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色無き王~十二の色~  作者: Riviy
第二部
80/130

第七十四色 嘆くのは、狂乱者ではない


ゴウゴウと燃える炎の球体が憩いの場であろう広場も古い建物も不思議なほどに真新しい家々を飲み込みながらラヴェイラに向かって勢いよく降下する。魔法の範囲から逃れるために撤退するアーサーのいるところにも炎の熱さが伝わってくる。空気が振動してその振動が熱さを頬に叩きつけてくる。ドゴォン……と鈍い音を立てて炎の球体がラヴェイラの頭上に落下する。途端、熱さを伴った風圧と衝撃波が彼らを襲い、窓ガラスがガタガタと悲鳴を上げる。予想だにしなかった衝撃波にアーサーは足を踏み締めて耐える。だが、なにかが()()()()と感じてしまって。その理由は全然分からないけれど、けれど、なにかが……恐る恐ると言った鈍い動作でアーサーは顔を上げれば、地面に着弾したはずの炎の球体は何処にもなかった。いや、地面に着弾し、炎を巻き上げ破裂したのだから当たり前なのだが、それを示す余韻がなかった。広場付近に落ちたなら炎が飛び移っている可能性もあるだろうし、炎をまとった風圧に何処かで火の手が上がっても可笑しくはない。まぁ、そんなことなどないようにルシィが上手い具合に範囲を調整しているのだろうが。だとしても何故かアーサーは疑問だった。そうしてその疑問はラヴェイラがいるであろう場所の砂煙が晴れたことで露となる。


「アッハハハハハ!!!!」


鋭いもので板状のものを引っ掻いたような甲高い、不快な不協和音。そんな嗤い声と共に砂煙が真っ二つに切り裂かれ、その衝撃が新たな攻撃となってアーサー達を襲う。真っ二つに裂かれた砂煙の向こう側にいたのはラヴェイラ。火傷を負ってはいるがほぼ()()と言っても過言ではないほどに意気揚々と、爛々と目を殺気と狂喜に輝かせていた。放たれた炎をまるで瞳に写し取ったような瞳を輝かせるラヴェイラに息を飲んだのは、魔物と戦い終わった友人達だっただろうか?息を飲んだ意味は多分、誰もが感じ取った違和感と恐怖。と、その時、一息つく間もなく、ドラゴネットが何かに気付き叫んだ。


「ルシィさん!!」

「え」


だが、それはあまりにも遅すぎた。鬼気迫るその声にルシィが呆気に取られたのも束の間、ルシィの前にラヴェイラが躍り出ていた。気配もなく、音もなく突然、神出鬼没でルシィの目の前に現れた。突然の登場に驚くルシィをラヴェイラはヘラリと無邪気な子供が玩具を見つけた時のように嗤い、これまた目にも止まらぬ速さでルシィを攻撃した。早すぎて攻撃の起動さえ見えなかった。紅い血が風に揺れる花びらの如く大きく弾け飛ぶ。それと同時に吹っ飛ぶルシィの体に見えたのは斜めに切られたであろう一線。浅いようだがその一撃はルシィの意識を数秒間奪うには十分だった。ゴンッと鈍い音を響かせながら壁もろともぶつかり粉砕しそうになるルシィをカラドックが間一髪で壁に激突するのを右腕で防ぐと、意識が一瞬飛んだらしく、夢から覚めたばかりの微睡んだルシィの瞳がカラドックを捉えた。二人のもとにサグラモールが駆け寄るのをラヴェイラが視界に治めた途端、彼女は再び消えた。いや確かにそこにいたと言う証拠の小さな砂煙が残っていたが、まばたきをした瞬間、そこには誰もいなかった。


「!ドラゴネット、さんっ!」


ボールスの悲鳴にも似た声が響き、続いてドサッとなにかがぶつかった音が響く。その方向にアーサーが数秒間の間に巻き起こる現状の現実逃避からハッと我に返り、慌てて視線を向けるとラヴェイラがドラゴネットとボールスの前に立っていた。ラヴェイラはドラゴネットに剣を振り下ろしたようだが、ボールスがドラゴネットを突き飛ばし、杖で辛うじて防いだらしい。だが、ラヴェイラとボールスの腕力と攻撃力の差は歴然で。ドラゴネットを巻き込みながらボールスは衝撃に耐えきれずに後方に飛ばされる。ドラゴネットがボールスを受け止めたため、さほど大きく弾かれることはなかったようだが、衝撃波はボールスの額を切り、視界を紅で覆い隠した。ラヴェイラはそんな二人なんぞ知ったことかと今度はまさかの出来事に棒立ちになったフローレンスに目をつけた。ダランと両腕を垂らし、剣の切っ先が地面を擦る。その目に写るは『覇者』という獲物。先祖の仇。だから、それが誰であっても関係ない。殺せれば、良い。そう叫ぶようにラヴェイラは剣の切っ先を地面に擦り付けて不協和音を奏でながらフローレンスに向かって駆け出す。近くにいたグリフレットが「逃げろ!」と叫ぶがフローレンスは両手を握りしめ、少しでも時間稼ぎをしようと〈四つの海の(セイ)歌声響いたら(レーン)〉を発動させる。不協和音に混ざる美しくも儚い歌声にラヴェイラの足が一瞬止まり、剣の切っ先がカキッと音を鳴らす。しかし、それは一時的なものに過ぎなくて。


嗚呼、全てがスローモーションに見える。アーサーは自らが持つ剣をゆっくりと見下ろし、もう一度顔を上げた。目を逸らしたかった、でも、それは逸らしてはいけない現実という暴走。アーサーの視界に広がったのはいつしか見た悪夢。いつしか経験した友人を失いそうになった悲惨な現状と戦場。それが今、もう一度此処で起きてようとしていた。ルシィはカラドックの腕の中で倒れ、サグラモールが懸命に回復魔法をかける。額から血を滝のように流すボールスをドラゴネットが心配そうに支えている。グリフレットとフローレンスが突然暴走し始めたラヴェイラを止めようと悪戦苦闘しているが魔物と戦ったあとに最恐では体力も力量も違いすぎた。だから


「っっ!!」


一瞬目の前が瞬いて、悪夢を描いた。真っ赤に染まって、空も綺麗な茜色に染まったその風景は、悲惨すぎた。絶望を与え始めたラヴェイラをアーサーは空色の瞳で睨み付ける。一瞬、目の前で揺らいで見えた光景はきっと悪夢の続き。真っ赤な大地に立ち竦み笑みを浮かべるのはきっと、全てを壊し奪った張本人だけ。そんなこと、奪わせはしない。此処に集った光を、意志を、此処で散らすわけにはいかない。スッと上げられた瞳にうつったのは。

剣を振り上げるラヴェイラとフローレンスの間にアーサーは体を滑り込ませ、ラヴェイラの懐に一足で一気に攻め込むと剣を振り上げ、彼女の一撃を弾く。攻撃力と防御力が僅かに上昇した状態であろうとなかろうとラヴェイラの体は攻撃の反動で後方に仰け反る。そこにアーサーは膝で腹を抉るように攻撃し、後方に撤退させる。アーサーが顔だけで背後を振り返れば、安心した様子のフローレンスが小さく微笑んでいた。そうしてその歌声はさらに威力を増し、ようやく火傷の症状を感じ始めよろめいたラヴェイラを五線譜が拘束した。しかし、ラヴェイラはその五線譜を力業で引きちぎるとフローレンスを庇うアーサーに向かって片手を突き出した。その動きは先程と同じように速く、瞬きをすれば見失ってしまう。けれど


「見切れるっ!」


()()()のアーサーには()()()見切れていた。だからこそ、アーサーは背後に庇うフローレンスを押し出し、剣を頭上に構えた。ガキン、と甲高い音と凄まじい衝撃が波紋を描いて二人以外を攻撃する。腕が軽く感じて、体が軽く感じる。まるで自分自身が空気になってしまったかのように、体が自由だ。アーサーは小さく笑うとラヴェイラの剣を弾き、伸ばされた手を払う。払われたことにラヴェイラは「アハッ」と歪で不気味な、アマランスパープル色の瞳が満月のように広がり、続いて猫のように目を細めた。面白い、殺したい。そんな快楽に囚われていることは彼女の瞳からすぐに読み取れた。だから、アーサーは片足を軽く後ろに傾け、そちらに重心を傾ける。すると案の定、ラヴェイラはアーサーに向かって剣を振り回してくる。ブンッとくうを切った一撃を後方に仰け反ってかわし、不用意にも攻め込んで来たラヴェイラの懐に一気に接近し、剣を振る。ふりをして寸でのところで止めると足を刈る。剣が来ると思ったラヴェイラは足を刈られ、簡単に体勢を崩す。それはきっと、見誤ったからに他ならない。倒れかけるラヴェイラの左腕から魔具を片手で引きちぎり、加えてアーサーはラヴェイラが待ち望んだ通りに剣を振ってやった。ラヴェイラが意気揚々と地面に片手を付けて直撃を防ぐと下半身の力を使って跳ね起きると剣を振った。視界の隅から起き上がってきたラヴェイラの右腕から魔具を少しだけ切り刻むが、それを理解していると言わんばかりにラヴェイラはアーサーの剣に自らの剣を絡みつけ、お返しとばかりに腰を捻り回し蹴りを放つ。もはや密着していると言っても過言ではない体勢で蹴りを放たれたので防ぐことは到底出来ず、アーサーは脇腹に強打を受けるとそのままその勢いを利用してラヴェイラの追撃を逃れる。血走った瞳がまるで紅い涙のようにアーサーだけを追い求め、一点を求める。片足を軸に半回転し、ズザザッと移動したアーサーに向かって突っ込み、数歩前で空高く飛び上がり、剣を上段から振り下ろしかける。だが彼女の体を覆う火傷は着々とラヴェイラを追い詰め始め、彼女に辛さと痛みと困惑を与え始める。()()()()気づいているからこそ、アーサーは片方の口角を上げて笑うのだ。だって此処にいるのは、『覇者』で信頼する仲間だから。


「〈水よ全てを止めろ(ウォーター・ストップ)〉」


と、その時、ラヴェイラは背後から襲ってきた鋭い殺気に一瞬気を取られた。アーサーによって四つ中二つの魔具は奪取されているし、風属性に至ってはルシィに封じられている。ならば、その背後からの殺気に耐えられる術は?


「ないよなぁ?」

「っ!」


殺気とサラサラと流れる水の気配にラヴェイラが顔だけで振り返ればそこにいたのは水を纏ったカラドックで。水は空中に浮かぶカラドックを支えるべく空中でピタリと止まっており、まるで本当に時間が止まっているかのよう。一方のラヴェイラは風属性の魔法を封じられているため、徐々にその体は降下していく。驚愕しているラヴェイラの前方からアーサーがいなくなるが既に彼女の視界に彼はいない。ラヴェイラの視界にいるのは新たな『覇者』のみ。ラヴェイラはグルンッ!と首を回し、落下する中でカラドックに向き合うと剣を振り切る。それをカラドックは足場が安定した状態でナイフを縦に構えて受け流すと水の足場からラヴェイラを突き落とす。ラヴェイラが地面に着地したと同時に左右から魔法が襲ってくる。それらを()()素早く避けるラヴェイラにグリフレットが薙刀を振り回す。ガキンと甲高い音を響かせて武器が交差する。だがラヴェイラの体勢はグリフレットの薙刀を弾くだけの力を出すには至らなかった。その代わりとでも言うようにグリフレットがラヴェイラを弾けば、彼女は無理な体勢にただただ弾き飛ばされるだけだ。空中に投げ出され、飛んでいくラヴェイラにグリフレットが薙刀を振り残りの魔具を破壊する。空中に投げ出された瞬間、魔具を使用しようとしていたラヴェイラはグリフレットの行動に怒りに目をギラつかせ、唇が弧を描く。まだ出来ると思って、殺せると思っているのか。その怠慢が、自信が命取りだと『ヴェグス』は決して気づかない。空中で体勢を立て直すラヴェイラに前方から勢いよく跳躍しドラゴネットが突進してくる。剣を二つに分ける余裕さえないのか、ラヴェイラはドラゴネットの衝撃波にも似た攻撃を受け流す。と手首を捻り、剣の軌道を変えるとラヴェイラは下から剣を突き刺す。それを刀で受け流しつつドラゴネットは片方を後方に引き、刀を持つ腕も引くと刀身を平行にする。そうしてお返しとばかりに突き刺した。ラヴェイラは首を傾げる要領で一撃をかわせば、そこにドラゴネットは既にいなくて。いたのはアーサーの掲げられた足。首を傾げる要領でかわしたラヴェイラの顔がある位置。咄嗟に片腕を顔付近に引き寄せ、アーサーの蹴りの衝撃を和らげる。が次の瞬間、襲ってきたのは蹴りの衝撃ではなく、腹に来る重い一撃だった。


「全てに目を配ることは到底難しい。それは『ヴェグス』であっても、ね?」


クスクスと笑うアーサーの顔が遠ざかりながらラヴェイラの目に入る。少しずつ遠ざかるアーサーにラヴェイラは憎らしげに歯を食い縛った。倒れいくラヴェイラの腹には抱き着くようにしてドラゴネットが体当たりをかましていた。そう、ドラゴネットが突如として消えたように見えたのはしゃがんだからであり、アーサーが彼女から意識を逸らすためにラヴェイラに攻撃したのだ。ドラゴネットはラヴェイラを押し倒すと容赦なくいつの間にか持っていた剣をラヴェイラの肩に突き刺し、剣を振られる前にとすぐさま撤退する。ラヴェイラの甲高い悲鳴が響き、共に剣を振り回す。ラヴェイラは片手で血塗れになった剣を抜き放つと下半身をしならせ起き上がる。だがラヴェイラが片膝をついた途端、彼女の体が固まった。まるで油を長年指されなかった機械の如く、どう抵抗してもラヴェイラの体は動かない。理由としてはサグラモールとボールスが魔法で彼女を拘束していたからだ。ドクドクとラヴェイラの肩から流れ落ちる流血が彼女の興奮と悔しさと殺気を物語る。


「ドラゴネット、大丈夫?」

「大丈夫よ~アーサーくーん?でもさぁ、結構大胆な作戦ね?」

「サグラモールとボールスの魔法の腕を信じてるからね」


ドラゴネットの手を引いて立つのを支えながらアーサーが信頼しきった顔で言えば、地属性と想属性でラヴェイラを拘束していたサグラモールとボールスが「ん゛」と嬉しさのあまり、変な声が漏れる。


「それにフローレンスは周囲をよく見てるから歌魔法から違う魔法で援護してくれるのは分かったし、グリフレットとカラドックさんも素の攻撃力が高いから。隙を見てラヴェイラ(ヴェグス)を攻撃するのは分かってた。それにあのルシィの魔法攻撃で此処まで来れたんだし……ルシィの魔法のお陰。怪我しても俺やみんなに魔法かけて援護してたし」

「……よく見てるね?」

「あ、もちろん、ドラゴネットが体当たり(あれ)やってくれるって分かってたから俺も出来たんだけど」


突如、アーサーの信頼の矛先がドラゴネット自身に向けられ、彼女は一瞬キョトンとしたあと、「ふへへ」と照れたように頬を赤く染めて笑った。アーサーは全員を信頼して託した。だからこそ、ラヴェイラを捕らえることが出来た。だからこそ、あの時以上に()()()()。ルシィがフローレンスに支えられてこちらにやってくる。肩辺りを負傷したようだが、アーサーの言う通り、その手には補助系の魔法が纏っていた。アーサーは身長の差的に支えるのが多少辛いフローレンスから替わってもらう。ルシィが「お見事」と片手を出してくるのでアーサーはクスリと笑い、「そちらこそ」と手を叩いた。


『ヴェグス』は嘆きそうで嘆かない。

次回は金曜日です!

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