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日常系ファンタジー  作者: 青井渦巻
生活の章
10/171

ウェディングプランナー

結婚しようよ

 今、あるダンジョンにて、男女が結ばれようとしていた。




「エバ、君は僕にとって最初の永遠なんだ。愛している、受け取ってくれ。」




 吟遊詩人の男・マディは、踊り子の女・エバへ、魔物の死骸を渡した。


 一見すると嫌がらせにしか見えない光景だが、実際は違う。




「マディ…嬉しいわ、ありがとう。こんなに素敵なサプライズがあるなんて!」




 死骸を受け取り、エバは喜んだ。


 受け取った死骸がとても高価な物だったのだ。


 宝石の埋められた指輪など、歯牙にもかけぬ程に。




「ああ…この死骸、いくらで売れるかしら!ねぇ、マディはいくらだと思う?」




 彼女が笑うと、マディはすかさずキザなポーズを取る。




「僕は君の美貌より価値のあるものを知らないよ…」


「まぁ、マディ…!」




 彼の返答は質問の答えになっていないが、エバはうっとりするのだった。


 しかし、二人が展開するイチャイチャゾーンの中に、突如として魔物の雄叫びが響き渡る。


 声のした方向に二人が視線を向けると、数え切れないほどの魔物がこちらへ向かってきていた。




「なんということだ…同胞を殺された恨みか?」


「あの数…私たちじゃ相手にならないわ!逃げましょう、マディ!」




 慌てるエバと、動く様子のないマディ。




「マディ!?なにしてるの!!」


「見ていてくれ、愛しきエバ…これが僕の覚悟だ!君を守って見せる!!」


「マディーーーーー!!」




 魔物の群れに、マディは単身で突っ込んだ。


 自らの覚悟を、最愛のエバに見せつけようとしたのだろう。


 勇敢と無謀を履き違えた彼の行動に、エバは涙を流す。




「マディ、あなたは愚かよ…私達の人生はこれからだったのに…」




 おそらく、もう帰ってこないであろう最愛の人。


 悲しんだエバは、自らも同じ運命を辿ろうと決めた。




「来なさい、魔物よ!私は死を恐れはしないわ!!」




 覚悟を決め、身を投げ出したエバ。


 その瞬間、魔物達は一匹残らず消し飛んだ。


 なにが起こったのか分からず、しきりに瞼を開閉する彼女の前に、死んでしまったはずのマディが颯爽と現れた。




「見ておくれ、エバ!僕は君を守れる力を持った男さ!」


「…ああ、マディ…!」


「心配をさせてしまったね。君に涙は似合わない…ほら、これを使ってくれ。」




 マディは魔物の死骸をエバに渡すと、はにかんでみせる。


 明らかに嫌がらせだが、そんなつもりは彼には無い。


 もしかするとマディは、魔物の死骸を万能の物質だとでも考えているのでは。




「…マディ。魔物の死骸じゃ涙は拭けないわ。」




 エバはもっともな発言をすると、彼の身体に抱き着いた。




「エバ、そんなに寂しかったのかい…?」


「当たり前じゃない…!こんな気持ち、あなた以外じゃ誰にも埋められない!」


「エバ…!ああ、エバ…!!」


「マディ…愛してるわ…!」




 愛を囁き合う二人は、とても楽しそうである。


 気取り屋なマディの世界観は特殊で、ついていける人物は多くない。


 その点では、エバは寛容な女性であった。




 ともかく、こうして無事に結ばれた二人。


 一方その頃…




「良かったな、お二人さん…」


「あの人、嘘しか言ってなくね?」




 ダンジョンの木々の上、二人を見守る者達がいた。


 魔物使いの青年ウードと、魔導士の少女シャルロットである。


 彼らは、マディが所属しているパーティの仲間だ。




「僕は君を守れる力を持った男さ!…って、よく言うわ。あーしの力だっつの。」


「ふ、見事な演出だったぜシャルロット。」


「あんな大量の魔物に一斉に号令出すとか、ウードも大変だったっしょ?」


「人のために使う労力だ、惜しくはねぇ。」


「お人好しパネェな…」




 なにを隠そう、マディに魔物をけしかけたのはウードであった。


 さらに、エバを襲う魔物の群れを消し飛ばしたのは、シャルロットなのであった。




「シャルロット、依頼が成功したのはお前が手伝ってくれたおかげだ。恩に着るぜ。」




 実は二人は、今回の演出を前もってマディに依頼されていた。


 シャルロットは乗り気では無かったが、ウードは協力したがった。


 そのため、彼女も仕方なく依頼を受けたというわけだ。




「やめよ、そーいうの。あーしが自分から手ぇ貸しただけだし。」




 律儀に頭を下げたウードに、シャルロットは軽く手の甲を振った。


 礼は必要ないと示す彼女の仕草に、ウードは柔らかい笑みを浮かべる。




「マディも感謝してるだろうさ。報酬は期待させてもらうとするか!」


「ちゃんとパフェとか持ってこいよ、マディ。」




 生い茂る葉の隙間から、勝手な希望を述べる二人であった。


 ちなみに、マディは報酬を自分の詩にするつもりらしい。


 もちろん、エバと一緒に歌うつもりであった。

30話までは毎日更新します

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