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色無き王~十二の色~  作者: Riviy
第二部
72/130

第六十六色 廃村は、朱く


アーサー達が魔物の集団から逃げるために駆け込んだ廃村は、やっぱり廃村だった。頭上を覆う厚い雲のせいでそう見えるだけかとも思ったがやはり違った。いや、廃村と言うには少し変かもしれない。廃村に入った彼らは一度、息を整える前に息を飲んだ。その理由は廃村というよりも普通の出来たばかりの村のようだったからだ。住人が集まって談笑していたであろう珍しい馬車の形をしたベンチがいくつも広場に置かれており、木で出来ているであろうにも関わらず、古びたり腐ったりは見る限りしていない。家であろう建物も真新しいとでも云うように赤と青の屋根が輝き、扉には色とりどりの可愛らしいリースが飾られている。今にも人が近くの家から「こんにちは!」と住人が出て来そうなほどだった。だが聖堂らしき建物は古びており、ステンドグラスはバラバラに砕け散っていた。その破片は建物内にあるのか、外からはなにも見えない。またシン……と静まり返っており、生気も感じらないためか真新しいにも関わらず幽霊が出て来そうな奇妙な感覚に陥ってしまう。何故か聖堂らしき建物が古びているため、余計にそう感じてしまう。


「……変な村」

「廃村、じゃよな?」


異様な空気と雰囲気を持つ廃村にフローレンスとサグラモールが呟く。誰もが二人のように本当に廃村かと疑ってしまっていたが、近くにあった井戸を覗き込んだボールスによってその疑問は払拭された。ボールスは井戸を身を乗り出して見ると滑車を回し、桶を地上へと引っ張り出す。だが桶の中には枯れ葉が一枚入っているだけで、入っているはずの水は何処にもなかった。もう一度、滑車の縄を動かし井戸の底に桶を送り込むがいくら待っても水に当たる音も水の感触も縄から伝わってくることはない。しばらくしてカァン……と桶が底についたらしく甲高い音が井戸から反響した。それを実行に移してボールスは全員を振り返ると両肩を竦めて見せた。水は来てすらいないよ、と。


「……やっぱり廃村ですね」

「でも真新しいよね。なんでだろ?」


ボールスの事実確認にルシィとアーサーが怪訝そうな声をあげる。そのうちカラドックが疲れたからとベンチに恐る恐ると言った様子で座る。とやはり案外新しいらしく、カラドックの隣にちょこんとフローレンスが座ってもギシリと軋む音さえしない。何故、聖堂らしき建物はあんなに壊れ古びているのに他は新しいのか?廃村だという疑問と人がいないであろうという疑問は払拭されたが、他の疑問がムクムクと浮かび上がってくる。本当に誰もいないのだろうかとアーサーが周囲を見渡しているとふと、足元の線に気がついた。それは足元を囲むように描かれており、この廃村に導いた黒い謎の線と同じもののように見えた。〈探索の眼(サーチ・アイ)〉は使っていないはずなのに、何で見えるんだろう?慣れない魔法で幻でも見ているのだろうか?アーサーは心中に浮かんだ多くの疑問符と不安を掻き消すように静かに片膝をつき、その線を指先でなぞった。途端に指先から脳に伝達されたのはネチョッという不気味な液体のような固体のような、その中間のような奇妙な感触だった。血のような、スライム状の魔物を触った時のような不気味な感触で、触れただけで悪寒が背筋を駆け巡る。なにこれ、気持ち悪い。その奇妙な感触にアーサーは驚きと吐き気を催し、そうして咄嗟に手を引いた。が勢いよく手を引いたためか軽く体勢を崩してしまい、アーサーは後方に背中から転びそうになってしまう。それを慌ててルシィが片腕を掴んで支えた。間一髪で倒れそうになるのを免れたアーサーはホッと胸を撫で下ろしながらルシィを振り返った。


「ありがとうルシィ」

「いいえ。しかし、なにを見ていたのですか?」

「あれ」


ルシィの支えを借りながらアーサーは立ち上がり、先程まで見ていた黒い線のような変な感触を持つ物体を指差す。ルシィはアーサーが指差した物体を「ん~?」と凝視するとアーサーと同じように物体に触れようとする。物体と云うよりも何処かに導くように伸びる線に見えるため、ルシィも触って確かめようとしたようだが、それをアーサーは慌ててルシィの腕を引いて引き止めた。自分を引き止めるアーサーにルシィは不思議そうにしていたが、彼の異様な怯え様というか不安そうな表情に触るのをやめた。ルシィが困ったように手を引っ込めるのを見てアーサーは安心してしまい、はぁと息を吐いた。そうしてようやっと〈探索の眼(サーチ・アイ)〉がかかっていなかったルシィにも普通に見えることにアーサーは気がついた。つまり、あの時見たものではない?不思議そうに視線で会話し合う二人にグリフレッドが気付き、「どうかしたのかな?」と二人の視線の先を見る。グリフレッドもよく分からない物体が先程の線とは違うと所見で気づいたようで、「うむ」と腕を組んだ。


「なんでこんなところに魔物の血が?」

「え?あれって魔物の血なの?」


まさかの単語がグリフレッドの口から出てきたことにアーサーとルシィが驚き顔を見合わせる。ていうか、これ魔物の血なの?と言いたげに興味深そうにルシィが物体を再び凝視すれば、アーサーが「やめといたら」と腕を引っ張る。あの変な感触が脳裏にちらつき、あの悪夢と一瞬交差する。何故交差したのかアーサー自身も不思議だったがかぶりを振って追い出す。アーサーもほぼ初めて見たような魔物の血に興味があったがやはりあの感触が怖かった。


「魔物の血って、こんな風に線状?というんですか?不思議な形をしていますね?」

「ていうかさ、魔物の血ってこんななの?初めてなんだけど」

「正確には凝血したものだね。普通は死んだあと魔物と一緒に消えるから知らなくて当然だけど、虫の息だった時とかに動かすと早く固まって出来るんだ。こんな風に伸びてるってことは引きずったとかそういう……」


そこまで言ってグリフレッドの言葉は途切れてしまった。そしてオロオロと揺れるグリフレッドの目と二人の目が合う。グリフレッドの言うことが正確ならば、つまり?


「魔物がいるってこと?!」

「ど、し……たの?」

「坊主どうかしたかー?」


アーサーの驚愕の声にベンチ周辺で休憩していたカラドック達が反応する。ゾロゾロとこちらにやってくる彼らにグリフレッドが物体について説明すれば、一瞬にして全員に警戒の色が滲む。それもそうだ。もしかすると瀕死状態の魔物がいるかもしれないのだから。魔物から逃げて来たのに魔物を見つけるってどんなミラクルだ。なんだかんだ魔物に囲まれているという事実にアーサーとルシィが同時にため息をついたの無理もない。


「魔物の血?は何処に向かってるんだろ?」


フローレンスが線上の血を腰を屈めて無邪気に、興味津々と言った様子で跡を辿っていく。それにボールスがまるで雛のようにチョコチョコと彼の後をついていく。その様子が可愛らしくて、警戒する場面なのに和んでしまった。二人して跡を辿るフローレンスとボールスの先導のもと魔物の血を追っていくとたどり着いたらのは先程も見た廃村のような村に似合わない壊れた建物だった。近くに寄ってよく見ると建物の奥の方には鐘がついた別の小さめの建物があり、こちらも同様に古び、鐘は遠くから見ても分かるほどに錆び付いている。建物自体にもヒビが入り、叩けばバラバラと積み木のように崩れ落ちそうである。先に建てられたものがなにかの記念にでも残っているのだろうか?古さは確実に聖堂らしき建物の方が古く見えるが。全くもって奇妙すぎる。それは鐘やステンドグラスの有無も関係しているのかもしれない。


「……村自体は新しいのに此処だけ古いっつーのは、やっぱ可笑しいよなぁ?」

「うん、此処だけが立て替える前に何かの理由で全員いなくなったなら分かるけど……魔物が侵攻してきたにしても、ねぇ」

「この建物だけ攻撃して他は攻撃しないなんて、そんな状況は多くないと思うがのぅ師匠」


聖堂らしき建物と教会のみ、こんなにボロボロなのはやはり可笑しい。後ろでそう言い合うカラドック、グリフレッド、サグラモールの言葉にアーサーは無意識のうちに頷いていた。と建物の少しだけ開いた扉の隙間を覗き込もうと動き出そうとしているフローレンスとボールスに気づいた。中に誰がいるか分かったもんじゃない。それに魔物の血は掠れていたが扉の中に向かって進んでいた。それに一応で警戒の意味を示そうとアーサーが振り返りかける。すると、二人の首根っこをルシィが掴んで捕獲していた。フローレンスは自分の意志を周りのためにと押し込んでいたことがあったためか、興味津々が止まらない。そんな彼にボールスも刺激されているようだ。まるで母猫が子猫を掴んでいるようで、いつしか自分とパロミデスがガヘリスにやられていたことを思い出して、アーサーは小さく笑った。その笑いが何処か寂しげに見えたのはルシィの気のせいだろう。


「二人共、危ないから素直に覗くのはやめなさい」

「えー……でも」

「でもじゃないでしょフローレンス。興味津々なのは良いけどね。ルシィ、どう思う?」


フローレンスとボールスの首根っこを掴んでアーサーの方を振り返るルシィ。アーサーが建物の中に敵がいると、不思議なこの村、そして魔物の血に警戒と緊張を示していることにルシィは気付き、両手の二人をサグラモール達の方に行かせつつ考え込む。


「先程の魔物との仲間とも、怪我人とも限りませんし……様子見で行きません?」

「それ、て……中、見、る……?」

「そうだね。もし魔物が生きてたら仲間呼ばれる前になんとかしたいし」


二人の後ろからボールスとグリフレッドが言えば、全員の意志は固まった。凝血した物体を睨み付けながらアーサーは剣を抜き放つ。そして黒い線に導かれるように建物の扉に静かに歩み寄った。背後を軽く一瞥すると全員が緊張した面持ちで頷いていた。「慎重にな~」「静かにっ!」と何処か緊張感のないような気の抜けた会話も聞こえた気がしたが今はスルーだ。怖がりたくない、そんな心情でのことはもうわかっている。アーサーは苦笑をもらしつつも頷き返し、剣をしっかり握ると扉のドアノブに手をかけた。隙間が開いているため鍵はかかっていないようだが、ギィギィと結構な甲高い音を奏でている。それに一瞬アーサーはドアノブを静かに開けることを躊躇ったが、意を決して扉を少し開けた。少し大きくなった隙間から見えたのは粉々に割れた色とりどりのステンドグラスと、腐った多くの長椅子。均等格に並んだ長椅子が作り出すロードには黒い一線が無情にも引かれ、もとは多くの人を歩かせたカーペットは今やその栄光を失っている。その先、少し高くなった祭壇には大量の黒い物体がまるで夜に輝く宝石のように積み重なっている。だが、美しくは決してなく、禍々しいことこの上ない。その物体はまさしく、魔物の今にも消えかかっている亡骸だった。だがそこに魔物ではない()がいることにアーサーは気づいていた。背後の彼らに視線で「中に行く」と告げ、ギィィイと軋んだ音を立てながら扉の隙間から中に入った。本当に魔物が死んでいるとも限らないので音を出さずに行きたかったが、これでは到底無理だろう。アーサーの視界の隅でルシィが入るのが見え、そうして息を飲む声も聞こえた。それを一旦頭の隅に追いやり、アーサーは先に進んだ。心臓がバクバクと五月蝿いのは一瞬視界に入った()()のせいだ。


「っ!」


鼻をつく異臭は魔物の亡骸だけではない。それと共にする硝煙の匂いが混ざり合い、吐き気を催してきてアーサーは咄嗟に鼻を腕に押し付けた。しかしその異臭は鼻だけでなく目も攻撃してきて、アーサーは胃からなにかが込み上げてくるあの嫌な気分に陥る。だが、その様子を確かめなければならない。意を決して足を踏み出せば、黒い暗闇に差す一筋の紅が見えた。それはまるで白い雪にたなびく小さな色のようで、そして恐怖を煽る。サァとアーサーの顔から血の気が引く。見たくなかった事実に、体中に電撃が走り緊張と警戒、そして恐怖を伝える。


「?アーサー、ど、し……」

「見ちゃ駄目!」


立ち止まってしまったアーサーを心配してボールスが彼の前を覗き込もうとすれば、ボールスの顔を覆うようにして彼女にサグラモールが後方から抱きついて引き止めた。驚くボールスの背後では怯えた様子のフローレンスをカラドックが背に庇っており、グリフレッドは薙刀を手に険しい顔をしていた。そしてルシィは、アーサーを気遣うように彼の隣に立っていた。ルシィがチラリと彼を伺うと案の定、茫然自失と言った様子だった。


「(……それもそうですよね)」

「……悲惨すぎる……」


そう呟いたアーサーの声色には恐怖と哀愁と云うような悲しげな色が混ざっていた。 魔物の亡骸と共に横たわっていたのは紅い血を体中から流す人間数人だった。いや、人間で合っているのだろうか?だって、彼らは一人は粉々に切り裂かれ、また一人は原形をとどめていないほどにボコボコにされていた。内臓は掻き出され、目玉は割れた卵のように真っ二つになり、腕や足はあり得ない方向を向いている。一人として完全な人間の形を保っているとはとても言い難い。これでは誰が誰だが分かったもんじゃない。祭壇は黒と真っ赤に染まり上がり、まるで悪魔を呼ぶ儀式のようだ。


「殺されてるのって、この村の……?」

「いや、その可能性はないよ。この村の生活感から見て人がいなくなったのは二週間は前。この人達が村人なら腐敗が進んでるはず」


アーサーのもっともな疑問にグリフレッドがアーサーの左側に並びながら自らの知識をもって分析する。グリフレッドの分析が正しければ、この人達は誰?


「じゃ、じゃあその人達は、何処から来たの?」


カラドックの背から顔を少しだけ覗かせてフローレンスが言う。三人の前に広がるいつも以上の悲惨な惨劇に震えが止まらないらしく、足が生まれ立ての小鹿の如く震えている。そんなフローレンスを落ち着かせようとカラドックが彼の頭を優しく撫でる。その近くではサグラモールとボールスが惨状に両手を握り締め合っている。そう、フローレンスの言う通り。問題はそこだ。


「……ん?あれ?」

「どうしましたアーサー?」

「いや……やけに目が血走っているような」


ふと、アーサーは既に死に何処を見ているか分からない死人の目に注目した。濁り光さえ見失った虚ろな瞳はまさに死人で、希望を絶望に塗り替えられていた。しかしその目には絶望ともう一つあって。それは何度も感じた殺気であることは相手が死んでいようとも分かっていた。目玉に刻まれた紅い一線。その一線はおそらく……


「『世界戦争狂信仰者ヴェグス』……?」

「あれぇ~?なんで()()()のに立ってるの~?」


すみません遅くなりました!投稿です!

次回は金曜日です!

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