第五十一色 洞窟付近近接戦闘術
響く歌声にアーサーはクスリと笑い、目の前の敵の一撃を振り切った。振り切った勢いと衝撃波で後方に吹っ飛ばされた魔物の懐に一気に潜り込むと剣を振り回し、その顎と胴体を切りつける。グイッと剣を突き刺し、胴体に剣を突き刺すとグルッと容赦なく回し、敵の肉を抉る。その痛みに悲鳴を上げる魔物の顔を「黙れ」と言わんばかりに蹴り上げ、仰け反らせる。後方に倒れていく魔物を見下ろし、トドメだと言わんばかりに跳躍すると地面に縫い付けるように剣を振り下ろした。ガァン!と鈍い音を立てて頭に突き刺さる剣。勢いが良かったのか魔物の目玉が飛び出してしまっている。それが気持ち悪くてアーサーは苦笑を漏らした。頭に足をかけ。勢いよく抜き放てば、魔物が微かに痙攣し、そうして消滅し始める。その背後から響く歌声にアーサーはクスリと口角を上げた。歌声の中に紛れたその感情を自分はよく知っている。忘れることなど出来ないその感情を歌声に混ぜることは決して悪いことではない。少年の歌声に、力強くも儚げな歌声に耳を傾けていると風を切る音と殺気がした。冷静に横にずれれば、前髪を刃物が刈り取って通り過ぎていく。前転し、続いてやってきた攻撃をクルクルとかわすとすぐさま体勢を立て直し、膝立ちになると前方を見る。とそこにいたのは無数の腕を持った人型の魔物だった。二本の腕を使って巨大な剣を持ち、振り回したあとであろう場所はきれいさっぱりと木がなくなっている。まぁそれでもアーサーには関係のないことだ。足に突然かけられた風魔法を気にすることもなく、バッと跳躍すると魔物の頭上を素早く飛び、背後に回り込むと剣を斜め上に振り上げた。が、それよりも先に別の腕が傷なんて知ったことかと剣を鷲掴みにした。驚き、弾こうとするアーサーだったが敵の力が強すぎて剣がびくともしない。
「っ、クソッ」
思わず悪態をつくアーサーなんぞ知らんと言いたげに魔物はグルンと体を捻らせ、百八十度回転し、巨大な剣をアーサーに向かって振り回す。押しても引いても動かない剣で防ぐのは無理だと判断し、アーサーはしゃがむことで回避する。頭の上でバキッと嫌な騒音が響き、それと同時に薙ぎ倒される木々にアーサーの顔から血の気が引く。だが、アーサーはしゃがんだ状態から片足を振り上げ、腕を上へ持ち上がらせる。そうすれば、剣を鷲掴みにされていた剣は自由となり、そのまま円を描くように振り回す。しかし、敵も黙ってはおらず残りの腕を使ってアーサーを捕らえようと動き出す。それらを素早く立ち上がってかわしながら剣で防ぎ、弾く。と再び巨大な剣がアーサーの上段から振り下ろされる。それを剣を横にして防ぐがあまりの巨大さに思わず片足を再びついてしまう。腕に走る痺れに力がうまく出ない。歯を食い縛り、幾度も来る衝撃に耐えると少し巨大な剣を魔物が持ち上げた瞬間、アーサーは転がるようにして逃げ延びると背後で凄まじい衝撃を伴って魔物の武器が振り下ろされる。その衝撃が起こした風を追い風に敵の脇を通り抜ける。通り抜けながら相手の足元に剣を振り、その切っ先を懐にまで走らせれば、敵が痛みに地響きのような悲鳴を上げ、こしゃくな真似?をしたアーサーに向かって三度目の巨大な剣を振り回す。それと同時に腕も接近すれば、アーサーとて防ぎ切れるはずもない。しかし魔物の思惑とは裏腹にアーサーは目の前に迫った剣で防ぎ切れないほどの腕を見ても何事もないように笑った。
「〈闇よ我らを隠せ〉!」
パリンッと音がしてアーサーを黒色をした粒子が包み、壁となって無数の腕から守る。それをアーサーはジャンプし、足をかけると大きく上空へ跳躍した。アーサーを追って魔物の視線が上空へと向けられた瞬間、入れ違いとなって魔物の足元にグリフレットが滑り込む。腕がグリフレットに、巨大な剣がアーサーにそれぞれ向かうが、それでも魔物の無数の腕は絡むこともなく二人を追い詰めていく。グリフレットは土煙を上げながら滑り込むと薙刀を振り回し、腕を切断していくが薙刀をどんなに回転させて捌いても腕は全然減りやしない。薙刀を地面に擦りつけ軸にすると大きく回転し、回し蹴りを放つ。と同時に魔物の頭上に飛び乗ったアーサーも蹴りを放ったらしく、敵の動きが鈍る。が、背中に響いた痛みにグリフレットは悲鳴にももならない呻き声を上げる。慌てて背後に薙刀を振り回しながら確認すれば、鋭く尖った爪を持った手がニヤニヤと笑うようにグリフレットの背中に回り込んでいた。薙刀でその腕を弾くが、再び回り込まれた気配と殺気に片手のみを後方に向ける。
「グリフレット!後ろじゃなくて右!」
「えっ!?」
頭上から落ちてきたアーサーの声にグリフレットの体勢が一瞬崩れる。背後だと思っていた腕は一本を囮にアーサーの言う通りに右から来ていた。しかも別の腕が足を掴み、呆気に取られるグリフレットを転ばせると共に脇腹を抉る。脇腹に走る痛みに横目で見れば、深くはないが出血していた。地面に叩きつけられる前に下半身を捻り、叩きつけられるのをかろうじて防ぐと勢いよく蹴りをするように起き上がり、再び攻撃しようとしていた無数の腕に薙刀を突き出しつつ叫ぶ。
「〈夜が選んだ霧雨よ〉!」
黒く、そうしてまるで霧雨のような靄、霧が腕を包み込み、グリフレットの姿を掻き消す。それは魔物の上から飛び下りようとしていたアーサーを狙い、巨大な剣を持つ腕をも包み込み、アーサーの姿を掻き消す。掻き消した途端、魔物に霧雨が当たった途端、刺すような痛みが内側から敵を襲い、微妙に小さい魔物の視線をも包み刺激していく。その影響か巨大な剣が四方八方に振り回され、巨大な剣によって薙ぎ倒された木々が余計に薙ぎ倒され、バキバキと悲鳴を上げる。それを横目にグリフレットは薙刀で足元を刈り上げ、転ばせようとするが結構巨体なためか転ばず、逆に自分の居場所を教えるだけとなってしまった。痛みに悶えながらグリフレットに向かって腕を振り回す魔物に彼は薙刀で腕を絡め取るとグイッと自らの方に引っ張り、まだ出ている霧雨をもう一度浴びさせる。途端、再び内側からの刺すような痛みに魔物が甲高い声のような悲鳴を上げながらグリフレットの手から薙刀を奪おうと暴れる。だがグリフレットは片手を軽く添えただけでブチブチッと腕を薙刀ごと切り離すと「うわぁ……」と心底嫌そうに顔を歪めた。それもそのはず、薙刀に絡みつかせた無数の腕はウゴウゴと魔物に戻ろうと、グリフレットを攻撃しようと蠢いていた。恐ろしいほどに不気味だ。腕があっちこっちに向かうようにして蠢いているのだから顔がひきつらないはずがない。そんな腕を引き剥がすように一本一本、霧雨の中、薙刀から外していく。腕は爪を刃のように尖らせ、引き剥がすグリフレットを攻撃しようとしてくるが、彼は知ったことかとブチブチッと容赦なく、引きちぎっていく。とその時、背後から殺気を感じたがグリフレットは敢えて無視して腕取りを続ければ、ガキンッ!と甲高い音が背後で響き渡る。横目で確認すれば、そこには爪が刃物のように伸びた腕を剣で防いだアーサーがいた。鉤爪のようになった腕を剣の刃で上手い具合に防いでいる。剣をクルッと回して腕を引き裂くと足を振り上げ、腕を上空に吹き飛ばし、落ちてくるところで粉々に切り裂けば、二人の足元に粉々になった敵の腕がまるで芝生か絨毯の如く出来上がる。いつの間にかアーサーの左肩に腕の手の部分が食い込んでおり、彼はめんどくさそうに無理矢理引き抜くと消えかかっている霧雨の中に放り投げた。少しだけ左肩に痛みと血が滲んでいるが、戦えないほどではない。霧雨が晴れてきた中でグリフレットと背中合わせになる。
「アーサー、まだいける?」
「行けるに決まってるじゃんグリフレット。君は?」
「ふふ。僕も」
霧雨が晴れてくる。霧雨の向こう側に魔物が現れる。魔物は両手で持っていた武器を分裂させ両腕でそれぞれ武器を持ち、二刀流となっていた。他の腕は既にグリフレットによって奪われたので残ったのはその腕のみ。殺気に漂う歪めんだ瞳が二人を睨み付けている。それを流し目で二人で眺め、アーサーが言う。
「俺、右ね」
「んじゃ僕は左行くね」
そう二人で示し合わせると頷き合う。と同時に魔物が巨大で細い刃を二人に向かって振り下ろし、振り回した。それを同時にかわし、アーサーは上空に飛び出し、少し背後にあった壁を蹴り上げ、敵の顔面に向かって跳躍すると顔を蹴る。後方に仰け反った敵の右腕を容赦なく剣で切り落とす。が上手い具合に刃を滑り込ませられてしまい、腕は弾き飛ばなかった。だが着地したアーサーはすぐさま魔物の懐に滑り込み、回し蹴りを放った。途端に体が浮かび、そこにグリフレットの魔法が食い込み、首を吹っ飛ばす。しかし、首を失ってもまだ動くらしく、グリフレットと二人で目を合わせて会話する。本体と云うかそういうのは二つに分裂した刃と腕を落とさなくてはいけないらしい。アーサーは苦笑をもらすと一気に再び懐に潜り込んだ。しかし敵も弱点を分かっているが故に簡単に切らせないと言うように腕を交差する。だが、それで防げるはずもない。
「〈交差した交差〉」
指先をクルリ、クルリと動かしまるで指揮者をするように、空中で文字を紡ぐようにグリフレットが動かせば、交差したはずの腕が簡単に解かれてしまい、アーサーの侵入を許してしまう。侵入したアーサーは懐に剣を突き刺し、グルッと回す。と少しの時間も開けることもなく剣を抜き、勢いよく振りかざす。それに魔物は右の刃で防ぐがその間に左腕へと迫ったグリフレットが薙刀を振る。振り回された刃を薙刀で軽く受け流し、腕の付け根辺りに滑り込むと薙刀を下から振り上げた。途端、左腕が刃と共に空を舞い、カァン……と甲高い音を立てて刃は壁にぶつかって跳ね返ると洞窟内に消えていった。切り落とされた左腕に魔物はバランスを崩し、グルンッと横に一回転するように残った刃を振り回す。グリフレットはしゃがんでかわすと足元に薙刀を振る。その一撃で魔物は再びバランスを崩す。その隙を突いてアーサーは一旦後退し、洞窟の壁を足場に大きく蹴り上げて跳躍すると魔物の頭上に躍り出る。頭上に現れたアーサーに魔物がクルクルと回って微妙なバランスを保ちつつ、武器を振るうがグリフレットの攻撃に気を取られてしまい、完全にはアーサーに刃が向くことはない。というよりもほとんど気配で探っているようなものだ。そんな敵に向かってアーサーは剣を振り切った。右腕を上段からの勢いを利用して切断すれば、バトッと音がして腕が落下。後方に勢いで倒れそうになる魔物にトドメと称してアーサーとグリフレット二人して武器と蹴りを放てば、敵は勢いよく倒れて込み、動かなくなった。やはり、腕が本体というかそういうのだったらしい。消滅し始める敵を横目にアーサーはグリフレットに手を差し出した。その手にグリフレットは一瞬呆けていたが小さく笑い、自らの手を叩きつけた。そうして、残党がいないか背中合わせになって確認をした。
漢字が多い(改めて見て)




