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色無き王~十二の色~  作者: Riviy
第二部
69/130

第六十四色 重要危険人物


「洗脳魔法ぉ~!?」

「それって、結構強力だったってことかな?アーサーもルシィも、サグラモールも気づかなかったってことは」

「……洗脳魔法って、またかっ!!」


三者三様の反応にボールスはオロオロと目線と手を迷わせると、一縷の希望を求めてアーサーとルシィに視線を向ける。が、当の二人もボールスの口から出た「洗脳魔法」という言葉に驚きを隠せず、固まってしまっていた。アーサーに至っては「何処だ……」と頭を捻って記憶を探ろうとしているが、全然思い出せないらしく項垂れていた。


「気づい、た……の、多分……わたし……だけ……仕方、ない」

「しかし、いつ気づいたんですか?」


ポンポンと項垂れるアーサーの肩を叩きながらボールスが言えば、もっともな疑問をルシィから投げ掛けられる。そのやり取りを耳で聞きながらアーサーは周囲の悲惨なまでに残酷な光景を一瞥した。噴水広場を襲撃した『ヴェグス』は全て討伐され、捕獲された。今は人々の安全が最優先だとして師団の牢屋に放り込まれている。だが、彼らが残した爪痕は否応にも目の前に広がっている。食い千切ったかのように体の一部が破損した亡骸や辛うじて生き残った者。死屍累々だった。噴水も紅く染まり、血を吐き出している。『ヴェグス』捕獲に成り行きではあるが関わったとしてアーサー達はボールスの友人だと云う人物から事情聴取された。それにヤオヨロズ共和国でのあの一件を思い出したアーサーとルシィは悪くない。そうして事情聴取が終わった瞬間を見計らってボールスより告げられたのは『ヴェグス』が洗脳されていたと云うにわかに信じられない話だった。


「戦闘、中……に……いつも、以上、に……連携してるな……て」

「?『ヴェグス』って連携しないの?」


ボールスの答えにフローレンスが不思議そうに首を傾げる。『ヴェグス』と言えども人間だ。こちらと同じように連携くらいは取る。しかし、ボールスが言いたいのはそう言うことではないようだ。


「そ、わけじゃ……なく、て……え、と……墓守わたし、が……一人で、いても……敵、反応、ない……」

「……そういえば、確かに」


両腕を組み、戦闘中の状況を思い出しながらアーサーは頷く。確かに戦闘前、あんなにも墓守は殺せとか師団も殺せとか単語を言っていたのにその本体に触れた様子はなかった。他の師団は戦っており、考えようには合っているがアーサーとルシィと共に戦っていたボールスは一人になる局面が多々あった。なのにそこを別の『ヴェグス』が狙わないのは何処か不自然だった。邪魔者と云うのがアーサー達を指し示しており、墓守が誰だか分からなかったのならば納得出来るが、〈その迷宮に迷(あの)い込めば良い(魔法)〉を仕向け気づいた者がおり、笑った『ヴェグス』がいたのも事実だ。牢屋にアーサー達に気付き、笑ったがために異変に気づかせてくれた『ヴェグス』もいるようにはいるらしいが、ボールスの話によると()()()()()()らしいのだ。その部分だけ、アーサー達に攻撃を仕掛け嗤いかけたその瞬間だけがまるで切り取られたかのように。気づいたら師団に捕まっていたと云うのだから、ボールスが洗脳魔法だと考えるのは無理もないし、典型的な洗脳魔法の症状とも一致する。辻褄と云うかなんか納得が出来ず、モヤモヤする。


「〈その迷宮に迷(あの)い込めば良い(魔法)〉を放った奴を確実に見て合図を出したはずなのに、覚えてないってのは明らかに可笑しいよね」

「うん……だ、から……変」


アーサーの言葉にボールスがコクコクと頷く。確かに此処まで状況証拠があれば、可笑しいと言わざるを得ない。


「でも、違和感それが洗脳魔法だって云う確証はない」


呟くようにグリフレッドが言えば、ボールスの片目が彼を射ぬく。疑っているわけではないのはボールスでも分かっている。だが、グリフレッドの言う通りあるのは状況証拠だけ。物的証拠ではない。


「わか、てる……」

「けどよ、サグラモールの嬢ちゃんは一回洗脳関係があるんだろ?否定は出来ねぇんじゃ?」

「うん、その可能性もある。『ヴェグス』は最初からある意味洗脳魔法におかされていると言っても良い状況だからね。崇高な目的だと信じて挑んでいるんだし」


カラドックの疑問にグリフレッドがそう答える。確かに『世界戦争狂信仰者』と云うくらいだ。一族でなっている者もいるし、その場合だって魔法ではないにしろ洗脳や自己暗示に近いのだろう。しかし、すでに強者狙いか『覇者』狙いか分からないが、サグラモールの誘拐未遂とフローレンスの誘拐事件があった以上、偶然にもほどがある。二度あることは三度あるとも云うし油断は出来ない。それに正真正銘、洗脳魔法が施された可能性だってある。しかし、洗脳魔法の使用者があまりいない以上、その現状は明らかには決してならない。ボールスも洗脳魔法は使えないらしく、しきりにグリフレッドとカラドック、途中にアーサーとルシィが加わる少々難しい話を聞いてはウンウンと頷いている。サグラモールは口を挟む余裕がないようだが、フローレンスは少し困惑気味だ。


「サグラモール誘拐未遂の犯人はまだ捕まってない。可能性はあるよ。まぁ、姿も形も分からないし話からして魔牙だろうけど」

「しかしサグラモールを『覇者』だと認識しての犯行だった場合、今回もそうだった可能性があります」

「でもよ?『覇者』ってわかんのはごく僅かだろ?ボールス(嬢ちゃん)は見る限り、外側じゃなくて内側だろ?わかんのか?」

「分かるか分からないかで言えば答えはイエス(分かる)。ルシィがいなくとも分かる人物には分かるんだよ。僕とかサグラモール、フローレンスのご両親のようになにも自覚があるのは、本人だけじゃない」


突然話題に上げられてフローレンスがビクッと驚く。確かにフローレンスの両親が気づいているのも自覚に入るだろう。カラドックのは少し意図が違う気がするのでカウントはしない。


「でも『覇者』については極秘……」

「?アーサー?どうしました?」


言葉が途切れたアーサーをルシィが振り返る。アーサーは何かに気づいた様子で腕を組んで考え込んでいた。その考え込む様子が尋常ではなく、()()()()()()()()()()()()()()()、そんな風に見えてルシィは再度アーサーの名を呼んだ。


「アーサー?」

「ん、嗚呼ごめん。考え事してて」

「その考え事、聞いても?」


ルシィの頼みにアーサーは静かに頷き、全員に「ちょっと集まって」と手招きながら言う。よほど重要な話、というか聞かれたくない話があるらしい。詳しく『覇者』事情を知らないであろうボールスとフローレンスは不思議そうに首を傾げていたがサグラモールに「まぁまぁ」と背中を押されて近寄ってくる。周囲の警戒や非難の目がこちらに向いていないことを確認し、アーサーは小声で云う。


「まず大前提で『覇者』が集まってることは極秘でしょ?ボールスはまだそこまで……」

「ま、だ……」


ボールスにアーサーが聞くと彼女は申し訳なさそうに首を振った。まぁあの迷宮で最優先事項は脱出だ。『覇者』について簡潔に云う必要があったのだから聞いていなくても無理はない。それにアーサーは頷き、続ける。


「『覇者』は来るべき戦いのために集められてる。場所と『覇者』事情でアルヴァナ帝国に集中してる。情報は極秘扱いだから自覚ありが判明しても各国は公にしない決まりが交わされている」

「うん、そうだね。僕も調べたけどそうだった……て、え?!」


グリフレッドがアーサーの説明から何かに気付き、声を荒げる。だが二人以外はなにがなんだかわかっていない。しばらくくうを見てルシィも何かに気づいたらしいがなにも言わずにアーサーの言葉を待つ。自分が云うよりアーサーに続けてもらった方が良いと思ったらしい。


「どういうことじゃ?」

「知能が高い魔物が『ヴェグス』と手を組んでるか、考えたくないけど紛れ込もうとしてるか」


低い声で言われた考察にも似た言葉に全員に緊張が走る。『覇者』側だけを敵も狙っているわけではないだろう。情報が漏れている可能性も否定出来ないが、辛うじて今考えられるのはそうだろう。洗脳魔法の後遺症が使用者にもあると考えれば何度も使うのは危険過ぎる。そうなると浮かび上がるのは結託か独断か。


「でも、情報が少ないし何もかも疑って疑心暗鬼にはなりたくない」

「魔物が大きく動き出そうとしているところに私達が介入した結果、混乱する(このような)事態が発生していると?」

「……否定は出来ないでしょ?魔物側なんて俺達には分かんないし、将軍や魔牙の動きを予知なんて出来ないしね。どうなるか分からない以上は」


アーサーのその後の言葉は言わずとも分かった。警戒するに越したことはないし、油断は禁物。『覇者』が集まりつつある以上、危険は常に背中に張り付くかのように潜んでいる。まるで断崖絶壁にいるように静かに、静かに、歩み寄っている。それが洗脳魔法の使い手であることに代わりはなかった。


「まぁ今まで通りっつーわけか」

「そういうことだね」


パァン!と景気よく手を叩いたグリフレッドの言葉を代弁するようにカラドックは言う。つまり、そういうことでしかない。世界中に魔物がいる時点で。アーサーは腕を組んで二人に頷く。とボールスを振り返った。来るべき戦いのため、一緒に来て欲しいが彼女には師団がある。ボールスの意志が最優先だが、アーサーが気絶している間に多少はルシィに聞いていたためか、アーサーの視線に気付き小さく頷いた。その片手では年の近いサグラモールの頭をこれでもかと撫でており、フローレンスが順番待ちをしている。サグラモールはとても満足げな笑顔だ。姉弟だな?姉弟としか言いようがない。


「わたし、も……ご、同行……させ、て、ね……」


ボールスの答えにアーサーは一瞬心の内を読み取られたかと目を丸くする。


「師団はどうするんですか?ボールス様……さん?」

「そ、れは……大丈夫……友達、に……有給、お願い、した……から」

「さっきの子かの?でもお主、墓守の」

「候補、だか、ら……まだ、いる、よ」


だから大丈夫。と笑ってみせるボールスにサグラモールとフローレンスも小さく笑う。だがボールスはまだ何処か不安げで、こちらもどうしたと不安になる。しかしボールスは決心したのか、サグラモールの頭から手を退かし、静かに言った。


「『ヴェグス』、の……最恐、を……追う」

「それってよぉ?まさか、いたのか?」


カラドックの問いにボールスは静かに頷いた。今回の襲撃にはボールスの云う最恐はいなかったのだろうがもしいた場合、自分達と鉢合わせしていた可能性は高い。また、今回の企ての主犯である可能性だって。その事実にサグラモールとフローレンス二人して震え上がる。もしボールスの云う最恐に当たっていた場合……あ、駄目だ、考えたくもない。


「多く、の『ヴェグス』……が、名前、言ってるの……逃げ、られた、か」

「もしくは主犯で逃亡、といったところかな」

「そう考えっと、一人は町の外に有給休暇ってことで出なきゃなんねぇもんな」


グリフレッドとカラドックの言葉にボールスが頷く。だからこそ、『覇者』と自覚したボールスが外に出るには都合が一番良いのだろう。なんだが色々な事情が重なりすぎて少し怖い。嫌な方向に考えるとそちらに行きそうになってしまうが……大丈夫、大丈夫とアーサーは頭を振り、嫌な思考を追い返した。


「つまり、ボールスの思惑も俺達の思惑も合致ってわけか」

「計画、通り……て、ね」


グッと親指を立てて笑うボールスに全員が笑い返す。何はともあれ、新しい『覇者』が仲間に加わった。


……*……


どうしてこうなった?


暗い暗い道を()()()は歩いていた。片腕は既に消え失せ、大量の出血を催しているにも関わらず、少しだけ、そう全力疾走して息が乱れたくらいの症状しかないのは()()()の執念がそうだと錯覚させているに過ぎない。本当は既に死んでいても可笑しくないのだから。()()()は傍らの壁に紅い一線を刻みながら歩き回る。そうしてようやっとお目当てを見つけると嬉しそうに、歓喜の笑みを浮かべた。


「も、申し訳ありません!取り逃がしました!」


取り逃がした?それは、誰のこと?

()()()はすがり付くようにして言い訳を並べている。目は流血のせいか、爛々と血走りまるで『ヴェグス』の症状のようだ。魔物同様、世界を壊そうとする。それは本当に()()


「ですが、成功は成功でしょう?だって、迷宮に迷わせたのですからこれで!俺はっ!アイツにかっ」


そこで喧しいほどに叫んでいた()()()は口を閉ざした。いや、閉ざしたのではなく切られたと言った方が合っているか。()()()の顔半分は綺麗に真っ二つに切り取られており、深紅の血がまるで滝のように流れている。

なにも言わずにただただ従っていれば生きていたかもしれないのに。やはり、これだけしか能のない人間を引き入れるのは早計……いや、間違いだったようだ。目の前で既に生き絶えた()()()を同情無き目で見下ろせば、後ろから笑い声がした。


「キャッハハハ。馬鹿だな~バカ、バカ、バーカ」


真っ赤に染まった新たな()()()は死体となった亡骸をその手にある刃物でぐちゃぐちゃに解体して遊びながら、ケラケラ笑い続ける。

一応、()()なんだから、やめて欲しいなぁ。


「なんで?ネェネェ、なんで?どうせみんな死んじゃうんだから、バラバラにしたって良いでしょ?」


嗚呼、哀れなほどに狂った人間(人形)。自分の快楽だけを求めて『()()』を付け回す、執念の塊。亡骸となった人間(人形)も、執念に囚われて此処まで来たのは良かったものの、最後は怖じ気付いた。だからこそ


「殺されて当然」


いなくなってもこちらにはなんら問題はない。だから、ゆっくり死んで逝け。愚かで自分さえも分からず『覇者』の影に怯えた『ヴェグス』にもなれない人間(人形)さん。きっと、救われたかもしれないのに。


「ネェネェ、ネェネェ、殺して良いんでしょ?ご先祖サマの恨み、晴らして良いんでしょ?嗚呼、楽しみだなァ。楽しみ愉しみ楽しみ愉しみ楽しみ愉しみ楽しみ愉しみ楽しみ愉しみ楽しみィイイイイイイ!!!!」


狂った人間(人形)はもう要らない。思い通りにならないから。だから、自分で殺そう。きっと邪魔なのは、


「『覇者』ではなく、()()()が邪魔。気づく前に早く、始末しなければ」


残り、一人。

なにかが動いているぅ~

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