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色無き王~十二の色~  作者: Riviy
第二部
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第五十三色 現れた水の意志


その後、全ての魔物を倒し終わり、アーサー達は別部隊と合流した。合流したあとは全員の怪我の確認をし、治療が必要な者には回復魔法をかけた。その後、誘拐された子供達が全員いることを再度確認し、子供達は無事に親元に返された。子供達は全員救出され、魔物も全て討伐されたと云うことだ。しかし、子供達を誘拐した主犯も壁の崩壊を招いた主犯、魔牙の姿は洞窟内の何処にもおらず、ただ一つだけの失態となった。もしかすると襲撃してきた魔物や洞窟内の魔物にいたのかもしれないが、自分達にはもう分からなかった。全て倒してしまい消滅してしまったのだから。ただ、サグラモールを誘拐した魔牙も子供達を誘拐した主犯も同じ種類の魔牙ではないかとアーサーは考えていた。計画的犯行と普通の魔物では到底思い付かないような知能。普通の魔物は壁を破壊するという力業の力ずくまでしか思い付かないし、侵入までも思い付くかどうか。しかも囮まで、誘導することさえ思い付くかどうかだ。だからこそ、不思議に思ったそこだけを取って考えても両者は似ている気がした。合っているという確信はない。ただ、魔物側もなにか目的をもって動き始めていることに代わりはなかった。


「……やっぱり豪華過ぎて落ち着かん」

「カラドック、それはみんな同じだから」


豪華絢爛なソファーにカチコチに体を固まらせて言うカラドックに同じく隣に座ったグリフレットが言う。カラドックを落ち着かせようと背中を擦っているが、グリフレットも一見落ち着いているように見えるが内心驚くほど慌てていることにアーサーは気づいていた。だって、さっきからしきりに指輪を触っているのだから当然だろう。クルクルと指輪が踊るように回り、勢いよく吹っ飛んで行ってしまいそうだ。そんな些細なことが気になってしまうアーサーも結構緊張しているのかもしれない。目の前に置かれたローテーブルは縁が金色に装飾されており、縁取りと同じ色合いの黄色のガラス張りとなっている。その上にはまるでタワーのように、それでいて均等さを保ったアフタヌーンティーのセットが置かれ、花のように華やかであり穏やかな匂いがティーカップから漂っている。皿に盛られたクッキーをサグラモールが一つ摘まんで咀嚼する。相当美味しかったらしく、頬をピンク色に染めてふんわりと微笑む。その隣では美味しそうにクッキーを頬張るサグラモールを優しい眼差しで見つめるルシィがおり、優雅にソーサー片手に紅茶を飲んでいる。男二人が緊張してなにも喉を通らない状況なのにルシィとサグラモールは酷く落ち着いている。両者対極の反応というか状況にアーサーはクスリと笑い、ティーカップを手に取った。今彼らがいるのは豪華な一室だ。天井にはダイヤモンドのように白銀に輝くランプがぶら下がり、白銀の雨を降らせてくる。壁紙や床は落ち着いた色合いで統一されているが、シャンデリアやフカフカのソファーが裕福さを物語っている。それがグリフレットやカラドックが落ち着かない理由かもしれない。アーサーとルシィは宮殿で慣れているが、自分達が取った宿屋が如何に庶民派だったのかがよく分かって、リーナル公国の貧富の差を明確に浮き彫りにしている。と言ってもこの部屋はその中でも間に位置するらしいが。


魔物討伐と少年少女救出作戦に貢献した彼らは事件があった翌日、何故かリーナル大公の血筋を持つリリィ家に劇場近くの宿屋の応接室に招待されていた。何故。水の座を司る『覇者』が助けてくれたお礼にとこの場所に彼らを招待したのである。いや、招待というかなんというか……違う気しかしない。こんな豪華な部屋に通されたのにその本人がいないなんて明らかにおかしい。リリィの名を知っているとは言え、まだ子供の彼で此処まで豪華な部屋を頼めるのだろうか?リーナル大公の血筋であっても子供は子供。戦闘に自ら飛び出た時はとても勇気があったが、普段で見ると彼は自分に遠慮しているような印象があった。そんな彼がこんな親に内緒で大掛かりな礼なんてするだろうか。


「(あの子ならガヘリスみたいに終わってすぐに来そうなのに)」


そうアーサーは思いながら紅茶を口に含んだ。討伐した後も事情聴取が終わった後もあの少年にはタイミングが悪く会っていない。だからこそ、翌日の今日、この場所を用意したのだろうか。その時、ようやっと部屋の扉が開き、彼らを呼んだ張本人が姿を表した。部屋に入ってきたのはあの少年、フローレンスと二人の男女だ。男性はフローレンスによく似た優しい目付きをし、女性はフローレンスと同じ髪色をしている。フローレンスとよく似ているところを見るに彼の両親だろう。ん?両親?そこでバッとアーサーは両脇のソファーに座る友人達を振り返った。だが皆、「嗚呼、フローレンス(少年)の両親か」とのんびりと見ている。が途中のんびりしている場合ではないことに気づいたらしい。カラドックに至っては顔を青白くさせる。それもそのはず、傭兵の一人として傭兵達を雇ったのは自警団だが、男性はその上司で参謀。この町の実質の支配者であると気がついたからだ。雇われた時に顔合わせでもして気づいたのだろう、男性もカラドックに軽く会釈している。女性はそんな男性を一瞥し、優雅な足取りでアーサー達の前にある、一つだけ残った二人掛けのソファーに座った。ふんわりとドレスを花のように膨らませて、それでいて妖精が止まるようにゆっくりとドレスを崩さないように座るその様は一つ一つの動作が優雅でさすが領主の家系と云うだけあった。フローレンスは女性の隣に遠慮がちに座る。座る直前にアーサー達の顔を見て、カラドックを見て安心したように顔を綻ばせると小さく会釈した。怪我をしていたことが気になっていたらしい。大丈夫だとカラドックが笑えば、フローレンスは今度こそ安心したように笑った。男性は二人の座る後ろにまるで執事のように背筋をピンと伸ばして立つ。男性が領主だと思っていたカラドックが首を傾げる。一瞬にして先程までの和やかな雰囲気は一変し、緊迫した空気になる。どうしたもんかととりあえずなにか言おうとアーサーが口を開きかけたその時。


「息子と妹の子を助けてくれましたこと、感謝いたします」

「え、あ、いいえ。当然のことと言うか……なぁ?」

「カラドックさん、妾に振らんでおくれ」


女性が頭を深く下げて言った。ポリポリと照れたように頬をかくカラドックはどう言えば良いのか分からないのか、視線をサグラモールに向ける。すると、サグラモールはティーカップをソーサーにカチャンと置きながらそう言った。というか……領主だと思っていた男性がなにも口を出さない。ということは女性が領主なのだろうか。彼らの疑問に答えるように女性はニッコリと何処か威圧感も出した表情で笑う。


「ええ、わたくしがこの町の領主をしております。主人にはわたくしの代わりに自警団をお願いしているのです。わたくしは戦闘に関してはからっきしですので。で、本題ですが」


スゥと女性の、領主の鋭い刃のような瞳がアーサー達を射ぬく。まるでは刃物を目の前に突きつけているかのような冷たい殺気にどうして戦闘がからっきしと言えようか。主人という男性は慣れていると言わんばかりにニコニコと笑っており、フローレンスは怖いのか顔を伏せておりどのような表情をしているか分からない。


「息子を戦わせたそうですね。救出に向かったはずなのに、どうしてそのようなことになるのです?」

「……えーと、お言葉ですが、それは勘違いです」

「勘違い?それはどのような?」


領主の鋭い視線に言い返そうとしたルシィが口を紡ぐ。『覇者』に関してはあまり公言することが憚れる。何処から魔物側に洩れるか分からない故に『覇者』の関係者であろうとも簡単には言えない。まぁ、言えばわかってくれそうだが、だが、何故そうなったかをフローレンスは言っていないのだろうか?それとも彼女が心配するあまり先走ってしまい、勘違いしてしまっているのだろうか?だとしたら個室を用意する必要の理由が少し分かる気はする。ルシィが困惑した表情でアーサーを見る。どう説明したら良いか分からないのだろう。と全員の困惑を読み取ったグリフレットが咳払いをして言った。


「逃げる時に魔物に囲まれたんだ……じゃなくて、ですよ。それでも逃がそうとしたら彼の魔法が発動した……彼が望んだんですよ。自分も戦わせてくれって」

「だから戦わせたんですの?」

「戦わなければいけない局面もあるでしょ。あの時は囲まれ始めていて、少しでも倒さないと逃げれなかった。戦ったといっても支援が主。成長したともいうのではないかな?」

「その成長具合はわたくしたちが決めましょう。危険でしょう」

「カラドックが止めたけど、本人が望んだ」


鋭い視線とニコニコ笑う笑っていない笑みが正論を投げ合う。どちらも言っていることは正しくてどちらも心配しているのは分かる。主人はニコニコとわかっていると言わんばかりに笑うだけでなにも言わない。グリフレットとの正論での殴り合いに疲れたのか、領主は「はぁ」と小さく息を吐いた。


「あくまで自己責任と仰るのですね。それもそうでしょう。しかし、親として子供の危険は見逃せません」

「それを言ったら世界中が危険な意味がないでしょ?魔物が彷徨いているからこそ危険。彼の意志を確認しなくては?」

「その意志、わたくしが決めさせていただきます。親ですもの、危険に放り込むわけには行きませんわ」


親としての純粋な心配にアーサーとルシィは顔を見合わせた。フローレンスには是非とも『覇者』として一緒に来て戦ってもらいたい。だがその先の戦いの生死は保障できない。双神が言っていた「出身国での未成年扱い」とはフローレンスのことなのかもしれない。まぁそれも数年前だったから言及出来なかっただけで今はどうかはわからないが。見た目で言えばサグラモールもそうだが。当のサグラモールと言えば、両者の口争いが終わるのを待つつもりか呑気に紅茶を楽しんでいる。カラドックは終始驚きっぱなしで主人がどうにか助けてくれないかとチラチラ視線を送っているが彼は何処行く風である。


「助けてくれましたことには感謝しています。ですが、息子のためにも今後この町に足を踏み入れないでいただきたいのです。あなたがたがいれば息子は再び危険に飛び込むかもしれません。少しでも危険な芽を潰すために、よろしいですね」


まるで全面的にこちらが悪いような言い分である。それにルシィが腰を上げかけたが、サグラモールが腕を出して制止する。何故とルシィが彼女を見れば、サグラモールは「今は師匠の領分じゃ」とウインクをして告げる。確かに数人で言い合っても正論をされてしまえばそれまでだ。此処はそういうのに強そうなグリフレットに頼むのが適切か。それにルシィは渋々と言った感じで席に戻る。と同時にグリフレットの正論という意見が飛ぶ。


「そのような対処はこちらにしかデメリットがありませんよね?納得出来る答えではない。権力で押し潰されるほど僕達は甘くない。それに決めるのは彼だ。僕達の用は戦いを見る限り彼なんだよね」

「……もう良いです母様」


領主とグリフレットのまるで断崖絶壁で刃物を突きつけあって、片手では殴り合っているような会話にナイフを切り込ませた声があった。フローレンスだ。フローレンスはキッとした表情で領主を見上げる。


「良いって?」

「もう良いです母様。母様がボクのことを思って言っているのは分かってる。けど、この人達を責めるのは間違ってるよ」


無表情で我が子であるフローレンスを見つめる領主。フローレンスは左手首のブレスレットを撫でながら心のうちに秘めた言葉を吐き出す。


「ボクは自らの意志で戦いを選んだの。この人たちを助けたいって思ったの……それじゃダメなの?ボクだってもう子供じゃないんだよ。ボクはこの人たちを助けた時、嬉しかったんだよ。ボクの力で、少しでも助けれることが嬉しかった。だから、彼らを責めないで。聞いてあげて」


力強いアクアマリンの瞳が母親を射ぬく。その力強さには強い意志があって、自ら決めたその意志を認めて欲しいと言うように告げている。その瞳を受け止め、領主は一度瞳を静かに閉じると、ニッコリと笑った。まるで花が咲くような笑みに、少女のような笑みにえっと目を見開いたのはフローレンスではなくアーサー達だった。


「嗚呼!ホッとした!」

「……えーと?」

「この子ったらわたくしたちが期待してるのは分かってるのに自分の意志は絶対に言わないんだもの。いつ潰れるか不安だったのよ~」


「あー良かった!」と胸を撫で下ろしながらパチパチと嬉しそうに笑いながら手を叩く領主に、フローレンスは呆気に取られてしまっている。ええと、つまり?


「心配し過ぎるあまりの強い言葉かな……」

「……それって、私達も巻き込まれましたね……いや、巻き込みましたね……」

「うんまぁ……そういうことになるだろうね」


あきれたような、安心したような、一気に脱力しソファーに身を委ねるアーサーにルシィが言う。まるで寝る前のようにソファーにうずくまるアーサーにルシィも状況の困惑のあまり、身を委ねる。まぁ自分達はフローレンスに用があったし、その用がある人達を、助けてくれてかつ自分の意志を告げるきっかけをくれた人達を前にすれば、なにかしら変化があると思ったのだろう。なんというか、はた迷惑でもある巻き込み事件だ……領主の嬉しそうな反応に彼女と正論で言い争っていたグリフレットは大きく肩を落とした。彼も彼で驚いて脱力しているらしい。


「意志が聞きたかったのか……」

「あなたがたを巻き込んでしまい、申し訳ありませんわ。『覇者』の気があるのに自らの意志を表に出すのが苦手な子でして。強引にでもいかないと言わないと思ったもので」

「ん?今、『覇者』と言うたか?」

「……言ったな?」


紅茶を飲みつつ「自分の領分じゃない」と弁えて話に入ってこなかったサグラモールと呆然としていた表情から帰って来たカラドックが領主の言葉を拾い上げる。まさか?驚愕したように顔を見合わせたアーサー達に領主と主人はニッコリとフローレンスによく似た力強くも優しい笑みを浮かべた。それはまさしく肯定だった。


「ええ。息子の実力は見れば分かりますもの。息子のこと、よろしくお願いしますね♪」

「?!知ってたんですか?!」


身を乗り出すようにしてアーサーが問いかければ、主人が小さく頷いた。『覇者』は自覚がないから分からないだけで周囲の人が()()()()とは一言も言っていないのだ。ニッコリと笑う二人にルシィはやられたと言わんばかりに小さく笑い、サグラモールとカラドックは唖然。フローレンスに至ってはなにが起きているのか分かっていない。嗚呼、なるほど。双神が言っていた()()()とは周りが気づいていて自身は自覚がない、ということも表していたのか。そのことに気付き、アーサーはクスクスと笑うと困った様子のフローレンスに目を向ける。いまだに困惑していたがその瞳に確かに宿っていたのはあの時見た意志だった。嗚呼、だからこそ君達の力となりたいと願う。だから、最初はこう聞こう。君の背を押すために勘違いを被ろうとした両親の思いのように。


「『覇者』について、知ってる?」


残り、二人。

カラドックやフローレンスはこういう成り行きで覚悟っていうか意志を決めるんじゃないかなぁと思う次第です。

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