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色無き王~十二の色~  作者: Riviy
第一部
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第七色 訓練接戦


と、そう言うことでアーサーの訓練兼出立式がペリノアの鶴の一声で開催されることになった。訓練兼出立式と言っても模擬戦なのだが。六人いる『覇者』を半分ずつ二回戦分にわけ、そこに他の隊員を無造作に放り込んで最後の何人かになるまで戦う訓練だ。訓練というか模擬戦は全三回で終了。人数が多いため、最後の最後の一人までやると訓練時間内に終わらない可能性があるためだ。『覇者』は一回戦と二回戦に固まったのだが、何故かペリノアは「三回戦な」と二回戦分を放棄したので一つだけ『覇者』が二人になっている。


アーサーは足元にある地面に刻まれた深い線を爪先でなぞると剣を抜き放った。この線はペリノアが引いたもので、これを踏み越えたら負けと云うルールのために一応で設置したものだ。ちなみに踏み越えた場合、警報音が鳴る仕組みとなっており、間違うことは決してないようになっている。アーサーが参加するのは一回戦目、マーハウスとガヘリスだ。二人とディナダンはパール王国の兵だが、隣国で結構色々行き来しているため仲が良く、混ざっても誰も文句は言わない。まぁこの大人数に紛れてしまえば、鎧なんてただの風景でしかなくなるのだが。誰が誰に突撃して倒されていくのかは分からないが、準備運動を怠るわけにはいかない。屈伸して準備するアーサーの少し前ではマーハウスが大剣を手に、片手を自らの胸元に当てていた。


「〈火の精よ舞い踊れ(ファイアー・ワルツ)〉」


マーハウスの片手を仄かな赤い色が包み込んだ、かと思うとその光は彼女の周囲をまるでそれこそ妖精のように舞い踊る。今回の模擬戦は、魔法が使用可能というルールだ。ただし、使える魔法は一つだけ。魔法の種類はなんでも良いが一つしか使っては駄目というルールだ。中には魔法が得意な者もいるため、そのような配慮となった。ちなみに完全後方支援型のルシィは観戦客である。

コキコキと首を鳴らしながら火を纏うマーハウスはまるで彼女こそが炎だと言わんばかりの威圧さと静かな熱さを放っている。その反対側、人に揉まれるようにしてガヘリスがレイピアの調整を行っている。そんなガヘリスの持つレイピアには螺旋を描くようにして黄緑色の透明な羽が舞っており、彼も魔法を発動させたことがわかる。


「そろそろやるぞ!」


そろそろ始めるようだ。片手を挙げ、合図の魔法を撃たんとするパロミデスがおりその隣ではペリノアが訓練を行う仲間達に激励と云う名の視線を送っている。二人の態度にようやっと始まるのだと胸が高鳴り、表情は真剣そのものとなり、剣を持つ手に汗が滲む。仲間達も今か今かと二人を爛々とした瞳で睨むような視線を送りつつ、自分が取ろうとする相手の動向を伺う。やはり『覇者』と云うことでマーハウスとガヘリスに武器の切っ先も視線も向ける者が多いが、アーサーに向けられるものも確かに多い。ありがたいことだと思いつつ、アーサーは剣を構えた。その時、


「始めっ!」


バァン!破裂音と共に戦いの火花が切って落とされた。ペリノアとパロミデスの合図を耳に入れた途端、多くの仲間達がマーハウスとガヘリスに向かって跳躍する。だが、マーハウスは自らの身長を遥かに越える大剣を操り、飛びかかってきた仲間達を一気に敗北ラインまで吹っ飛ばす。ガヘリスは最初に付与した魔法が発動したらしく、目にも止まらぬ速さで相手の攻撃をかわし、線ギリギリで立っていたもとの自身の立ち位置の後ろに転ばせて投げ込んでいく。時たまに攻撃しては投げ込むと云う、無駄もすきもない疾風迅雷のごとく素早い攻撃タイプでマーハウスとは裏腹と言っても過言ではなさそうだ。マーハウスはどちらかと云うとユーウェインと同じ猪突猛進でいて少しバランス型。しかし今の彼女はまるで火を纏った台風のように危険な存在だ。とりあえず、あの二人は後回しだなとアーサーは自身を囲む同僚たる仲間達を見渡した。


「行きますよーロイさん!」

「はいはいどうぞ」


意気揚々とした声を上げながら仲間がアーサーに向かって振り上げた剣を振り下ろす。それを横にずれてかわすと背後に回り込み、背中に蹴りを入れる。前のめりによろめく仲間の脇から別の仲間が横に武器を振る。どうやら武器は槍のようでリーチが長い。アーサーがかわしてもすぐさま攻撃に移ってくる。クルクル回りながらかわすのも一苦労だ。と、背後に気配を感じ、瞬時にしゃがみこめば槍と後方から振り下ろされた武器が交差する。背後から攻撃しようとしたらしいが、残念。一瞬だけ止まった目の前の仲間の懐に一気に潜り込むと片手を突き上げ、顎を攻撃。すると仲間は顎への攻撃の衝撃で後方に倒れて行ってしまう。そんな仲間の手から槍を弾き飛ばしながら、先程攻撃してきた仲間に向けて剣を振る。勢いよく交差した衝撃にアーサーの腕が痙攣を訴える。頭上から落ちてくる槍を片足の踵を使ってキャッチし、放り投げると交差中の片手で掴み、石突きの方を仲間に突き付け振り回す。軽くかわれてしまったが、そこに剣をクルリと回して腹に柄を突き付け、体を二つに折り曲げさせる。そのまま仲間の手に槍を押し付け肩をどついて後退させ、ラインを越えさせる。と、横からアーサーに向かって剣が振り回される。咄嗟に剣を縦にし、振り返り様に防げば、目の前で火花が散った。


「目眩ましだね!」

「あれって光属性に見えて風属性なんだっけ?」


ユーウェインの腕の中で戯れていたディナダンが言えば、ふと思い付いたようにユーウェインが言う。風属性は天気関連も含まれるため、そう思ったのだろう。しかし、ルシィは違った。ルシィの考えではあれは風属性と光属性の合体属性だ。雷ならそれを間近に受けたアーサーの動きは止まるはず。しかし止まらないところを見るに光属性もしくは地属性で威力を押さえた可能性が高い。風属性を得意としていても雷の威力を下げるのは非常に難しく使用者の繊細な魔法技術が必要とされる。つまり、相手に絶対に怪我を負わせず、ただの目眩ましに使用する場合、合体属性の方が明らかに有効と云うことだ。まぁ、怪我を負わせるもしくは動きを止める目的ならば頭から落下させれば良い話だが。


「ちげぇぞ?あれ、目眩まし重視だろ?なら威力下げなきゃなんねぇし」

「え、あ、そうだっけ?アタシ、魔法からっきしだからさー!」


パロミデスに説明され、ケラケラとユーウェインは笑う。そんな彼女の頭をパロミデスが愛おしそうに撫でる。それにユーウェインは嬉しそうに笑い、ディナダンも嬉しそうに笑うのだった。

はてさて各言う目眩ましを食らったアーサーはと言うと。諸に食らった訳では多分ないのだろうが、チカチカする視界に後方によろめく。ガガガ、とダランと垂れ下がった剣がアーサーの混乱を表すように地面を抉る。が、ガンッと剣を地面に突き刺し、低い姿勢を取ると云うことで軸に回転する。そうすれば、アーサーに攻撃しようとしていた仲間も別の仲間も巻き込んで足を蹴り上げ、すってんころりん転ばせる。転ばせたがすぐさま体を捻って立ち上がるところを見るにさすが鍛えられた仲間だと嬉しく思い、関心する。いやいや、それより先に。地面を滑るように移動しつつ、奪うように剣を抜き放ち、上段から振り下ろされる一撃を防ぐ。防ぎつつ仲間の足元に滑り込み、そのまま背後に回り込む。そうしてバランスの悪い体勢になった仲間の頭を剣の鞘でカァーン!と殴るように振るふりをする。後方から漂うアーサーの殺気に仲間は知っているにも関わらず背筋を凍らせてしまい、彼を振り返って「降参!」と白旗を上げながら自ら敗北ラインを越える。それに「はい!?」と驚く仲間に剣を連続で振り回し、ドンドン後方に後退させれば、気づかないうちに線を越えていたらしく、仲間の足元で警告音が鳴った。


「?!ロイさん?!」

「駄目って言われてないしね」

「そうですけど!クッソ、悔しい!」


「頑張ってください!」と仲間が声援を送りながら総当たり戦エリアから出ていく。それに頷き、アーサーは周囲を見渡す。総当たり戦で残っているのは数十人。そのうち二人は案の定、マーハウスとガヘリスで数人が二人を倒そうと、技を受けてもらおうと攻撃を繰り出している。どちらか共倒れしてくれれば良いが……


「そりゃあ無理か」


背後からアーサーの頭を狙うように振られた武器に彼は剣を縦にして間に滑り込ませると防ぎ、振り返り様に振られた武器を弾く。アーサーの前髪を微かな風が撫でていく。それにアーサーは誰だか分かった。振り返るとそこにいたのはアーサーが考えた通りのガヘリスだった。あれ?と横目で後方を一瞥すると、先程まで彼と訓練していたであろう仲間数人が「あれ?!」「何処ぉ!?」と驚愕に目を見開きながら辺りを見渡していた。


「お手合わせ願いできますか?アーサー」

「お望みならば」

「ありがとアーサー。じゃ、いざっ!」


バッとレイピアを突き付けられるとアーサーはサッと身を翻してかわすと続いて来るであろう攻撃を防ぐために剣をレイピアに振る。カァン!と甲高い音が響く。二人の視線が合い、どちらと言うわけもなく笑う。レイピアを突き上げるようにして剣を弾くとガヘリスは大きく腕が上がり、隙だらけになったアーサーに向けて素早くレイピアを突き刺した。しかし、アーサーは剣を手中で半回転させると逆手持ちにし、勢いよく振り下ろした。間一髪と云うところで交差し、横に引く。そうすれば、レイピアに剣が絡み付くようになってしまい、アーサーが前方に引いたためにガヘリスは前に投げ飛ばされる形になる。だが、咄嗟に片膝をついて転がるのを防げば、跳躍するように立ち上がりまだ微かに魔法が付与されているレイピアを突く。ふりをして振り回した。飛び退いてかわすが突くと思っていた思い込みを利用したようなものだ。飛び退き様にガヘリスに向かって蹴りを放ち、距離を取る。そうして二人は一瞬睨み合ったのち、一歩踏み出し、武器を交差させた。が魔法が一瞬発動した。素早くアーサーの懐に潜り込むとレイピアを上に突き上げる。それをかわし、アーサーは上段から剣を振り下ろすとガヘリスはその重い一撃をまるで浮遊するように優しく、軽くかわす。一進一退、そう言っても良かった。いつも間にかマーハウスと相手をしていた仲間は敗北ラインを越えたらしく退場しており、マーハウスは友人二人の訓練兼対戦を大剣を地面に突き刺し、寄りかかるようにして立って観戦していた。全員が全員、二人の激戦を見守っている。けれど、これ以上時間がかかると二回戦と三回戦が行えないのもまた事実。嗚呼、でもなぁ。アーサーは残念そうに肩を竦めながら剣をおろした。


「ガヘリス、残念だけどこの後もあるから」

「えっ……嗚呼……でも合図出されてないし、良いんじゃないの?」

「俺と君とで決着つけて、マーハウスともやるまでにどれくらいかかると思ってんの」


腰に片手を当てて剣を肩に担いでアーサーが言えば、ガヘリスが「うっ」と呻いた。心当たりがある。以前、アーサーとガヘリスでどちらかが「降参」と言うまで訓練で手合わせをしたのだが、どちらも負けず嫌いな性格ゆえか、決着がつかず数時間にもおよぶ大接戦となったことがあった。結局、決着は付かなかった。それを考えれば、此処で名残惜しいがやめた方が良いのだろう。そう言うようにアーサーが剣を収めれば、ガヘリスも少々納得がいかない、残念そうな様子でレイピアを収める。


「おや、終わりかい?」

「時間なくなるからね。また時間ある時にやろ、ガヘリス」

「うん、無理はしないでやろう」


マーハウスが大剣を担いで二人に近づく。クスクスと楽しげに笑い、いつかの約束をガヘリスとかわしながらアーサーはペリノアとパロミデスの終了の合図を振り返った。

もう少しで一部終わるんで、今日中に終わらせますねー!

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