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色無き王~十二の色~  作者: Riviy
第三部
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第八十色 灰色の雲


誰かが泣いている。咆哮にも似た泣き声を、悲鳴にも似た泣き声をあげながら叫ばれる言葉は既に羅列も文章にもなっていないただの言葉でしかなくて。目の前で火花が散る。いつも見た悪夢のような夢、夢のような悪夢が涙と共に剥がれ落ちていく。剥がれ落ちていくキラキラと輝く星のような光。その光は意志であり、決意。そうして()()()にもらった存在、恩義、忠誠、意味、覚悟。全てが全て、一人で補えるものじゃなかった。一縷の希望には強すぎた。でもそれでも良かった。だから、共にいた。あの日を生き延びた最初の二人、最期の二人として。けれど、それさえももうない。そう、その意志は物語を紡ぐ指、筆、切っ先が紡ぐことは決してないのだから。

夢、嗚呼、悪夢だ。そう思ったのはいつものように真っ赤に染まる戦場にも似た風景だったからかもしれない。絶望に埋もれる見えない顔がはっきりと見えたからかもしれない。その顔は友人に到底似ているわけではないけれど、けれど意志は似ていて。光は似ていて。嗚呼、だからそこにいて泣いていて、立ち尽くしているんだね。そこにいる、腕の中で()()のように真っ赤な華を至るところに咲かせるその人が。


「……君の一筋の道しるべ」


道しるべであって、その人にとっても道しるべだった。だからこそ頑張れた。だからこそ、その力を発揮出来た。だって、そうでしょう?誰かが支えてくれないと人だって立てない。二人は一人、ある未来を目指して動いた新しい一筋。だから、だからこそ隠さないといけない。絶望してしまう。このあとの幸福な未来を呪いたいと願ってしまう。その人が幸福の中で死んで逝けたことを歓喜する。矛盾する感情が戦場という葬儀の中に、訪れた平和の中に渦を巻いて溢れだす。きっと、君はそれで良かった。まるで星々ように美しく幻想的な色を。夢であって現実、悪夢であって幻であるこの幸福と云う光景を。空中で戯れる儚く揺れる無数の色を最期の手に納めて。美しい色が意志として空を舞い、舞い始めるのを最期の光景に目に納めて。それがその人にとってのもう一つの幸福。でも、でも分かるはずない。だって、君も俺も……そう、顔の見えた友人達に似ているようで似ていない彼らも


「誰一人として同じじゃなければ、意味を理解することもない!」


だってそうでしょう?なにも言わない。すでに涙は元の戦場に戻って。また最初から、そう一番最初に見た悪夢を繰り返す。()()()死んで、誰かが仲間を庇って、誰かが叫んで、誰かが掲げて、誰かが放って、誰かが告げて、誰かが腕を振って、誰かが駆けて、誰かが目を閉じて、誰かが手を伸ばして、誰かが目を開けて、誰かが恐れないで……そうして()()()決意する。これは夢であって現実の一つ。いくつもの色と意志が重なって訪れる、訪れるはずだった歴史の中の物語。絶望しても希望しても運命は変わらない。そう変わりっこない!残酷な戦場、地獄を意味する戦場。ねぇこれが運命ならば……いや、運命なんて誰もが一番よくわかってるって云うのに!

そう叫ぶように頭を抱え、両耳を塞ぎ、戦場から目を背ける。全てをシャットアウトする。嗚呼、そこに現れる静寂。いや静寂の隙間から漏れ落ちる音。その音にさえ入れたくなくて、聞きたくなくて、両膝から崩れ落ちる。ゴツゴツとした岩の感触が両膝から伝わってくる。冷たさと生暖かさも感じれば、嗚呼、夢になのかどうかも曖昧になってくる。これはもしかして悪夢だと自分が思い込んでいるだけで現実なのだろうか?そんなはずはない。生暖かさを急激に失う真っ赤な華が現実でもあって悪夢だと告げてくる。目を閉じる。そうすれば何がどうあれきっと終わる。


「それはきっと間違いでしかない」

「けれど、諦めも時には肝心」


聞こえた声は、自分とよく似ていて。いつもの、なにかを訴えるあの人……()()()の声にも似ている。しかしその声色は言っている内容とは裏腹に力強く、何処までも希望に満ちていた。己の正義をひた走り、それゆえに与えられる悪という称号(偽善)さえも自らの意志が「守れ」と告げるなら甘んじて受け止めようと言わんばかりの声。それは、覚悟。ただ、正義感が強いだけの。その声にのっそりと顔を上げれば、嗚呼、案の定、そこにいたその人のこめかみ、首筋、左胸には今まで見た通りの紅い華が誇りを示すように咲き誇っていた。その痛々しさに思わず手を伸ばせば、その人はニッコリと儚げに笑い、伸ばされた手を取った。その手は氷だと思ってしまうほどに冷たく、そして暖かった。正反対の感触なのにその手は優しさに溢れていた。自分が傷ついているにも関わらず、その人は伸ばされた手を引き、立たせてくれる。でも、足は怯えたように動かなくて。それが申し訳なくて、腹立たしくて。しかしそれでもその人は告げるのだろう。


「********」


聞こえそうで聞こえない、歌うような声と笑顔と共に。


「……っは」


天井に向かって伸びる手が見開いたアーサーの視界に入り込む。悪夢とも言い難いような夢で掴んでもらったはずの正反対の感触の手。あれは一体誰なのだろう?アーサーは突き上げていた右手をゆっくりとおろすと左手が心臓辺りの布団をしわくちゃになるまで握りしめていたことにようやっと気づいた。いつもと同じで何処か違う夢を反芻しながらアーサーはベッドの上に起き上がった。


「おさまったと思ったのになぁ……」


右手でクシャリと前髪を掻き上げれば、恐怖で溢れただろう汗が指先を伝う。バクバクとうるさい心臓を静めるべく、アーサーはベッドの上で両膝を抱える。ふと視線を向けた先の窓の外はカーテンで仕切られていて風景は分からないが外が仄かに明るくなって来ているのか、淡い色となっている。


「ルシィ、元気だと良いけど」


ポツリと呟いた彼の言葉は静かな自室に溶けていく。昨日、ルシィはサグラモールとグリフレットの転移魔法を用いてダイヤ魔導国に旅立った。儀式の関係上、魔物の大侵攻が予測される前日までには戻ると言うことだったが、三回目の会議で状況が一変した。魔物の進行に遅れが生じたのだ。理由は魔物の大半が自然が作り出した障害物に当たったことと数体の将軍の不和からだった。将軍に関しては知能が僅かながらにある分、そのまま共倒れしてくれと願ったり叶ったりだ。自然の障害物は今のところ魔物全てを食らわんばかりに邪魔をしているようでこれは双神の手助けなのかもしれないと、ちょっと思ってみたり。だが、不和となった将軍の中に魔牙の存在も判明し、数時間ほど姿を見せていない魔物もおり、今まで以上の警戒が必要となった。こちらが十分な対策をしていても魔物がその裏を掻いてくることはある。そのため、ペリノアとサグラモール、グリフレット、部隊隊長は夜遅くまでエーヴァ防衛戦に関する作戦について確認などをしていたようだ。ほとんどの自室が四階に集中しているので夜中にパッと目を覚ませば階段を登り下りする音が聞こえたのだからありがたいことだ。また行進も障害物などにより半日から一日ほど遅れが生じると見ている。まぁダイヤ魔導国に行ったルシィの方もスケジュール通りに行くかは分からない。状況は刻一刻と変化して行くのだから。


「サグラモールかボールスに連絡魔法お願いしてみよっかな」


でも今はまだ寝てるか。こういう時、少しだけ魔法が使えないのが悔しくなる。劣等感とは違うかもしれない。アーサーはベッド脇のサイドテーブルから水差しとコップを取るとコップに水を注いだ。トトト……と静かな音色が静かな部屋に響く。コップ半分まで水を注ぐとアーサーは水差しをサイドテーブルに置き、コップの中の水を飲んだ。生ぬるい冷たさがまるで先程の悪夢のようで夢、夢のようで悪夢に似ていてアーサーは一気に水を飲み干した。飲み干すと静かにコップをサイドテーブルに置き、また小さくため息をついた。まだ朝食の時間には早いが、あの返り咲いた夢のせいで二度寝をする気も起きない。どうしたものか。


「……寝よ」


思案の結果、無理矢理にでも二度寝をすることにした。あと数時間すれば朝食だし、早起きする者も出てくる。ならそれまでベッドの中で微睡んでいよう。新しい明日を信じて、新しい夢を願って。


例え、夢のあの人が言っていた言葉をきちんと理解出来ていなかったとしても。


……*……


「でさ、マーハウスさん凄いんだよ!あたしの一撃をこう、風みたいにかわすんだから!」

「ディナダン……と、ガヘリスさん……と、ても、良い……人」


キャッキャとドラゴネットとボールスが嬉しそうに喋っている。それを聞くアーサーも嬉しくなり笑いながら食後の珈琲を口にする。ドラゴネットとボールスが誉める件の人物達が彼女達の後ろの席で悶えていることは言わないでおこう、とアーサーは生暖かい目を向かい側の席に向けながらカップをソーサーに置いた。ドラゴネットとボールスは尚も仲良くなった友人達の話で盛り上がっている。アーサーはやはり波長が合うのだろうと嬉しく感じながら食堂を軽く見渡した。二度寝にもならない夢うつつな微睡みから早数時間。エーヴァ防衛城二階にある食堂には多くの仲間達が朝食を摂りに集まっていた。なかには朝っぱらから訓練でもして来たのか、汚れた状態で仲間が食堂に乱入し「着替えて来いよ!」「それより腹減ったんだよ!」「素直か!」と怒号のような挨拶が飛び交う始末だ。なんとも朝から賑やかな場所だ。クスクスと珈琲を飲みながらアーサーが笑えば、何故笑っているのだろうと二人にキョトンと見つめられていた。ビクッと驚いた拍子にテーブルの上でソーサーがカチャカチャと甲高い悲鳴を上げる。


「は、早く朝ごはん食べな?」

「ん~アーサーくんの表情が気になってね~それどころじゃないでしょ。なに?なに笑ってるのかなぁ~?」


ニヨニヨと笑いながら身を乗り出すドラゴネット。彼女の下にあるまだ暖かい湯気を漂わせるスープをボールスがソッとぶつからないように避難させる。「なになに?」と興味津々と言った様子でアーサーの顔を覗き込むドラゴネットの目から顔ごと視線を逸らし、アーサーは珈琲を飲む。だが先程の二口目ですでになくなっていたらしく、口を塞ぐ手立てがなくなってしまった。チラリとドラゴネットを目で振り返れば、ボールスに早く食べなさいと急かされたらしく仕方なしに諦めてくれていた。ありがととアーサーがボールスに笑いかければ、痛々しい包帯に巻かれた目元が弧を描く。それにアーサーは笑い返し、カップとソーサーを持って立ち上がった。


「さてと、んじゃ俺行くね。ボールス、あとで連絡魔法お願いしたいんだけど良い?」

「ルシィ、さん……?……と連絡、す、る?」

「うん。状況が少し変わったのもあるし一応ね」

「それならサクラちゃんも出来るよね?」


アーサーとボールスの会話にスープを綺麗な作法で飲みながらドラゴネットが言う。流浪の旅をしていたとは言うが本当はマーハウスやガヘリス、ディナダンのように貴族出身ではないかと疑ってしまうほどの完璧な作法だ。ドラゴネットの疑問にボールスもうんと頷く。そこでアーサーは二人共、彼女が夜遅くまで作戦会議に携わっていたことを知らないのだと悟った。確かに食堂を見渡して見ても会議に参加していたサグラモールとグリフレットは来ていない。隊長クラスは来ているが。ちなみにペリノアは皆と共に食堂で食べたいと言っていたが各隊長に却下されたのでいない。ただ、報告に来た隊長達の顔が歓喜と後悔と苦悩にまみれたぐちゃぐちゃの笑顔だったことでだいたいは分かる。


「あー……もしかして昨日ぐっすりだった人ー?」


挙手してーと言うように自分も挙手してアーサーが言えば、首を傾げたまま二人が挙手する。


「昨日状況が一変したじゃん。それでサグラモール、ノア様とグリフレットと一緒に会議に参加してたみたいで。終わったの夜中なんだよね」

「へぇ……て、夜中?!サクラちゃん夜中まで起きてたの?!」

「お疲れ、様……」

「うん。だからボールスに頼みたいなって」


アーサーの説明にボールスは納得したようで「任せて」と胸を張り、親指を立てた。そのなんとも頼りがいのある姿にアーサーは嬉しくなって笑う。


「ありがと。じゃあとでお願いね」

「アーサーくん、あたしは?」

「ボールスに聞いて。俺は良いけど」


ニッコリと笑って「あとでね」と手を振って二人と別れるアーサー。ドラゴネットが食器を戻すアーサーの背後でボールスに抱きついているのが視界の隅に見えた。良いよと言ったのだろう。まぁ人が多い方がルシィも喜ぶだろうし、と連絡魔法で会話をする光景を思い浮かべてアーサーは楽しみで笑う。いつの間にかドラゴネットとボールスだけだったのが『覇者』全員大集合になっているのだと思うとアーサーは可笑しくて仕方がなかった。さて食器を戻し、食堂の観音開きになった扉を押して出る。とそこで寝起きなのか大きな欠伸をかますカラドックに出会った。まだ眠気眼なのか、ただ単にアーサーが視界に入っていないだけなのか、眠そうに頭を掻きながら食堂に入っていく。その後をパロミデスとフローレンスが不安そうに眺めるや否や慌てて食堂に駆け込んでいく。駆け込む際「はよ」「おはようございます!」とアーサーに挨拶するのも忘れずに。


「おはよー……って、お?」


ドンガラガッシャン!駆け抜けていく二人に挨拶を返した途端、食堂から響く甲高い音。なにかが倒れたのだろうか。少し気になったアーサーだったが扉の向こう側から「大丈夫かよー」と呆れるパロミデスの声がしたので大丈夫だろう。語尾が微かに震えていたのは笑いを堪えていたと云うわけではないはずだ、多分。大丈夫だと踏んでアーサーは食堂をあとにする。

はてさて、これからどうするか。本日の会議はおそらく変更点と夜遅くまでやっていたことを考えるに昨日よりも一時間程遅くなるだろう。そのあとにボールスの連絡魔法でルシィに連絡するとして、なにをしよう。そう考えながらアーサーが廊下を歩いているといつの間にかほとんど部屋のない一階に辿り着いていた。まるで夢遊病のようだ。考えすぎも大概にしなければ、そうアーサーが感じた次の瞬間、足元から雄叫びのような地響きが響いた。

まだまだ続くよ~最近、次回作を考えているんですが、ウチがやりたいのが全部似たような舞台というかなんというかでどんだけ飢えてるんだろうって一人で笑ってました。

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