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色無き王~十二の色~  作者: Riviy
第二部
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第五十五色 偽り召喚獣



青い青い、何処までも透き通る空の下。二つの色が向き合い、刃をかわす。甲高い音がまるで悲鳴のように、金切り声のように響き渡る。反響して、合唱を生み出す。そしてバチバチと火花が散っている。嗚呼、()だ。そう思わずにはいられない。けれど、今日の()はいつもと違っていた。いや、同じだろう。だってこのあとに訪れる悲劇を知っているから……何故、知っているなんてそれこそ愚問なんでしょ?夢と分かる時点で。そうしてその思考さえも、希望であって絶望の色。希望であって絶望の光景で。見えない顔が友人と重なって心が揺らぐ。嗚呼、なんて、なんて残酷な、恐怖に満ちた世界で、夢だろうか。


暗いその空間に浮かぶいくつもの色。まるで星々ように美しく幻想的で。夢であって現実。悪夢であって幻。儚く揺れる無数の色。美しい色が意志として空を舞う。舞い始める二つの、それ以上の色。此処は戦場。この世には戦場しか存在しない。そう言っていたのは誰だっけ?嗚呼、それすら思い出せない。戦場に舞う二つの血はきっとさっきの色で。色が紡ぐ二色以上の物語で。自分はこの場から動けるはずもなくて。目の前で誰かが武器を振り上げる。これは、敵だ。けれど、この悪夢にも似た夢の意味に気づかないなら分かりっこないでしょう?敵が武器を振り上げる。振り下ろされる。目を閉じたのはきっと諦めたからじゃなくて、その胸に咲いた紅い華の存在に気づいていたから。()()の存在に気づいていたから。


頭を抱えて踞らなかったのもきっとそのせいだった。いや、違う。()()()()()()()から。死ぬか生きるか、数秒の差で与えられたもの。どちらも同じでしょ?けれど、その痛みは絶対に来ない。何故って、開けた目の前で倒れ込んで来たのは真っ赤に染まった()と、いつも見ていた悪夢だったから。倒れ行く屍と、目を閉じる色に声を荒げても、もう無理で。いつものように告げられた言葉は、全てを投げ出し包むかのような矛盾した行動と感情を孕みながら叫ばれ、雄叫びが木霊した。


「っあ!?」


耳鳴りのように響く木霊と化した悲鳴にアーサーは手を伸ばした。そうしてハッと眠りから目を覚ました。悪夢に魘された意識がその恐怖から逃れようと大きく息を吐き出す。まるで熱におかされている時のようだとアーサーは思いながら、寝具代わりにしていた一人用のソファーから起き上がった。伸ばされた手には手汗がついていて、夢の悪夢と恐怖を物語る。けれど、少しだけ違った気がした。いつもは悪夢と云うか夢の途中からなのに今回は最初からだったように思う。だがそれでも嫌な夢であることにはかわりない。


「……嗚呼、もう」


全く。見る理由は疲れが取れないせいだろうか?それとも集まりつつある『覇者』に触発でもされたのだろうか?アーサーには、心中を埋める異様な感情の意味が分からなかった。仲間を、友人を失う悪夢。そういうものにうつって慌てて周囲を見渡せば、友人達はスヤスヤと暗がりの中、眠っていた。だが此処は宿屋ではなく、師団の建物の応接室だった。あのあと、何故か連行にも似た同行に付き合い、この応接室に押し込まれ今に至る。どうやら状況を確認しているらしく、自分達に構う暇がないらしい。飲み物を提供するだけの時間はあるようだが。召喚獣が反応したとは言うが、その召喚獣はサグラモールとフローレンスに抱き枕にされつつも一緒に眠っている。あんなにも懐いているのに勘違いだと思わない方が可笑しくないか?しかも、何故突然。


「……落ち着いてきた」


バクバクと夢のせいで煩く鳴り響いていた心臓の音は、仲睦まじく気持ちよさそうに眠る二人を見て大分落ち着いて来た。二人が眠るソファーの近くにはルシィが一人用ソファーに座ったまま眠っており、テーブルには眠たくなかったのか珈琲が入ったカップが置かれている。グリフレットもカラドックもソファーで互いを支えに寝ていて、体は大丈夫なのかと不安になってしまう。アーサーは先程までバクバクとうるさかった左胸に手を当てる。大丈夫、そう心の中で唱えて気持ちを落ち着かせる。もしかすると連日の事件で疲れたのかもしれない。そう思うことにし、アーサーは布団代わりにしていたジャケットを引き寄せると顔を埋めるようにしてもう一度眠りについた。その些細な仕草が夢での頭を抱える行動に似ていてアーサーは小さく笑った。


安らかな寝息を立ててもう一度眠りについたアーサーを()()が見ていた。


……*……


「申し訳ない」

「ごめん……なさい」


目の前で青い二つの頭が下げられる。心底申し訳ないという謝罪が伝わってくる。伝わってくるが、フードに覆われているためその表情までは分からない。アーサーは深く頭を下げる二人を横目にソーサーからカップを取り、紅茶を飲んだ。二人に向かって困惑した視線を向けているのはルシィとカラドック、憤怒に瞳を尖らせているのはフローレンス、なにやら考え込むように二人を見ているのはグリフレットとサグラモールだ。十人十色すぎる。アーサーは心此処に有らずと言った様子で紅茶を飲んでいる。一番の被害者は手を捕まれたアーサーなのだが、微妙に昨夜……と言うよりも今日に近い悪夢染みた夢のせいで頭が回っていない。紅茶にいつも以上に砂糖を入れた気がするが、多分そのせいだ。応接室に通されて早半日。朝食をもらったと同時に同行ならぬ強制連行を命じた張本人の二人が彼らに謝罪しに来ている。どうやら疑いは晴れたらしい。ルシィ達が「違う!」と魔法や正論を駆使して訴えた効果があった。だからこそ事実確認のために時間がかかったようでもあるが。


「こちらの言い分も聞かずに勝手に犯人扱いなんて、酷すぎます!」

「ナァ」


フローレンスが頭を下げる二人を睨み付けながら言うと彼の足元にいた召喚獣が同意を示すように短く鳴いた。どうやら友人を疑われた事がフローレンスにとっては怒るべきポイントだったらしい。その隣ではそんなフローレンスを「落ち着け」とサグラモールが宥めている。カラドックは寝間違えたらしく、首をしきりに傾げており、そんな彼を心配に思ったのかグリフレットが軽く肩を揉んでいた。普通は逆である。謝罪されているのに軽く呑気な雰囲気だ。しかもこの召喚獣は一体誰のだ。


「……それについては弁解のしようがない。しかし、反応した召喚獣はボールスの「責任転嫁する謝罪なら、聞きたくもないけど?」」


カチャリとソーサーに彼を戻す音とアーサーの低い声が重なる。自分ではあまり気にしていなかったようだが、その声を聞く限り知らないうちに気にはなっていたようだ。驚いて顔をあげる少女の前髪が大きく揺れ、男性の歯軋りが聞こえる。自分の間違いを部下に押し付けてはいけない。押し付けたら返ってくるのは憎悪だ。


「失礼。重ね重ね失礼する」

「しかし、何故召喚獣が反応したのでしょうね」


何処か真剣でいて、野望を宿した瞳を瞬かせる男性が少女に説明しろと促す。ルシィの問いに答えられないのではなく、当の本人にやらせるようだ。いきなり前に出された少女は驚いたように男性、おそらく上司を見上げると瞬時にアーサー達を振り返りもう一度頭を下げた。


「三度……ごめんなさい……わたしの、召喚獣……ヴェグスに反応……するよ、に……設定して、て……何かに、反応して……間違えた、の」


少女が途切れ途切れにゆっくりと言う。なにかに怯えているような言い方にも聞こえたが、気のせいだろうか。

ヴェグスとは『世界戦争狂信仰者』の略称である。先代『覇者』が大いに活躍したと云うかつてのある戦争、世界を滅亡させるまでに発展したと云う世界戦争において『覇者』に敗れた者や「滅ぼされるべきであった」と考えたり過去の栄光にすがったりなどして凶行や犯罪に手を染め、二度目の世界戦争を起こそうとする者のことを言う。中には戦争を始めたある司令官の考えを拡大解釈して犯罪を起こす者もいる。その司令官にとってははた迷惑である。だがヴェグスは『覇者』によって敗れ、その代償として恨まれ、その感情を子孫に受け継ぐ事が多く、一族ぐるみでの犯行が多い。つまるところ、世界戦争賛成派兼もう一回起こそうぜ!派だ。世界戦争については多くの思惑の末に起きた悲劇(戦争)だと言われているが、個人の思考も感情も自由だ。だからこそ双神も「個人の感情までは制御出来ない」としている。それを逆手に取ったように魔物の登場に乗じて『ヴェグス』は反乱にも似た行動を起こしている。世界にとっては小さな敵だが、人間にとっては同族殺しの敵だ。


「どうやれば間違うんだ?てか、召喚獣って設定出来るんだな?」


カラドックがもっともな問いを投げるとカップを鷲掴みに紅茶を一気に煽った。カァン!と勢いよくソーサーに行儀悪く置けば、「お代わりくれ」と要求する。それに上司は煩わしそうにカラドックを睨んだ。テーブルの上のポットの存在に気づいたサグラモールが「ほれ」と注ぎ口を向けるとカラドックは「ありがとな」と男らしく笑ってカップを注ぎ口のもとに置く。カラドックの言い方が責めているとでも思ったのか、少女は「えっ、と……」と言い淀む。


「あ、責めてるわけじゃねぇよ?気になっただけで」

「……大丈夫、で……す」


安心させるように柔らかく笑って言ったカラドックに少女は安心したように口元を綻ばせた。


「召喚したと同時に設定するんだよ確か。召喚主との契約とでも言えるね。召喚獣の特性に合わせて設定するから、少女の召喚獣(その子)の場合は匂いかな」

「……よく知ってるな」


カラドックの問いに答えるようにサグラモールからポットを受け取ったフローレンスから紅茶のお代わりを貰いながらグリフレットが言う。距離的に交換したらしい。グリフレットの説明に少女は警戒心を解いたらしく、無邪気に笑っていたが上司は疑いが晴れたにも関わらず、アーサー達を疑いの目で見ていた。それが何故か少しだけ違和感があって、アーサーは無意識のうちにルシィと目を合わせていた。そしてルシィの行動と細められた銀色の瞳にハッとした。アーサーに気づいたルシィが視線だけで彼に示すとアーサーは小さく頷いた。けれど、


「(……なんだろうこの不安っていうか違和感)」


自ら感じた違和感がアーサーに不安を募らせていく。ただの気のせいか、夢のせいな気もするが実際に分かるはずもない。


「それが間違って反応したってことなの?」

「彼女の説明を聞く限りはじゃな。じゃが、召喚獣はある意味、召喚主の分身。間違うことは早々ない」


ふと思い付いたと言うようなフローレンスの言葉にサグラモールが言う。つまり、召喚獣は唸る相手を間違えたが、捜していた者は近くにいたと言うことだ。彼らを囲んだ時にいた他の人々がいないことがその証拠だろう。上司は早く捜しに行きたいのか、それとも居心地が悪いのか、しきりに扉に視線を向けている。しかし、そんな上司など知ったことかと少女は続ける。


「でも……間違えた、のは、こっち……お詫び……させて……くだ「またかお前」」


上司が少女の言葉を遮る。少女はフードの中から上司を一瞥すると言う。その声は何処か、怒りに滲んでいたようにも聞こえた。


「……始末書は、書く……後始末、せずに……危険に、曝した、のは……きみでしょ?」


低い声が上司に突き刺さり、彼は思わず顔をひきつらせた。どうやら似たようなことが前にもあり、対応を間違えたようだ。確かにあんなに人通りが多いところでの捕獲(強制連行)だ。こちらが無実だと言っても信じて貰えない場合がある。上司はクッと顔をひきつらせ、舌打ちをかますと少女とアーサー達に背を向けた。


「あとのことはお前に任せる。せいぜい上手くやれ」

「……言われ、なく、とも」


ふん、と鼻で笑い、上司は一度もこちらを振り返ることなく、扉から出て行った。まさかの状況に誰もが茫然としているとこちらを振り返った少女が口元を綻ばせて言った。


「観光、したい、でしょ?」


この頃、連続投稿しているのは溜まってきたからとゴールデンウィーク(ただし外出不要)だからです!……外に早く出れるようになりたいですねぇ。

次回は金曜日です!

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