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色無き王~十二の色~  作者: Riviy
第二部
63/130

第五十八色 迷宮探検



誰かの声が聞こえる。心配する、不安している声だ。その声は何処か切羽つまっていて。誰かが危篤状態にでもなったのだろうか?そう思えば、脳裏で火花が大きく散った。まるで、違うと叫ぶように。起きてと願うように。その火花は美しくも儚くて、そして()()で。嗚呼、その感情を俺はきっと知ることは出来ない。出来たとしてもそこはきっと、俺の居場所ではたぶんないから。


「アーサー!」


耳から入り、脳内でバウンドするような低いというか高いというか、判別が難しい声がアーサーを呼び起こす。その声にアーサーはうっすらと目を開ける。うっすらと開けただけなのにそこは何処か暗くて、明るいと思っていたのにまさかの光景にアーサーは目を数回瞬かせた。そうしてゆっくりと起き上がれば、彼の近くにいたのであろうルシィがホッと胸を撫で下ろしていた。目元が微かに赤いように見えるのは暗いせいだろうか?アーサーは頭を擦りながら起き上がり、周囲を見渡す。暗闇に目が慣れてきた視界に写ったのは色とりどりの壁だった。色とりどりで、絵の具をぶちまけたようにカラフルで目覚めたばかりのアーサーには目が痛い。


「……此処は」

「嗚呼、良かった。怪我はないですか?頭は打っていませんか?」

「それは、大丈夫っぽいけど……一体……あ!」


思い出した!自分はおそらく敵が放ったであろう想属性の魔法にかかって、それで……


「ていうか、俺だけだったよねかかってたの?!なんでルシィまでいるの?!」


ルシィの胸ぐらを掴みかからん勢いでアーサーは言う。ルシィはそんな彼の両手を優しく両手で包むと「落ち着いてください」と静かな声で言う。


「確かに〈その迷宮に迷い(あの)込めば良い(魔法)〉にかかったのはアーサーだけでした。おそらくボールスさんが標的だったのでしょうね。しかし、あの穴はアーサーを呑み込んだ後、ついでと言わんばかりに私達も呑み込んだんです」

「……え?」


つまり、魔法を発動させた人物は師団であるボールスを狙っていたが、アーサーが庇ってしまった。しかし、発動者が近くにいたのかアーサーを呑み込んだだけでは飽きたらず、狙っていたボールスとついでとばかりにルシィ達も呑み込んだと言うのだ。黒い穴に全員が呑み込まれ、気がついたら全員バラバラで倒れていたと言う。そこまで説明されてアーサーは思わずカラフルすぎる壁を殴っていた。自分がやったことは全員を巻き込む行為でしかなかった。申し訳ない気持ちと懺悔と後悔にアーサーの表情が歪んでいく。ジンシンと痛む拳がアーサーの感情を浮き彫りにしてくる。


「連絡魔法で連絡を取りました。全員無事だそうです。サグラモールとグリフレット、カラドックとフローレンスは四人一緒だそうで「……ごめん」……はい?」


ルシィを遮ってアーサーが苦痛に満ちた声色で言えば、ルシィは不思議そうに彼を見た。そうして、アーサーが何を悩んでいるのか理解した。どう声をかければ良いか、あたふたしているとそれをどう解釈したのかアーサーが言う。


「俺が余計なことしなければ、みんなを巻き込まずに済んだ……だから」

「それ、ボールスさんの前でも言えます?」


突き放すような、けれど受け止める準備は出来ていると言うようなルシィの声にアーサーが「えっ」と顔を上げれば、いつの間にか目の前にいたのはボールスで。包帯をしている隙間から見える左目がアーサーを貫くように見ている。ボールスはスカートを押さえてしゃがみこむとアーサーの顔を覗き込みようにして言う。


「自分を……卑下、しない……で……きみが、庇って……くれた、から……わたし、は……此処に、いる。だから……」


自分を責めないで。その瞳はしきりにそう言っていて。声はまるで夜の眠りを誘うように心地好くて。なにも恐れずに眠り(進み)なさい。そう言っているようで、なんだか安心した。アーサーは小さく息を吐くようにして笑う。ボールスの言う通り、逆に言えばアーサーの咄嗟の機転で彼女は危険を免れたのだ。全てが悪いわけではない。少しだけ、気が楽になった。『覇者』を捜して、一人とて欠けてはならないと気を張っていたのかもしれない。彼らは俺が思っているよりも強いから、だから、


「(……みんなと同じで良いのにね……)ごめん、ちょっと神経質になってたのかも」

「ボールスさんの言うこともアーサーの言うことも理解出来ます。私が言うことではありませんが、責任は自らです。気負わないでください」

「そ……()()()も……きみも……」


ルシィが差し出した手を掴み、引き上げてもらいながら立ち上がるアーサーにそうボールスが言う。その言葉が妙に意味深げでアーサーは彼女を振り返る。するとボールスの瞳と目が合い、ニッコリと微笑まれた。その笑みは受け入れて、覚悟したもので。サグラモールもグリフレットもカラドックもフローレンスもしていた感情と色という意志(ソレ)。その正体に気づいたアーサーは勢いよくルシィを振り返った。


「ルシィ言ったの?!」


アーサーが何を言わんとしているのか分かったのか、ルシィはヘニャリと気が緩んだ笑みを浮かべる。


「彼女、自分の体にある紋様がずっと気になって重しだったそうですよ。だから、伝えました。それは重しでもなんでもなく、証だと。全ての可能性を秘めた証だと」


ウインクをして決めてやったぜと言うように言うルシィに、アーサーは軽く肩を落とすと小さく笑った。ボールスになにがあったのかは知らない。けれども、彼女は自覚を持ったのだ。見えない暗闇から自らその手を取ったのだ。それを責めることなど出来やしない。


「……『ヴェクス』が、逃げれば……わたし、は……きっと、追う、わ……それ、以上、に……わたし、は……きみたちを、失いたく、ない……あの、一瞬は……わたしの、もう一つの光だった」


杖を胸元に抱き締めてボールスは言う。最後の言葉は、いや、全て彼女の心からの本心だった。


「だから……ね」


青藍色と空色の瞳が交差する。もう、なにも言うことはない。アーサーはもう一度笑うとボールスに手を差し出した。


「改めてよろしく、闇の座『千夜』を司る『覇者ボールス』さん」

「こ、ちら……こそ、捜し人(アーサー)さん」


その手をボールスは黒い手袋で握り返した。力強く、固い握手にルシィは安心したように頬を綻ばせた。分かっていたつもりだったのはきっとアーサーだけではない。ルシィも分かっていたつもりだったのだ。例え、アーサーという一人の人物を知っていたとしても。二人は手を離し、アーサーが周囲を見渡す。唱えられた魔法から考えれば、迷宮になっている可能性が高い。


「他のみんなは?どうしてるの?」

「理解していると思いますが、魔法からして此処は迷宮だとしてゴールを目指して動き始めています」

「ゴール、は……一つ」


アーサーの問いにルシィとボールスが言う。ボールスはビシッと指を一本立てて力強く告げてくれる。しかし、迷宮に閉じ込めた『ヴェクス』が強敵でないとも限らない。アーサーはカラフルで目が痛くなりそうな壁に指先でなぞるように触れた。ひんやりとした石の感触に打ち付けた拳の痛みが冷やされていく。それが心地好くて、脳を冷静にさせてくれる。とカラフルな石の壁が大小様々な石を積み上げて作られていることに気がついた。近くまで近寄って目を凝らさなければ分からないほどまでに色を塗りたくっているために、分からなくなっているようだった。右も左も壁だらけで、全員と合流するためには時間がない。『ヴェクス』が町に現れていた以上、長時間あの場を離れるのも危険過ぎた。みんなと合流すれば転移魔法でどうにかなる。問題はそこまでの状況。さて、どうする?アーサーが考え込みながら壁を見ているとルシィも後ろから覗き込む。と魔法をかけた方が良いかと手元を見ているとボールスの目がまるで猫のように鋭く壁を貫いていることに気がついた。


「ボールスさん?どうしました?」


ルシィがそう聞くとボールスはチョコチョコと壁に近寄ると、ある一ヶ所を指で奥に押し込んだ。飲み込まれるように奥に消えていく小さな石。途端、ゴゴゴと鈍い音を立ててカラフルな壁が右にスライドしていく。ガッコン、となにかが止まる音と共に先程まであった壁はなくなり、新たな道が現れた。ボールスのまるで分かっていたと言わんばかりの迷いのない動きにアーサーとルシィは唖然としていたが、それはボールスもだったらしく目を丸くしていた。


「……なん、か……気に、なった……から……え、と……」

「目が良い……とかでは、ありませんね……?」


確かにボールスが見つけた仕掛けは目が良いだけでは多分見つけることは不可能だ。先代・防御の座のような目ではないはずだから、だからこそ本人であるボールスも驚いているのだ。するとボールスは目に前髪が刺さったのか、手の甲で擦り始めた。それにアーサーは以前、グリフレットに「目が赤くなるから」と止められたことを思い出した。あの時は魔法が付与されていたが……そこでアーサーはもしかして、と気付き、ボールスに問う。


「ボールスさん」

「ボールス、で……」

「そう?俺もそれで良いよ。でさ、ボールスってもしかして目にかけられた魔法って反応しずらい?」


アーサーに言われ、ボールスは左目を擦っていた手をハタ……と止めた。そして目元の包帯を指先で触れると、小さく頷いた。


「うん……ちょっと……昔、の、怪我……で」

「そう……気を遣うこと、だったね。ごめん」

「大丈夫……も、受け、入れた」


ボールスの小さな動きに無神経なことをアーサーは聞いたかと思ったが、彼女は大丈夫と気丈に笑ってみせた。安心させるような優しい、姉のような笑みにアーサーはなんだか少し恥ずかしくなって頬を軽くかく。ボールスに会釈で謝れば、彼女はもう一度大丈夫と笑ってくれた。それがボールスの言う通り、受け入れたと言う事実を教えてくれる。まぁ、たまに反応してしまうようだが。


「アーサーは魔法がかかっていると言いたいのですか?しかし、私達には……」

「うん、かかってない」


話の内容を読み取り、ルシィが方向転換して言えば、アーサーも同意する。目に関する魔法はアーサーとルシィにはかかっていない。ということはつまり。


「ちょっと目見せて?」

「ん……」


少し恥ずかしそうに左目を前髪からさらすボールス。そんな彼女の目をアーサーとルシィが覗き込む。とアーサーはクスリと小さく笑った。さすがだなぁと言わんばかりのその声色の思考をルシィも、ボールスも読み取ることは出来なかった。


「嗚呼、サグラモールの魔法だね」


……*……


「〈風爆発ウィンド・エクスプローション〉!」


竜巻を伴って石の壁が粉々に空中で破壊される。壁の破片が頭上から雨のように降り注ぎ、頭に直撃しそうになる。それをカラドックは右手に形作った突風で遥か彼方に吹き飛ばすと、後方を振り返った。そこには大きな穴があいた壁の前に腕を組んで仁王立ちするグリフレットと、穴から顔をチョコンと出すサグラモールとフローレンスがいた。フローレンスは爆風によってもたらされた騒音に驚いたのか、両耳を塞いでいた。


「サグラモールー次どっちかな?」


なにも言わないカラドックの思考を読み取ったのか、グリフレットがサグラモールに問う。どうやらカラドックは連続の魔法使用で少し疲れているようで口まで回らないらしい。だがグリフレットは風属性は使えないし、サグラモールは目として魔法を使用中だ。交替は出来ない。そのことに申し訳なさそうにグリフレットがカラドックを振り返ると彼は「大丈夫だ」と軽く右手を上げた。


「次は真っ直ぐ百メートル行ったところを右に曲がった壁じゃ」

「りょーかい、カラドック」

「おー」


サグラモールの目に浮かぶ線のような魔法は〈探索の眼(サーチ・アイ)〉の余韻だ。サグラモールが導き出した道筋にカラドックは短い返事をしながら再び魔法を発動させる。魔力がなくなってきたらしく、少しだけカラドックの足元がふらついていた。魔力の量は人によって異なる。魔法が得意でも魔力が少ない者もいれば、魔法が得意ではないのに魔力が多い者もいる。先代にも魔法が得意なのに魔力が少ないと言う者がいた。先代・知識の座『研究』を司ったブルーノ・トィラだ。魔力が少なかったゆえに研究に没頭したという話もあるが事実は不明だ。


「……ボクも、風属性が使えたらなぁ」

「なに突然」


すると両耳から手を外したフローレンスが唐突に呟いた。グリフレットとカラドックが向かった先を追いかけながらサグラモールが隣の彼に問えば、フローレンスは苦笑して言う。


「だって、そうすればカラドックさんの役に立てるでしょ?」


カラドックに絶体絶命だった命を救ってもらったからかフローレンスは一番彼に懐いている。まぁまるで父親のような暖かさがあって、サグラモールも懐いているのは否定出来ないが。


「じゃがな、人には向き不向きがあるんじゃ。フローレンスにはフローレンスの得意分野の場所で活躍すれば良いんじゃよ」

「うん……そうだねサクラ。でもそろそろ、カラドックさん限界じゃないかな」


納得したように小さく笑うフローレンスにサグラモールも笑い直す。だがフローレンスの言う通り、そろそろカラドックも限界だ。だが、それにサグラモールはこう返すことで彼を安心させることにした。


「大丈夫じゃよ!みんな、強いんじゃから!」


壁を魔法で壊そうとカラドックがしていると、千鳥足になっている彼はの肩をグリフレットが掴み、後ろに引き下がらせた。


「グリフレット?」


怪訝そうにカラドックがグリフレットを振り返ると彼は片手に薙刀を形作りながら、笑って言う。


「交替だよ。カラドックは休んでなさい」

「あ……ありがてぇけどな?地属性に地属性は優劣取れねぇし、意味ないよな?」

「うん、そうかもね。でも、()()()もあるでしょ?」


ね、と言わんばかりに笑うグリフレットにカラドックは口を閉ざした。まるで自分達を標的にした『ヴェクス』の思考回路にも似ているが、物理には物理を返すということか。魔法が使えない者や得意ではない者はそうだろうし。


「それに、闇属性か光属性もある」

「あ」


グリフレットの言葉にカラドックはニッコリと笑い、自身の薙刀に〈闇属性攻撃力上昇パワーアップ・ダークタイプ〉を付与させる。黒い粒子が黒い靄となりグリフレットの薙刀を包み込んでいく。そうして目の前に立ちはだかる壁に向かって大きく薙刀を振りかぶった。

色々主人公に悩ませるのが好きな作者です。

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