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色無き王~十二の色~  作者: Riviy
第三部
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第八十六色 嵐のあとの静寂、静寂のあとの嵐


点と点だった疑惑、謎が一つの線になっていく。答えが目の前に現れてくる。それを遮ったのはルシィの困惑にも満ちた声だった。


「……アーサーは、何処です?」


シンと静まり返った空間に悲痛なまでに困惑したルシィの声が響き渡る。その問いに答えてくれる親切な声はない。例えあったとしても言ってどうなると言うのだろうか?不安が安心になるの?いなくなった裏切り者が見つかるの?誰もが思い、考え、声を出さない。分かっているからこそ、声を出すのを躊躇われたのだ。その時、ドンッ!とルシィの問いに答えるように鈍い音と振動がテーブルから大広間に伝わってきた。その発生源は俯いたままのペリノアだった。ペリノアは爪が食い込んでしまうほどに拳を握り締め、テーブルに亀裂を刻まんばかりに振り下ろしていた。本当にテーブルを破壊してしまいそうだったのか、ペリノアの手には微かに魔法がかかっているようにも見えた。ペリノアの額からは混乱なのか焦燥からか汗が滲んでいる。それに今回の襲撃はただの襲撃ではないとようやっと理解する。バッと顔を上げるとペリノアが腕を振りながら叫ぶ。


「敵の目的は我々の混乱と『覇者』を集めたアーサーだ!」

「!?ノア様どういうことですか!?」


ガヘリスが全員の驚愕を代弁して言えば、ペリノアは前髪をクシャリと握り潰し、苦痛に満ちた声を漏らす。


「敵にとって一番の障害は『覇者』だ。だが、今までの経験上、失敗ではなく完璧な成功を求めるはず。『覇者』が殺せない、捕まえてもあと一歩のところで失敗する。ならば、誰を狙う?」


ゆっくりと噛み締める時間を無情にも与えるかのようにペリノアの説明が身に染み込んでいく。魔牙は幾度なく『覇者』を狙い、そのたびに失敗を余儀なくされた。何度も失敗した敵は何を考える?原因?実力の差?地形の問題?情報が『ヴェグス』やもう一人の共犯者から漏れているとすれば、『覇者』を狙うのは敵ながら正解だ。だがその『覇者』は殺せない。そんな時、『覇者』と共に行動する者に気がついたら?彼らのもとに自主的のように集まってくる『覇者』。『覇者』一人の時ならもう少しと云うところまで行くのに彼らが現れた途端、全ての計画が頓挫する。嗚呼、そう考えれば、敵が周辺の人物に矛先を向けるのも無理はない。共にいるのは『覇者』捜しに使命されたアーサーと双神の臣下ルシィ。敵にしてみれば二人共に殺してしまいたい存在だろう。そうすれば『覇者』を始末することだって可能だ。だが襲撃があった数日前からルシィは儀式のためエーヴァ防衛城にはいなかった。残っているのはアーサーのみ。襲撃の際に発覚した混乱に生じてアーサーを誘拐するのは簡単だ。だってみんな、裏切り者と来るかもしれない外側からの攻撃に警戒と集中を向けているのだから。敵が襲撃した真の目的はおそらく()()。『覇者』を意図なく守る盾となっていたアーサーの始末。それを理解した途端、ディナダンとボールス、ドラゴネットが悲鳴を上げ、多くの仲間達が武器に手をかける。それは大事な仲間を狙った怒りと自分自身のやりきれない思いが起こさせていた。


「リーセイ・セルを容疑者として緊急手配、エーヴァ防衛城内部を徹底的に調べろ!どんな些細なことでも良い、全て私か付近の『覇者』に報告!隊長、副隊長もしくは代理の者は休養中の仲間及び自身の隊で警備している者に警戒態勢を強化し、不審人物がいないか警戒に当たれと伝えろ!良いか、アーサーの存在は城内部にいる誰もが知っているはずだ。私が『覇者』捜しに推薦したのもな……クッソ、本当に二の舞なのか……」

「二の舞って、先程も言ってましたよね?もしかして……」


いつも沈着冷静なペリノアには珍しく、悪態がもれる。よほど余裕がなくなっているのだろう。それは誰にでも分かった。そして彼が口にした二の舞。ディナダンが指摘した言葉ソレになにやらルシィも気づいたらしく、口元に両手を当てアワアワと慌て顔が青白くなっていく。具合が悪くなったと思ったのかフローレンスがルシィを心配そうに見上げる。ルシィの慌てぶりにペリノアは確信を得たように小さくため息をつく。全員の視線が何手も先を読む|アルヴァナ帝国第二皇子《仲間》を射ぬく。だがペリノアはまだ城内にいる可能性を疑っているらしく、口を開く様子はない。それに普通は誰もが不信感を煽られるところではあるが、彼らは煽られなかった。理由?だって彼は彼なりの確信を得るまで幾つもの可能性を張り巡らせる頭脳派で、信じているから。


「殿下からの指示を各隊員に伝えます!」

「誰か城について詳しい者は!?」

「アタシ、二階見てくる!」

「魔法で探してみます?」

「こっちに誰か手を貸して!人数が少ないの!」


ペリノアの指示を聞き、一斉に仲間達が城内に駆け出す。もしかするとまだいるかもしれない可能性を信じて。外れるわけがないペリノアの推測が外れていることを信じて。ルシィはチラリとペリノアを一瞥し、深呼吸をすると自らもアーサーと魔牙の可能性が高いリーセイという人物を捜しに星座の間を飛び出した。無事でいてくれ……ただそれしか願えない自分を呪いながら。


……*……


ピチョン……ピチョン……


何処かで雨漏りしているのか水滴が落ちる音がする。その音は何処か不吉で静寂過ぎた。鈍い痛みを訴える頭を振りながらアーサーは暗闇から水滴が奏でる発生源を探ろうとした。探ろうとして……目を開けても真っ暗な闇に包まれていることに気がついた。そして、寒気がするほどにひんやりとした異常な空気にも。


「っ?!」


咄嗟にアーサーは異常な肌に触れた冷気と足先に触れた異物から距離を取ろうとする。だが、出来なかった。いや、動かなかったと云う方がしっくり来る。微睡んでいた脳が思考を開始し、アーサーの脳に現状を伝え神経の情報を与えてくる。身動きひとつしても微動だにしない両腕にアーサーは確信した。捕らえられていると。両腕を万歳するような形で頭上に上げられ、鎖かなにかで手首から二の腕までを拘束している。冷たい鉄の感触とジャラジャラと頭上で鳴る鎖にアーサーは冷静さを失いかける。

どうして、どうなって、此処は何処で、あのあとどうなって、皆は、皆は無事で、犯人は誰で、俺は、どうなった?


「落ち着け……落ち着け……」


混乱で荒くなった息を整えながらアーサーは自らに大丈夫、落ち着け」と暗示をかけていく。ドキドキといまだにうるさい心臓を無理矢理押さえつける。深呼吸を肺に入れたくはないが異様な冷気を染み込ませる。よし、落ち着いてきた。それに暗闇にも慣れてきた。アーサーは両腕が拘束されていることを再度確認するため、ガシャガシャと腕を揺らす。どうやらしっかり拘束されているらしく、腕がスポンッと抜ける様子はない。


「んー念入り過ぎるなー」


頭上を見上げアーサーは呟く。目が暗闇に慣れて来たために分かるが両手首には手枷、手枷からは上下に鎖が伸び、天井に向かって伸びている鎖は薄暗い壁に固定され、下に伸びている鎖は二の腕辺りをグルグル巻きに拘束している。両腕を軽く開くことは出来るがあまり長時間は出来ない。頑丈にもほどがある。自分が魔法を使える可能性を踏まえてだろうが、大外れだ。幸いにも両腕を拘束されてはいるが体は床についているし、足枷はない。腕を重点的に拘束したため逃げられないと踏んだのだろう。アーサーは少しだけ腰を上げようとしてみるが腕を拘束する鎖が短いのかそれとも体がまだ素直に動いてくれないのか、中腰状態になっただけだった。アーサーは無駄な体力は使うべきではないとすぐさま腰を下ろす。


「剣、取られてるなぁ」


当たり前だがアーサーの腰には愛剣はなかった。此処まで厳重に拘束しているくらいだ、武器も奪うに決まっている。


「でも……誰が?」


アーサーはもう一度、此処に来るまでの状況を思い出す。確か自分は裏切り者の擦り合いにもなった会議から逃げるように出た。自分がいるという現実が、覚悟が揺らいでしまったから。でもそれはもうなくなった。隣に立ちたかった、誰でもなく、ただ友人達の隣に。強き意志を、色を持つ彼らの隣に。役に立ちたかった。それを思い出した。だがその直後に誰かに襲われた。自分を襲うメリットなんてないに等しいのに馬鹿をやる者がいるもんだと思ったアーサーだったが、途端に自分を襲った犯人に目星がついてしまった。裏切り者だ。防衛壁を内側から破壊した犯人。それでも、何故自分が狙われるのか検討もつかない。狙われるとしたら有無なく友人の『覇者』達だ。自分を狙う意味がさっぱり分からない。


「それは、アナタが思っている以上に重要だからです」

「?!」


突然、頭上から降ってきた声にアーサーはガシャンッ!と鎖を払いながら後退した。まぁ後退しても背後は壁で背中が当たっただけで逃げることもままならなかったが。顔を上げたアーサーの目の前にはいつの間にか男性が立っていた。気配さえしなかったのに、いつの間に!?驚くアーサーを暗闇に紛れた男性はクスクスと如何にも見下した様子で嘲笑い、乱暴に彼の顎を掴んだ。乱暴に捕まれたせいでアーサーの頬に伸びきった相手の爪が食い込み、浅くも滲む傷をつける。その微かな痛みにアーサーは男性をキッと睨み付けるが彼は痛くも痒くもないらしく、鼻で笑った。


「こんな奴がねぇ……」

「……お前か?防衛壁を破ったのは」


相手の言っている意味がさっぱり分からなかったが関わらない方が身のためになりそうだと踏み、アーサーは別の話題を云う。男性はクスクスと正解と言わんばかりに笑いながらアーサーを払うように手を離した。


「そうですよ?案外簡単ですね」


テノールの笑い声を響かせながら男性が云う。アーサーには男性の声に聞き覚えがあった。そうこの声は数時間前にも聞いた。よく覚えている。だって、緊急事態を知らせてきた声だもの。きっと誰もが聞いて驚愕した内容を伝えて来た新たな仲間()()()()()()。この声はーー


「リーセイ……」

「嗚呼、ご名答です。本当に案外簡単ですよね、アナタたち」


片手に灯り代わりの火の球体を形作る男性の顔が灯りであらわになる。赤茶の髪に黒と白のメッシュが入った珍しい髪色、光加減によって鈍色に見える瞳。エーヴァ防衛城に増員メンバーとして加入したリーセイがそこにいた。だが会議中や初めて会話した時には見られなかった模様が左目の下辺りに付いていて、また何処か冷徹さを孕んだ鈍色をしていてアーサーは腰が無意識のうちに引いた。気配もなかった、殺気もなかった。そして全てを見透かしたように手中で弄んでいる。つまり相当な手練れ。アーサーの怯えにも似た感情を読み取ったのかリーセイはまるで武器のように尖った爪を口元に当てる。


「全部、ワタクシがやらせていただきましたよ?防御壁って外側は厚いですけど内側は薄いんですね」

「……魔牙?」

「それは……どうでしょうね?」


口元を歪めて笑うリーセイの表情が答えだった。エーヴァ防衛城の防御壁を破れる魔牙はそうそういない。嗚呼、なら魔牙で決定か。もしくはラヴェイラのように共犯者か。まぁ潜り込んだ時点で二つとも可能性は高いが。


「というより、自分の心配をした方がよろしいのでは?」


嘲笑い、見下すリーセイの声色にアーサーの顔がひきつる。彼の言う通り自分の心配をした方が身のためだが、なにぶん彼はアーサーの魔法もしくは足技を警戒しているらしく攻撃範囲外に立っている。それでもお互いの顔が見えるのは二人の間に漂う火の球体のお陰だ。リーセイがもう少し自分に近づいてくれたら思う存分足技をお見舞い出来るが魔法はない。冷や汗を流しながら黙るアーサーにリーセイは彼が「魔法が使えない」と気づいたらしく。口角を上げた。その瞬間、一矢報いろうとするようにアーサーは左足を跳ねさせ、その勢いでもう右足を大きく跳ね上がらせた。しかしリーセイに明るみの中、動きを視界の隅で捉えられてしまい簡単にかわされてしまう。相手にいらない情報を与えてしまった、そんな感じがしたがリーセイは嗤うだけで意図は読み取れなかった。


「ふーん、そうですか……ちょうど良い。ねぇ、取り引きしませんか?」


ズイッとアーサーに顔を近づけてリーセイは云う。アーサーは怪訝そうに彼を見ながら悪態をつく。


「取り引き?俺を解放でもしてくれるの?しないでしょ?裏切り者……敵なんだから」

「解放はしませんがアナタにとっては分け目でしょうねーー『覇者』の情報を渡しなさい」

「!?」


狙いはそれか。リーセイが出した要求にアーサーは目を見開く。確かに『覇者』全員を知っているのはアーサーとルシィくらいだ。しかしルシィが詳しく言えるのは座と異名、そして捜して見つけた六人の『覇者』のみ。元々自覚ありだった六人に関して言えば、長い付き合いを持つアーサーの方が情報を持っている。また魔物襲撃の際、ルシィは双神関連でいなかった。となると必然的に狙いやすく情報を持っているのはアーサーとなる。あの襲撃もその一部か、と歯を食い縛り怒りをあらわにするアーサーだったが、リーセイの取り引きに応じるわけにはいかなかった。大事な仲間を敵に?そんなことさせないし、しない。アーサーはニッコリと親しみとは真逆の敵意と殺気を添えてリーセイに投げ返す。


「絶対に、嫌だ。断る。情報は渡さない」


即答とも言えるアーサーの返答にリーセイはキョトンとすると、愉しそうに笑い出した。まるで『ヴェグス』のラヴェイラのように、狂喜的に、けれども何処か優雅に嗤う。嗚呼、これが奴の本性なのかとアーサーは第六感でなんとなく悟った。そして次に起きそうなことも。そうこれは、()()()()()()()()()出来事……いいえ、あった出来事。だからこそ、繰り返される。高笑いにも似た声を懸命に押さえ、リーセイはアーサーを鈍色の瞳で見る。アーサーも睨み返せば、その瞳は侮蔑と哀れみを……いや、強者が弱者を弄び見下し愉悦を持っていた。アーサーの脳裏に危険信号が鳴り響く。でも、引くわけにいかない。


「ふふふ、なら、その脆弱ぜいじゃくな覚悟ーー壊して差し上げましょう」


さあ、どっちが先に根を上げるか。勝負しましょう?

あんまりやったことないかも?しれません、こういうの。

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