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色無き王~十二の色~  作者: Riviy
第一部
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第六色 『覇者』の集い


宮殿内ではなく外ーだがしかし壁の中ーにある訓練所は内部にある訓練所よりも広く、空気が澄んでいた。澄んでいた、と言っても多分、まだ本格的な訓練が始まっていないからだろう。アーサー達が訓練所に行くとほとんどの騎士団隊員は揃っていたらしく、魔法を使用しない訓練を始めようと数人ごとにグループを組んでいる。騎士団での訓練は時間内に各々やることが多く、大人数でやるには少し手間がかかる。まぁ、数日に二度はやるようにしている。また此処は一応外に存在するため中よりも緑が多い。宮殿内も庭園で緑が多いが、それとはまた違った緑が覆い茂っており瑞々しい気がする。広い訓練所にアーサーの隣でルシィが興味津々と云った様子で辺りを見渡している。その横でアーサーは先に来ているであろうユーウェインとパロミデスを探す。訓練をサボってイチャイチャしていなければいるはずなのだが……


「アーサーさんみーっけっ♪」

「おわっ!?」

「アーサーさん?!」


突然、アーサーの腰を多少の衝撃が襲った。どうやらアーサーに向かって誰かが背後から抱きついて来たようだ。後ろから抱きつかれたので瞬時に反応できなかったが、ペリノアは気づいていたらしく、ぶつからないように少し横にずれていた。と言うことは。なんとなく()であるか予想がつきつつもアーサーがゆっくりと背後を振り返ると腰辺りには思った通り、金色と黄色の柔らかそうな頭がそこには生えていた。


「んっふふ~♪久しぶりアーサーさん!」

「久しぶり、ディナダン」


ふわふわの髪を優しく撫でれば嬉しそうな声が背後から漏れ聞こえる。ルシィが怪訝そうに背後に回り込めばアーサーに抱きついていたのは鎧姿の幼い少女だった。騎士団に鎧姿の人は誰一人としていないので多分正規の騎士団ではないのだろう。しかも、この懐きようからして友人だろうが、一体誰だろうか?それに……ヒクヒクとペリノアとユーウェイン、パロミデスと出会った時のように鼻を蠢かすルシィにさすがだなぁと思いながら「撫でて撫でて!」と言わんばかりに頭を擦り付けてくる少女の相手をしているアーサーの代わりに、ペリノアが問う。


「誰だかわかったか?」


その問いかけにルシィは数秒間考えた後、周囲を見渡し、ペリノアを見た。言っても大丈夫か、と言うことらしい。ペリノアが大丈夫だと頷けば、ルシィは言った。


「光の座『光耀こうよう』ですね」

「え、すっごーい!お兄さんすごいね!」


ルシィの答えに少女が感心し、嬉しそうにルシィを見上げて連続で「スゴいスゴい!」と笑顔で無邪気に称賛するものだからルシィは嬉しいやら恥ずかしいやらでカッと頬を染めてしまう。そこまで褒められるというか言われるとは思ってもみなかったのでみるみるうちに表情は緩み真っ赤に染まっていく。それがなんだが照れてなのか恥ずかしくてなのかルシィが顔を両手で覆えば、少女がこれまた無邪気に「なんで隠すの?」と顔を覗き込んで来るので引くにも引けない。チラリとルシィがアーサーとペリノアに助けを求めれば、微笑ましそうに微笑された。またカッと顔に熱が灯ったのは絶対に勘違いではない。さすがルシィ。


「助けてくださいよ!」

「いや~ディナダンっていつもこんなだし。ねぇノア様」

「なぁアーサー。それにもう少しで保護者来るしな」

「保護者……?……あ!」


ケラケラと楽しそうに笑って言えば、少女の矛先がルシィからアーサーに戻る。少女の頭突きにも似た抱擁を片手で受け止めれる。その言葉にようやっとルシィが顔を上げれば、彼らの言う保護者に気がついた。アーサーとペリノアの後方、自分達が入ってきた入り口付近にこちらにやって来る二人の人物。少女と同じ鎧姿に身を包んだ二人から放たれるオーラにルシィの表情が驚愕に歪んだ。アーサーももう気配で分かる二人にペリノアと一緒に振り返った。悪戯っ子の笑みをいつの間にか浮かべていたペリノアの顔を見て、訓練所の変更はこのためかとアーサーは内心思った。


「ディナダン!」

「『風流』と『紅蓮』ですか?!」


少し高い声とルシィの驚きの声が重なった。走ってきた青年……よりも少年に見える人物がアーサー達三人の前で九十度の綺麗な姿勢で頭を勢いよく下げた。ペリノアが「大丈夫」と言おうとする前に少年が叫ぶ。


「申し訳ありません!ディナダンから目を離したばかりに!」

「ガヘリス、大丈夫だって前々から言っているだろ?私だってアーサーだって気にしてないし。それにディナダンは騎士団の女性陣からは結構可愛がられてるぞ?」

「可愛がられてるのは知ってます」

「じゃあ良いだろ」

「よくありません!ノア様は皇族ですよ?臣下に下るとは言え!」


少年が緊張した面持ちで叫べば、うーんとペリノアは一瞬迷ったのち頷いた。


「……アーサー」

「分かりました。明日茶会のセッティングしておきます。ルシィも参加ね」

「え、あ、はい」


突然の決定に驚きを隠せないのはルシィだけではない。目の前の少年だって「え」と茫然としている始末だ。一方少女は「ユーウェインさんたちとお茶会っ♪」とルンルン気分でアーサーにもう一度抱きついていた。


「え……茶……はい?」

「ガヘリスも参加な。一緒に男子会?だっけ、しようなー」

「……っ、それ俺が断れないの知ってやってます?!」

「やってる」

「ノア様そういう人だから」


顔を見合わせて笑うアーサーとペリノアとは裏腹に少年は観念したように肩を竦めた。この人達には本当に勝てない。そう言っているような感じだった。アーサーは少年の肩を叩きつつ、もう片方で少女の頭も撫でる。フニャリと二人して嬉しそうに心地よさそうに表情を緩めるのだから可愛いわけがない。


「楽しそうだね」

「そりゃあね。妹と弟みたいなものだし。いないから分かんないけど」


二人を可愛がるアーサーに少年と同じ方向からやって来た女性がハスキーな声を響かせながら言う。女性はさりげなく、それでいて優雅にペリノアとルシィに礼を取る。ルシィも慌てて慣れない礼をやり返し、女性に微笑ましそうに見つめられる。先程こんなんばっかである。けれど


「『紅蓮』もいるってことは……パール王国の『覇者』、ですか?」

「おや、おやおや。ではルシィというのは君かい?ふふ、そうさ、私とディナダン、ガヘリスはパール王国の守護戦士団所属の『覇者』。友人のお誘いを受けてやって来たよ」


口元を押さえて優雅に、それでいて何処か不思議な雰囲気を醸し出しながら女性が言う。アーサーは自分の腰辺りにいまだに抱きついている少女と少年をルシィの前に歩み出させるが、ふいに女性の言うお誘いが分からず、問いかけた。


「マーハウス、お誘いって?」

「おや、聞いてなかったかい?ノア殿下が言っていると思ったが……殿下、またですかな?」


「えっ?!」とペリノアを振り返れば、ニィと悪戯っ子の笑みを浮かべていた。嗚呼、やっぱりあの時の笑みと行動はそういうことかと納得が行った。ルシィも納得したようだったが、少女と少年は微妙であった。


「サプライズも面白いだろ?」

「ハハッ、そうですね。お茶会もですか?」

「いや、それは突発的に」


突発的!?それに我慢ならずにアーサーが噴き出せば、ペリノアも笑い出す。なんだか分からずにみんなで笑い合えば、周囲の仲間から温かく優しく微笑ましい眼差しを向けられる。なんだかそれが恥ずかしくもあって……そんな熱を追い払うべく、自己紹介に移ろうとするアーサーの視界の隅にユーウェインとパロミデスが入る。が迷うことなく続ける。


「この子はルシィの言う通り『光耀』を司る」

「ディナダン・モールです!モール男爵家の次女です!ヨロシク!」


「はい!」と元気に手を挙げて少女が言う。

少女、ディナダン・モールは金と黄色が混ざった明るい髪色でお団子にしている。結び目にはキラキラと今にも輝き出しそうな星の形をした髪飾りをし、ローズピンク色の瞳。格好はやはり鎧姿だが、動きやすさ重視のものだ。

一歩自ら歩み寄り、軽く頭を下げてから少年が言った。


「ガヘリス・サラディガと言います。ご存知のようですが一応として。パール王国守護戦士団所属、風の座『風流』を司らせてもらっています。以後お見知り置きを」


礼儀正しく告げる少年にルシィも同じように頭を下げた。

少年、ガヘリス・サラディガはグリーンアース色のショートで右のもみあげを三つ編みに結んでおり、アップルグリーン色の瞳。格好は同じく鎧姿だが腕回りや足回りにあまり鎧がない軽量タイプのようだ。


「で、こちらがパール王国守護戦士団一の騎士」

「一番は言い過ぎでは?マーハウス・レオネスと言う。ご存知の通り火の座を司る『紅蓮』だ。よろしく頼むよ」


ヒラヒラと手を振るようにして女性が言う。女性、マーハウス・レオネスはワインレッド色のベリーショートでルビーレッド色の瞳。首に炎を模したネックレスをし、鎧は二人よりも露出度が広く、ディナダンとガヘリスと比べると防御力が低めな印象を受けるがそれももろともしない強者のオーラを漂わせている。


「よろしくお願いします」

「あれ?!みんな来たのー!?」


その時、アーサーの視界に入り込んでいたユーウェインとパロミデスが到着し、合流した。「わー!」と抱きつくディナダンを快く受け止めるユーウェインとそれを温かく見守るパロミデスに悪戯するようにアーサーは言う。


「ユーウェイン、パロミデス、ちゃんと来たね」

「ちゃんとってなんだよちゃんとって」

「二人が来るか心配だったんでしょ」

「夫婦だしね」

「おいテメエら?!」


アーサーの言葉に乗るようにガヘリスとマーハウスが言えば、怒ったような表情でパロミデスが片手の槍を掲げる。それから逃れるかのごとく二人がアーサーの背後に回り込めば、全員が楽しげに笑う。此処に二ヵ国の『覇者』六人が友人及び反撃のために集結した。強者達の集結に凄まじいオーラが友人達から放れているように感じてアーサーは眩しそうに目を細めた。その中に()()入っていることを()()()気付いてる。アーサーも、強者だと。

周囲の羨ましそうな、混ざりたそうな、興味津々な視線にペリノアが気付き、グッとアーサー達に見えないように周囲の仲間に親指を立てる。仲間が嬉しそうに、それでいて何処か興奮したようにペリノアに親指を立て返す。


「あの……ノアさん、その指は?」

「嗚呼、これか。これはな、『覇者』全員との手合わせが出来ると云う合図だな!アーサー、貴殿の出立式とでも云うような、なっ!」

「ハハハッ!そんなことだろうと思ったさ!」


ルシィの問いかけに「聞いて驚け!」と言わんばかりにペリノアが叫べば、マーハウスが腰に片手を当てて男らしく大声を上げて笑う。訓練なんだからあり得ることではあったし、やりたいと聞かれたら……


「やるしかないでしょ。ねぇみんな?」


アーサーが口角を上げて彼らに聞けば、彼らは各々の武器を手にそれに答える。その答えに仲間達が歓喜でいて、興奮の雄叫びを上げる。強者と、『覇者』と手合わせ出来ることの喜び、達成感。仲間としても友人としても誇り高く信頼する彼らを……とりわけアーサーを見送りましょう?それがこの訓練の大きな意味。だから、さあ、お手並み拝見と行こうか。

旅立ち前に自覚済み『覇者』が全員出ます。たまに名前ごっちゃになります(笑)怒られる怒られる。

次回は月曜日です!

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