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色無き王~十二の色~  作者: Riviy
第一部
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第四色 模擬戦


「ルールはいつも通り。相手から武器を落とすか相手の戦意を削げば勝ちだ。今回はルシィ殿が魔法使用禁止のため、ユーウェインとパロミデスにハンデをつける。ユーウェインが使っている剣を二人で使え。アーサーはいつも通り剣。慣れない武器同士、バランスが取れるだろ」

「了解。ユーウェイン、一本貸せ」


はい、と自身の持つ武器をパロミデスに渡す彼女達の目の前でアーサーが抜刀する。ルシィは慣れない剣を両手で持ちながら物珍しそうに眺めている。訓練をしていたはずの周囲はいつの間にか模擬戦をやる自分達に訓練の手を止め、観戦体勢になっており、円形闘技場のようになってしまっている。アーサーが剣を構えその切っ先をユーウェインとパロミデスに向ければ、二人も準備万端だと武器を構える。それに慌てたようにルシィも三人に倣って剣を構えるが、その体勢は何処かぎこちない。


「ルシィ、無理しなくても良いよ?」

「いえ、出来るだけやります」

「そっか、でも無理はしないで」

「はい」


その構えにアーサーが心配そうにしつつ問えば、ルシィが笑って答える。剣をふんすっと持ち上げてやる気十分だと見せるルシィに安心し、目の前の二人を睨む。ユーウェインは普段二刀流でパロミデスは槍。普段は違う部隊に所属しているがそのコンビネーションは抜群だ。それは武器が違う時にも有効。はてさてどうするか。そう脳の隅でアーサーが考え始めた頃、ペリノアが片手を上げた。四人の体に緊張が走る。そして


「始めっ!」


模擬戦の火花は切って落とされた。

一番最初に飛び出したのはパロミデスだ。一歩前に大きく足を踏み出すと滑るように跳躍。アーサーの一歩前で止まるとトンと地面を軽く蹴り、上段から剣を振り下ろした。しかし、それをアーサーは軽々とかわすついでにルシィを横に押し退ける。横によろめいたルシィにかわされて行き場を失ったパロミデスの剣筋が迫る。慌てて剣で軌道を無理矢理変えれば、入れ違いになってユーウェインがやってくる。まるで上目遣いをするように下から潜り込んできた素早い動きにルシィの体が後方に仰け反れば、容赦なくユーウェインが剣を振る。だが、ルシィだって逃げてばかりではない。両手に持った剣を垂直に立てユーウェインの凄まじい攻撃を辛うじて防ぐ。右、左と反撃の隙を与えぬ怒涛の攻撃にルシィは剣で防いで耐える。だんだんと勢いに押されて後退してしまったルシィの背後は既に観戦客の壁だ。このままでは敗ける。ユーウェインの攻撃が一瞬止んだ瞬間を逃さず、ルシィはユーウェインの腹に膝蹴りをかます。ユーウェインが体を折り曲げた隙に背後に回り込み、剣を振り上げる。しかし大きく振り上げてしまい、隙だらけだったせいでユーウェインが回し蹴りを振り返るついでと言わんばかりに放てば、ルシィの体が軽く吹っ飛ぶ。足に力を入れ、これ以上吹っ飛ぶのを防いだ瞬間、一瞬の間にユーウェインがルシィの前に躍り出る。剣を突き刺してくる一撃を間一髪でかわすが、髪がその速度に耐えきれず、空しく空に舞う。ユーウェインの脇を通り抜けようとするが、それよりも先に剣がルシィの行く手を阻むように振り回れて振り下ろされる。それに足を刈られてしまい、ルシィがかわすことも虚しく顔から転びかける。さすがにやり過ぎた、とユーウェインが慌てて振り返りながら手を伸ばしたが、次の瞬間、ルシィは片手を地面について前転し衝突を寸でのところで防ぐと片膝の状態のままユーウェインを振り返った。軽やかな身のこなしに彼女は愚か、観客までもが目を見開いた。振り返った瞬間、フワリとなびいた翡翠色に思わず目を奪われてしまう。けれど、気を抜いてはいけない。今の一瞬でルシィは自分なりの剣の持ち方を見つけたらしく右手は柄の一番上を、左手は柄の一番端に手のひらを当てるようにして持って顔の横に掲げている。それでも剣の切っ先は微かに震えており、慣れていないことを物語っている。


「あら~やる気だね。良いよ……良いですよその調子です。愉しくなって来たぁ!」

「お褒め頂き光栄です。敬語はいりません。私を殺す気でお願いします。今後のためにも」


ルシィの鬼気迫る言葉にユーウェインは一瞬キョトンとしたがニィと口角を上げた。ゆっくりと立ち上がるルシィの視界から一瞬にしてユーウェインが消え去る。何処に行った?そうルシィが周囲を見渡しかけた次の瞬間、周囲の音が消えた。まるでルシィだけが取り残されたかのように風の音も歓声も聞こえない。ただただ、背後から凄まじい殺気が漂うだけで。


「それはこれでも言える?」


低い低い声にハッとルシィが背後を一瞥すればいつの間にかそこにはユーウェインがいて、その刃が指し示す先にはルシィの首元で。気配さえしなかった。『覇者』の匂いを嗅ぎ取って気配を探れば良かったとルシィは今更ながらに思ったが、勝敗は決したようなものだった。ユーウェインが動いてもルシィが動いてもどちらにしろ、ルシィの首と胴体が真っ二つになることは確定なのだから。


「二刀流はもっと出来るんだけどね♪」

「……なるほど」

「でも、()()でしょ?」


ユーウェインが背後からルシィに囁くように言えば、ルシィが前方で笑った。首筋に置かれた剣を勢いよく弾き、ユーウェインの拘束から逃れる。ユーウェインに向き直ると剣を構える。それに彼女は満足げに微笑み、追撃を与えようと大きく跳躍し、剣を振り下ろした。その重い一撃を防いだ途端、凄まじい衝撃波と衝撃がルシィを襲った。が、懸命にその一撃を振り払う程度に弾くとすぐさま着地し体勢が微妙なユーウェインに向かって一歩足を踏み出した。


まるで剣を槍のように素早い動きで突いてくるパロミデスの攻撃をアーサーは一つ一つ丁寧にかわしていく。右に、左にと丁寧にかわし、隙をついて片足を振り上げる。運良くか否やパロミデスの手に当たった爪先は軌道を変え、彼の首を狙って回し蹴りを放つ。片手で剣を取り戻しながら片腕で蹴りを防ぐと弾き一旦距離を取る。しかし、アーサーがそんな簡単に見逃すはずも見逃してくれるはずもなく、一気にパロミデスに向かって攻め込む。殴るように剣を振り上げれば慌てたようすでパロミデスが後方に仰け反る。そのままバク転し距離を取り続けながら足で剣を蹴り上げる。蹴られた衝撃で剣が大きく軌道を乱すがそれでもパロミデスに向かって剣を振り回す。全てが空振りではあったがパロミデスとの距離を詰めるにはちょうど良い。と、上段から振り下ろした一撃を剣を横にして防がれた。ガァン!と甲高い音と振動が来る中、両者一斉に相手を弾くと再び接近し剣を振る。切りつけては防ぎ切りつけては防ぎの攻防戦に発展する。ガッとパロミデスからの一撃を受け止めるがほぼ全体重を乗せてアーサーの体勢を崩そうとしてくるのだからたまったもんじゃない。すかさず刃の部分に肘を当てて隙間を作ればその僅かな隙を使って剣を抜き放ち、腕を引く。そこに容赦なく追撃しようとしてくるパロミデスの一瞬を見逃さず、まるで抜刀するように剣を斜め上に振り上げれば、彼の体勢が簡単に崩れる。だがそれでも剣を槍のように突き、崩れるのを狙ってくる。すると剣を足を刈るように振った。それに気付き、軽くジャンプするとアーサーは剣を踏みつけた。こうなることが分かっていたと言わんばかりにパロミデスはアーサーを見上げ、ニヤァと笑った。おっと、これは。そう思ったアーサーは足を上げようとするがそれよりも数秒早く、彼の体は宙を舞った。簡単に言えば、パロミデスが剣を思いっきり振り上げ、アーサーを吹っ飛ばしたのだ。空中でクルリと回転したアーサーを狙い済ましたようにパロミデスの持つ剣が貫く。が


「遅いよ」

「!?」


そこにアーサーはいなかった。勢いよく突いた剣だけが空に残されていた。パロミデスが横目で探せば彼は自分の脇を通り抜ていた。いつもと違うからなんて言い訳をするつもりはない。が、咄嗟に素手の右手を後方に引いたのは紛れもなく間違いだった。やべっと冷や汗をかいてももう後の祭り。襲い来る剣に咄嗟にパロミデスは蹴りを放つしかなかった。上手い具合に踵が剣にぶつかる。が、アーサーが勢いよく振り切れば、パロミデスは大きく弾かれて一回転。そのまま、アーサーに向かって剣を振り回す。だがアーサーはそれをしゃがんでかわし、パロミデスに頭突きにも似た突進を食らわせる。ヨロヨロと後方によろめいたパロミデスがアーサーに向かって叫ぶ。


「あっぶねぇじゃねぇか!!」

「でも、戦場じゃ危ないもなにもでしょ」

「ん、まぁそうだけど……嗚呼、もうっ!」


くしゃくしゃと前髪を掻くとパロミデスはアーサーに向かって跳躍。勢いよく剣を振り下ろし振り回す。その斬撃を軽くいなすアーサーに向けて、まるで槍のように剣を操る。それを剣を垂直にして防ぐとアーサーは、一歩足を踏み出し、大きく跳躍した。


「そこまでっ!」


ペリノアの威圧感漂う声に模擬戦を繰り広げていた彼らは足を止めた。交差した剣とついていない決着にパロミデスと一緒になってアーサーは首を傾げると、ペリノアがその答えを教えてくれた。


「ルシィ殿が死ぬ」

「あぁ~~!ルシィ様ルシィ様!大丈夫?!」

「……いち……お……」

「ぜんっぜん、大丈夫じゃない!」


そこには剣を杖代わりに辛うじて片膝をつきながら肩で荒い息をするルシィとそんなルシィの背中を心配そうに擦るユーウェインがいた。周囲で息を呑みながら観戦していた人々もルシィが体力の限界に達したための幕に気がついていた。もともと完全な後方支援型のルシィが完全な猪突猛進超攻撃型前衛のユーウェインに微かながらについていけたことすら凄いのだ。……いや、あの場合、ついて行ったと言うよりも攻撃を受け流して防いだと言った方が良いだろうか。そんな二人を見て慌てて剣を放り投げる勢いで駆け寄る。


「あーあーだから無理しないでって言ったのに」

「……すみま……ぜぇ……」

「ハイハイ喋らない喋らない。パロミデス、悪いけどアレお願い」


「大丈夫?大丈夫?」と不安そうにルシィの顔を覗き込むユーウェインから背中を擦る役割を譲ってもらい、アーサーがパロミデスに言う。それにパロミデスは快く承諾する。その間にペリノアが観客から野次馬と化した仲間に「ほら!訓練しな!しないと教官が出るぞ!」と叫べば、「やっべ」と蜘蛛の子を散らすように捌けていく。ユーウェインとパロミデス、アーサーが揃って模擬戦、その中にいるルシィに興味が湧いたと言ったところか。それとも旅の相棒を見極めに来たか。ペリノアにとってはもうどうでも良いが。パロミデスがアーサーの問いかけと云うか願いに頷き、ルシィに向けて手のひらをかざす。


「〈自然の吐息(ナチュラル・ブレス)〉」


スゥとパロミデスの手のひらから放たれた茶色と黄緑色の光が螺旋を描きながらルシィに吸い込まれる。途端、先程まで荒い息を吐いていたルシィの呼吸が楽になった。それを良いことにルシィがバッとパロミデスを見上げる。「え」と驚く彼にアーサーが「あ」としまったと声をあげかけるがもう遅い。さっきまで倒れそうだったルシィは何処へやら、バッと立ち上がるとパロミデスの手を掴んだ。


「合体属性の使い手ですか!?」


キラキラと無邪気に子供のように輝く銀色の瞳からパロミデスが目を逸らせば、アーサーにドンマイと首を振られた。

しばらくは二つ連続投稿ですね。戦闘シーンは武器によって違いが出ますね。作者は接近戦が好物です(笑)

次回は金曜日です!

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