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色無き王~十二の色~  作者: Riviy
第三部
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第八十九色 血塗られた城



頭がクラクラする。視界が右に左にと頭を動かしていないにも関わらず揺れていて気持ち悪い。横になりたいのになれない虚しさというか絶望感。上手く動かない倦怠感。風邪よりも酷い。それもそうか、大量に出血しているのだから当たり前と言えばそうなのかもしれない。ポタリと体を少し揺らすたびに頭上から血が雨のように拘束された腕を伝って落ちてくる。体に刻まれた大小の傷が嫌でも目に入る。痛みのみを与えるためにつけられた深くもあって浅い傷自体が自らの判断が過ちであったと告げているようでアーサーはぼやける視界の中、舌打ちをしたくなった。だが舌打ちは体中の痛みに遮られて音にさえならなかった。座り込んだ足元に真っ赤な自分の血が水溜まりを作っている。その水溜まりは小さめではあるが、傷の数が多いためポツポツと紅い滴が無数に足元に出来ている。アーサーは目の前で灯り代わりの火の球体を指先で弄っているリーセイを睨み付けた。視界が歪み、体の制御が効かなくなる。思わず体を後方に逸らせば、チャリ……と両腕を拘束する鎖がピンッと意図せずに張ってしまって腕に鎖が食い込み、余計な痛みを与えてくる。また頭上で鎖の擦れる音がし、アーサーを無理矢理にでも起こさせようとする。それがまた苛つきを募らせてくると云うか自分の不甲斐なさを実感してしまい、歯軋りした。


捕まってから何時間、いや何分経ったのだろうか?リーセイによる交渉と云う名の拷問はアーサーの心をボロボロに、ズタズタに切り裂き壊そうとするには十分だった。自分のみを狙って叩きつけられる幾つもの魔法。アーサーに魔法を防ぐ手立てはないからと容赦なく、魔法の刃が彼を追い詰める。「情報を言えば楽になるよ」と言わんばかりに拷問中、リーセイに言われた言葉が悪魔の囁きとなって脳内をぐるぐると回っている。何度も心が折れて屈しそうになった。でも、アーサーは情報を吐くつもりはなかった。これから一生敵に吐くつもりもない。大切な仲間を、友人を、悪夢とは違う自らの手で奪うわけにも奪われるわけにもいかない。それでもアーサーの体も精神も限界だった。眩む視界と動くことさえ困難な体が良い証拠だ。幸いなのは肉や骨を削るような攻撃をしてこないことだろう。されたら既にアーサーはこの世にいない。相手が喉から手が出るほど欲しいのは『覇者』の情報だ。だからこそアーサーを殺すと云う愚弄は決してしない。その境目を行ったり来たりしてアーサーの精神を揺さぶっている。それをアーサーも知っているからこそ、耐えた。友人達が絶対に助けに来てくれると信じている。アーサーはそれを信じて耐え続けていた。


「結構強情ですねぇ。全く」


リーセイがその長い爪に火を灯しながら煩わしそうに言う。アーサーはハッと力なく鼻で嗤い、リーセイを睨み付ける。疲労困憊で何処か濁ってしまった空色の瞳はリーセイを攻撃するほどの鋭さを持ち合わせてはいない。リーセイはクスリと笑い、フッと爪先の火を吹き消し魔法で爪先に毒を付与する。少しだけ長い爪は彼が人間ではなく魔牙であることを鮮明に物語っている。


「さっさと情報を吐けば楽になるのに」

「……その、後に、殺すんでしょ?」


何度も言われた悪魔の囁きがアーサーの耳元を掠めていく。アーサーから『覇者』の情報を入手すれば彼はもう用無しとなる。つまり殺すという結論しかないわけだ。強情な態度と痛々しい姿なのに気丈に振る舞う彼にリーセイは苛ついていた。痛め付ければ簡単に情報を引き出せると思っていた。今までの『ヴェグス』も共犯者もそうだったから、偏見かもしれない。だが予想以上に彼は耐える。我慢強いところは素直に評価しよう。リーセイの中では加虐心が最初よりも大きくなり、アーサーを壊すというよりも彼を傷つけられて(簡単に誘拐されて)自信を喪失しているであろう『覇者』がどのような表情をするのか考える方が愉悦と(たのしく)なっていた。『覇者』を支えるかのように、意図せず守る壁となっていたアーサー。彼の存在は『覇者』達にとって大きなものだ。もはやこの際、邪魔なアーサーを殺してしまおうか。しかし殺してしまえば情報が手に入らないばかりか自分が危険な目に遭う可能性も否定出来ない。『覇者』の力は『覇者』を殺そうとした首謀者であるリーセイがよく知っている。けれど自分の本気と言える攻撃、姿は『覇者』でさえ手も足も出ないであろう。だってこの体は使用者が少ない想属性などの魔法で出来ているのだから。『覇者』達もアーサーもネタばらしをされるまでリーセイを敵と疑いもしなかった。そう考えれば、もし救助しようと攻めて来たとしてもどうにでもなると高を括ることが出来た。またリーセイの拠点でもある此処には拘束場所ーー牢獄に来るまで多くの罠が張り巡らされている。なかには即死するようなものもある。運良くそれに引っ掛かってくれれば、リーセイにとっては万々歳だ。最悪、『覇者』が救助に来た瞬間を狙って攻撃を放ち一網打尽にすることだって可能だ。だからこそ、さっさと情報を手にいれなければならない状況にも関わらず、リーセイはのんびりとアーサーをいたぶっていた。成功するはずだった作戦を邪魔された報復も兼ねて。彼がいなければ成功していたであろう作戦の数々。作戦の失敗はリーセイの自尊心を叩き潰していた。だから、アーサーも叩き潰したかった。『覇者』同様、絶望の絶望、絶望の谷底まで突き落とし、そのあとゆっくりと世界を滅ぼそうと考えるまで。

けれど、きっとリーセイは知らない。先代のことも()()()()『覇者』のことも。


アーサーの問いと言うよりも決定事項にリーセイはニッコリと、十人が見れば五人は妖艶だと云うであろう笑みを浮かべ、ガッとアーサーの首を勢いよく掴んだ。突然のことにアーサーは驚く暇もなく、突入として日常の空気を奪われていく。息が出来ずに苦しい、呼吸が乱れる、脳に酸素が回らず余計に視界が歪んでいく。あ、意識を失う。そうアーサーが思った瞬間、リーセイは何故か彼の首から手を外した。途端に流れ込む空気にアーサーの脳は酸素を欲して動き出す。大きく息を吸い込めば、血生臭い匂いが肺いっぱいに広がり、アーサーは咳き込んでしまう。喉を抉り取られるかと思った。魔物と対峙する時とは違う殺気と恐怖を改めて実感し、アーサーの背筋に悪寒が走る。胃からなにかがせりあがってくる。その違和感と気持ち悪さにアーサーは咄嗟に顔を背けて吐き出いてしまった。捕まった時から胃には何も入っていないのに体は嘔吐を要求し、床にベシャベシャと音を響かせながら胃液と血がぶちまけられる。体が悲鳴を上げている。リタイアさせて、死んでしまう、と。それでもアーサーは負けるわけにはいかないのだ。アーサーは肩で大きく息をしながらリーセイを睨み付ける。疲労で淀んだ彼は瞳に殺傷力はないだろうが、なにも出来ないよりはマシだ。弱ったアーサーをニヤニヤとリーセイは見下す。


「耐えていれば仲間が助けに来るとでも?甘いですね。此処はワタクシが最大限の力を発揮出来る最高の場所。『覇者』なんて一捻りにだって出来てしまうんですよ?それなのに耐えているって、愚かですねぇ」


『覇者』を全員殺してやると笑えば、アーサーはリーセイを鼻で嗤った。


「君がそう言っても……彼らは、強い。そう簡単には殺せない」

「それはどうでしょうね。実際に今、アナタは死にそうですよ」


毒を付与した爪をアーサーの左肩に服越しにもう一度食い込ませれば、首が絞まる危機感と緊迫感にアーサーの呼吸が「ヒュッ」と乱れる。恐怖を感じなかったと言ったら嘘になる。体全体に鈍い痺れが走り、首元からジワリジワリと毒に浸食されていく異様な感覚に苛まれる。遅効性の毒らしいがアーサーの動かない体の自由を奪うにはこれだけでも十分機能した。アーサーは嘲笑うリーセイに強気に、噛みつくように言う。


「俺は……死なない。負けるのは、そっちだよ……君の目的は、なに?」

「なんだと思います?」


リーセイはアーサーの顔にズイッと顔を近づけれて言うと首に添えていた手を外す。息が喉を通り過ぎていく。リーセイの目的はおそらく『覇者』の殺害だ。だがアーサーはリーセイの上にもう一人誰かがいることを危惧していた。リーセイは首謀者ではあるが自分のためと言うよりも()()()()()()行動している気がした。……ただの勘だが。確かに魔物は世界に侵略を繰り返している。繰り返しているが、双神が食い止めるために出した助言や最初に会った魔物を考えるに原初とも呼ぶべき魔物がいるはずだ。リーセイはその前座ーーじゃないと思いたい。リーセイが最大の強敵であれば倒すだけだが……エーヴァ防衛戦もある。油断大敵だ。防衛戦の魔物の司令官がリーセイでない可能性もあるが防御壁を破壊し、魔物を誘導したことから大侵攻の司令官はリーセイだろう。しかし……


「(きっと、なにか……ある)」

「まぁ良いです。来るかどうかも分からない助けを待ちながら我慢比べと行きましょうか。今度こそ、殺して差し上げましょう」


かかって来やがれ、とニィとアーサーはリーセイを挑発する。毒が徐々に体に回り、吊られた両腕の感覚は痺れもあるのだろうがなくなって来ている。感覚がなくなって来ているというのにアーサーは酷く落ち着いていた。それは傷があるからかもしれないし、それこそ信じているからかもしれない。淡々と落ち着いた様子のアーサーにリーセイは笑っていない笑みを返し、魔法を施した片手を振り上げた。その時、


「?!」


地震が二人を襲った。いや、地震と云うよりもなにかが建物におもいっきり体当たりをしてきたような衝撃だった。足元が揺れ、リーセイが堪らずと云った様子で壁に片手をつく。アーサーは座っている状態なため大丈夫だったが、拘束された腕が振動で左右に揺れ、傷に食い込んでしまい顔をしかめた。パラパラと見えない天井から土埃や砂が落ちてくる。それらを片手で払いのけながらリーセイは魔法を発動させる。透視魔法らしく、リーセイの両目を覆うように水色の膜が張られる。暫く虚空ーー正確には遠視の先を見ていたリーセイだったが、次第に口角は三日月を描き、瞳は意地悪げに弧を描いていく。それだけでもう分かった。みんなが来た。そのことにアーサーは自然と笑みを溢し、瞳には再び生気が宿る。しかしリーセイの瞳に輝く狂気にアーサーは嫌な予感を覚えた。先程リーセイは此処は最大限の力を発揮出来る場所だと云った。と云うことは、罠がある(なにかある)と言っているようなもの!友人達は大丈夫だと信じている。いるが、簡単に相手の懐に入り裏切っていく魔牙だ。人の命なぞ軽く扱うコイツが簡単に此処まで通してくれるだなんて絶対にあり得ない。それを証拠付けるようにリーセイが笑みを浮かべている。リーセイはほれ見たことかと胸を張るアーサーを一瞥し、さりげなさを装い、言う。


「アナタのお仲間が此処に侵入してきました。良かったですね。ですが、辿り着けますかね此処まで」

「……なにする気だ」

「見れば分かるのでは?〈透視が指し示す先(クレアボヤンス)〉」


まるで眠れなくてぐずってしまっている赤子をあやすような手つきでアーサーの目に魔法をかけた。水色の粒子がアーサーの目元を舞い、吸収されていく。目に異物が入ったような、刃物で刺されたような鋭い痛みにアーサーは一瞬目を閉じてしまった。目に感じる違和感を味わいながら目を開けたその先には血塗れの地獄が広がっていた。壁や床、しまいには天井にまで飛び散った血液。黒く変色したものから干からびたなにかが付着したままの血もある。そんな血の地獄が広がっているのは床よりも少しだけ凹んだ部分。数メートルほど沈んだ床からはキラリと輝く剣の切っ先が何本も顔を覗かせている。なかには血が付着した剣もあれば、大昔かかったまま放置されたのだろう骸骨が刺さったままのものもある。はっきり言ってサグラモールを誘拐した集団が連れ込んだ古代の神殿より酷かった。もうひとつの絶望と地獄にアーサーが短い悲鳴を上げれば、同じ光景を見ているリーセイがカラカラと嗤った。


「どうです?此処は長年人間の血を吸った吸血の城、いわば墓場です。ワタクシの力が加わった此処を突破できますかねぇぇええ」


ハハハハ!!と声高に笑うリーセイの声が牢獄に響き渡る。嗚呼、それでも。地獄だろうと戦場であろうと彼らは辿り着ける。それが


「(望んだ意志である限り)」



前回遅れちゃったんで書けなかったんですけど、新しく創作するよりも嫁さん(ウチの認識上)いるんだから使わなきゃなぁ!!て使いました。うむ。キャラクター多くて情報量でパンクしような時は「○○の嫁さん」みたいにメモしてます、はい。ただそれだけ。

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