第六十三色 三者三様の攻撃
アーサーの目の前に迫ってきたのは、二人の『ヴェグス』だった。一人は刀、もう一人は短剣。近接に長けているのは言わずとも分かった。視線だけでルシィにボールスを下げるようアーサーが告げれば、ルシィは「心得ている」と言わんばかりにボールスの両肩を掴んで後退させる。途端にアーサーの頭上から落ちてきたのは敵二人の力強い一撃。短剣を持った敵はもう一人ーー表現的に人物としようーーの脇を通りすぎるとアーサーの顔面に向けて逆手持ちにした短剣を突き刺す。上半身を仰け反らせてその一撃もかわすとアーサーは剣を大きく上へ振り、人物を弾き返す。人物はその一撃を軽くいなし、もう一人の敵と共にもう一度アーサーに向かって攻撃してくる。ほぼ戦闘ではお馴染みになった〈速度上昇〉を両足に敵二人はかけていないようで、だからこそ動きは幾度も魔物と戦ったアーサーにとって簡単に見破れるものだった。それに気づいているからこそルシィもボールスも余計な魔法や負荷でアーサーの邪魔にならないように工夫してくれている。その些細な、大きな気遣いと支援にアーサーは小さく口角を上げて笑うと敵二人の攻撃を剣を横にして受け流す。と代わりに接近してきたもう一人の敵ーー短剣を持っているーーの腹に蹴りを放ち、後方に吹っ飛ばせば、人物が驚いたように吹っ飛ばされた仲間とアーサーを交互に見やる。剣で来ると思ったのにまさかの既に驚いているのだろう。だがその目は濁りつつも爛々と殺気に輝いており、目の前の獲物を殺そうと狙っている。だが、アーサーだってそんな簡単に殺られるわけじゃない。そう言うようにアーサーは人物に向かって剣を振る。体を殴るように薙ぎ払われた攻撃を人物は刀を縦にして防ぐ。ガァン!と言う鈍い音と共に両者の腕に痙攣が走る。それは互いの実力の差を表していたのだが、両者が知るはずもない。人物が手首を捻り、攻撃から刀を逃がすと素早く再び手首を捻り、斜め上からアーサーに振り下ろす。一歩片足を後方に引き体勢を整えながら、素早くくうを切り裂く攻撃をかわす。が、次の瞬間、人物の真ん前にもう一人の敵が突然空から降りてきた。突然の登場に敵の短剣を防ぎきれずに腕で防いでしまうアーサー。殴られたかのような、ジンジンと来る痛みに顔を一瞬歪めたのは、何処から来たかわからず混乱していたからかもしれない。
「〈水の杖よ全てを流せ〉!」
その時、アーサーの目の前で追撃を使用としていた敵二人をもう一人の敵のように突如として頭上から現れた、多くの水を纏った杖が薙ぎ払った。水を纏った杖は大きく円を描くように敵二人を攻撃し、自らが作り出した巨大な竜巻のような渦の中に放り込もうと近づく。しかし敵二人はそれを器用にかわし、お返しだと言うように執拗に攻撃してはせっかくの渦を消してしまう。二人同時に攻撃された渦はパァン!と破裂音を響かせながら弾け飛ぶ。太陽に反射して輝く水飛沫が空中で宝石のように散っていく。渦を壊した『ヴェグス』はさぁて!と言うように先程までアーサーがいた場所を振り返ったが、そこにいるのは杖を両手で構えたボールスのみ。包帯の間から見え隠れする左目が敵二人を鋭く睨み付けている。スッと軽く腕を上げかけたボールスに敵二人は何かするつもりだと一斉に駆け出す。だが、
「〈合成獣召喚〉!」
ボールスの方が早い。丸い杖の切っ先が数色に光輝き粒子となる。空中で作り出され、召喚される合成獣はボールスと同じくらいの大きさをした馬だった。いや、ただの馬ではない。その額から伸びる角は鋭い剣となっており、蹄もまるで刃の切っ先のように尖っている。その背には妖精のような透明で美しい羽を生やし、攻撃性と優雅さを持ち合わせている。突然現れた、と言っても良い召喚獣に敵二人の動きが一瞬止まる。そんな敵二人にボールスは容赦なく召喚獣を向かわせると二つ目の魔法を放つ。
「〈水が歌う花の色〉」
まるで歌うように詠唱すれば、彼女の杖の切っ先が水色に輝き、ふわりと優美な水の花を生み出す。水の花は透明さを保ちながら駆け出す召喚獣の頭上に滑るように移動するとパァンと小さく割れた。割れた水の花の水滴を吸い込み、召喚獣の体が仄かに水色に輝く。水属性に特化した召喚獣になったと云う証拠だ。しかし、そんなこと気にも止めずに敵二人は一斉に召喚獣に武器を振り回す。召喚獣も額から生えた剣のような角で牽制している。相手はルシィとボールスの見立て通り火属性を中心に使うらしく、召喚獣に手を焼いている。だが、人物の方は力技でどうにか対象しようとしているらしく、水を纏っているかのように薄い膜が張られている召喚獣の角に刀を滑り込ませ、研磨でもするかの如く素早く動かしている。倒されるのも時間の問題だ。
「ど……し、よ……」
「水属性で攻めますか」
「それが良いかもね」
「?!」
突然両隣でした声にボールスが驚いて左右に視線を向ける。といつの間にかアーサーとルシィがボールスを挟むような形で敵二人を睨んでいた。敵二人は今にも召喚獣を倒してこちらにやって来そうな勢いで力任せに攻撃している。結構以前から弱点の属性を力技で補っていたようで人物の方は今にも召喚獣の角を切り落とさん勢いだ。一方、もう一人の敵は召喚獣を味方に預けて三人の方に行こうか行くまいか迷っている。もうそれで、勝敗は決したも当然なのだが。アーサーは剣を構えつつ、敵を見る。
「び……くり……し、た」
「おや、それはすみませんボールス……うーんと、私とアーサーが敵の注意も攻撃も全て引き受けます。ので」
胸を押さえて落ち着こうとするボールスにルシィがそう言えば、彼女はうんと力強く頷き杖を掲げて見せた。そんな彼女の「任せて!」と言わんばかりの表情と行為にアーサーは嬉しくなって笑うとルシィとハイタッチをかわし、ボールスにも手を差し出す。ルシィも同じようにボールスに手を差し出すので、まるで二人にエスコートをしてもらっているかのように図らずともなってしまってボールスはクスクスと楽しげに笑う。とパチンッ!と二人の手に手を勢いよく振り落とせば、軽快な音が響き、合図とする。それと同時に「あとは任せた」と言うように召喚獣が消え行くと敵二人が接近を開始する。アーサーとルシィも一斉に駆け出し、人物の刀とアーサーの剣が勢いよく交差し、火花が散る。その隣でも短剣を振り上げたもう一人の敵の腕を押さえるようにルシィが腕で制止している。バッと勢いよく二人同時に相手を弾けば、それを待っていた、知っていたと言うように敵二人が地面を大きく蹴り上げ、アーサーとルシィの目の前で回るように移動する。まるで空中を滑るかのような動きで戦う相手が入れ替わる。嗚呼、ならば。アーサーがルシィを一瞥するとルシィも彼を一瞥していた。空色と銀色の視線が交差する。ニヤァと笑ったのはどちらだっただろうか?瞬時にルシィが前のめりになるとその背を飛び越えるようにしてアーサーが動く。途端、入れ替わった敵同様二人も入れ替わり、アーサーは上段から人物に向かって剣を振り下ろす。とルシィが空中に飛ぶアーサーの靴底を蹴り上げ、さらに威力を増加させて攻撃させる。アーサーの体はルシィの援護を受け、人物に向かって前のめりとなる。空中で体を捻りながらさらに攻撃を加えていくアーサーに目の前で人物が刀を翻す。その顔面を狙ってアーサーは蹴りを放ち、人物が顔を守るために両腕をクロスさせる。クロスさせた人物の両腕を足場に蹴り上げ空中で後転し、一回転すると素早く着地し、すぐさま人物の懐に潜り込む。一瞬反応が遅れた人物に斜め下から剣を振り上げれば、人物の右の脇腹から左肩にかけて傷が切り刻まれる。人物は剣捌きの勢いに後方に大きく仰け反るが、それでも刀を逆手に持ち、足元に潜むアーサーに向けて突き刺した。紙一重でアーサーは脇を通りすぎてかわし、背後に回り込むと剣を振り回す。ガキンッという甲高い音が両者の腕に響き渡った。
ルシィは上段から落ちてきたもう一人の敵の重くも俊敏な一撃をギリギリでかわすと、首に向けて足を振り上げた。もう一人の敵はルシィの攻撃を軽々とかわし、短剣をやり返すかの如く振り下げた。両者の鋭い攻撃が交差し、掻き消えていく。バッと互いに相手を弾けば、勢い余ってルシィは後方に仰け反るようになってしまう。そこにもう一人の敵は容赦なく短剣を振り回し、そのままルシィを押し倒さん勢いで接近してくる。それらを丁寧にかわし、ルシィは片腕を立てると短剣の軌道を阻む。眼前ギリギリに止まった切っ先にルシィはゾッとしたが、もう一人の敵の手首を捻り上げると悲鳴が上がるのも気にも止めずに腕を引っ張り短剣を叩き落とそうとする。しかしそれよりも早くもう一人の敵の拳がルシィの腹に突き刺さる。その痛みに思わず体を折り曲げれば、もう一人の敵が手首を捻って脱出すると短剣を上段から勢いよく振り下ろした。ルシィはステップを踏むように撤退すると踵になにか当たった。なんだと見れば、頬に当たる水飛沫と冷たい風がぶつかる。その正体にルシィは小さく笑うと、迫り来るもう一人の敵の素早い攻撃を受け流し噴水の縁に向かって駆け上がり足場とすると強く蹴り上げ、跳躍する。空中で一回転するルシィの目に驚愕する敵が入る。ルシィがもう一人の敵の背後に回り込み着地すれば、敵も素早い動きでルシィの背後に回り込み、死角を取られないようにする。がそこに既にルシィはいなくて、あれと思っても死角に死角を取られたと思っても、短剣を振ってももう遅い。敵が振り返るよりも早く、ルシィの手刀が敵の首根っこを捉えた。
アーサーとルシィ二人の攻撃を見ながらボールスは杖を握りしめ、タイミングを伺う。敵二人が同じ場所にくれば、あとは気絶させるだけ。すでにボールスの杖の切っ先では水属性の魔法が展開されている。あとは、タイミングのみ。
「(……あれ)」
その時、ボールスが感じた違和感は戦場の中にあって。『ヴェグス』の動きも目的もいつも通り過ぎるほどいつも通りなのに、自分は何に違和感を持ったのか。
「(もし、か……して……)」
脳裏にちらついた考えを肯定するかのように全ての『ヴェグス』の目はいつも以上に血走っていて。それがボールスの考えを嫌と云うほどに突きつけてくる。だが、それは今、後回しで構わない。
「ボールス!」
背を押すように叫ばれたアーサーの声にボールスは真剣な面持ちで杖を掲げた。アーサーとルシィが撤退するその先には背中合わせになった敵二人が武器を構えようとしているが、ルシィが放った魔法であろう白い靄が鎖のように敵に絡み付き、身動きを制限していた。嗚呼、あの状態ならば簡単だ。
「〈水よ輝きを持って指し示しなさい。水が全てを流すまで、眠りなさいその奥底で〉」
天高く掲げたボールスの杖の切っ先から淡い泡のようなものがポワン、と可愛らしい音を立てて二つ飛び出す。とその泡は敵二人の頭上に静かに詰め寄るとその頭を包み込んだ。途端、慌てて泡を外そうとする敵二人だったが、泡内部には水が自動的に貯まる仕組みらしく、どんどん空気もなくなっていくし、視界は歪んでいく。もしかすると死ぬかもしれない、そんな恐怖に『ヴェグス』は襲われ、泡を割るという行為を忘れる。それがボールスの放った魔法の恐ろしいところだったりする。あわてふためく敵二人にアーサーとルシィは一気に接近するとアーサーは人物の溝尾を、ルシィはうなじに手刀を食い込ませる。目の前の恐怖に気を取られたあまり、敵を見失った。つまりはそういうことだ。敵二人の頭を包み込んでいた泡がパリンと割れ、敵二人が気絶し倒れる。それを見下ろし、敵が完全に気絶したのを確認するとアーサーはルシィとハイタッチをかわす。と、ボールスのもとにも駆け寄り、手を差し出した。
「ありがとボールス」
「……うん」
ニッコリとさすがと言うように笑ったアーサーの手に、優しく嬉しそうに弾んだボールスの手が重なった。
気づいたらブックマーク増えてて狂喜乱舞したのはコイツです。
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次回は月曜日です!




