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色無き王~十二の色~  作者: Riviy
第三部
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第八十二色 中庭争奪戦



甲高い音が耳元で鳴る。嗚呼、敵である魔物が瞬時にスライム状の体を歪ませ、盾を作り自分の攻撃を弾いたのかと気づいたのは、体が空中に投げ出された時だった。空中で右手に持つナイフを口で咥え直し、カラドックは片手をついて着地する。がすぐさま魔物が巨大な刃物を叩きつけるように振り下ろしてくるものだから、地面についた片腕を必死に屈伸させ勢いよく体を跳ねさせる。と数秒後には先程までカラドックがいた場所は大きく抉れ、抉れた破片は侵入者用の茨が絡み付いた噴水に激突し二次災害を起こしていた。噴水もあのような状態では次なる侵入者を餌食にすることは不可能だろう。そんなことを呑気に脳の片隅で思いながらカラドックは両足で着地するとナイフを右手に持つ。突然魔物が現れたせいで訓練中だった騎士や兵士は大混乱だ。だが多くが訓練をしていたお陰ですぐさま対応が出来たわけでもある。しかし、結構な広さであるが故に中庭には大変な戦場と化していた。侵入者を阻む鉄格子の門には魔物かそれとも仲間か分からないほどに原型を留めていない物体が寄りかかるように絡み付き、緑色をしていた芝生は赤黒い血に染まっていた。城壁の屋上から援護で回復魔法や攻撃魔法が雨の如く降り注いでいるが、魔物の数同様仲間の人数も多く、とてもじゃないが全てを捌くことは到底不可能だ。一階部分に魔物が侵入を開始したらしく、誰かが大きな声で怒鳴っているが、戦闘音が耳を支配するカラドックには分からなかった。


目の前で魔物がブンッブンッと巨大な刃物を振り回してくる。足に〈速度上昇(スピード・アップ)〉をかけてはいるが魔物はそれ以上の速度を持ってカラドックに攻撃してくる。かわすので手一杯のような気もする。だが彼は魔物の攻撃速度と攻撃範囲からなんとなくわかっていた。魔物は風属性だと。魔法を直接的に使っているわけではなく、魔物本体が風属性の塊のようなものなのだ。つまり、常に魔法を纏っているようなものだ。魔牙とは少し違うタイプだが魔物の中にいることにはいる。だからこそ一つ一つの攻撃は速いし動きも速い。でも、それがどうかした?ニヤリとカラドックは口角を上げて笑い、ナイフを右手首の上で弄ぶ。そして片足を後方に伸ばし、その片足を軸にその場で一回転し、足をカラドックに向かって突進して来た魔物に振り回す。彼の突然とも言える回し蹴りに魔物は一瞬怯んだようだったがそれは次の瞬間にはなくなってしまった。理由、カラドックの足がおそらく魔物の顔に突き刺さるように食い込んだからである。グニャアと歪む人型をした黒い顔。だが魔物はそのままカラドックの足を包み込むと新たな腕を顔の部分で作成し、カラドックを自らの方へ引き寄せる。


「お、うおぉいマジか!!」


まさかそう来るかぁ!?と片足でピョンピョンと引っ張られているせいで跳ぶ羽目となったカラドックは叫ぶ。似たような、と云うよりも足をスライム状の体に拘束されそうになっているのは城内部で戦うアーサーにも起きたことだが彼には知ったことではない。カラドックは拘束されそうになる片足を容赦なく捻ると魔物の歪みもそれに伴って大きく揺れる。その時出来た隙間から足を救出し、ついでとばかりに魔物の懐に潜り込む。そしてナイフに風属性の魔法を瞬時に付与させ音速の如くナイフを魔物の首根っこを狙って掻き切った。だがそれよりも速く魔物は巨大な刃物でナイフを大きく弾いてしまう。弾かれた衝撃を受け、後方に吹っ飛ぶカラドックは空中で体勢を立て直しながら詠唱する。


「〈風よ風よ私(サポート)を支えておくれ(・ウィンド)〉!」


ホワンと柔らかい音色が彼の耳元で響く。するとカラドックの足場にまるで天使のように純白無垢な羽が何処から都もなく現れ、彼を空中で支える。しかしこれは本当に一時しのぎでしかないためカラドックは瞬時に柔らかい羽を蹴り上げ、魔物に向かって下降する。魔物は急降下してくるカラドックに向け、体を変形させて黒い液体を鋭い礫に変え攻撃してくる。空中で体を捻ってどうにかかわそうとするカラドックだったが礫は何故か正確に彼を狙い撃ち、肩や左足に被弾する。微かな痛みに顔を歪めつつカラドックは急降下し、魔物に蹴りを放つ。巨大な刃物がカラドックの強烈な一撃を防ぎ、ダメージを緩和させる。カラドックは巨大な刃物の上でステップを踏むように足を動かすと刃物を蹴って魔物の背後に回り込み、勢いよくナイフを振り下ろす。死角に入られたことで魔物は対応が遅れ、背中の痛みに地響きのような悲鳴を上げる。それにうるさいと言わんばかりにカラドックは容赦なくナイフを抜き、もう一度振り回した。素早くまるで疾風の如く攻撃を繰り返せば魔物の体には水面のように波紋が描かれる。が完全に破壊されないところを見るにまだダメージが足りないようだ。それにカラドックはクックッと喉から笑い声を絞り出せば、魔物がクルリと回転し、彼に向き直る。そして巨大な刃物が再びカラドックの頭上に掲げられる。しかしカラドックは足に魔法がかかっているにも関わらず、動こうとしなかった。それに魔物は疑問を示していたが気にすることなく刃物を振り下ろす。が、微笑んだのは


「嬢ちゃん頼んだぜ?」

「ふふ、嗚呼、了解した」


カラドックとマーハウスだ。魔物の背後で静かに鎧が音を奏でれば、嗚呼、そこにいたんだなとようやっと察することが出来る。けれどどうやって気配を?戸惑う魔物を嘲笑うかの如くパチンとカラドックの指が鳴る。そうして魔物の背後に突然と言っても過言ではなく現れたのは炎を纏うマーハウスだった。


「〈火の精よ舞い踊れ(ファイアー・ワルツ)〉、〈火属性攻撃力上昇パワーアップ・ファイアータイプ〉」


魔物が気づいた頃にはマーハウス自身にもマーハウスの大剣にも火の精や火を示す赤く燃え上がるような粒子や光が纏っていた。驚く魔物にマーハウスはニッコリと笑っていない笑みを浮かべると大剣を構える。そして敵がなにかするよりも速く武器を凪ぎ払った。凪ぎ払った途端、魔物の巨大な刃物が炎に当てられて真っ赤に燃え上がり武器としての機能を奪う。ドロドロに溶けて消え行く魔物の刃物など知ったころかとマーハウスは飛びかかってくる魔物を鮮やかにかわして見せると振り返り様に大剣を振り回す。ドロリと意図も簡単に溶けていく体に魔物はなすすべなく朽ちていく。だが抵抗しないわけでは決してない。残った体を歪ませ新たな体勢を作り上げ、巨大なハンマーのような物体をマーハウスの頭上から振り下ろす。マーハウスは瞬時に逃げる。かと思いきやニヤリと心底愉しそうに笑った。獲物を狙う肉食獣のような瞳に魔物の動きが恐怖で一瞬止まる。それでも懸命に物体を振り下ろす魔物の一撃をマーハウスは大剣を横にして防ぐ。ガァン!と鈍い音と共に腕から脳へ伝わる振動とズズッと後方にずれるマーハウスの足。この敵と殺る前に出来た微かな傷が振動を受け取って痛みを催す。物凄い威力にマーハウスは苦痛に顔を歪めることなく舌なめずりすると、片足を勢いよく振り上げた。途端に彼女の体が後方に吹っ飛ぶが知ったことではない。空高く上げられたマーハウスの足は微かな火の粒子を纏いながら魔物の頭上へと掲げられる。と魔物の頭に踵落としがクリーンヒット。グシャリと魔物の体が支えを失ったかの如く崩れ落ちる。しかし、まだまだ魔物は倒されない。地面を這いずり回り、魔物は勢いよく飛び上がるとマーハウスの背後に素早く回り込む。だがそれよりも速くマーハウスは手首で大剣を弄ぶと後ろを見ずに大剣を突き刺した。


「〈大地の恵みを思い知れ(アース・クリミナル)〉!」


袋の鼠とはまさにこの事。魔物が逃げ出そうとしてもすでにその体はカラドックの魔法によってがんじがらめになっており、そのスライム状の体には二本の刃物が深々と突き刺さっていた。カラドックとマーハウスが同時に武器を抜き放ち、容赦なく切り刻めば、魔物の体がスライム状から紙片に早変わりだ。マーハウスの大剣に付与された火属性が特に効き再生を遅らせたようだ。そして()()()()()カラドックによってかけられていた風属性の魔法も。地面に倒れ、消滅し出す魔物を一瞥し二人は目で頷き合うと次なる侵入者を討ちに跳躍した。


ドラゴネットは魔物の強烈な一撃を刀で受け流すと相手の懐に潜り込み、肘蹴りを食らわせる。魔物が前のめりになり、まるでドラゴネットの肩に顔を埋めている状態になる。彼女は手元で刀を弄び、魔物の首に向けて突き上げた。途端に広がる生暖かい血の感触と微かな違和感。ん?とドラゴネットは怪訝そうに右肩を一瞥するとそこには先程まで相手をしていた敵の胴体。頭が吹っ飛んでしまったのだろうかと思うと頭上から響く羽音にも似た音に気づいた。その瞬間、ドラゴネットに向かって放たれる無数の風刃。彼女は刀で弾きながら後方に飛び退き、攻撃してきた魔物の正体を見極めようとするがドラゴネットの顔面目掛けて刃が突っ込んで来たので無理だった。間一髪で首を傾げる要領でかわすが一拍遅かったらしく、首筋と手の甲に一線刻まれる。浅いか深いかはこの際、関係ない。上半身を捻り、回転をつけながら後方に撤退する。するとドラゴネットが相手をしていた魔物の姿が判明した。ギョロッとした一つ目に両手が生え、浮遊していたのだ。どうやら先程倒した魔物の本体はこちらのようだ。しかも浮遊してはいるがそれは両手を目にも止まらぬ速さで動かしているだけで魔法ではない。だが移動速度が速く、ドラゴネットが状況を確認している間にも右へ左へ高速移動している。


「〈風の刃物(ウィンド・ナイフ)〉!」

「〈吹雪の華(ブリザード・フラワー)〉!」


と空中で両手を羽のように動かしていた魔法に風を纏った無数のナイフが襲いかかる。目にも止まらぬ速さでかわす魔物に今度はピタリと冷たい花びらが付着した、と思った次の瞬間、パァン!とガラスが割れる音と共に氷で形作られた美しい華が吹雪を纏いながら魔物に牙を向く。氷の華と吹雪に捕らえられた魔物を無数のナイフが容赦なく襲う。しかし、腕が凍結してもなお魔物は素早く動き回り、魔法を放ったボールスとフローレンスを狙って動き始める。本当に凍ってるの?と不思議に思ってしまうほどに速く急降下してくる。ボールスが杖を構えるが、杖を大きく振り上げたところで瞬時にかわされるのがオチだった。そうしてボールスの利き肩を狙う魔物からフローレンスは彼女を守るべく、片足を軸に見よう見まねで飛び出す。ボールスの肩を掴んで後ろに引き下がらせ、扇を顔に前に差し出せば案の定、目を潰そうとやって来る。扇を伝ってやって来る強い衝撃にフローレンスはキッと唇を噛み締めて耐え、扇を持つ手首を捻り、衝撃を受け流す。スッと脇を衝撃と動作に流されて通り過ぎて行く魔物。魔物が着実に凍結しつつある腕をパキパキと鳴らしながら空中で方向転換をすれば、空気中に冷気が充満する。その冷気を振り払う如くフローレンスが大きく扇を旋回させ、踊らせれば扇に付与された水属性が魔物を襲う。その死角からドラゴネットとボールスが同時に武器を振り下ろす。両者の攻撃を防ぐために一つ目がギョロリと蠢き、両腕で攻撃を防ぐ。一瞬の間だったが魔物はなおも浮遊していて。その眼下にフローレンスが近づき、扇を下から振り上げる。両腕を使えなくされた魔物はなすすべなくフローレンスの攻撃を受け、天高く吹っ飛ぶ。その影響で両腕が再び使えるようになると勢いよく羽のように羽ばたかせ、衝撃波をフローレンスに送りつけてくる。突然の攻撃にフローレンスは体勢を崩してしまい、前のめりになると片手を地面につく。片足に痛みが走った気がした。嗚呼、でも、


「……〈雨の如く舞い上がれ(レイン・ダンスホール)〉」


ポツリと呟いた声はフローレンスではない。彼の周囲を包む雨のカーテンはその場を鮮やかで優しいダンスホールに仕上げていく。風属性とはまた違うタイプの効果。雨のカーテンに包まれたフローレンス目掛けて魔物が接近する。が空中を滑るように魔物が移動した途端、気配なく雨の滴を纏った蜘蛛の糸が魔物を捕らえた。目と鼻の先にいる獲物を狙うがあまりのミスとでも言えよう。巨大な目玉でも空気と同化した魔法までは見破れなかったと言うことだろうか。いや、きっと


「慢心、は……ダメ!」


ボールスが叫び、杖を掲げた瞬間に魔物は両腕を目にも止まらぬ素早さで動かし両腕を刃物に変えて蜘蛛の糸を引きちぎった。そして魔物は蜘蛛の糸で糸状の傷を作り真っ赤に染まった腕を見せびらかしながら赤く染まった眼球をボールスに向ける。もうすでに足元にいたはずのフローレンスなど写ってはいない。だからこそ、()()()()()()()()()()()()()()


「〈炎が呼ぶ茨の監獄(ファイアー・プリズン)〉!」


ボウッと燃え上がる炎の監獄を作り上げたのはフローレンスだったのかボールスだったのか。それともドラゴネットだったのか。巨大な目玉を焼き、腕に痛みをもたらす魔法に魔物は全ての意識や機能を委ねてしまう。そこに接近するドラゴネット。ドラゴネットは片足をバネのように、翼のように羽ばたかせ大きく跳躍。天高く飛び上がったドラゴネットは空中に足場があるかの如く大きく膝を曲げ、魔物の脳天ーーとおそらくなるであろうーーに向けて刀を突き刺した。勢いよく突き刺さった一撃は魔物を地面に落とし、目玉を充血させ血を撒き散らす。その異様な不気味さにドラゴネットは表情を歪ませつつも刀を力任せに回せば、手元でブチッとなにかが切れる音がする。その音が戦闘音の充満した中庭に小さく反響すれば、魔物はもう二度と動くことはなかった。ドラゴネットは刀に突き刺した魔物をそのままに棍棒の……いや何処かモーニングスターのように振り回し、近くにたまたまいた魔物にぶつける。と遠心力の勢いでスポーンと魔物の亡骸が放り出され、別の魔物にクリーンヒット。「よっしゃあ!」とガッツポーズを決めるドラゴネットである。そんな彼女を見てフローレンスとボールスは互いを支え合いながら小さく微笑むと、次なる魔物を狙って魔法を放った。二人が放った魔法に翻弄される魔物に向かってドラゴネットも大きく駆け出した。


やりたい事が明確すぎる作者です。

次回は月曜日です!

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