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色無き王~十二の色~  作者: Riviy
第三部
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第九十色 吸血の城



壁や床、しまいには天井にまで飛び散った血液。どうすればあそこまで血飛沫が飛ぶのか、不思議でならないし、その不思議を知りたいとは全く思わない。天井や床には黒く変色したものから干からびたなにかが付着したままの血もある。干からびたなにかはおそらく死んだ誰かの服の切れ端だろう。それか皮膚か。そんな血の地獄が広がっているのは床よりも少しだけ凹んだ部分だ。数メートルほど沈んだ床からはキラリと輝く剣の切っ先が何本も顔を覗かせており、剣は等間隔で配置されている。小部屋のようにもなっていて、壁にも剣がくっついており、なかには血が付着した剣もあれば、大昔かかったまま放置されたのだろう骸骨が刺さったままのものもある。ついでに言えば、腕が突き刺さったものもある。率直に言えば、サグラモールか誘拐された古代の神殿の罠よりも酷い。悲惨で悪質。精神が痛いほど揺さぶられ、吐き気が催されてくる。来る前に軽く食事を摂ったがそれさえも吐き出してしまいそうになる。


「おぉう……酷いのぅ。フローレンス、無事か?」

「……半分」

「半分ってなんじゃ半分って」


思わずと云った様子で口元を手で押さえたルシィの背後ではサグラモールが気持ち悪そうに口元を押さえ青白くなったフローレンスの背中を心配そうに撫でていた。サグラモールは似たようなのを見たことがあるとは言え、正直なところ、フローレンスと同じように気持ち悪いのだろう。彼女の額に汗が滲んでいるのをルシィは見逃さなかった。


「〈幻の香り(フローラ)〉」


フッと気持ち悪さを懸命に堪える二人に向かって手のひらに乗っている息を吐く。仄かな桃色と赤い色の糸のような、まるで霧のようなものが二人を優しく包み込み、花の香りや草花の香りが気持ち悪さを和らげていく。優しさで一瞬は消えた血生臭い匂いだったが、それはあくまで気休めでしかない。ルシィははぁとため息を吐きつつ、足元を見下ろす。そこに広がっていたのは先程とほぼ同じ血まみれの地獄だった。凹んでいた箱なんて非ではないと言わんばかりに腰辺りから真っ二つになった遺体や今にも動き出しそうなほど生気をまだ保ったまま壁の剣に命を奪われた遺体が散乱している。なかには切断されたものもあり、残酷で鼻が曲がる。しかし、地獄に横たわる遺体は誰一人としてルシィ達の仲間ではない。


「ボールス、足場動かせるかい?」

「……ん……罠……はま、らな……ければ」


トントンと足元をリズミカルに叩くルシィの背後でマーハウスとボールスが言う。ルシィが爪先で叩いた床は床であって床ではない。先程見た床よりも綺麗に磨きあげられた大理石の床には埃も血もなにもなく、ヒンヤリとした冷たさが靴底から感じられる。この床はボールスが魔法で作り上げた床だ。踏み込んだ途端に床が抜け、剣山に放り込まれそうになったところをボールスが〈空中浮遊の床(フライ・フロア)〉を発動させてくれたお陰で危機一髪を免れることが出来た。咄嗟に行動出来たボールスもボールスだが、十二人全員を乗せるほど巨大な床を生み出すことは出来ず分断することとなってしまった。敵にしてみればそのまま落ちて死んで欲しかったのだろうがおあいにく様、である。分断させた足場に全員で移動し、片方はボールスが、もう片方はグリフレットが動かして進むこととなった。ボールスが咄嗟に分断されることも想定し、想属性を微弱ながらに加えたようでさすがとしか言いようがない。四角く切られているので床よりも空飛ぶ板にしか見えない。ちなみにボールスが中心となった空中浮遊している板(フロア)には彼女を含め、サグラモールとフローレンス、マーハウス、パロミデスとルシィが乗っている。もう片方の空中浮遊している板(フロア)にはペリノアとユーウェイン、ガヘリス、ディナダン、グリフレットとカラドック、ドラゴネットが乗っている。ルシィ達が乗る床ーー第一の空中足場の少し先に浮遊している摩訶不思議な床ーー第二の空中足場の上からディナダンが興味深げに顔を突き出してはガヘリスに首根っこを掴まれて引き戻されていた。


「待ってろ今〈探索の眼(サーチ・アイ)〉かけっから」

「早くしてくれると嬉しいかな。僕、こういうの苦手……!」

「へぇへぇ待ってろ」


第二の空中足場からカラドックとグリフレットの声が聞こえる。どうやらカラドックの誘導のもと、罠のない安全な道を進むようだ。それを聞き、ボールスが杖を胸元に抱え込み、移動の準備に入る。黄緑色の風属性を示す粒子と小さな竜巻、そして妖精の羽の如く透明で儚い粒子のようなものが彼女と杖を包み込む。それは空中足場を移動させようと意識を足元にかざした両手に集中するグリフレットも同様だった。繊細な作業が苦手なのかそれとも移動させるのが苦手なのか弱音を吐くグリフレットに想属性の魔法に適正があるドラゴネットが「あたし、替わろっか?」と申し出ていたが彼は丁重に「自分に出来る事だから」と断っていた。


数時間前、ルシィ達は各々の仕事を終えると同時に首謀者である魔牙・リーセイが拠点とする場所を探し当てることに成功した。エーヴァ防衛城近くにあると最初は考えていた彼らだったが大きく外れた。リーセイが拠点としたのは通称・緑の城と呼ばれるアルヴァナ帝国、リーナル公国、カラルス聖王国にある同名の城だった。全てが通称・緑の城ではあるが使用用途が異なっていることが幸いした。三つ共に世界戦争時に活躍した城で、カラルス聖王国にある緑の城は数年前に『ヴェグス』が根城にしては危険だとして取り壊されている。またリーナル公国の緑の城は現在地域の領主が自警団や傭兵の生活拠点として使用しており除外。結局アルヴァナ帝国内の緑の城だったことが分かり、遠回りを食らった。アルヴァナ帝国内にある緑の城は世界戦争時に急激に数を減らした種族が使っていたと言われている。今は廃墟で誰も使っていない。恐ろしいほどのビンゴ率。また緑の城と言われる所以となった瑞々しいほどの蔦が城に巻き付いてもいる、はいメッセージカードの装飾から見てビンゴ。またその城にはもうひとつ異名というか正式名称に近い名前がある。吸血の城、多くの侵入者を罠で真っ赤に染め上げた城。多くの侵入者の無念が憎悪となり夜な夜な魔物を引き寄せるとかなんとか。後半部分は噂なので信憑性は不明だ。だが、ほぼ此処で間違いないだろう。吸血の城には多くの罠が設置されている。リーナルが拠点として『覇者』をおびき出すにはうってつけだった。そのため、ペリノアは第三部隊のみを吸血の城への特攻とした。と言っても城内に侵入した彼らを後方から援護するためともしもの場合を考え外には第七部隊と回復魔法を使える数人が待機している。もしもの場合は連絡魔法が飛ぶ手筈となっている。……もしも間違っていたら、という不安がこの城に来るまであったのは確かだ。だが、何百年も使われていないはずなのに真新しい罠の具合から見て此処にリーナルとアーサーがいることは間違いようがない。


「グリフレット、そこの空中に罠が仕掛けられるから左にずれろ」

「オッケーい」

「ボールス」

「うん……」


探索の眼(サーチ・アイ)〉で導き出した道標を元にカラドックが虚空を睨み付けて言えば、空中足場の中心にいるグリフレットとボールスが魔力を床に集中させゆっくりと移動させる。ゆっくりとした速度で動く足場にルシィは少し違和感を持ちながら罠が広がる廊下を覗き見る。真下の廊下では次々と空中足場が移動するたびに悲惨で悪質、残酷な罠が顔を出しては彼らを殺そうと声を上げている。その様子にルシィは顔を歪める。とグイッと体が左に大きくずれた。カラドックの云う罠から逃れるために遠回りをしたようだ。着々と吸血の城の奥に進んでいく一行。進んでいくと共に異様なーー恐怖とも悪寒とも言い難い空気が肌に張り付いてくる。振り払おうとしても執拗についてくる。


「アーサーさん、大丈夫かなー?」

「大丈夫でしょ。でもまぁ……相手は許さないけどぉ」

「右に同じく」


不安そうに云うディナダンにガヘリスがそう笑っていない笑みを返せば、隣でユーウェインが同意する。とりあえず、こちらを侮辱し嘲笑った腹立つ魔牙は今までのお礼も添えてお返ししなければなるまい。二人の笑っていない笑みにディナダンも笑っていない笑みを返すのは少し異様で怖かったのは云うまでもない。少し暗くなった廊下に各々が炎を灯すと罠が無さそうな血も亡骸もなにも着いていない道が現れた。一見すると罠もなにもなさそうだが、本当はなにかありそうで怖い。そう思ったのは全員だったらしく、カラドックが率先して〈探索の眼(サーチ・アイ)〉を駆使して目を凝らすが怪訝そうな声を上げ、首を傾げている。


「ん~~?」

「カラドック、どうかしたか?」


ペリノアが彼に問う横ではディナダンが新しく現れた道をジィーと睨み付けている。


「いやぁなぁ?〈探索の眼(サーチ・アイ)〉がバグったんですよ」

「はぁ?」

「なんか、普通の道なんすけど見てる光景が外だったりさっきまで見てた罠とか床だったり……とにかく変なんす」


カラドックの答えに「えぇー?」と不思議そうに声を上げながらペリノアとサグラモールが自分の目に〈探索の眼(サーチ・アイ)〉をかけ、同じように道を見る。するとどうやらカラドックの言った通りだったらしく、怪訝そうな苛立ったような低い声が漏れた。サグラモールの低い声に彼女の隣に立っているフローレンスが薄暗さとも相まって怖かったようでビクッと震えていた。「うーん」と二人の様子にドラゴネットがもしかしてと声をかける。


「もしかして妨害されているんじゃない?風属性の妨害だったら効果打ち消しとまでは行かないけど支障は出るよね?」

「可能性としてはあります……属性の魔法には妨害が出来るものもあるし」


彼女の疑問にフローレンスが同意を投げ掛ける。確かに属性の中には妨害出来るものもある。闇属性と想属性の魔法を扱うリーセイの事だ。他の属性も使用出来るとみて間違いないだろうし、大昔に妨害をする魔法を使う理由がわからないためリーセイがかけ直したのだろう。だとするとリーセイがこの先にアーサーを捕らえている……牢獄があると見て良いだろう。だからこそ妨害が増えた。


「それじゃあよぉ、合体属性で行くかぁ」


パロミデスが腕捲りの仕草をしつつも言う。とその時、足元からパキパキッと嫌な音がした。なにかが割れる些細な音に一瞬にして静まり返る。その音の正体に誰もがゆっくりと顔を互いに見合わせると、一斉に足音と後方を振り返った。足音の空中足場がピシピシと盛大な音を立てながら亀裂が走り、後方からは空中足場を見越したように巨大な刃がいつの間にか接近し、足元を破壊し始めていた。グリフレットとボールスが空中足場を移動させたとしてももう遅いことは気づいていた。あ、ヤバい。そう思ったのは、叫んだのは誰だったか。


「飛べ!!」

「〈全ての壁を破壊せよエルガネス・ディストラクション〉!」


全員が空中足場から飛び降りると同士にパロミデスが片手を薄暗い道に向かって突き出し、叫ぶ。彼の片手から真っ直ぐに放たれた流星は鋭い一撃となって薄暗い空間に突き刺さる。稲妻のように、荒波のように、業火のように、突風のように薄暗い空間に灯りを灯し、罠を破壊していく。見えない壁を打ち破っている途中のパロミデスを急き立てるかの如く、空中足場を破壊した巨大な刃が迫り来る。クッと唇を噛み締めたパロミデスの視界の先には罠溢れる廊下。血塗れになった廊下だ。パロミデスが使用するこの合体属性は闇属性と想属性で特定のものを完膚なきまで破壊する。それゆえに時間がかかった。空中での滞空時間はそれぞれ異なる風属性に適応がなくともかけてもらえば浮遊出来る。だが、この緊迫感と恐怖で誰もがそれどころではなかった。チッとパロミデスの口から漏れた舌打ちは自分への情けなさだったかもしれない。けれど。薄暗い空間に向けるパロミデスの片手をユーウェインが薄暗さに負けじとふんわりと柔らかい手付きで片手を使って包み込む。そうして二人は目を合わせるとその腕を愛しい者同士、友人同士として強い築き上げとして絡ませた。


「パロミデス!アタシの魔力使って!」

「分かった!」

「二人共、気を付けてよね!?」


心配するガヘリスの声が響くなか、ユーウェインはパロミデスに魔力を受け渡す。二人の足元に『攻撃』と『防御』の座を表す紋様が一瞬現れるとそこから心地よくも力強く優しい金と銀の粒子が妖精のように羽ばたき、舞い上がる。それらはユーウェインを通じてパロミデスへと送られ、見えない罠を次々に破壊していく。指先から腕へ、脳へと伝わる微小な痺れが今までと()()()()()()と訴えてくる。けれど、今はどうでも良かった。二人は些細な痛みを脳裏に弾き飛ばし、固く繋いだ手を突き出した。絡みに絡みまくった幾数もの糸が粉々に切り裂かれ道を指し示していく。それはさながら誰かが声を上げて誘っているようで。パリンッと全員の耳元でガラスが割れた。それが合図だ。


「飛び移って!」


ユーウェインが叫び、パロミデスの手を取って瞬時に魔法越しには罠だらけだった新たな道に着地する。妨害が破壊されたのは分かっていたがやはり何処か不安な気持ちがあったのだろう。二人になにも起きないことと無事に安心し、滞空時間の終了を持って全員が着地していく。そして彼らを追い詰めた巨大な刃を一斉に振り返ると此処までは来ないらしく、寸でのところでピタッと動きを止めていた。警戒を込めて構えた武器を全員がホッと胸を撫で下ろして下げ、新たな道である薄暗い空間に目を向ける。ルシィは頭上に少し大きめの火の球体を作り上げ灯りとする。やはり新たに現れた道は至って平坦な廊下で罠まみれだった後方とは天と地くらいの差があった。ユーウェインから魔力を貰ったためか、それとも全力で魔力を放出したためかパロミデスは千鳥足になっており、そんな彼をユーウェインとガヘリスが支える。魔法はからっきしでもユーウェインのように魔力を渡すことで膨大な魔力を放つことが出来る。その反動は何故か魔法使用者に来る。なんで。

カラドックがもう一度魔法で確認すると罠は全て完全に破壊されたようで右手の人差し指と親指で丸を作って教えてくれた。


「この先に分かれ道あっけど、どうすんだ?」

「その先は見えるか?」


カラドックの言葉にペリノアが問う。彼はうーんと目皺を増やしながら魔法ごしに道を見ると、うんと頷いた。


「見えねっすねぇ」


彼の答えにペリノアは暫し考えたのち、頷く。おそらく此処から二手に分かれるのだろう。もしどちらか一方が正解だった場合、アーサーの救出が遅れる可能性がある。リーセイは剣を奪っているはずだ。ならば彼が抵抗する手段は格段に減る。そのためもしもの可能性を考え二手に分かれるのだ。


「ノア様、アタシ、パロミデスと一緒に行っても良いですか?今のパロミデス、ちょっと不安で……」

「嗚呼。それが良いだろうな。そうなるとそちらにはグリフレットがいてくれるとありがたいから……」


結果、先程の空中足場にいた時のメンバーをパロミデスとサグラモールがペリノア達の方へ、グリフレットとディナダンがルシィ達の方へ入れ替わることで結論ついた。そして彼らは分かれ道に向かって一目散に、警戒と緊張をそのままに駆け出した。吸血の城に恥じぬほどの罠は、まだあるのだろうと警戒しながら。

あれ~いつの間にか……百にいくだと……!

ということで次回は金曜日です。覚えとけよ作者ぁ。

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