監禁解除
監禁の続きです。
レインは監禁されていた。
一国の姫ともあろう人物が、どこに監禁されているのか……答えは自室である。
彼女は王の命令の下、大人しく部屋に閉じこもっていた。
そして、その隣には2人の冒険者がいる。
この世の半数の魔法陣を発明したという、天才錬金術師の少女・パルル。そして、冒険者ギルドの職員として活動を続けるパラディン・アバトライト。
この2名をお供にして、レインはジッとしているのだった。
が、無抵抗に見えるのは表面上だけである。
実は彼女、腹の中ではダッシュツ計画を練っているのだ。
「ところで、レイン様。どうやってヒマクについて調べるの?」
「まずはここから抜け出しますわ」
「いきなりすぎるよ」
最初から抜け出すつもりで、彼女は計画を考えている。決して唐突ではない。
が、今初めて知ったパルルとアバトライトは、ちょっとビックリである。
真面目な聖騎士は、彼女を咎めた。
「お待ちください。王の命令を無視して、抜け出すのはいけません」
「あら、アバトライト。あなたは私の騎士でしょう?お父様の命令よりも、私の命令を優先しなさい」
「そういうワケには参りません」
レインは少し顔を顰める。
相手がいつも通りニコルソンであれば、簡単に折れてくれるだろう。かの騎士団長は怠け者だ。
しかし、アバトライトは聖騎士然としており、適当なことはしてくれない。
「仕方がないわね……あなたの力は絶対に必要だけれど、そういうことなら手段を選ばないわ」
「どういうことですか」
「パルル様、お耳をお借りしてもよろしいかしら」
「ん?いいよ」
事を思い通りに運ぶため、彼女はパルルを頼った。
コソコソ話す2人の様子を、アバトライトはボーゼンと眺める。
しばらくすると、彼女らはお互いに頷きあって離れた。
「じゃ、アバトライト。しばらく大人しくしててよ」
「え?パルル、一体なにを話して――」
質問をする彼の言葉は、パルルの発動した魔法陣によって遮られる。
少女のいきなりの行動に、アバトライトは焦った。
彼はパライズ状態を付与されて、身動きが取れなくなってしまう。
「バカな!君はまさか、彼女の脱出を手伝うのか!?」
「これも姫を生かすためだよ」
「なっ……」
アバトライトが確認すると、発動したのは即席の魔法陣らしかった。
さっきの耳打ちによって、姫の要望通りに作ったのだろう。
パルルは姫の面倒を見るために、言われたことは粛々とやる。
邪魔者を封じたレインは、まず部屋の窓を睨んだ。
監禁の話になってからは、そこは当然、外側から鍵がかかっていた。それも魔法による施錠。
しかし、あらかじめ計画しておいた彼女に抜かりはない。
要するに、内側から鍵を開けさえすればいいのである。
彼女はある程度の魔法が使えるのだが、それによる仕掛けはあらかじめしておいた。
(施錠は封印魔法の類。封印魔法は外側からの刺激に強いけれど、内側からなら……)
試したことのない方法だったが、彼女は仕掛けを発動する。
すると、それと同時に、窓は弾かれたように開いた。
アバトライトは驚愕の表情を浮かべながら、眼の前の光景が信じられないように呟く。
「そんな……かなり強い施錠だったはずです!どうやって……!?」
すると、姫君は澄ました顔で答えた。
「簡単なことよ、アバトライト。かけられた魔法の中に、自分の魔法を仕込んでおいたの」
仕組みを説明すれば、それほど難解ではない。
封印魔法は窓の開閉というルールを制限していた。そこに異物である魔力が流れ込めば、バグが起こる。
魔法の無効化を行う時、要になるのは魔法式の無力化である。成立しない魔法式は、予期せぬ暴発もせず、なんの力も持たないのだ。
「さあ。こんなところからは早く出て行きましょう」
「……まあ、王様にバレなければいいよ」
「いいわけないだろう!君は脱走の補助をしているんだぞ!?」
とりあえず、最初のミッションは果たされた。
後はこのまま、ヒマクの情報を追う。レインの瞳は猫のように鋭く光った。
脱出ゲームです。