、常備している拘束用スクロールを発動する。


 発現した魔法が、彼女の身体へと絡みつこうとした瞬間――性懲りもなく、邪魔が入った。




 ケイの身体を締め付けるはずだった光の束が、黒い魔力によって弾け飛んだのである。




「これは……呪術!!」


「な、なにっ……??」




 俄かに立ち込める瘴気は、明らかに普通の魔力の流れとは違う。


 それを鋭敏に察知して、ケビンはやむを得ず後方へ下がった。


 一方、自分で呪術を使用したわけでもないケイは、再びの救済に戸惑った。




 すると、黒い煙のような魔力は、ケイの目の前で一気に収束し、小さなタツマキを生み出す。


 その後、振り乱すように晴れた渦の中から、先ほどと同様に2人の人物が現れた。




「はいっ、これ作戦通り!?」


「うん、大丈夫だと思うよ。作戦通り」


「良かったぁ~……!!」




 ケイの観察によれば、乱入者たちはどちらも少女のようである。


 そして、その一方の少女は、やっぱり彼女と面識がある人だった。




「な、なんで…………なんで、エリンさんまで……?!」


「あっ! 久しぶりですね、アイクさんっ!」




 少し前に海岸で会った、アーチャーの女の子・エリン。


 どうやら彼女までもが、ケイを助けに来てくれたようだった。




「いいですか、アイクさん! 『さようなら』を言う時は、相手の返事を待つものです!」


「へっ?」


「いきなり居なくなったら、心配して追いかけちゃうんですからっ!」




 突然受けた注意に、ケイは戸惑う。


 そんな彼女へ、エリンは太陽のような笑みを向けるのであった。

フェリ「……あたし、本当にここにいるの?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ