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色無き王~十二の色~  作者: Riviy
第三部
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第七十九色 仲良しの延長線



第二回の会議ではやはり、と言ったところか新たな情報は確認出来なかった。辛うじて魔物の大侵攻に何体か魔物が加わったことくらいだろうか?あとは昨日の嫌悪というか微妙な空気さえもなく、淡々と会議が進められた。というよりもお茶会に近かった気がするのは無理もない。また会議では隣国や他国から武器の物資や食料が数日後に来ることが報告され、それまでに籠城戦にならないことを祈るばかりだ。魔物の動きも比較的ゆっくりなため、当初の予定よりも防衛戦は遅く、長期に渡ると見られている。おそらく、魔物側にも司令塔がいるであろうし簡単に終わるわけは絶対にない。


「……疲れた」

「どうしたのガヘリス」


城壁の屋上、見張り番が常時いる部屋と大型の武器が置かれた武器庫から少し離れた場所で。ガヘリスは屋上の平らな場所に突っ伏し、腕を空中に投げ出していた。冷たい石が先程まで微妙にお茶会風味だった会議で出された紅茶で蓄積された熱を冷ましていく。少し彼が爪先立ちしようものなら真っ逆さまに訓練中の仲間達の中へと落っこちてしまう。そうなりそうで不安なのかアーサーの隣に立つルシィがオロオロとしている。


「だってさぁ、聞いてよ」

「ハイハイ聞くから立って?ルシィが心配してる」


のっそりと顔を上げるガヘリスにアーサーが苦笑をもらしながら言えば、彼とルシィの目が合う。ガヘリスはこちらもゆっくりと起き上がると平らな部分に背を預けながらルシィに向かって笑いかける。


「俺これでも風の座ですよ?落ちても〈空を飛びましょう(フライ)〉か〈風に乗って空(フライ・)を飛びましょう(ジャンプ)〉使いますし、安心してください。今さら誰も欠けたりしませんよ」


ね?と笑うガヘリスにルシィはホッとしたように小さく笑ったが、「しかし」と告げる。


「しかし、そうだとしても心配になるでしょう?その……友人、ですし」


ルシィの言葉に今度はガヘリスが目をパチクリさせる番だった。ルシィは友人と言ったことが恥ずかしいのか嬉しいのか頬はピンク色に染まっている。え?とアーサーを振り返るガヘリスに彼はクスクス笑う。初対面時は六人の『覇者』にもアーサーにも何処か他人行儀が強かったルシィだが、旅を通じてだいぶ軟化したようだ。と云うよりも友人や仲間という存在が嬉しいのかもしれない。ルシィは双神の臣下であってある意味我が子。そして擬人化という類い稀なる珍しい存在。だからこそ緊張も警戒も人一倍で使命感も人一倍だった。初めて会った時とはまた違う変化にガヘリスはキョトンとしていたが嬉しそうに笑うと云う。


「心配してくれてありがとうございます、ルシィさん」

「どういたしまして、ガヘリス」


ニッコリと笑い合う二人にアーサーも嬉しくなって笑う。なんだが二人の間にほわわんとした花の幻が見えているかのようでなんともなごましい。「で?」とアーサーがガヘリスに話の続きを促すと彼は嗚呼と手を叩き、「聞いてよ!」と叫ぶ。


「ディナダンさ、フローレンスとボールスと仲良くなって嬉しそうなんだよね」

「それは良いことなんじゃないの?ねぇルシィ」

「はい、仲が良いことは良いことですし」


アーサーがルシィに同意を求めると嬉そうに手をパンッと合わせて微笑む。「そうなんだけどぉ」と何処か納得がいかない表情を浮かべるガヘリスにアーサーは嗚呼と察し、ニヤリと口角を上げる。とガヘリスの首に腕を回して悪戯っ子の笑みを浮かべる。突然のことにガヘリスは驚いていたが次のアーサーの言葉に再び驚く。


「ディナダンが急に仲良い子増えて嫉妬でもしちゃった?」


その言葉にガヘリスは気が動転したのか裏返った声を上げ、ルシィは微笑ましく二人のじゃれ合いを見つめる。図星を突かれたのか、ガヘリスは声を荒げる。


「ち、違うし!ただ、仲が良い子増えて良かったなって!?ほら、俺、末っ子だしぃ!?」

「声、裏返ってますよガヘリス」

「裏返ってない!!」


「もぉー!」と両腕を上げて怒る様は頼れる戦士ではなく、末っ子のよう。それにアーサーとルシィはクスクスと笑えば、ガヘリスは言い訳を諦めたのか腕を組んでそっぽを向く。ディナダンが彼らと仲良くなって嬉しい半面、何処か寂しいのだろう。まぁディナダンもフローレンスも相手の動向というか感情を読むのに長けているのでガヘリスを引っ張ってでも連れ回すのが目に見えている。ガヘリスの視線の先、彼らがいる真下では多くの仲間達が訓練に勤しんでいる。その中にマーハウスとドラゴネットの訓練は鬼気迫ると同時に迫力が違い、周囲はその迫力に呑まれて完全に観戦と野次馬モードである。


「凄いことになってますね」

「まぁマーハウスさんは俺たちの国でも武芸に長けた王族を完膚なきまでに叩き潰すくらいだから」

「……それは怒られないんですか……?」


自分から矛先が外れて意気揚々と話し出すガヘリス。その内容にドン引きというか顔をひきつらせて驚いたルシィは悪くない。身を乗り出してアーサーが眼下の訓練、模擬戦を眺めているとマーハウスが大剣でドラゴネットに上段から攻撃する。凄まじい衝撃と衝撃波にドラゴネットの体が悲鳴を上げて痙攣する。しかし彼女はマーハウスの隙を利用し、刀を懐に差し込む。一進一退、その表現が模擬戦には合っていた。


「怒られないよ。そもそも国王陛下の命令(王命)でもあったし。やんなかったらマーハウスさんが怒られる」

「それでも彼女はやるんでしょう?戦いは正々堂々と云った方ですから」

「そう!」


ガヘリスとルシィ二人して楽しげに笑う声を聞きながらアーサーは眼下の模擬戦を見つめる。防衛戦なんて、魔物なんて来なければ良い。そう思ってしまうほどにこの時間は愛おし過ぎた。そんなことなど、あってはならない紛い物にも似た時間と気紛れな平和でしかないのに。チカッとアーサーは目になにやら反射するものを見た気がした。いや、マーハウスとドラゴネットの刃が太陽の光を受けて反射したように感じただけだった。チカッとした些細な痛みというかなんというか、言い表せない()()()に再び不安が募る。そうして一瞬にして脳裏を横切るのはあの悪夢。暗い暗い、まるで死を誘うような夢。死神の骸骨がいないにも関わらず手を優しく差し伸べているような。そしてその奥で微笑む人物。アーサーは暗い思考と痛みをかぶりを振って追い出すと観戦に徹底する。そんなアーサーの様子をルシィが心配そうに見ていたのも気づかずに。


「ガヘリスさーん!」


その時、屋上の出入り口辺りからガヘリスを呼ぶ声がした。三人で一斉にそちらを振り返れば無邪気に手を振るディナダンがこちらに駆け寄ってくるところだった。ディナダンの後ろからはフローレンスとボールスが手を繋いで必死に彼女を追いかけている。エーヴァ防衛城は広いため離れないようにとの配慮だろう。しかし一番はぐれそうなのはなにを隠そうガヘリスに体当たりの如く抱きついたディナダンである。


「なにディナダン」

「あのね!フローレンスとボールスと一緒にこれからお茶するの!ガヘリスさんもどうかなって!」


快く受け止めたガヘリスの腕の中でグリグリと頭を擦り付けて甘えながらディナダンが言う。ガヘリスはその頭を「痛い痛い」と笑いながら撫でる。


「ディナダン……待、て……」

「待ってよぉ……」


まるで兄妹のように戯れるガヘリスとディナダンの後ろにようやっとフローレンスとボールスが到着する。二人はガヘリスしかいないと思ってたのかアーサーとルシィを見つけるとバッと繋いでいた手を振り払うように隠した。真っ赤に染まる頬が楽しくて仕方がないと訴えて来て無邪気に防衛城を駆け回る彼らを彷彿とさせる。


「アーサー、と……ルシィ、も……来る?」

「そ、それは良いですね!」


手を繋いでいた何処か子供っぽい感情と行為を隠すため、ボールスとフローレンスが口早く言う。このあと特に用事はないし、それも良いかもとアーサーは考え、口を開こうとした。


「すみません、このあと私もアーサーも用事があるので」

「えー、残念」


アーサーの声を遮るようにルシィが言った。えっ、とルシィを見れば口元に人差し指を当てて小さく微笑まれた。どうやら言いたいこともしくは話したいことがあるらしい。そう読み取ったアーサーはルシィに小さく頷き返し「ごめんね」としょんぼりとするフローレンスとボールスの頭を撫でる。二人が参加できないことにディナダンは不機嫌ですと言わんばかりにプクゥと頬を膨らませる。


「えー!」

「しょうがないでしょディナダン。ワガママ言わないの」

「ガヘリスさんはディナダンのお母さんですか?」

「お母、さん?」


ディナダンを慰めるその姿が兄ではなく母親に見えたらしくフローレンスとボールスは云う。まぁグリフレットやカラドックを見ていればそう感じてしまうのも無理はない……ない、のか?あ、とアーサーとディナダンが思った時にはもう遅く。全力ダッシュでディナダンはフローレンスとボールスの手を掴むと


「にっげろーーーー!!」

「えええええええええええ??!!」

「待ちなさいっ!!」


勢いよく駆け出した。そのあとをガヘリスが同じように全力疾走で追いかける。見張り番が唐突に追いかけっこを始める彼らを見て「元気が良いなぁ!」とゲラゲラ陽気に笑い出す。多分、フローレンスとボールスにお母さんと言われたのが引き金だろう。本気で怒っているわけではないのでアーサーはもちろんスルーする。ディナダンも分かっているからこそ体力作りついでに遊んでもらっているのだ。勢いよくまるで台風一過の如くガヘリスを伴って去っていく後ろ姿と見張り番の軽快な笑い声を聞きながらアーサーはルシィを振り返った。


「で、なに?ルシィ」


アーサーの問いかけと云うよりも事実確認にも似た静かな声色にルシィは真面目な表情になりに凛と立つ。それに重要案件かと察する。銀色の瞳の中に心配を孕んでいることにも気づかずに。


「大丈夫ですか?」

「へ?大丈夫って、俺は元気だよ?」

「そういう事を言っているんじゃありません。最近、と云うかドラゴネットと合流した辺りから様子が時々可笑しいですよ?」


嗚呼、気づかれていたんだ。ルシィの言葉にアーサーは何処か安心していた。分かっている()()()なのに、分かっていない。ただの堂々巡りだってことは、俺が一番よく分かっている。多分、ルシィが言っているのは時折アーサーが見せる悩んでいるというか怯えているというか、どうにも言い表せない不思議な表情だろう。それもそのはず。悪夢が大幅な原因となっているのだから。ルシィは両手を体の前でまるで何処かの麗しき貴族のように綺麗に揃え、心配に顔を歪ませる。


「あの時も夢見が悪かったようですし……つい先程も痛みを堪えているように見えました」

「……そう」


ポツリと呟いたのはきっと自分でも気づいていないと思っていたからだろう。『覇者』が全員揃ったかつての伝説の再現中の舞台で、仲間なのに友人なのに感じる()()()。この違和感が劣等感という感情なのかさえ、アーサーには分からない。ルシィはポンッとアーサーの右肩を優しく叩き、笑う。


「なにかあるならば、言ってくれて大丈夫ですよ。貴方は強いですが、皆もいるんです。それに、私だって友人の一人でしょう?」


ね?と包み込むような優しい雰囲気はかつてアーサーが読んだ物語に登場する神のようで。「大丈夫」と支えられた手は暖かくて。アーサーはルシィという相棒であり友人であり仲間の存在にほんのりと心が暖かくなる。


「(嗚呼、本当に友人には敵わない。だからきっと)」


失うのを、奪われるのを拒絶する。悪夢それが真実でも予知夢でもないと知っていながら。不安が嫌な明日を呼び覚ましているのではないかと思ってしまって。アーサーはルシィの手を大丈夫と云う意味合いを込めて重ねるとルシィは少しだけ安心したように手を下げた。


「ありがとうルシィ。実はさ、最近夢見が悪くて」

「やはり、そうでしたか」

「此処に来てからは大分落ち着いたんだけど……」


云うつもりはなかった。だが今言わなくてはいけない気がしてアーサーは口をついで悪夢のことを言っていた。詳細な内容までは言っていないがそれだけでルシィはほとんど把握したらしく、顎に指先を置いて考え込む。


「それって、何時ぐらいからですか?」

「えーと……正確な時期は覚えてないんだけど……」

「明確でなくて大丈夫です」

「うん。えっと、確かサグラモールと会った日辺りからかな。自信ないけど」

「それ以前は?」

「……ない、かな」


うんと頷くアーサーにルシィはそうですかぁと考え込む。アーサーはルシィに言うことで視界がクリアになっていく気がする。以前は疲れが出たのかと思っていたがこうも連続ではないものの、続くのを考えるとなにか原因があるようにも思えた。そうだとしたら何故エーヴァ防衛城(ここ)に来た途端、鳴りを潜めたという疑問がわく。うーんとアーサーも一緒になって悩み出すが自分のことなのによく分からない。


「『覇者』の力とかそういうのに偶然にも疲れが重なっちゃっただけだと思うんだけど」

「連続でとなると疲れとは別の原因がありそうですね。日常に障害なんてものは……」

「今のところなしかな。内容がたまに重なるっていうかフラッシュバックするけど」


アーサーが悩むルシィの顔を覗き込む。とルシィもアーサーの夢見については経験というか分からないらしく、二人してお手上げ状態である。


「すみません、お力になれずに」

「良いんだよ。ルシィに言ったから少なからず軽くなったし」


「そんなに落ち込まないで」とアーサーがルシィに言うと、ルシィは少し安心したように笑った。友人の役に立てたのが嬉しい反面、解決出来なかったことに悔しい思いがあるようだ。全く真面目なんだから。クスリと口元を押さえてアーサーが笑うとルシィの苦笑が解れる。ありがとうという意味を込めてアーサーはルシィの肩を叩く。すると思い出したようにルシィが「あっ」と声を上げた。


「言い忘れていました。明日からダイヤ魔導国に行ってきます」

「ダイヤ魔導国に?どうしてそんな突然」


そこまで言ってアーサーはルシィがダイヤ魔導国に行く理由を理解した。


「お察しの通り、双神(主人)にご報告をしに行ってきます。戦いに関してもなにか助言を頂こうかと」

「それが良いね。『覇者』が十二人集まったのは双神のお陰だし」

「アーサーの夢についてもなにか知っているかもしれません」

「無理に聞かなくても良いよ?」


慌てて言うアーサーだったがルシィの笑っていない笑みに口を閉ざした。中性的であるが故に笑っていない目の迫力は凄まじい。


双神(主人)は先代のことも知っています。前列があるかもしれません」

「んー……あるのかなぁ。そんな話『伝説の物語(歴史書)』でも……」


うん、自信ない。二人して顔を見合わせて苦笑をもらす。そもそも歴史書にそこまで記載されていたら記録したエルフの立ち位置が気になるところだ。まぁ、そんなこんな。


「どうやって行くの?ルシィ、転移魔法使えないでしょ?」

「ええ。ですのでサグラモールに転移魔法で送ってもらう予定です。あとはダイヤ魔導国の知り合いの儀式関係者にお願いする予定です。こんな状況なのであちらも配慮してくださるそうで」

「そっか、気をつけてね」

「はい、ありがとうございます」


そう言ってハイタッチをかわし、二人は屋上から歩き出す。どうやら眼下の模擬戦はマーハウスとドラゴネットの引き分けに終わったようで野次馬をしていた仲間達からは大喝采を受けている。それにルシィと二人、アーサーは笑いながら階段を降りる。まだ追いかけっこが続いているのか階段ではガヘリスと楽しそうなディナダンの声が反響していた。嗚呼、いつまでもこんな平和が続けば良い。そう思ってしまうのは、そのあとを知っているからに他ならない。


次回は月曜日です!登場人物達が仲良くしていると作者も嬉しいのです。……というかいつの間にか八十行きますね。読んでくださりありがとうございます!

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