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色無き王~十二の色~  作者: Riviy
第一部
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第五色 選定理由


出発まであと三日。と言っても翌日になった瞬間、真夜中に出発するので実質二日半でも二日でも合っている気がする。とりあえず今日も入れて早三日後、自分はこの帝国から旅に出る。アーサーははぁと軽くため息をつきながら庭園に足を踏み入れた。訓練まで時間もあるし、散歩でもしようと宮殿内の庭園を見出して早数時間。数はあまりないはずなのに広さが広すぎて今にも投げ出す気満々のアーサーである。だがその庭園、薔薇園に入った瞬間、アーサーはそれを現実にすることにした。薔薇園の薔薇のアーチ付近に置かれたベンチにルシィが座っていた。読書中らしく、真剣な眼差しでページを捲っている。アーサーは何気なくルシィに歩み寄る。芝生を踏む音でルシィは顔を上げ、彼を見つけると嬉しそうに微笑んだ。


「こんにちはアーサーさん」

「こんちはルシィ。邪魔だった?」

「いえ、ちょうど休憩しようと思っていたところです」


本を傍らに置き、「座ってください」と手招くルシィに甘えて隣に座る。ふと、ルシィが読んでいた本はなんだったのだろうと気になって覗き込めば「合体属性について」と書かれていた。それを見て呆れたように笑みを崩す。


「……昨日は楽しかった?」

「はい!パロミデスさんのお陰です!」


満面の笑みでルシィが両手を叩く。

模擬戦後、合体属性の使い手としてパロミデスはルシィによってロックオンされ色々質問攻めになったのだ。合体属性とは違う属性同士を組み合わせたもので、組み合わせで効果が異なる。昨日パロミデスが使ったのは地属性と風属性の合体属性だ。しかし合体属性は魔法を使える者全員が使えるわけでもないため、無属性よりは該当者が多く、だが全体で言えば少ない珍しいものである。もっともルシィの身近にいた最初の合体属性使いがパロミデスであっただけの話だが、ロックオンされたものはしょうがない。お茶するついでに根掘り葉掘り聞かれたらしく、パロミデスが所属する第五部隊隊長が「頼むから訓練始まるまであいつと一緒にいてくれ」とユーウェインに頼みに行くほど寝不足で機嫌が悪いらしい。ルシィの質問攻めは早くに終わったようだが、それで目が冴えたらしく寝るのが遅くなったらしい。「お詫びにあとでなにか眠れそうなのを贈っておきます」と言うのはルシィにも自覚があるからなのだろう。


「パロミデス、怒ってはないと思うよ?多分だけど、ユーウェインと長時間一緒に居られるって二人して喜んでそう」

「……失礼ですが何故あのお二人はご結婚なさらないので……?」

「戦いが終わってからだって。それまでは恋人でいるって言ってたけど、あれじゃあもう熟年夫婦だよね」


クスクスと楽しげにアーサーが笑えば、ルシィも安心したように笑う。むしろパロミデスの計画通りの可能性もあるが、訓練時間まで会うはずもないので分からない。うん、置いておこう。


「ルシィは合体属性使わないの?」

「使わないと云うか……試しには試したのですが何故か出来なくて……双神(主人)も魔法については私よりもからっきしですので……多分適正がないのかと」

「そっか。なんかごめん」

「謝らなくて結構ですよ、チャラですチャラ」


ふふふ、と笑うルシィにアーサーも苦笑を漏らす。ルシィは魔法の方の龍の擬人化だからか、使えないらしい。双神も魔法ではなく奇跡なので不明のようだ。もしかしたら、今使えないだけで使えたりして。なんてアーサーは思ったが、所詮想像なので脳の隅に追いやった。


「ところで、暇な時間ありますか?」

「ん?訓練あるから完全に暇とは言えないけど……どうして?」

「地下書庫に行って読みたいのがあるのです」

「図書室にはなかったやつ?」

「いえ、あることにはあるのですが、そちらは解釈付きのでしたので。解釈なしで読みたいんです」

「そっか、勉強熱心だね。でもやり過ぎて昨日みたいにならないように」


そう注意すれば、「はーい」と良い返事が返ってくる。とりあえず、訓練終わりに地下書庫へ行こうと云うことになりそのままお喋りに発展する。と言っても互いに共通する趣味などは分からないのでそれらを探るように、互いの好きなことについて話す。まるで宝探しのように気になることを引き出して答えて聞いて、会話を楽しむ。楽しくてずっと笑顔でいたのは案の定だし、旅の相棒となる相手として、友人としても近づけた気がした。


「ルシィって結構、天然だよね。あと頑張り屋」

「そうでしょうか?アーサーさんは周りをよく見ている気がします」

「ふふ、ありがとう」

「こちらこそ」


二人で顔を見合わせてクスッと笑う。そんな些細なことが楽しくて心地よくて。これから向かう戦場を考えたら仕方ないかもしれないが、アーサーはもう大丈夫な気がした。あれだけ不安だった心情は何処か飛んで行ってしまった。二人で楽しそうに笑っていると薔薇園の芝生を踏む音がした。


「おや、仲が良いな」

「あ、ノア様」


踏む音の正体はペリノアだ。二人が立ち上がろうとすればペリノアは「二人は座ってろ」とそのままで良いと手で示す。それにルシィが座り込み、アーサーも倣うように座った。二人のもとにやって来たペリノアは仲良くなった二人が心底嬉しいのか、ニコニコと笑っている。


「散歩ですか?」

「嗚呼、そんなところかな。ずっと訓練所にいたって息が詰まるし」


クスクスと楽しげに笑うペリノアにふと、アーサーは聞きたいことを思い出した。


「ノア様」

「ん?なんだ?」

「どうして俺を推薦したんです?俺は『覇者』じゃないですし、推薦するなら他の隊長格とかでも……俺より強い奴いるし」


何故、自分が選ばれたのか?不思議だった。推薦したのはペリノアだが、なにか考えがあったのだろうか?その問いにペリノアは一瞬キョトン……とするとクスッと笑った。そうしてポンポンとアーサーの頭を叩いた。


「アーサーは強いよ、私が保証する。それじゃ不満?」

「違いますよ!?……なんで俺なのかなぁって」

「んー一概には言えないけど、アーサーなら強いし大丈夫だと思ったから。駄目か?」


ペリノアの答えにアーサーは微妙に納得いかない表情をしていたが、うんと頷いた。自分を信頼している。それが痛いほど伝わって来たのだから。ペリノアの突拍子もないことは今に始まったことではないし、大体が良い方なので否定もし難い。ルシィも詳しい推薦内容は聞いていなかったらしく、首を傾げている。そんな二人を見て、ペリノアは小さく笑った。その些細な笑みはまるで少年のように無邪気でいて、何処か優しかった。


「そのうち分かるさ。私が選んだ理由が、な」

「今教えてはくれないのですか?」

「教えちゃあ意味ないだろうさ!そのうち分かる」


楽しげに悪戯を企む子供のように笑うペリノアに二人は顔を見合わせるしかなかった。すると突然、ペリノアが思い出したかのように「嗚呼!」と声を荒げた。


「そういえば次の訓練、場所変更だと」

「え、いつもの内部訓練所じゃないんですか?」

「嗚呼、人数が昨日よりも多いからな。急遽変更になった。いつもの方は第一部隊と第二部隊が演習したいらしくてな、魔法の訓練だから壊れない方が良いらしい」

「あ~ならしょうがないですね」

「?……訓練所って二つあったのですか?」


連絡事項を当たり前と言わんばかりに言い合う二人にルシィが滑り込む。そこでアーサーはルシィは宮殿に来てから客室と図書室と地下書庫、訓練所にしか行っていないと気づいた。庭園は何処にでもある状況なので良いとして来たばかりでほぼ昨日数時間ぶりに訓練所に案内されただけでは分かるはずもない。しかもアルヴァナ帝国は宮殿を囲むように壁があり、また城下町を囲むように壁がある二重壁構造だ。まぁそんな構造になっているはずなのに魔物はよく攻めて来る。こっちの修理代も馬鹿にならないのだが。まぁ置いといて。此処には多くの騎士団がいるため訓練所も二つほどある。宮殿内の訓練所は壁が丈夫で魔法を打ち込んでも壊れない特製だ。以前、魔法で壁を壊した騎士団がいたとかいなかったとかで魔法に特化した隊員が作り上げたとかなんかとか。まぁ、とりあえず、二つある。


「うん。ルシィは知らなくて当然だよ。そこ行ってないし」

「昨日の訓練所?よりも広いのですか?」

「嗚呼、宮殿内じゃなくて外だからな。宮殿()内に変わりはないが」

「よろしければご一緒しても?」


不安そうにルシィが首を傾げるとアーサーが即答する。


「良いよ。模擬戦に巻き込まれなきゃいいけどねぇ」

「大丈夫じゃないかそれに関しては」

「「え?」」


ニィと笑うペリノアを振り向けば、どういうことだと問う前に彼は二人の手を引っ張って立たせる。突然のことに成すがままに立ち上がる二人にペリノアは言う。


「時間だ」


こんな感じの雰囲気です。結構みんな仲良し。

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